【インタビュー】川崎鷹也、人生を変えた魔法の音楽

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音楽の流行が生まれるツールとしての役割を確立したと言っても過言ではない動画配信サービス、TikTok。栃木県出身のシンガーソングライターの川崎鷹也も、同サービスをきっかけに注目を集めているアーティストのひとりだ。2018年に発表された楽曲「魔法の絨毯」を用いた動画が2020年8月に投稿されたことをきっかけに、TikTokのCMに起用されるだけでなく、定額配信サービスのチャートでも好成績を残し、「DAM CHANNEL」の12月度のピックアップアーティストに選ばれるなど、まさにシンデレラストーリーとも言うべき状況だ。だがそれは突発的なものではない。シンデレラが魔法使いと出会うまでにひたむきに日々の生活と向き合っていたように、彼も8年間手を抜くことなく音楽に取り組んできたからこそ、この吉報が舞い込んできたのだ。今回のインタビューでは彼の音楽との向き合い方や、彼の音楽に欠かせない大切な人の存在について、じっくりと話を聞いた。

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■数週間で人生が変わった

──8月に注目を集めてからというもの、川崎さんを取り巻く環境は大きく変わったのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

川崎鷹也:コロナ禍でありながらもいろんなところで歌わせていただく機会をいただけたり、こういう取材を受けさせていただいたり、いままで出会うことができなかった方々と出会うことができたというのがいちばん自分にとっての大きな変化ですね。「DAM CHANNEL」に出られたことも大きくて。僕、めっちゃカラオケ行くんですよ。

──高校時代もよく行かれていたと、他媒体のインタビューでもおっしゃっていましたね。

川崎:そうなんです。高校生だと特に、曲と曲の間に友達と話したりすることも楽しみだったりするじゃないですか。そのときに「DAM CHANNEL」って観るんですよね。そういうものに自分が出られることもうれしくて光栄でしたし、スタッフさんの笑顔も絶えない現場で、すごくリラックスして収録に臨めました。

──川崎さんの楽曲は、川崎さんの身体から出たものがそのまま歌になっているような印象があって。川崎さんの声や呼吸とすごく密接な関係にあると思うんです。だから川崎さんのラブソングを素敵に歌うにはどうしたらいいんだろうなと思っていて。

川崎:そうだなあ……(笑)。僕は自分が持っている感覚や、自分から出てくる言葉をそのまま歌詞にしているので、自分としては歌詞や曲を書いている感覚があんまりないんですよ。思ったことをただただ書いていたら曲になる、というか。だから歌うときに大事にすることと言えば、その歌詞の主人公になったつもりで、歌詞の登場人物に自分の大切な人を重ねて歌うと感情が乗るんじゃないかな。点数がいくかわかんないですけど(笑)。

──ははは。パッションを大事に、ということですね。

川崎:そうですね。SNSに「魔法の絨毯」のカバーをアップしている人たちもたくさんいらっしゃるんですけど、僕のメロディラインと違うアレンジをしていたり、違うコードで演奏している人もいて、“そういう歌い回しをするのか”とか“これいい! 次のライブでやってみよう!(笑)”と勉強になったりしますね。それぞれ歌う人によって、「魔法の絨毯」の色は違うんだなと。だからみなさんのカバーを聴くのは楽しいですね。

──素敵な言い回しですね。“歌う人によって「魔法の絨毯」の色は違う”って。歌詞みたい。

川崎:あははは。絶対に原稿で使ってください(笑)。



──「魔法の絨毯」は様々な人との出会いのきっかけになっているんですね。

川崎:今年の8月に、地元の友達や親だけでなく、普段連絡を取らない人からも連絡が来るようになって、初めてTikTokで話題になっていることを知ったんです。ちょうど自分としても一つひとつ前進しているなかで楽曲が注目されて──自分の曲は1曲1曲が子どもみたいなものなので、家族のうちのひとりが旅をしている間に出会った人を家にたくさん連れて帰ってきたような感覚かも(笑)。数週間で人生が変わったんです。バズった2週間後に仕事を辞めたので。

──えっ、お辞めになったのは知っていましたが、まさかそんなタイム感だったとは。

川崎:会社の上司ですら「魔法の絨毯」が話題になっていることを知っていたので、バズった1週間後に退職の意志を伝えたら、“まあそうなるよね”って感じで。だから僕、いま有給消化中なんです(笑)。

──(笑)。10月にリリースされた『Magic』は、「魔法の絨毯」が話題になる前からもともとリリースが決まっていたんですよね?

