【ライブレポート】ジャクソン・ブラウン「今までで最高のバンドだ」

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ジャクソン・ブラウン7年振りの単独ツアーが名古屋からスタート、3月9日(月)初日公演が愛知県芸術劇場大ホールで行なわれた。

◆ジャクソン・ブラウン画像

2010年のシェリル・クロウとのジョイントからちょうど5年、単独来日では2008年の『時の征者』発表後のツアー以来だから6年半ぶり。でも、ステージ上の姿を客席から観る限りでは、シャツの裾をジーンズの上に垂らすカジュアルな服装はいつも通りだし、ほとんど変化を発見できない。歌声がほんのちょっぴり低くなったかもと思ったくらいか。60代後半に入ったとはとても思えないジャクソン・ブラウンである。

初日の名古屋公演はジャクソン自身がアコースティック・ギターでイントロを弾く「バリケーズ・オブ・ヘヴン」で始まった。若き日を回想する自伝的な作品なので、40数年のキャリアからの新旧の曲が登場するコンサートの幕開けにふさわしいし、その私的な回想はその世代の歩んだ道程にも重ね合わされる。2曲目には、それに主題的に響き合うように、そういった精神的放浪への旅立ちを歌ったデビュー作からの「ルッキング・イントゥ・ユー」がピアノに座って歌われた。


その曲ではグレッグ・リースがペダル・スティール・ギターを弾いたが、今回のツアーの最大の注目点に、ギター類なら何でもこなす名手グレッグの参加が挙げられる。もちろん彼は期待通りの素晴らしい演奏を聞かせてくれたが、実のところ彼以上に、もうひとりのギタリスト、ヴァル・マッカラムが大きくフィーチャーされている。2003年の来日時のヴァルはマーク・ゴールデンバーグを補完する立場だったので、今回のほぼ全曲でソロを弾きまくる姿は嬉しい驚きだ。ただし、ヴァルが目立つときにも、その背後でグレッグが絶妙にバックアップしており、2人の見事なコンビネーションこそが今回のバンドの聴きどころなのだ。

ジャクソンもそのことはよくわかっていて、2曲終わったところで「今までで最高のバンドだよ」と誇らしげに観客に告げ、続いて最新作「スタンディング・イン・ブリーチ」から、ヴァルとグレッグの絡みが楽しめる2曲「ロング・ウェイ・アラウンド」と「リーヴィング・ウィンズロウ」を歌った。前者ではコーラスのひとり、シャヴォンヌ・ステュワートが加わり、後者でのヴァルのテレキャスターとグレッグのペダル・スティールとのかけ合いはとりわけ鮮やかだった。

「ロング・ウェイ・アラウンド」はニコ版の「ディーズ・デイズ」が引用された編曲なので、イントロで勘違いしたお客さんも少なくなかったが、その「ディーズ・デイズ」が歌われ、グレッグのラップ・スティールのソロがフィーチャーされる。

次は珍しい曲で喜ばせてくれた。「孤独のランナー」収録のダニー・クーチ作「シェイキー・タウン」だ。曲紹介でトラック運転手について話し、伊丹十三監督の映画「タンポポ」のことを口にしたのだが、メンバーからも客席からもまったく反応がなく、ジャクソンはがっくりしていた。

ところで、おなじみの光景ではあるが、ジャクソンは全曲でギターを交換する。それぞれが曲に合わせて異なるチューニングになっているからだ。ヴァルとグレッグのことばかり先に書いてしまったが、彼らを前面に出しているのは、近年のジャクソン自身のギターを中心にしたサウンドへの回帰の反映でもあり、彼のギター演奏は常にサウンドの核にある。

そして「アイム・アライヴ」、新作からのウディ・ガスリーの日記の文章に曲をつけた「ユー・ノウ・ザ・ナイト」と続き、一部の最後はシャヴォンヌとアリシア・ミルズのコーラスの2人が揃い、ジャクソンはピアノに座り、名作「レイト・フォー・ザ・スカイ」から、人気曲「フォー・ダンサー」と「悲しみの泉」が歌われた。前者にはグレッグのラップ・スティールのソロ、後者にはヴァルの長いソロがフィーチャーされる。

