【音踊人24】父を超えるのではなく〜billbord classics 尾崎裕哉プレミアムコンサート〜(雪音)

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尾崎裕哉。
この名前を聞いて、大多数の人が「ああ、あの尾崎豊の息子だね」と思うのだろう。

伝説と化したシンガーの息子である。だから彼が音楽活動を始めたと聞いても、「親の七光り」だの「父を超えられるわけがない」だの、好意的な感想は少なかったと思う。少なくとも彼の歌声を耳にするまでは。私はそうだった。尾崎豊と同時代を生き、彼の残した6枚のアルバムを何度も聴いていた私は、「どうせ一時的なものだろう」という思いで興味すらもたなかった。しかし某音楽番組で彼が「I love you」と「始まりの街」を歌うのを聴き、彼の声に心を撃ちぬかれたような気がした。この声を生で聴いてみたいと思った。そんなとき、彼がよみうり大手町ホールでクラシックスコンサートを行うと知り、足を運んだのである。

私を含めて会場にいたお客さんの大半はきっと、彼のコンサート初体験であったと思う。開演前からどことなく緊張感が漂い、コンサートが始まってもどのようなリアクションをすればよいのか戸惑っているような雰囲気だった。彼自身にもそれはよくわかっていたようで、「僕も緊張していますが、それ以上にみなさんも緊張しているようですね」と笑いを誘い、アップテンポの曲のときは「あの、手拍子もらえますか?」とさわやかに要求した。

彼のギターとTOMI YOさんのピアノ、そして弦楽カルテットというシンプルな演奏陣。billboard classicsと銘打ったコンサートタイトルにふさわしい布陣で、アコースティックな音が彼の声の魅力を最大限に引き出していた。本編では、父のカバーは「I love you」「Teenage blue」の2曲。その他カバー曲は「夏の終りのハーモニー」「瑠璃色の地球」「さよならカラー」の3曲。オリジナルは9曲。

率直な感想としては、一番場内が盛り上がったのは「I love you」だったと思った。この曲を聴きたくてコンサートに来た人が多かったのではないだろうか。しかし、オリジナル曲にもところどころ引っかかるメロディーがあったり、彼の心情を映し出したような歌詞が心に残る箇所があった。また、彼のMCは慣れない初々しさがあって好ましかった。

そして、全編通じて感じたのは彼の人柄。素直で癖がなく、好青年である。そして音楽が好きだということ。ギターが好きだということ。ステージ上にずらりと並べられたギターのことを嬉しそうに語り、「時間がなくなるから話をやめます」と微笑んだこと。尾崎豊のカリスマ性に満ちた狂気じみたステージとは対極のコンサートだった。穏やかで、声の美しさを純粋に楽しむことができ、ゆったりと居心地の良い時間であった。「親を追い越すというのではなく、胸を張れるようになりたい」という彼の言葉で、目指しているものを知ったような気がする。

アンコールに応じて「本当は予定外ですが」と言いつつも、「みなさんの知っている歌を声だけで一緒に歌いたい」とアカペラで。私の参加した夜の部は「OH MY LITTLE GIRL」だった。(昼の部は「僕が僕であるために」だったそうだ)歌い始める前にはっと気づいたようにギターに触り、音程を確かめてから歌いだした。一人で、自分の声だけで会場を魅了してから音量を下げ、歌を誘導してくれた。みんなで合唱したこの時間はいい思い出になった。

これからきっと彼は、オリジナル曲でも魅了してくれるアーティストに成長するのだろう。その過程を見守っていきたいと心から思う夜だった。

billboard classics 尾崎裕哉 premium concert -『始まりの歌』-
2016年9月4日 東京・よみうり大手町ホール
セットリスト

1. Smile
2. Moonlight
3. 夏の終りのハーモニー
4. I love you
5. 瑠璃色の地球
6. Road
7. With you
休憩
8. つかめるまで
9. Teenage blue
10. さよならカラー
11. 離れていても
12. 流れる風のように
13. 27
14. 始まりの街
アンコール
OH MY LITTLE GIRL

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