【製品レビュー】Line 6、「Helix」が3.0に進化 機能やエフェクトを多数追加し使い勝手も向上した「Helix Floor」

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Line 6のフラッグシップ「Helix」シリーズのファームウェアが3.0に進化した。「Helix」は、モデリングによる著名なアンプやエフェクター、使い勝手のよいオリジナルのエフェクターなどを多数搭載するマルチプロセッサーで、音の良さはもちろん、2つのDSPを搭載する高機能タイプでありながら、わかりやすく使いやすいことで人気の製品だ。今回の3.0アップデートでは、新たなモデルが大量に追加されたほか、使い勝手をさらに向上させる機能も数多く搭載され、さらに魅力を増している。「Helix」シリーズにはラックマウントタイプの「Helix Rack」やコンパクトな「HX Stomp」などがあるが、今回BARKSでは同シリーズのフラッグシップ機である「Helix Floor」を試してみた。

■見た目にわかりやすく直感的に操作できる

「Helix Floor」を使ってみてまずわかるのが、視覚的にわかりやすく、直感的に操作できるようになっていることだ。大型のメインディスプレイや、各フットスイッチにあるディスプレイにはつねに必要な情報が表示されるし、フットスイッチにはさまざまな色に光るLEDリングがついていて、どの機能が割り当てられているかが一目でわかる。だから、今どこを操作すればよいのかわかりやすいのだ。


たとえばプリセットを選ぶなら、初期設定ではいつも左端の2つのフットスイッチに「BANK」と表示されているので、これを踏めばバンクを前後に送ることができ、ほかの8つのフットスイッチでプリセットを選択できる。一般的なマルチエフェクターと同様の操作方法だが、各フットスイッチにはプリセットの番号と名前も表示されるので迷わず選択できる。フットスイッチの挙動は複数のモードから選択が可能で、ここではプリセットを選んだあとに、各エフェクターのオン/オフをフットスイッチで行なうストンプモードに入るように設定しているのだが、このモードはさらに視覚的にわかりやすい。フットスイッチのLEDが、ディスプレイ上のアンプやエフェクトのアイコンと同じ色で光り、各スイッチのディスプレイにエフェクターの名前も表示される。だから、どのスイッチがどのエフェクトに割り当てられているかが一目瞭然だ。これなら演奏中にスイッチの踏み間違いをすることもないだろう。


▲ストンプモードでは、フットスイッチのLEDがディスプレイ上のエフェクターと同じ色で光るので、踏み間違いの心配がないなど、見た目にわかりやすい設計になっている。

■エディットもフットスイッチだけで操作可能

今度はプリセットをエディットしてみよう。これはディスプレイを見ながら簡単に行える。ディスプレイには、パスと呼ばれる信号経路がラインで示され、その上にエフェクターのアイコンが配置される。シンプルな表示だが、今どのエフェクターがどんな順序で並んでいるかが把握しやすい。そしてジョイスティックでパス上のエフェクターを選べば、ディスプレイにパラメータが表示され、そのすぐ下にあるつまみでエディットを行えるし、何もないところを選択すれば、リストから配置したいエフェクターを選んで追加できるという仕組みで、直感的に操作できる。


▲大型のディスプレイでは、パス(信号経路)を示すラインの上にエフェクターが配置される。デュアルDSP搭載で、パスを2つ使えるのも「Helix Floor」の強みだ。

ここで面白いのが、パス上のエフェクターの選択はフットスイッチでも行えること。フットスイッチにタッチセンサーが備えられているので、フットスイッチのアタマに指でちょっと触れるだけで、対応するエフェクターを選択できる。この方法なら、エフェクターのパラメータのエディットもかなり素早く行える。

さらに便利なのがペダル・エディット・モードだ。このモードでは、アンプやエフェクターを選んでエディットしたいパラメータを選び、その値を増減するまですべてをフットスイッチで行なうことができる。しゃがんでつまみを操作する必要もなければ、ギターから手を放す必要もない。ライブが始まってから、もう少しリバーブを深くしたい、もっと歪ませたい、などと思っても普通はすぐにはできないが、この機能を使えばその場で立ったまま、演奏中でも簡単に調整することができる。ギタリストが実際にどう使うかをよく考慮した設計になっているわけだ。


▲ペダル・エディット・モードでは、、パラメータや値の増減がフットスイッチに割り当てられるので、足だけでエフェクターの設定変更が可能になる。

音の印象についても少し触れておこう。ここまで使ってみて感じたのが、音の良さだ。その大きな理由は、デジタル機器であることを忘れるほどリアルな独自のHXモデリングであろう。特にチューブアンプの音には厚みとパワーがあり、気持ちよくギターを弾ける。ヘッドホンやライン出力でも音やせが感じられないので、自宅でもスタジオでもライブでも、環境を問わずいつでも気に入った音を鳴らせるのはありがたい。

