クノシンジ、「ロッテンピーチ」インタビュー

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――ジャケットのポップなイラストが印象的だね。

クノシンジ:ミニアルバムや前のシングル「強がりドライバー」と同じグルーヴィジョンズさんのイラストです。すばらしいイラストだし、僕の音楽にも合っているのでずっとお願いしてきたんです。今回は写真でもいいかなと思っていたんですが、“爆発”というイメージがずっとあったので、こういうジャケットがいいんだろうと。勢いがあるしインパクトがあると思うんで、すごく気に入ってます。

――「ロッテンピーチ」というタイトルはどういう意味?

クノシンジ:直訳すると“腐った桃”ですね。デビューの前後、インタビューとかラジオで自分のことをいつも訊かれていて、自分はいったい何なんだろうって考えてしまったんです。作品の中に主人公がいて、それを僕が演じるというスタンスでずっとやってきたから、何を伝えたい、どんな表現をしたいというのは曲ごとにあるけど、僕自身は何者で何を表現していくのか。2月と3月はそんなことでずっと悩んでいたんです。結局、答は出せなくてそこから抜けられなかった。そんなときたまたまエルトン・ジョンの曲に「ROTTEN PEACHES(※ロッテンピーチズ:邦題「人生とは腐った桃のよう」)」というのがあるのに気づいて、そういえばあの2ヶ月は腐ってたなあと思ったんですね。曲が特に好きだとかじゃないんですけど、その言葉だけは頭に残ってた。そこからこのタイトルになったんです。

――その悩みは解決したの?

クノシンジ:はい。4月にあるアーティストのコンサートに行ったのがきっかけで。横浜アリーナだったんですけど、1万人以上のお客さんがわーっと盛り上がるんですね。こんなにたくさんの人たちがいっせいに惹きつけられてる、というのにすごく感動しちゃった。今までの僕みたいに、曲ごとに主人公を演じるスタイルだとこうはいかないなと思ったんです。小細工やごまかしは通用しないし、自分の中身がホントにしっかりしてないとダメだと思った。それで今まで自分がとらわれていたものを一度全部脱ぎ捨てて変わりたいと思ったんです。

――それを克服した答えが「ロッテンピーチ」ということだね。

クノシンジ:そうです。本当の自分を表現するためにどうするか考えたら、ロックがやりたい、と思ったんです。今までいわゆる渋谷系みたいな、明るく楽しいポップスをやってたきたけど、どこかでロックをやりたい気持ちがあったんですね。それで素の自分を表現するために、今回はロックをやってみました。

――ロックをやるということで、何か今までとは違うことを意識した?

クノシンジ:まず声ですね。この曲に限らず、太く声を出したいと最近思ってるんです。僕の声はどうしてもか細くて軽く聴こえちゃうと思うんで。僕の普段の声はそんなに高くないし、低い声でもいいんじゃないかなと。まあ今回も高いところが多いけど、高いなりに力強く歌いたいと思いました。

――歌詞の世界もずいぶん変わった?

クノシンジ:変わりましたね。ストーリーを演じるんじゃなくて、今思ってることを自分の言葉でそのまま吐き出しちゃえばいいやと思って、迷ってたことや悩んでたこともそのまま歌詞にしたんです。だから“ふさいだまま見てみぬフリの2ヶ月”みたいに具体的な言葉もある。できるだけ自分の中のリアリティを反映することにこだわりました。自分がそのまま出てる。それがすごくやってて痛快でしたね。曲の主人公じゃなく、直接クノシンジを見てもらえてるというのが。

――今の自分をそのまま出した曲、ということなんだね。

クノシンジ:そう思います。今までは自信がなくてロックをやるのをためらってのかも。こういうアレンジでやったこともなかったんで、できるかどうかわからなかったんですけど、そういうことを全部捨てて、失敗してもいいと思ってやりました。やりたいからやるんだというのがすごく大事だなと思いました。

――それでもやっぱり明るくポップに仕上がってるのが、クノシンジらしいところかな?

――クノシンジ:そうですね。音楽を始めたときから、明るくなきゃいけないと思ってたところもあるけど、僕の曲はやはりメロディとコード進行がすごくキャッチーだと思いますね。それに声はどうしても明るくポップという印象だと思う。その2つがあれば、何をやっても結局は僕のポップになると思ってます。だからロックをやったって、まったく違うものになるわけじゃないから、今回思い切ってやってみたんです。

――「夏の幻」も、そんな変化があってから作った曲?

クノシンジ:いや、これは僕が東京に来た頃、去年の3月頃にできてた曲です。曲のイメージに合う夏っぽい歌詞を書いてしばらくそのまま置きっぱなしになってたんですけど、改めて聴いてみたらいい曲だし、「ロッテンピーチ」とのバランスを考えてカップリングにしました。今までは自分でデモをちゃんと作ってプロデューサーに聴いてもらっていたんですけど、今回は弾き語りくらいの状態でプロデューサーに渡して、アレンジも全部やってもらったんです。これまでは楽器も全部自分でやってたけど、今回僕がやったのは歌くらいで楽器も弾いてない。これは新しい試みですね。自分だとこういうラテンの雰囲気のアレンジにはならなかったと思うんで、そこが他人と一緒に作る面白みだなと感じました。

――マルチプレイヤーのあなたが、他の人が作ったバックで歌うのはどんな気分?

クノシンジ:歌以外のところに自分のテイストがないので、シンガーとしての裸のクノシンジを見てもらえるような気がしますね。サウンドを含め、音楽全体を作るのが僕だと思ってたんですけど、曲を作って歌うだけというところでどこまで勝負できるか、それこそシンガーソングライターみたいな、そういうことに今気持ちが傾いてきているんです。それと、今回こうしてオケを全部作ってもらったんで、今後は自分で作っても客観的に自分の歌を見ることができるようになると思います。

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