【連載】「建物語り」by うらら 第12回<いつかの近未来を感じる、川崎河原町団地>

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​​2021年、東京は長い間「自粛」の中にいた。

年明けはいつも地元で迎える。小学校からの友人たち、高校の友人たち、大学のサークルのメンバー……会いたい人はたくさんいたけれど、2021年の正月は、これを叶えるのはやはり難しそうだと判断した。年明け早々に発令された緊急事態宣言に従い、楽しみにしていた友人たちとのお茶の約束もキャンセル。相変わらず、東京の自宅に閉じこもっていた。


何をするでもなく、誰と会うでもなく、ライブを開催することもできない。底冷えするマンションの部屋で、静かに温かい風を吐き出し続けるファンヒーターが電気代をかさばらせていく。今年も、一歩先すら見えない道を生きていかなければならないのか。靄を吹き飛ばしてはくれないゆるやかな温風の吹き出し口の前で丸まってぼんやりとしている間に、1月が行き、そのまま2月が逃げ、さらに3月が去ろうとしたそのときだった。

緊急事態宣言が明けた。

待っていましたと言わんばかりに咲き始めた桜に誘われるように、私は川崎へ向かう電車に飛び乗った。緊急事態宣言が明けるたびに、弾かれたように飛び出してしまう。

目的地は、前から噂を聞いていた「近未来みたいな団地」。
近未来、という言葉はそのまんま「少し先の未来」という意味だが、どうも昭和じみた印象を覚えるのは私だけだろうか。

◆「建物語り」by うらら 関連画像

私の育った街に「千里中央」という駅がある。

「せんちゅう」の愛称で親しまれるその駅は1970年の日本万国博覧会のときに作られた駅で(万博開催時は実はごく近い別の場所に駅があったのだが、今の駅は既に着工されていた)、駅とその周りの商業施設たちは、当時の人々が夢見た「近未来」が詰まっているような形(なり)をしている。



そんな千里中央を身近に育ったので「昭和が夢見た近未来」的建物に親近感を覚えており、そういう建物に対して、最近やたらと目にする「どこか懐かしい」というぼんやりとしたノスタルジーではなく、「ガチで懐かしい」と感じるのだった。

この川崎の「近未来みたいな団地」を設計した大谷幸夫という人は、国立京都国際会館を設計した人らしい。京都国際会館はウルトラセブンの地球防衛軍の防衛センターとしてその外観が登場するらしいが、そういえば父親が「せんちゅうはウルトラマンの撮影が来たんやで」と自慢げに語っていたことを思い出す。
昭和の人が想像した未来を、大谷幸夫はそうと意識せず描いていたのだろうか。


川崎駅に降り立ち、歩いて河原町団地に向かっていると、道路にチョークで描かれた落描きをみつけた。

こういうものはあまり見たことがなかったが、色とりどりのイラストが踊るように広がっていてとても楽しそうだ。描いていた子ども達の笑い声まで聞こえてきそうな生き生きとしたその落描きに、あまり知らないこの川崎という町を、少し好きになる。

経験したことのないはずの懐かしさ(これが「どこか懐かしい」というやつか!)を胸に吸い込み、期待を膨らませながら団地へ向かうと、5分咲きの桜とともにずらりとならんで突き出すベランダが見えてきた。


あ、もう素敵ですね……?


一番下がせり出してるのもイイ。

さて、噂の「近未来的な」建物はどこにあるんだろう。目の前に聳え立つ長方形のこの団地もとっても素敵だけど、せっかく河原町団地を見にきたのだから、とお目当てのあいつを探してほんの少し敷地内へと入ると……


うわ~~~!!!圧巻!!!どっしり!って感じ!


小さい頃みた戦隊モノの空気をなぜか感じる。「あの頃の建物」感ってどこから感じてるんだろうか。ベランダの形とか……巨大さとか?

