【インタビュー】きいやま商店、結成10周年「今年こそ“シャレオツ”で行きます」

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■ステージが楽しくてお客さんも笑ってる
■それってオレらにしかできないこと

──音楽性や活動拠点が違うことに加え、全員がボーカリストの3人が一緒にやることになったのが、2008年の「最初で最後のライブ」だったんですよね。

リョーサ:そうです。僕は長男なので、崎枝家の仏壇を守るために音楽を辞めて島に戻る決意をして。その前に、日本最北端の稚内を目指して列車の旅をしたんです、32歳ながら“青春18きっぷ”で(笑)。旅の過程で東京を通るじゃないですか。だいちゃんとマストに「最後に一緒にやらん?」と連絡して、稚内へ向かう途中の東京で、1曲だけ「さよならの夏」を3人で作ったんですよ。で、稚内からの帰りに、東京の鷺宮の居酒屋で「最初で最後のライブ」をやったんです。

──初ライブは大成功だったとか?

リョーサ:おもしろかったんですよ。なにも考えず、カッコつけず、遊ぶ感覚でやったら、“なんじゃこれ!?”っていうくらい。学園祭ノリみたいな感じで。

だいちゃん:曲は「さよならの夏」しかないから、BEE!BANG!BOO!の曲をほかの2人が歌ったり、2人のバンドの曲を僕が歌ったり。5曲しかなかったのに、3時間やりましたからね。何したんでしょうね(笑)?

▲だいちゃん (Vo / G)

──1曲3〜4分として、5曲なら20〜30分のステージが普通でしょ(笑)。

マスト:そうなんですよ! しかもアンコールがきましたから。「あの話、もう一回して」っていう(笑)。

──トークも魅力の、きいやま商店の原型が初ライブですでに出来上がっていたという。ちなみにきいやま商店というユニット名もそのときからすでにあったものですか?

リョーサ:一度きりだし、お客さんは40〜50人くらいで身内しかいないから、ばあちゃんの店の名前にしようって。ただ、「最初で最後のライブ」のつもりだったんですけど、一旦福岡に戻って同じ年に、友達の結婚式のために島で2度目にして凱旋初ライブをやったり。その翌年には僕がオーストラリアに行くために東京を経由したので、3人で「あの頃」と「きいやま商店のテーマ」を作って。鷺宮の同じところで3回目のライブをやったんだよね。

だいちゃん:しかし、なかなか島に戻らんなー(笑)。

──ははは。音楽活動を辞めるどころか、新たに始める勢いで曲作りしてるし(笑)。

リョーサ:ははは。しかも、そのライブが話題になって、“やっぱり音楽、おもしろいなー”と(笑)。その翌月、従兄弟の結婚式のために3人が石垣島に戻ったのでライブをやったんですけど、すでにウワサがウワサを呼んでいて、チケットが即完売したという。

だいちゃん:そこから、「沖縄本島でもやってよ!」とか「大阪に来てくれない?」とか、いろいろなところに呼ばれるようになって、いつの間にかCMソング(学校法人大庭学園CMソングに「あの頃」起用)が決まるまでになりましたね。

リョーサ:そのCMソングのために東京でレコーディングするんですけど、僕はまだ福岡に住んでいたから東京に通いつつ、歌とか三線を入れて。それに、1曲だけレコーディングするのももったいないので、「新曲を作ろう!」と出来たのが6曲入りの1stミニアルバム『さよならの夏』(2010年11月発表)なんです。

▲リョーサ (Vo / 三線)

──そこから、きいやま商店の活動が本格的になっていくわけですか?