休憩を挟み、第2部では最初から全員が揃う。ドラムズのモウリシオ・ルウォックとキーボードとヴォーカルのジェフリー・ヤングはバンド在籍20年を超える。ベースには80年代ずっとバンドにいたボブ・グラウブが戻ってきた。そして、ヴァルとグレッグのギター・コンビ、ジャクソンが長年支援してきた非営利組織の放課後プログラムから生まれたゴスペル・クワイア出身のシャヴォンヌとアリシア、以上7人が現在のジャクソン・ブラウン・バンドだ。

第2部の冒頭で、ジャクソンが抱えて出てきたのは車のハブキャップを共鳴板の代用にしたユニークなギターで、自らスライド・ギターを弾きながら「ユア・ベイビー・ブライト・ブルーズ」を歌う。グレッグがラップ・スティールでソロをとった。

次いでピアノに移って「ロック・ミー・オン・ザ・ウォーター」。ジャクソン流ゴスペルといった曲なので、シャヴォンヌとアリシアの存在が光る。そして、この黙示録的な曲を導入に、新作の社会批評性のある曲が続くという考えた構成なのだが、ここで客席からリクエストが飛び、「コール・イット・ア・ローン」が歌われた。元々共作者のリンドリーのギターのフレーズが印象的な曲だが、ここでのジャクソン、ヴァル、グレッグの3本のギターによるアレンジも良かった。

そしてコンサートの重要なパートに入る。海洋汚染問題を歌った「イフ・アイ・クッド・ビー・エニホエア」、資本主義のもたらす格差などの問題を訴える「ウイッチ・サイド」、そしてハイチの地震後に書かれ、より良い世界の建設を呼びかけ、僕らに問いかける表題曲「スタンディング・イン・ザ・ブリーチ」と、メッセージがこめられた新作からの曲が続けて歌われた。もちろん僕らが耳を傾けるべき内容の曲ばかりだが、「ウイッチ・サイド」でのヴァルとグレッグのソロや、「スタンディング・イン・ザ・ブリーチ」でのグレッグのアコースティックとヴァルのエレキによる繊細なバッキングなど、演奏にも聴きどころは多い。そして、続く「ルッキング・イースト」でのヴァルとグレッグのそれぞれのソロからの掛け合いは演奏面でのハイライトのひとつだったろう。

続いては、最新作の幕開けを飾る初期の曲「バーズ・オブ・セイント・マークス」で、ザ・バーズのサウンドへのオマージュだと紹介し、是非彼らに歌ってほしかったけど、実際に知り合いになったときにはそれを言うのを忘れてしまったという回想のあと、グレッグがリッケンバッカーの12弦を弾いて、ロジャー・マッギンのサウンドを再現する。これも聴きものだった。

その次はセットリストでもジャクソンが思いつきで曲を選ぶとされている箇所で、今夜は「イン・ザ・シェイプ・オブ・ア・ハート」が歌われた。こういった私的な恋愛関係を考察する曲が少なめだったので、その選曲は客席からも大いに歓迎されていた。

コンサートも終盤にかかる。「ドクター・マイ・アイズ」はグレッグがギターで間奏を担当し、エンディングがヴァルがソロで盛り上げた。そして、最後が「プリテンダー」と「孤独なランナー」で締め括られるのはいつもの通りだが、これが幕開けの「バリケーズ・オブ・ヘブン」と「ルッキング・イントゥ・ユー」に対応して、主題的にブックエンドのような構成になっているところにも注意したい。

アンコールは「テイク・イット・イージー」と「アワ・レイディ・オブ・ザ・ウェル」のメドレーで、後者のアウトロではバンド全員が順に短いソロを回す。シャヴォンヌとアリシアの歌声が美しい余韻を残して終演となった。

セットリストでは最後に「ビフォア・ザ・デリュージ」が予定されていたが、リクエストで1曲増えたために歌われなかった。それでも、時間は午後10時になっており、休憩時間を含んで3時間という長さで新旧の曲をたっぷり聞けた内容とバンドの充実した演奏に誰もが大満足で帰途についた。

写真:新澤和久
文:五十嵐正

ツアーはこの後、3月11日(水)・12日(木)・13日(金)と東京で3日間公演を行なったあと、16日(月)に大阪、17日(火)に広島と西日本へ舞台を移し、最終日の19日(木)大阪追加公演へと続く。