よくみると3棟が連なっていて、横に長い一つの建物になっている。逆Y字、直方体、逆Y字。ちなみに向かい合う棟は、直方体、逆Y字、直方体、と逆の構成になっていた。


数字、そこにあるんだ……低めだね。


下部の台形部分と、真っ直ぐ上に伸びる部分の間に、六角形がくり抜かれている。その並んだ六角形の穴を境に、上は瓦を、下はお皿を重ねたかのように階段が連なっている。

ピロティっぽい内側は、この日はいいお天気で日差しが強かったぶんだけ、外からは暗がりになっていてみえない。


角から見た絵がたまらなく好き!大好き!え、なにこれ大好き!レゴみたい!


中に入ると、かなり広々とした空間が広がっていた。作られた当時は子どもたちの遊び場として活躍していたらしいこの空間は、「音が響いてうるさい」ということで現在はシンとしていた。たしかに、かなり反響しそう。


ピロティで真上を見上げると、空まで吹き抜ける。上のツインコリダー部分が空を囲み、とんでもなくかっこいい額縁になっている。ここに寝転がって、刻々と変わる空の表情をずっと眺めていたい。雨が降ったらどうするのなんて野暮なことは考えない。


台形部分の壁を見ると、蛍光灯がちらり。


外からピロティの中は真っ暗で見えなかったけど、逆に中から見る外はとても明るい。光の切り取られ方がかっこよすぎる。似ているわけじゃないけど、「天使の梯子」という言葉が浮かぶ。


エレベーター、顔に見える。かわいい。
大きく「5号棟」と書かれている。3棟が連なっているから、どこにいるかわかりやすくしてあるのだろうか。余談だけど、団地に住んだことがない人は、団地で迷いやすいらしい。私は迷子にならない元団地っ子だ。


5階から9階の階数表示が独特。
真ん中の違う形の塔と階がずれるからだろうか。


真ん中の塔の一階は、中庭みたいになっていた。そしてその奥にまた反対の塔のピロティが続く。


古い団地の郵便受けはいつも暗いところにあって、それにものすごくキュンとする。暑い日差しの中を帰ってきて、団地に足を踏み入れた瞬間に蝉の声が小さくなり、薄暗がりでひんやりとした空気に包まれる、あの夏の記憶。帰ってきた、という安心感を覚える。


接合部。
階段もいい。子どものときの、団地内はどこだって遊び場にできるあの感覚を思い出す。ワクワクする。


台形部分を真正面?真横?から見ると、気持ち良すぎる景観。


部屋の中はどんな光の入り方で、窓の外にどんな景色がみえるんだろう。


別の棟から。建物の中から見る桜がまるで絵画のようだった。
団地が美しい理由には、外と中のコントラストもあると思う。

桜が散るころ、再び自粛が叫ばれ、またしても東京の自宅に籠る日々を送ることになった。
2021年、東京は長い間「自粛」の中にいたのだ。


そしてあれから1年半がすぎ、2022年12月25日、私は渋谷でワンマンライブを開催する。


まだまだ座席数を減らしての開催ではあるが、1年半前は考えられなかった「有観客ライブ」だ。ライブができるのは当たり前のことではない、と思い知ったこのコロナ禍。一つ一つのライブをより丁寧に作り上げ、心からの歌を紡ぎたい。ぜひ受け取りにきてほしい。チケットはこちらから購入できる。

遠方で来られない方や、会場に行くのはまだちょっと抵抗があるという方は、配信もあるのでそちらで楽しんでいただけたらと思う。配信チケットはこちら

閉じ込められた日々に、彩りを与えてくれた川崎河原町団地と桜たち。高揚する気持ちや幸せな記憶があれば、希望をもっていられる。きっとこの困難も乗り切れるだろうと、ファンヒーターを押し入れにしまいながら考えた2021年の春。少し先の未来のこともわからないけれど、それでもワクワクする「近未来」を思い描きながら、これからも歌に団地に、好きなことをめいっぱい楽しんで生きたいと思う。


最後に。
更新が遅くなって本当にすみません。
最近は2か月に一度くらい全国を旅しているので、もしおすすめの団地や建物があったらTwitterで教えてください。

ではまた、建物語りで。

うらら

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