【スペシャル対談】葉月(lynch.) x 河村隆一、先輩・後輩という関係を超えたヴォーカリストが構築する信頼関係

ポスト

■独自性、葉月にしかできないことを続けていくことが第一
■やり続けていったら人が放っておかなくなると思う


――今回のアルバムには「Ray」も収録されています。こうしたカヴァーを聴いたり、自分自身やLUNA SEAからの影響を感じられる歌や音楽を耳にすることってあると思うんです。そんな時、どんな気分になるものなんですか?

RYUICHI:……どうだろう? 嬉しいな、とも思うのと同時に、僕が好きだったアーティストをこの人も好きなのかな、と思うかもしれない。僕、若い子たちによく「大好きなアーティストは誰?」って訊くんです。で、答えが返ってくると今度は「そのアーティストが好きなアーティストが誰だか知ってる?」って訊くんです。で、真似するならその先祖のほうを真似しなさいって言うんです。好きなアーティストはずっと聴いてていい。敢えて意識しなくても勝手に真似ちゃうものだし、追い駆けようと思ってなくても仕草から何から真似してしまう部分が出てきてしまうものだから、それはそのままでいい。ただ、誰にでもかならず先祖がいるわけじゃないですか。そっちまで掘り下げていくと、もしかしたら大好きなアーティストの横でそのアーティストの話ができるかもしれないよって言うんです。

葉月:ああ、なるほど!

RYUICHI:しかも、そうすることですごくオリジナルになりやすいと思うんですよ。僕、音楽にパクりってもの自体がないと思ってる人間なんですね。ホントにメロディをそのまま抜いて持ってきたら駄目だけど(笑)、コード進行なんてもう出尽くしてしまってどれも似たり寄ったりになってしまってるし、そういう意味では声をパクるのも無理だし、パフォーマンスをパクるのも無理。もちろん、大好きだから誰々のライヴでのオープニングの登場の仕方を真似するとかね。70年代のデヴィッド・ボウイがこんなふうにしてたから俺もそんなふうに、みたいなのはあるかもしれないけど、それは「ああ、ファンなんだな」ってクスッと笑えるところだから置いといて(笑)。


▲『葬艶-FUNERAL-』【数量限定豪華盤】


▲『葬艶-FUNERAL-』【通常盤】

――しかも真似してみたところで完全に同じにはなり得ないわけですしね。

RYUICHI:そうなんですよ。そこで、たとえばジョン・レノンが大好きな人に影響されたなら、ジョンが大好きだったエルヴィス・プレスリーとか聴いてみればいいし、その人とプレスリーの話をするようになれたら面白いしね。

――確かに好きなアーティスト、影響を受けたアーティストと、共通するルーツの話ができるというのは面白いですね。

葉月:うん。

RYUICHI:いいですよね。

――なんだか連載企画にしたいくらいです。葉月さんはそういう意味ではどうですか? たとえばLUNA SEAをはじめとする同じ時代のバンドから受けてきたのはとても直接的な影響。その前を遡ってみたりすることで腑に落ちたりすることというのも、なくはないはずで。

葉月:そうですね。やっぱり僕の好きなヴォーカリストのほとんどにとっての共通項だったのがDEAD ENDなんですね。だからDEAD ENDは聴きましたし、なるほどな、と思いました。しかもそれぞれの方に違う形でMORRIEさんに通ずる色というのが出ていたんで。思いきっり出てる方もいれば、むしろ見た目の部分での影響が大きいケースとかもある。そういうのは面白かったですね。

RYUICHI:MORRIEさんを好きになるとね、ロニー・ジェイムズ・ディオとか、THE MISSIONとかTHE THEとかを聴いてみたり。そうやっていろいろとインタビューとかで名前が出てくるものをとりあえず聴いてみる、みたいな。そんな頃が僕にもあった。

――全然違うものが出てきたりすることに驚かされたりする。

RYUICHI:そうなんですよね。でも、MORRIEさんはソロでもバンドでもいろんな音楽をやられてるから。そこが面白いというか、すごく……ああ、こういった部分はここから影響を受けているのか、みたいな。そういう感覚的なところが見えてくる。


――さて、こうしてお話を聞いていても、お2人の間には年齢やキャリアを超えたところでの信頼関係というよりは同朋意識みたいなものを感じさせられます。そういうものを感じられる人とそうじゃない人というのはいると思うんです。その違いって何なんでしょうか?