<ジャクソン・ブラウン 3月9日初日名古屋公演@愛知芸術劇場大ホール>

Set One
1.The Barricades of Heaven バリケーズ・オブ・ヘヴン(1996『ルッキング・イースト』収録)
2.Looking Into You ルッキング・イントゥ・ユー(1972『ジャクソン・ブラウン・ファースト』収録)
3.The Long Way Around ザ・ロング・ウェイ・アラウンド*
4.Leaving Winslow リーヴィング・ウィンズロー*
5.These Days 青春の日々(1973『フォー・エヴリマン』収録)
6.Shaky Town シェイキー・タウン(1977『孤独なランナー』収録)
7.I'm Alive アイム・アライヴ(1993『アイム・アライヴ』収録)
8.You Know The Night ユー・ノウ・ザ・ナイト*
9.For A Dancer ダンサーに(1974『レイト・フォー・ザ・スカイ』収録)
10.Fountain of Sorrow悲しみの泉(1974『レイト・フォー・ザ・スカイ』収録)
Set Two
11.Your Bright Baby Bluesユア・ブライト・ベイビー・ブルース(1976『プリテンダー』収録)
12.Rock Me on the Water ロック・ミー・オン・ザ・ウォーター(1972『ジャクソン・ブラウン・ファースト』収録)
13.Call It a Loan(by request)  コール・イット・ア・ローン(1980『ホールド・アウト』収録)
14.If I Could Be Anywhere イフ・アイ・クッド・ビー・エニホェア*
15.Which Side? ウィッチ・サイド?*
16.Standing In the Breachスタンディング・イン・ザ・ブリーチ*
17.Looking East ルッキング・イースト(1996『ルッキング・イースト』収録)
18.The Birds of St.Marks ザ・バーズ・オブ・セント・マークス*
19.In the Shape of a Heart シェイプ・オブ・ア・ハート(1986『ライヴズ・イン・ザ・バランス』収録)
20.Doctor My Eyes ドクター・マイ・アイズ(1972『ジャクソン・ブラウン・ファースト』収録)
21.The Pretender プリテンダー(1976『プリテンダー』収録)
22.Running on Empty 孤独なランナー(1977『孤独なランナー』収録)
Encore:
23.Take It Easy テイク・イット・イージー(1973『フォー・エヴリマン』収録)
24.Our Lady of the Well 泉の聖母(1973『フォー・エヴリマン』収録)
*最新作『スタンディング・イン・ザ・ブリーチ』収録(全10曲中7曲演奏)

<ジャクソン・ブラウン JAPAN TOUR 2015>

3月9日(月)名古屋愛知県芸術劇場大ホール
3月11日(水)東京オーチャードホール
3月12日(木)東京オーチャードホール
3月13日(金)東京オーチャードホール
3月16日(月)大阪フェスティバルホール
3月17日(火)広島広島文化学園HBGホール
3月19日(木)大阪フェスティバルホール(追加公演)
[問]ウドー音楽事務所 03-3402-5999
http://udo.jp/Artists/JacksonBrowne/index.html

ジャクソン・ブラウン14th オリジナル・アルバム『スタンディング・イン・ザ・ブリーチ』

2014年10月8日発売
SICP-30674  ¥2,600+税
日本盤のみ、高品質Blu-spec CD2仕様+ボーナス・トラック収録
解説 五十嵐正
歌詞対訳 中川五郎
『スタンディング・イン・ザ・ブリーチ』ハイレゾ・アルバム(96kHz/24bit)
http://mora.jp/package/43000001/4547366227475/
1.ザ・バーズ・オブ・セント・マークス
2.Yeah Yeah
3.ザ・ロング・ウェイ・アラウンド
4.リーヴィング・ウィンスロウ
5.イフ・アイ・クッド・ビー・エニホェア
6.ユー・ノウ・ザ・ナイト
7.ウォールズ・アンド・ドアーズ
8.フィッチ・サイド
9.スタンディング・イン・ザ・ブリーチ
10.ヒア
11.ザ・バーズ・オブ・セント・マークス(Live:Piano Acoustic)*
*Track 11日本盤CDボーナス・トラック
プロデュース:ジャクソン・ブラウン&ポール・ディーター
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