【インタビュー】森山直太朗、「さくら(二〇一九)」を語る「いかに飛び超えていけるか」

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森山直太朗の代表作に新たなアレンジを施して生まれ変わった「さくら(二〇一九)」が、日本テレビ系水曜ドラマ『同期のサクラ』の主題歌としてオンエア中だ。今から20年前に作られ、16年前にリリースされてロングランヒットを記録した「さくら(独唱)」は月日が流れた今も日本人に愛され、歌われ続けている。

◆森山直太朗 画像

「さくら」という楽曲に彼はどう向き合って歌い続けてきたのか? “森山直太朗=さくら”で語られがちなことに対する自身のジレンマなどを受け付けない“威風堂々とした楽曲”だと定義づけた直太朗が普遍の名曲「さくら」を新たにレコーディングした理由、そして自身の音楽人生の中で大きな分岐点となったツアー<人間の森>を経たからこそ見えてきたものについて、じっくり語ったロングインタビューをお届けしたい。

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■誠実に答えてくれたので
■“この人は信じられるな”って

──「さくら」という曲に焦点を当てて、いろいろ話を伺いたいと思います。まず、新たに生まれ変わった「さくら(二〇一九)」がTVドラマ『同期のサクラ』主題歌としてオンエア中ですが、ドラマのプロデューサーからの熱いオファーがあって実現したそうですね。

森山:そうですね。ツアー<人間の森>が終わって、燃え尽き症候群じゃないけど、先の予定も特に決まっていなかったので“どうしたものかなぁ”なんて考えていた時期にスタッフから「ドラマの主題歌の話が来てる」って聞いたんです。ただ、制作期間がほぼ1ヶ月しかなかったのと「さくら」は16年前にリリースした曲で、それなりに認知度があって、色褪せない曲が聴いてくれる人たちとの信頼感にも繋がっているから、最初はセルフカバーとかリレコーディングするのはちょっと難しいなって思ってたんですよね。

──大ヒット曲であり、代表曲なだけに考えますよね。

森山:そう。ただ、そういうお話をいただいて視野に入れてくださったのはありがたいことなので、ご挨拶がてらプロデューサーのお話を聞こうということになったんです。

──最初の時点ではドラマの内容は知らなかったんですか?

森山:『同期のサクラ』っていう高畑充希さん主演のドラマが放映されるっていうぐらい。で、大平プロデューサーにお会いして、のちに大平Pって呼ぶようになったんですけど、大Pが……。

──どんどん略されてますけど。

森山:ははは。大Pが“どういう経緯でドラマができた”とか、物語のあらすじだったり、自分が抱えている悩みとどうドラマがリンクしているのかを切々と20分近くしゃべってくれたんだけど、内容はあまり覚えてなくて(笑)。

──はははは。熱い想いを語ってくれたのに。

森山:でも、お会いしたら、「さくら」のネームバリューだとかドラマのタイトルの語呂合わせで選んでくれたんじゃないって。何が支持されるかわからない中、大Pは一緒に傷ついてくれる気がしたし、TVが見られなくなったって言われる時代だけど、民放ドラマにまだまだ活力があるのは、こういう人のピュアネスがあるからなんだなと思ったんです。要するに“この人が作るドラマだったらきっと間違いないな”って。そういうエネルギーを持っている大Pの気持ちに応えようと思ったのが決め手でしたね。それと制作時間の短さについてもウチのスタッフが単刀直入に聞いてくれたんですけど、誠実に答えてくれたので“この人は信じられるな”って。

──ちなみに、当初から新たなアレンジで、録音し直した「さくら」を主題歌にしたいという話だったんですよね?

森山:そうですね。その時点ではドラマ映像もなく、台本も2話ぐらいしか上がってなくて、制作スタッフと御徒町(凧)と3人で話し合ったんです。大平Pは「アカペラでもいいです」って言ってたものの、「さくら(アカペラ)」って“素揚げにもほどがあるよな”って(笑)。僕らは先入観を持たずに、曲の景色や旨味をシンプルに感じてもらいたいから、「「さくら」を知らない外国人にアレンジしてもらいたい」っていう話をしていて、「そんな知り合いいないな」と思ったときにポンッと世武裕子が浮かんだんです。

▲配信シングル「さくら(二〇一九)」

──世武さんとはもともと交流があったんですか?

森山:「人間の森」という曲をレコーディングしたときにアレンジャーの河野圭さんと「この曲のピアノは女性がいいね」って意見が一致して、僕自身、以前から注目していた世武裕子に弾いてもらったのがキッカケですね。それ以来、行動範囲が似ていたこともあって、みんなで遊んでいるうちに友達になって。性格もパカッとしているんですよね。

──パカッとしてるというのは、明るい性格ということですか?

森山:さっぱりしてるというか、白黒ハッキリしている人なんですよ。「人間の森」を演奏してもらったときも「実は森山さんの音楽、あまり聴いたことなかったんだけど」って前置きして歌唱法や歌詞の面で「こんな言い方、失礼かもしれないけど、邦楽もまだまだ捨てたものじゃないなって思えた」って。その言葉が自分の中に鮮烈に残っていたこともあって頼んだら「何それ、楽しそう」って言ってくれたんですよ。もっと言うと彼女はシンガーソングライターであり、劇伴作家でもあるんですよね。

──映画やドラマの音楽やCMソングも多く手がけていますよね。

森山:そう。それもあってお願いしたら、結果、世武裕子にしかできないアレンジになって、彼女を抜擢した自分を褒めてあげたいと思った(笑)。応えてくれた彼女と大平Pには感謝しかないですね。

──ピアノやストリングスを取り入れたアレンジが美しくドラマティックで桜が咲く景色を浮かび上がらせてくれます。直太朗さんの歌い方にも柔らかさを感じました。

森山:「さくら」って季節の流れの中でいろんな形が生まれた曲で、合唱、独唱もあれば弾き語りもポップスタイルもオーケストラスタイルもあって、すごく順応性の高い曲だって自負しているんですけど。今回の「さくら(二〇一九)」は物語の景色にどう交わって、いかに飛び超えていけるかがポイントだったんです。制作過程としては“彼女にどのヴァージョンを聴いてもらおうかな”と思っていたら、さっきのアカペラの話じゃないけど「じゃあ、アカペラでもらおうかな」って言われて、スタジオでドンカマも何も使わずに歌ったものを送ったら、あの旋律を乗っけてくれたんです。

──なるほど。サウンドに呼応した歌ではなく、順番は逆だったんですね。

森山:そう。今の素っ裸な「さくら」から構築できたのが良かったのかもしれない。

──そういった意味でも、まさに今の「さくら」ですね。

森山:彼女は「ドラマの登場人物たちに向かって、森山直太朗が歌っているようなイメージでアレンジした」って言ってて、「そうか。手紙みたいになってるんだ」と思って、最終的には完成したサウンドにまっすぐ反応してまっすぐ歌ったんです。だから、期限は限られていたけど、これだけ対話を積み重ねて時間を有効に使ってレコーディングできた作品も、なかったんじゃないかなって。

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