RYUICHI:やっぱりそこはもしかしたら……僕ももちろん人間なんで、自分勝手に人との出会いだったり友情ってものについて、どこかで線引きしてしまっている部分というのもあると思うんですよね。僕自身、大人になって感じたことがあって。さっきも共通項の話をしていましたよね? 吠える、突き抜ける、壊れる、とか。で、大人になると、学校がないんで、同じ場所にはもう通わなくなる。ライヴも個々にやってるわだし、なかなか打ち上げを一緒にやる機会もなくなっている。ライヴハウスで対バンをやってた頃は、その対バンの仲間たちとしょっちゅう飲んだり、先輩たちとも後輩たちとも一緒にいて、そこで見つけられた共通項から学ぶ部分というのがあったわけですけど……。で、やっぱり今も人と人を繋ぐのは、何かしらの共通項なんでしょうね。何かそういうものを感じた時に、なんか面白そうな子だなとか、俺もなんか学ぶところがあるかもなとか思いながら、近付いていくことになるんじゃないのかな、と。それがまったくない相手とはと、多分連絡先を交換しても連絡しないままいつのまにか終わっていっちゃうんだと思うんですよ。

――確かに昔は無条件に先輩や後輩、複数のバンドが同じ場にいて話をする機会が多かったけども、それが減ってきているぶん、自分のアンテナに引っかかる共通項を追った人がいれば自分から接触したくなる。興味を持てない相手というのは、すなわちそのアンテナに引っかかってくるものがない、ということですよね。

RYUICHI:そういうことだと思いますね。ただ、それはホントに自分の趣味性においての共通項の有無でしかないかもしれないし、それが見つからない人たちにだってホントは才能があるんだと思うんですよ。僕がすべての人たちの才能のバロメータではないわけなんで(笑)。だけど、多分、お互いが同じサークルに入ろうとしないというのはそういうことなのかな、と思いますよね。

――同じ輪に入る、つまり何か共通項を持つことによって、重なる部分について話す機会を持ったり、一緒に波に乗ってみたり。

RYUICHI:うん、そういうことだと思います。

――葉月さん、サーフィンはどうですか?

葉月:いや、僕はむしろゴルフをやりたいんです(笑)。趣味としては釣りをやってきたんですけど、最近あんまりやってないんですよ。出掛けにくいという事情もあるんですけど、いつも行っていた琵琶湖が、いろいろと変化があって、もう釣れなくなってきちゃっていて。ゴルフを始めた方って皆さんものすごく没頭されるじゃないですか。ということはやっぱりそれだけの魅力があるんだろうっていう興味がすごくあって。で、RYUICHIさんもやっている。これは打ちっぱなしから始めてみようかな、なんて思っているんです(笑)。

RYUICHI:ゴルフはね、いいよ。

葉月:僕、小学生の時に実はやってたんですよ。

RYUICHI:なーんだ。じゃあ絶対に上手くなるね。

葉月:ホントですか? 家族がみんな当時やっていて。今はもうやってないんですけどね、お爺ちゃんとか、お婆ちゃんとか。

RYUICHI:葉月は普段から走ってるじゃん? それでまず、第一段階クリアというか。というのもゴルフってすごく歩くから、それに疲れちゃうっていう人はまず駄目なんです。そこの心配は葉月の場合、あらかじめないわけだからね。

葉月:なるほど。ちなみに小4の時に180ヤード飛ばしていました。

RYUICHI:ということは、その打った時の記憶もあって感触が残ってるわけでしょ? じゃあもう全然OKだよ。

――自転車を漕げたり泳げたりするのと同じで、身体が憶えているということですか?