川崎:バンドアレンジのEPを作りたいなと思って、夏前くらいから制作に取り掛かっていました。漫画家の赤井千歳さんにお声を掛けていただいて、コラボレーションさせていただいた「エンドロール」も弾き語りで完成していたので、“これをバンドアレンジにしたらどうなるんだろう?”と思ってミックスしていって、バンドアレンジが合いそうな曲をピックアップしたのが『Magic』ですね。

──赤井先生然り、「魔法の絨毯」然り、今年は川崎さんのところに人が集まってくる星回りなのかもしれないですね。

川崎:そうかもしれない。子どもが生まれたのも今年の4月ですし。いろんな人と出会う機会が増えました。



──川崎さんの楽曲はとてもパーソナルなことを歌っているのが特徴だと思います。

川崎:曲は自分にとって大切な人に届けばいいと思っているので、たくさんの人に共感してもらおうと思ってはいなくて。その“大切な人への想い”という感覚がみんな一緒なんでしょうね。“歌詞がいい”や“共感する”と言ってもらえるのは、そう言ってくれる人たちがみんな素直な恋愛をしているからなのかな、と思います。

──そうですね。川崎さんの歌詞はとても率直な言葉で綴られているので。

川崎:専門学校に入ってからオリジナル曲を作り始めたんですけど、そのときは“お前の書く歌詞はストレートすぎる” “もっと抽象的に” “風景描写を入れたほうがいい”とよく言われてましたね(笑)。そういう書き方をしたほうがいい理由もわかるんですけど、それ以上に自分の気持ちや、心の奥にあるコアなところを楽曲にしたいと思っていたんです。“俺はこれ!”という気持ちで、それを続けてきましたね。

──時を経て「魔法の絨毯」に火がついたのも、そのポリシーを磨き続けてきたからなのだろうなと。

川崎:専門学校に入ったタイミングからステージに立ち始めて、最初3年はお客さんがゼロで、フロアに対バン相手しかいないということもザラで。なんなら「魔法の絨毯」の入っているアルバム『I believe in you』をリリースしたときもそれに近い状況でした。よく“音楽辞める”とか“バンド辞める”と言うじゃないですか。でも音楽って辞めるとかじゃない。やるかやらないかだと思うんですよ。

──そうですね。

川崎:ライブをやらなくなったら音楽を辞めたことになるのかというとそうじゃない。一生歌い続けていくんだろうなとは思っていたんですけど、“なんで広まらないんだろう。いい曲を作ってるんだけどな。どうやったら届くんだろう”という葛藤はあったし、やさぐれてました(笑)。でも声と歌力には自信があったんです。……綺麗ごとに聞こえるかもしれないんですけど、音楽をやっている人間が音楽を理解するなんて無理なんですよ。

──と言いますと?

川崎:音楽って古代から伝承されているコミュニケーションツールですよね。生まれて間もない現代人が、そんな長い歴史を持った音楽のことを隅々まで理解するなんて、めちゃくちゃおこがましい話だし、無理だと思うんです。だからこそ歌を歌うたびに“歌を歌える感謝や喜びを忘れちゃいけないな”と思うし、そういう気持ちを歌に込めて届けられている実感はあったんですよね。いい歌を歌うアーティストも、いい曲を書くアーティストもたくさんいるけど、自分にしか書けない歌詞、自分にしか出せないメロディラインをどう追求していくか……ですね。つねに自分との戦いです。


──そういう歌が歌えているのは、川崎さんがずっと“大切な人”に宛てて歌い続けていたのも理由のひとつかもしれませんね。

川崎:無理したり、背伸びしたり、かっこつけた歌詞は書こうと思えば書けるけど、長続きしないんですよ。飽き性だし、自分が意を決してなにかに取り組むことになったときに、自分のやりたいことや、“これだ!”と思ったことしかできない。好きで、長く続けたいことだからこそ、偽りなく自分のなかから素直な音や言葉を出していきたいんですよね。……とは言っても自分に自信はないんです。だから歌詞のなかにすぐ自己否定が出るし(笑)。

──(笑)。自分に足りないものを自覚なさっているから、同じ人に宛てて曲を書いていても、同じポリシーを貫いていても、違うものになっていくんだろうなと思います。

川崎:だと思います。聴いている人も、同じ曲を聴いても昔と感じ方が違うことってけっこうあると思うんですけど、僕も作った当初の「魔法の絨毯」といま歌う「魔法の絨毯」はニュアンスが違うし、考えていることも違うし、「魔法の絨毯」に対する僕の気持ちも違うし。それが音楽の楽しみ方のひとつだと思うんです。

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