グラミー賞驚異の5部門受賞、アリシア・キーズ初来日コンベンション・ライヴ

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グラミー賞驚異の5部門受賞、
アリシア・キーズ初来日コンベンション・ライヴ


ヴォーカル、パフォーマンス全てにおいてR&B界のトップに立てる圧倒的実力


Alicia Keys
<Special Showcase Live>
2002/5/2@赤坂BLITZ セットリスト


1 .Intro-Beethovens 5th Symphony
2. Rock wit U
3. The Life
4. How Come You Don't Call Me
5. Troubles
6. Jane Doe
7.
A Woman's Worth
8. Girlfriend

[アンコール]
9. Fallin’

1stアルバム

SONGS IN A MINOR
BMG International 2001年9月26日発売
BVCP-21256 2548(Tax in)  

1 PIANO & I
2 GIRLFRIEND
3 HOW COME YOU DON'T CALL ME
4 FALLIN'
5 TROUBLES
6 ROCK WIT U
7 A WOMAN'S WORTH
8 JANE DOE
9 GOODBYE
10 THE LIFE
11 MR. MAN (DUET WITH JIMMY COZIER)
12 NEVER FELT THIS WAY (INTERLUDE)
13 BUTTERFLYZ
14 WHY DO I FEEL SO SAD
15 CAGED BIRD
16 LOVIN' YOU (HIDDEN TRACK)
17 REAR VIEW MIRROR (BONUS TRACK)






グラミー賞驚異の5部門受賞の才女が、遂に、遂に日本の地にやって来た!

思えばこの日が来るのをどれだけ首を長くして待っていたことか。昨年夏、デビュー作にしていきなり全米初登場No.1を遂げ、彼女の故郷ニューヨークが打撃を受けたテロ事件では、チャリティ番組でダニー・ハサウェイの「Someday We'll All Be Free」の圧倒的な迫力で熱唱、そして1月に予定されていながら本人の急病のため、幻と終わった初来日……。本当に、本当にその姿を間近で見たかった。そして、直前の直前まで疑った。「本当にライヴをやってくれるのか」、と。

それにしてもこのアリシア、人をハラハラさせるのが平気なのか、なかなかステージに現われてこない。聞いた話だと、来日記者会見にもかなり遅れて登場したという。この日も前座があったとはいえ、それでも時間は7時の開演からゆうに1時間30分は経過している。 とにかく登場が遅い。いい加減イライラしはじめたちょうどそのとき、舞台が一瞬にして暗転し、僕のように心から楽しみに集まったギュウギュウ詰めの観客が、割れんばかりの悲鳴にも似た大歓声をあげた。

そして8人編成のバックバンドが“まずはアリシアお得意の優雅なクラシック・ノリを出せ”とばかりに、いきなりベートーベンの「運命」をゴスペル風味で披露!  「いきなり、なんじゃこりゃあ」と僕は思わず笑ってしまったが、次の瞬間、帽子を斜めに被った、お馴染みのエレガントな出で立ちでアリシアがさっそうと登場。トレードマークの長いブレイズを振り乱しながら、クールな表情とは対照的な熱さを全開にしてアルバム『SONGS IN A MINOR』から「Rock wit U」を歌いあげる。会場のヴォルテージはいきなりフル・スロットル状態だ。

会場をひととおり熱くした後は、正面に置かれた、アリシアにとっては欠かす事のできない、もはや体の一部分とでも言うべきピアノ(キーボード)の前に腰掛け、その自らの伴奏でバンドをグイグイと牽引する。その堂々とした、まるで熟練されたバンマスのような統率力はとても21歳の、つい先日まで大学生だった女性とはとても思えない。しかもこのバンドというのが、黒人音楽界においても恐らく最高級の腕利きミュージシャンと思われる完璧な演奏力を持っている。ベースやドラムといったリズム隊の刻むビートは微塵の狂いもないし、男1人女2人によるコーラス隊は、僕が生涯に見たバック・ヴォーカリストの中で明らかに一番のクオリティだった。

しかし、そうした最高のバックでさえもアリシアの前では小さく見えてしまうのだから、これはタダモノではない。いざアリシアがマイクの前で歌いかけると、それだけで会場は彼女のほうに釘付け。これまで“オーガニック・ソウルとクラシックのエレガンスな融合”みたいな、音楽アプローチにおけるユニークさがとかく評価されがちだったアリシアだが、そうした点を抜きにした一介のシンガー、パフォーマーとしてだけでもR&B界のトップには充分に立てる。

しかも、魅せる点は音楽面における実力だけではない。ステージ上の何気ない立ち振るまい。これがデビューして1年も経たない者とは思えない、異様に巨大なオーラがあるのだ。とにかく、仕種の1つひとつがまるで計算され尽くしたかのように、不思議なほど完璧なのだ。圧巻は後半で披露された、かのプリンスの名曲「How You Don't Call Me」のカヴァー。ゴスペルとジャズという、黒人音楽の根源的なニュアンスを徹底的に深めることでプリンスの持つ原曲にさらなる息吹を与えた底力に驚かされる。だが、「電話越しの男女の恋のかけひき」といった、誰もが共感できるテーマをパフォーマンスでより具現化することで、曲を高尚にし過ぎずリスナーに身近なものにさせているのにも思わず感心。曲の最後で、アリシアが大きな携帯電話で曲中の恋人にワンギリをしてしまうアクションには、会場がドッと湧いた。

そして「A Woman's Worth 」「Girlfriend」でいったん終了、アリシアを語るうえで一生外せないデビュー・ヒットの「Fallin’」でアンコールを盛り上げ、9曲で構成されたショウは幕を閉じた。随分と待たされもしたし、コンベンション・ライヴということもあり時間も長くはなかったが、いやはやしかし、こちらの期待する以上のものは十分に見せつけてもらった。

ローリン・ヒル以来の才女”という肩書きは、決してフロックなどではなかった。

「アリシアこそ本当の才女」。

この日、会場に詰め掛けたほとんどの人がそう確認して帰ったことだろう。この先の10年、20年、彼女が音楽シーンにおいていかなる足跡を残して行くのか。それを想像しただけで思わず武者震いしてしまうような、そんな予感に満ちた最高の夜だった。

文●沢田太陽

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