RYUICHI:うん、そういうことです。

葉月:ちょっと練習しておきます(笑)。


――もはや深みに嵌まっていきそうなのが見えつつありますが、ゴルフの話の続きはこの対談終了後に是非(笑)。さて、今後の話なんですが、まずRYUICHIさんの側から葉月さんに対して、もちろんlynch.での活動も含めての話なんですが、今後、どうあって欲しいと考えていますか?

RYUICHI:僕としては、世の中が多分、放っておかなくなると思うんですよね、葉月たちを。もっともっと欲される時代が来るはずだと思う。僕はマーケティングをやってるわけじゃないから、ちょっとこれは合ってるかどうかわからないですけど、今って何でもすごく細分化されていて、その人が好きなものに辿り着くプロセスがすごく短くなってるじゃないですか。YouTubeでも何でもそうですけど、簡単にそこに繋がれる。昔はレコード店で「こんなバンドの話を聞いたんですけど、あります?」と訊くことから始まって「じゃあこれも聴いてみなさい」って2枚買わされる、みたいなのがあったわけですけど(笑)。今は目的とするものに対してのアクセスがすごく速くなっているから、lynch.や葉月の独自性を伝えていく作業、もちろんCDバブルの時代のように広く一般にたくさん聞いてもらうための活動をしていくべき部分もあるはずなんだけど、それ以上に、マニアックなという意味じゃなくて、独自性、葉月にしかできないことを続けていくことが第一だと思う。それをやり続けていったら、もう勝手に人が放っておかなくなると思うんですけどね。

――つまり、このまま突き進んでいくべきだ、と?

RYUICHI:うん。だからもっと尖った部分を……。それは極端に歪んだ音でやるとか速い曲をやるとかそういうことじゃなくて、ホントにlynch.にしかできない、葉月にしかできないことをやっていけば、「何か彼らはすごいことやってるらしいよ」というのが広まっていくはずだし、たとえばそういう言葉がLUNA SEAのメンバーを通じて僕の耳に入ってきたりしたら嬉しいし。そういう革新的なことを打ち立てられる人っていうのは、やっぱ天才だと思うから。まあ葉月は天才だからね。

葉月:えっ!?(笑)

RYUICHI:いや本当に。だから、できるんじゃないかな。

――葉月さん、天才という言葉が出ましたよ!

葉月:いや、もう、なんと答えていいんだか(笑)。

――要するに、そういう独自のことができているんだという自負を持って進んで行けばいい、ということですよね? それが絶対に人を振り向かせることになるんだと信じながら。

RYUICHI:うん、そういうことです。

――逆に葉月さんとしては、RYUICHIさんにこれから先、どういう先輩であって欲しいと願っていますか?

葉月:やっぱりいちばん最初にも言った、自分に対して厳しさを持ったスタンスというのを……。この先にそれをどういう形で続けていかれるのか、みたいな部分ですよね。年齢的なことというのも、もっと聞いてみたくて。僕は今、38歳で、40代が近付きつつあるんですね。人生およそ80年と考えたら、半分じゃないですか。で、今までというのは、できなかったことができるようになっていく40年だった気がするんです。だけどここから先って、逆のような気がするんですよ。

――つまりこれまでできたこと、せっかくできるようになったことを、どうやって維持していくかがテーマになってくる、と?

葉月:うん。やっぱり年齢を重ねてお爺さんに近付いていくにしたがって、できることっていうのは減っていくだろうな、というのはあると思うんです。

RYUICHI:フィジカルな意味ではそうだよね、体力面とか。

葉月:ええ。だけど現状ではRYUICHIさんにそんな傾向は少しもあるようには見えないんで(一同笑)。それをどこまでも維持していただきたいというか。なにしろ維持どころか上がってるわけですから、今現在もなお。

――言い換えれば、人間がどこまで上昇し続けられるものなのか手本を示してください、ということでもあるわけですか?