リョーサ:いや、そうでもないんですよー。

マスト:記念にアルバムを、ぐらいの気持ちだったから。

だいちゃん:だけど、CDは売らないといけないから、全国を廻ったりして。

──CDリリースとか、CMソング起用とか、全国ツアーとか、ミュージシャンにとっては大きなトピックだと思うんですけど、きいやま商店の場合は肩肘張らないというか。それは、ユニットの始まり方や世間の火の点き方がナチュラルだからっていうところも大きいんですかね。

だいちゃん:おっしゃる通り、ふざけて始めたんで(笑)。

リョーサ:肩肘張るとか、まったくないですね。売れる気ナシでした。逆にそれがよかったのかもしれないですね。

マスト:音楽性は3人ともバラバラなので、曲の作り方ひとつ取っても、誰かが「こんなのやってみよう」って言えば「いいねいいね」、「あんなのはどうだろう」って言えば「やってみよう」っていう感じで、当初からずっとこだわりがないんです。その感じがいいのかもしれないな。

だいちゃん:僕自身は、それまで三線が入っているような沖縄民謡はやったことがなかったし、出てくるアイディアに対してはフラットにおもしろがってましたから。

──だから、きいやま商店の楽曲はバラエティーに富んでいるんでしょうね。

だいちゃん:そうだったらいいですね、嬉しいです。今も、その部分は変わってないですから。

──通算7作目となる最新アルバム『オーシャンOKINAWA』(2018年7月発表)も楽曲制作の方法論は変わらず?

リョーサ:必ず3人揃って一緒に曲を作ることは変わらないですね。今回は特に3人でドライブしながら作ったりしました。

マスト:曲作りはいつも、“沖縄の方言”をひとつ挙げて「この曲を作ろう」って、始めることが多いんです。たとえば、「ドゥマンギテ」(2012年8月発表3rdアルバムタイトル曲)は島の方言で“驚いて”という意味なんですけど、この言葉から物語りを作っていったり。「じんがねーらん」っていう曲は“お金がない”っていう意味なんですけど、“こんな方言を歌にするか!?ってばあちゃんたちにウケるだろう”みたいな。身内とか友達を笑わそうとして作ってたりするんですね。3人が笑えたり、楽しめたらOK。だから曲を作ってるときは、3人が爆笑していることが多いですね。

だいちゃん:「頑張れ!スミオおじぃ」もそう。“スミオおじぃ”は僕らのおじいさんなんですけど、選挙に出て落選しちゃったんですよ。で、みんなが落ち込んじゃってたから、盛り上げるために作った歌が「頑張れ!スミオおじぃ」(笑)。

▲マスト(Vo / G)

──きいやま商店の楽曲に陽のパワーが溢れているのは、そういう作り方だからこそなんでしょうね。くったくのないストレートな力が、身内から全国へ、ジワジワと伝わっていくという健全な広がり方もある。

マスト:実は、何曲か売れることとかを狙って作った歌もあるんですけど、やっぱりライブでやらなくなりますね。

リョーサ:僕ら自身がおもしろくないって感じちゃうから(笑)。

──とはいえ、お笑いを目指しているわけではないでしょ?

リョーサ:違います、違います(笑)。

マスト:スタイリッシュな曲とかクールな曲は、他の誰かがやってるじゃないですか。それは僕らの役割じゃないなと。僕らのやれることを突き詰めていったほうがいいんじゃないかなということです。

リョーサ:“目指すは、ザ・ドリフターズ”って掲げてるんです。曲はカッコいいけど、笑いがあっておもしろい。ザ・ドリフターズの音楽ってリズムとかバックの音がカッコよくて、最高じゃないですか。ライブで盛り上がるし。

マスト:ノーズウォーターズではずっとツアーばかりやってて、それも楽しかったんです。一方で、きいやま商店を始めたときに、あまりにも楽しくて、“これだな!音楽は!!”と思ったんです。本当に音を楽しんでいる感じ。ステージが楽しくて、お客さんも笑っている……それって、たぶん他にない、オレらにしかできないことだなと。始動当初はテキトウだったし、3人が集まっても、またそれぞれの活動に戻るカタチだったんですけど、“これ、もしかしたら『紅白歌合戦』にも出られるんじゃないかな?”と思ったというか、可能性を感じたんです。それで、2人に電話して、「ちゃんとやってみない?」って。メンバーもおもしろさを共有しているから、「オレもやったほうがいいと思うよ」って言ってくれて。

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