増田勇一のライヴ日記【4】2007年5月25日(金)フィンランド・フェスト2007@恵比寿・リキッドルーム

一般的にはいまだにサンタクロースとムーミンの住む国として認識されているのかもしれないが、音楽ファンにとってはハノイ・ロックスやHIM、ザ・ラスマスやローディといったバンドたちの出身地として知られていることだろう。実際、そのローディが『ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト』で優勝後に首都ヘルシンキで行なった凱旋フリー・コンサートに10万人が集まった事件や、ごく最近ではハノイ・ロックスの最新シングル「Fashion」がシングル・チャートで首位に輝いていたりする事実からも、この国の音楽シーンにおいてロックがメインストリームの重要な一角を担っていることがうかがえようというものだ。
そしてこのイベントは、そんなフィンランドの音楽状況の活発さをリアルに伝えるものとして企画された催しの一環としてのもの。登場したのは出演順にザ・クラッシュ、ヴォン・ハーゼン・ブラザーズ、アポカリプティカ、そしてストラトヴァリウス。ぶっちゃけ、僕のお目当てはチェロでヘヴィ・メタルを演奏する異端的バンド、アポカリプティカ。前半に出演する2組に関しては事前の予備知識もほぼゼロに近い状態。しかし、この手のイベントの際には、“こうした機会だからこそいち早く味わえるもの”との出会いを大切にしたいところ。それゆえに開演に間に合うように出かけたのが、結果、大正解だった。

※編集部註:5/23リリース1stアルバムより「ポニー・ライド」試聴⇒https://www.barks.jp/listen/?id=1000018468
続いて登場したヴォン・ハーゼン・ブラザーズは、名前からも察しがつくようにヴォン・ハーゼン3兄弟からなるグループ。ドラマーとキーボード奏者を従えながら3人がフロントに並び、ギター/ベースを弾きながら歌う。このバンドがまた“拾いもの”だった。いわゆる70年代ロック的なグルーヴを底辺に持ちながら、熱のこもったロック然とした演奏と、コーラスを多用したヴォーカル・パフォーマンスを披露。逆に言うと突出した歌い手は存在しないのだが、コーラスワークの見事さにはそれを補って余りあるものがある。全体に漂う哀愁味と、大地にしっかりと根を下ろしているかのようなたたずまいも魅力的だ。楽曲によっては往年のウィッシュボーン・アッシュを彷彿とさせる部分もあったし、グループの成り立ちとしては、やはり70年代に活躍したアメリカ(という名のグループ)がハード・ロック・バンド化したかのような風情でもあった。ザ・クラッシュ、そしてこのヴォン・ハーゼン兄弟については今後、あれこれ調べてみようと思う。


このイベントに、僕的な都合でひとつだけ問題があったとすれば、転換がゆっくりめで長丁場のライヴがさらに長いものになったこと。トリを務めたストラトヴァリウスについては、そのあとに別の仕事を控えていた都合上、冒頭2曲しか観ることができなかったので、多くを語ることは控えておきたい。が、三者三様のライヴ・パフォーマンスのあとで重鎮がしっかりと場を締める、という流れは成立していたと思う。そしてもうひとつ感じさせられたのが、この種のヘヴィ・メタルの根強い人気ぶりと普遍性の高さ。全曲観たわけでもないのに失礼な言い草にはなるが、冒頭の2曲を観ただけでも革新と無縁なバンドであることは想像ができる。が、それが彼らにとって不要であることも瞬時に理解できるのだ。
以上4組、駆け足でご紹介してきたが、このイベント自体、ショウケース的な意味での充実感が高かったことは言うまでもないし、今後も是非、継続的に開催して欲しいものである。
というか、それ以上に僕は、日本でフィンランドを味わうよりも、フィンランドで本場の味を堪能してみたくなった。個人的な話で恐縮だが、ノルウェー、スウェーデン、デンマークには過去に取材で出かけたことがあるのに、何故かフィンランドにだけは上陸したことがないのだ。2007年、この実に興味深い“ロック輸出国”を訪れる機会は、僕に訪れるのだろうか?
文●増田勇一
■「アポカリプティカ 2007年5月25日(金)フィンランド・フェスト2007@恵比寿・リキッドルーム~写真編~」はこちら
https://www.barks.jp/feature/?id=1000031826
この記事の関連情報
【連載】Hiroのもいもいフィンランドvol.123「マイケル・モンローインタビュー:40年かかって、こうあるべきであるアルバムが完成した」
デュラン・デュラン、ニュー・アルバムの制作にアンディ・テイラーが参加
『Rolling Stone』誌、史上最高のヘヴィ・メタル・ソング・ランキングを発表
ジャック・ホワイト、メタリカのレコード・プレス工場買収に「創造的なお金の使い方、ありがとう!」
メタリカ、レコード・プレス工場の共同経営者に
GOJIRAのドラマー、メタリカのラーズ・ウルリッヒに対する低評価にウンザリ
メタリカのジェイムズ・ヘットフィールド、ゲイリー・ロッシントンを追悼
メタリカ、新作リスニング・パーティを世界同日開催
メタリカのジェイムズ・ヘットフィールド、20世紀初頭を舞台にしたスリラー映画に出演