葉月:そうですね。その秘訣みたいなものも、是非お聞きしたいですね。

RYUICHI:だけど葉月の場合、フル・マラソンを走ったりもしていて、結構そういうことをやれてるわけじゃん? そういう人は大丈夫だと思うよ。それを止めさえしなければ。野球でもサッカーでもゴルフでも何でも、ストイックにやり続けている人は大丈夫だと思うし、特に歌というのは、肺とか呼吸が大事だから、走るのはすごく大事だからね。だからこの先もずっと走り続けてたら、多分、そんなに体力の衰えを感じることなく進んで行けるんじゃないかと思うけどね。ただ、そこで病気しちゃったりして半年休むとか、そういうことがあると筋肉も落ちやすくなってくる。そういうことがあると流れが変わってくる危険性があるけど。

――そういう予期せぬ出来事があった時の対処のあり方が鍵になってくるケースは実際多そうですね。さて、老後に向けての話はともかく(笑)、RYUICHIさん自身もまだご自分のピークの状態みたいなものを確認できていないところがあるはずで……。

RYUICHI:そうですね。いまだにホント、身体のことで言っても、ジムに行って、それまでやれなかったことをやろうとして、やれた時に喜んでる人生が続いてるんで(笑)。もっと言えば、18歳ぐらいの時に、今の最先端の運動力学をちゃんと知ってトレーニングしていたら、なんかすごいことができてたんじゃないかなと思うようなところすらあって。

――葉月さんとしてはRYUICHIさんに、常に前を走っていて欲しいところでしょうし、この先へと導いて欲しいところでしょうし……そのためにもまずはゴルフですかね!

葉月:ははは! やっぱりそうですかね。

RYUICHI:ゴルフとジムだね。ジムでは、強力な重さとかに最初から臨む必要はまったくないから。やれることから始めればいいんで。ときどき僕と一緒に運動してしまったために身体を壊す人もいるんだけどね。SIAM SHADEの栄喜みたいに(笑)。だから彼は冗談で〈被害者の会〉とか言っていますけど(笑)。

――この先、葉月さんが被害者の会ではなく、同好会の上級会員になれるよう祈っております。

葉月:お願いします(笑)。またこの話の続きを、近いうちにどこかで。

RYUICHI:もちろん、喜んで。

取材・文・構成:増田勇一
撮影:冨田味我



リリース情報

『葬艶-FUNERAL-』
2020.09.16 Release
【数量限定豪華盤】
品番:KICS-93949
価格:¥10,000+税(CD+BD)
【通常盤】
品番:KICS-3949
価格:¥3,000+税(CD)
【収録曲】
<CD>数量限定豪華盤・通常盤共通
01.ETERNITY(lynch.)
02.PHOENIX(lynch.)
03.D.A.R.K.(lynch.)
04.軽蔑(葉月)
05.密室(BUCK-TICK)
06.水鏡(Cocco)
07.月のしずく(柴咲コウ)
08.Ray(LUNA SEA)
09.至上のゆりかご(黒夢)
10.Another day comes(Pay money To my Pain)
11.玉響の灯(完全新曲)
<Blu-ray>
「HAZUKI 20TH ANNIVERSARY 奏艶」~2020.1.19 MIELPARQUE HALL~
01.軽蔑(葉月)
02.D.A.R.K.(lynch.)
03.CRYSTALIZE(lynch.)
04.THIS COMA(lynch.)
05.密室 (BUCK-TICK)
06.街路樹 (尾崎豊)
07.くちづけ (黒夢)
08.水鏡 (Cocco)
09.月のしずく (柴崎コウ)
10.PHANTOM(lynch.)
11.FOREVER & EVER (LUNA SEA)
12.Another day comes (Pay money To my Pain)
13.PHOENIX(lynch.)
14.ETERNITY(lynch.)
・MUSIC VIDEO
・インタビュー
・オーディオコメンタリー
※豪華スペシャルパッケージ仕様・フォトブック付き

ライブ・イベント情報

●葉月
<FACE TO FAITH>
10月25日(日)日比谷野外大音楽堂

●河村隆一
<Ryuichi Kawamura Live2020>
11月14日(土)中野サンプラザホール

<Ryuichi Kawamura Billboard Live 2020>
11月28日(土) Billboard Osaka
12月5日(土)Billboard Tokyo
12月6日(日)Billboard Yokohama

◆インタビュー(1)へ戻る
◆インタビュー(2)へ戻る
この記事をポスト

この記事の関連情報