【コラム】「アルデバラン」「ベテルギウス」「オリオン」…冬の定番、星がタイトルに冠された楽曲が照らすものとは?

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坂本九の名曲「見上げてごらん夜の星を」(1963年)からほぼ半世紀。その後も日本の音楽シーンには、数多くの“星”をモチーフにした楽曲が誕生した。辛いとき、悲しいとき、希望を探したいとき──今の時代もまさにそうだろう。人は星に願いを託し、それが歌になる。少々メランコリックすぎるかもしれないが、星をテーマにした曲には、深いメッセージや尊い愛を歌ったものが多いのも事実。このコラムでは、星や星座にまつわる名曲を紹介したい。

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【平原綾香「Jupiter」(2003年発表)】
まずは平原綾香の「Jupiter」。イギリスの作曲家・ホルストの管弦楽楽団「惑星」の第4楽章「木製」の旋律に作詞家の吉本由美が歌詞を付けた、平原綾香のデビュー曲だ。美しく、豊かな響くをたたえたメロディライン、ポップスとクラシックを融合させたサウンド、幅広い音域を活かしたボーカルが一つになったこの曲は、いまやJ-POPのスタンダートして親しまれている。また、新潟県中越地震の際に“久社を勇気づける”としてラジオ局に多くのリクエストが集まるなど、“救済”や“癒し”を感じる楽曲としても有名だ。


【aiko「木星」(2002年発表)】
aikoの「木星」は、アルバム『秋そばにいるよ』に収録された知る人ぞ知る名曲。心地よくグルーヴするバンドサウンド、ホーンセクションを交えたアレンジはどこか中期ビートルズを想起させる。自由なラインを描きながらどんどん上昇し、“じゃあね木星に着いたら また2人を始めよう”というフレーズに辿り着く歌は、リアルな恋愛感情と壮大なスケールが自然に結びついている。


【中島美嘉「ORION」(2008年発表)】
TVドラマ『流星の絆』の挿入歌としても話題を集めた「ORION」は、中島美嘉の27枚目のシングルとして2008年にリリース。“泣いたのは僕だった”という歌い出しから叙情的な雰囲気に包まれるバラードナンバーだ。冬の夜、寂しさ、切なさを抱えた“僕”が夜空の星の輝きとともに、人を好きになることの意味を知る──そんなストーリーを描き出すこの曲は、彼女の代表曲の一つ。中島美嘉はその他にも「STARS」「WILL」など星をテーマにした楽曲を数多く発表している。


【米津玄師「orion」(2017年発表)】
ドープな手触りのトラックメイク、クラシカルな弦の響きを共存させた「orion」は、アニメ『3月のライオン』エンディングテーマに起用されたメジャー6thシングル。ロマンティックな雰囲気とエモさを同時に感じさせる歌声から放たれるのは、“あなたと二人 あの星座のように 結んで欲しくて”という祈りにも似たフレーズ。運命的な出会いと別れを、星と星のつながりを通して描いたこの曲は、米津玄師のすさまじい才能をさらに幅広いリスナーに知らしめることになった。


【優里「ベテルギウス」(2021年発表)】
2021年11月にリリースされた新曲「ベテルギウス」は、TVドラマ『SUPER RICHI』の主題歌としても話題のミディアムチューン。主となるテーマは、人と人とのつながりだ。ギターの素朴な響きとともに“空にある何かを見つめてみたら それは星だって君がおしえてくれた”というフレーズから始まり、“僕と君”の関係性を何光年も離れた場所から輝きつづけるベテルギウスともに描くこの曲を聴けば、シンガーソングライターとしての彼の進化を実感してもらえるはずだ。


【LiSA「明け星」(2021年発表)】
大反響のなかでエンディングを迎えたTVアニメ『鬼滅の刃 無限列車編』。LiSAが歌うオープニングテーマ「明け星」も大ヒットを記録している。「炎」(映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』主題歌)と同じく梶浦由記が手がけたこの曲は、ヘヴィかつダークなバンドサウンド、エキゾチックな手触りのメロディライン、“昏い空には明け星が未来を どうしても指して動かないから”という歌詞が一つになったナンバーだ。どんなに困難な事態に陥っても、決して絶望することなく、未来に向かって進んでいきたいという切実な思いを“明け星=金星”に託したロックチューンは、LiSAの新たな代表曲として浸透しているようだ。


【佐野元春「ポーラスタア」(2013年発表)】
個人的な思い入れを含めて、佐野元春の「ポーラスタア」もぜひ紹介したい。アルバム『ZOOEY』(2013年発表)に収録されたこの曲は、シャープなビート、研ぎ澄まされたメロディとともに、“ほら、見上げてごらん 冬の星空 あれはポーラスタア”というフレーズが響くアッパーチューン。どんなに困難なときも、嵐のなかでも、あの星君たちを見守っているというメッセージを讃えた「ポーラスタア」は、10年代以降のライブアンセムとしてファンからも強く支持されている。


【AI「アルデバラン」(2021年発表)】
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』主題歌であり、涙腺崩壊必至の楽曲として話題を集めているAIの「アルデバラン」も、星をモチーフにしたナンバーだ。「アルデバラン」とは、おうし座でもっとも明るい恒星で、ふたご座のポルックス、おおいぬ座のシリウスなどとともに冬のダイヤモンドを構成する星でもある。

歌詞のなかでは、“見上げてごらん煌めくアルデバラン 溢れてくる涙の理由を”と歌われている。時代や社会の変化の影響を受けざるを得ない、人間という存在。ときにはどうしようもない悲劇に見舞われる──『カムカムエヴリバディ』で描かれている戦禍もその一つだ──こともあるが、それでも人は生きなければならないし、大切な人の幸せを祈らずにはいられない。そう、「アルデバラン」には人生におけるもっとも根源的で、もっとも大切なメッセージが込められているのだと思う。SNSでは“「アルデバラン」は令和の「上を向いて歩こう」だ”という言葉も。2022年以降もこの曲は、多くの音楽ファンの心に寄り添い、前向きな気持ちへ導いてくれるはずだ。

文◎森朋之

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