――今回の作品のプロデューサーはいつもどうりジョン・マッケンタイア(トータス)とジム・オルークなんですか? TIM: ああ、そうだよ。ジョンとジムの半分ずつ。 ――そうだと思いました。前作「ミルキー・ナイト」と感触が近いと思ったので。前作のときのインタビューでは、ハードディスク・レコーダーを使わない方針でレコーディングした、みたいなことを言っていましたが、今回でもそれは同様ですか? TIM: ハード・ディスクは使ったよ。プロツールスに音を1回録音して、そこでアレンジをして2インチに入れ直したんだ。 ――それはまたどうしてですか? TIM: やっぱりそのほうが修正が利くからね。ほら、僕らってリハーサルしないでレコーディングに入るから間違いが多くて(笑)。だからそこでいったん修正して、アナログに音を入れ直すんだよ。 ――今回はいつにも増して楽器の音が増えたような気がするんですが、何か狙いはあったのですか? TIM: 前のアルバムって内向的だったからね。だから今回は前作とは違う感じの、もっとライヴっぽい音を出したい感じはあった。それでハープシコードとかチェレスタとかを使ってみたんだ。あと、ギターの音を早回しにして、ハープみたいな音にも加工してる。 ――今回は楽曲によりバラエティがありますね。「ホット」な面と「クール」な面がハッキリとしているというか。ホットな曲はよりソウルフルに、クールな曲はちょっとエレクトロっぽかったりするし。 TIM: エレクトロっぽくはないよ。エコーとディレイのせいでそう聞こえるんだよ。ホットに聞こえるのは、アナログ・キーボードの音のせいかな。あと、音と音の間に良い具合に隙間があるのもホットに聞こえる理由だろうね。まあ、クールな感じというのは、僕らが作ろうとしている曲がハッピーなポップ・ソングじゃなくて、もっとミステリアスなものを作ろうとしているからだと思う。映画のサントラっぽい感じかな。 ――映画のサントラって言いましたけど、具体的にはどんな映画のサントラですか? TIM: ドイツの印象派っぽい感じかな。あと、バーナード・ハーマンとか武満徹とか、ああいうこの先どうなるか想像できないタイプが好きなんだ。特に武満徹は全く先が読めないんだけど実に深みがある。ああいうのを僕達も作りたいんだよね。 ――へ~。でも、武満徹なんて、イギリス人のあなたが一体どうやって存在を知ったんですか? TIM: 10年くらい前に彼が音楽を担当した映画をBBCで見たんだ。『四ッ谷怪談』みたいなちょっと不思議な映画だったな。僕は映画にしてもハリウッド映画みたいな現実世界っぽい映画は好きじゃなくて、もっと感覚的でシュールなものが好きなんだ。武満はそんな映画のイメージ通りの音を作るんだ。たとえば、怖いシーンのときに“ダーンッ”って大袈裟な音を出すんじゃなくて、ヌ~ッとさりげなくミステリアスな記号みたいな音を出してくる。そういうのに惹かれるな。 ――あと、以前からそうではあったのですが、今回特にメロディの中に'60年代ポップス的な感じが濃くなったように思います。 某清涼飲料水メーカーの「C.C.レ○ン」がかなりお気に入りというTim。スタッフに手渡されると嬉しそうに飲みながら「今、グレープもあるよね」とひとこと。さすが日本通 | TIM: やっぱりポップスが素晴らしい時代って、'60年代後半から'70年代前半だもの。今のいわゆるポップスと言われるヤツはあまり好きじゃないね。だから僕の音楽にポップの要素があるとしたら、どうしても'60年代の影響が強いんだ。ビーチボーイズの「グッド・バイブレーション」なんて普通に聞こえるのにすごく複雑に構成された素晴らしい曲だと思うしね。ロビー・ウイリアムスなんかの曲とはワケが違うよ(笑)。 ――今回、リズムもいつもよりビートがソウルフルで強めですよね? TIM: アルバムを作る時はいつも違う感じになるように心掛けてるけど、今回は特にドラムのビートを複数くっつけてディレイでさらに膨らませたんだ。そうなるとヘヴィになるからね。今まで、いろんな音の陰でドラムの音がかき消されていたのは僕も気になってて。だから、ハッキリとわかるようにしたんだよ。 ――今、毎回新しいアプローチをしたいと言いましたが、あなた達は毎年のように何かしら作品を発表し続けてますよね。しかもいつも違った切り口で。最近のアルバム・リリースは3~4年リリース間隔が空いても普通なのに、その創作エネルギーは凄いと思います。 TIM: 音楽作るのが仕事なわけだからね。3年も間隔が空くのはちょっと理解できないよ。あと、やっぱりスタジオに入るのが好きだから。最近はライヴが増えて以前ほどスタジオ・ワークは減ったけど、それでも好きだな。 ――今やあなたたちには、お友達でもあるトータスやハイラマズなんかと共に、「良質なポップ・ミュージックの作り手」というイメージが浸透しています。しかし、その一方でシーン自体は保守化してると思うんですよ。そういう中で自分達の音楽ポリシーを通す難しさを感じることはありませんか? TIM: 作るのは簡単だけど、それをどう売るのかが大変なんだよね(笑)。僕らみたいな音楽を紹介してくれるラジオがあるのか。それに対しての不満ならあるよ。今と言う時代は、やっぱり音楽性よりもキャラクターを重視する時代だからね。 ――そんな中で、ステレオラブというのは、国境や時代を超越した普遍的で力強いポップ・ミュージックを作ってると思いますよ。 TIM: それは僕らも目指してるものなんだ! ありがとう(笑)! ――今、世界的に見ても、日本はステレオラブのような姿勢のアーティストを受け入れる土壌が特に強いんですよ。 TIM: ああ、それはそう思うよ。だって実際、Yahoo!とかでのロック系のアーティスト関連物のオークションとか見てるとよくわかる。最高額で落札するのはいつも日本人だからね(笑)。まあ、それはさておき嬉しいことだよね。 取材・文●沢田太陽 |