では、ここから3.0の新機能について見ていこう。

■プリセット切り替え時のスピルオーバーほか、新機能が追加

バージョン3.0の数ある新機能のうちもっとも印象が強いのは、「トゥルー・プリセット・スピルオーバー」だろう。これで、プリセットを切り替えるときのスピルオーバーが可能になった。簡単に言うと、エフェクトをオフにした場合に、その瞬間にエフェクト音がオフになってしまうのではなく、オフにする前に弾いていた音にかかっていたエフェクト音を残してくれるのがスピルオーバーだ。これまでの「Helix」でも、スナップショットと呼ばれるモードでスピルオーバーが可能だった。ただしスナップショットは1つのプリセットの中のエフェクターのオン/オフやパラメータ設定を8パターンまで記憶して切り替える機能なので、同じプリセットでしか使えない。しかし今回のバージョンアップでは、まったく別のエフェクターを使うプリセットに切り替えたときでも、スピルオーバーを有効にできるようになっている。

実際に使ってみると、その効果は絶大だ。もっともよくわかるのがやはりリバーブやディレイなどの残響系。スピルオーバーを有効にしておけば、プリセットを切り替える前に弾いていた音が不自然に途切れることなく、切り替え後にも響いているので、音色の切り替わりがとてもスムーズだ。ただし、この機能は「Helix Floor」が搭載する2つのDSPのうちの1つを、設定によりスピルオーバー用に振り分けることで実現している。そのため、通常は2系統使えるパス(信号経路)が1つしか使えなくなることに注意が必要だが、パス1つでも十分に多彩なエフェクトを組むことができる。特に曲中でプリセットを切り替えることがある場合や、残響系エフェクトを多用するギタリストは、この機能を有効にしておきたいところだろう。


▲写真左:オフにする前に弾いていた音にかかっていたエフェクト音を残してくれる「トゥルー・プリセット・スピルオーバー」機能。
写真右:アンプやエフェクターを自分好みに調整してFavoritesフォルダーに保存できる「フェイバリット」機能。

このほかにも、3.0では新機能が多数追加されている。たとえば「フェイバリット」機能。これはアンプやエフェクターを自分好みに調整してFavoritesフォルダーに保存できるもの。次から同じエフェクターを使うのに、大量のエフェクターのリストから探す手間を省いてくれるし、すでに好みのセッティングになっているので、そこからのエディットも簡単になる。また、好みの設定に変更したエフェクターをそのエフェクターの初期状態として登録する「ユーザー・モデル・デフォルト」や、パラメータの最小値と最大値を表示する「Min/Maxインジケータ」などが追加され、全体的な使い勝手がさらに向上している。


▲設定を変更したエフェクターを初期状態として登録する「ユーザー・モデル・デフォルト」機能。

■アンプ、エフェクターの追加

今回追加されたアンプは3種類。モデルはフェンダーの「プリンストンリバーブ」をベースにしたモデルと、Diezelの「VH4」をモデルにした2タイプだ。プリンストンリバーブはコンパクトなチューブアンプで、現在でも人気の高い機種。抜けが良く低域も豊かに鳴るクリーンサウンドも魅力だが、軽く歪ませたクランチサウンドも心地よい。ディストーション系のエフェクトとの相性もよさそうだ。プリンストンリバーブについては、スピーカーキャビネットも追加された。10インチのタイプと、アルニコブルー・ドライバー搭載の12インチのタイプだ。一方のVH4で追加されたのは、独立4チャンネルのうちのメガチャンネルとリードチャンネルだ。メガチャンネルは突き抜けてくるような中高域が特徴的な音で、歪みは粗く、ワイルドなサウンドだ。リードチャンネルは、さらにハイゲインで低域も強く、パワフルなメタルサウンドにぴったりだ。


エフェクターは数多く追加されている。特に多いのがドライブ系で、BOSSのディストーション「HM-2」をベースにしたモデルや、エレクトロ・ハーモニックスの「Ram's Head」と呼ばれるBig Muff Piをベースにしたモデル、Jordanの「Boss Tone fuzz」をベースにしたモデルなど、今でも人気の高い有名な製品をモデルにしたディストーションが6機。実際にいくつか試してみると、どれも特徴あるサウンドがリアルに再現されていた。「HM-2」はきめ細かく歪んで音がよく伸びるパワフルなサウンドだし、「Ram's Head Big Muff Pi」は図太く荒々しい歪みが得られた。


新規追加されたオリジナルのエフェクターでは、Poly Sustainが面白い。単音やコードを弾いた状態でフットスイッチでオンにすると、次にフットスイッチでオフにするまでその音がずっと鳴り続けるので、その音に乗せてどんどん演奏を重ねていける。鳴り続けるエフェクト音は音程を変えたり、モジュレーションで揺らすこともできるので、ソロのときなどに使うと面白いだろう。また、複雑なコード移動に対応するピッチシフトのPoly Pitchは、オンにしたときに音程が変わるまでの時間が設定できるので、遅くしておけばニューッという感じで連続して音程が変わって不思議なサウンドになるほか、音程をシフトしたときに音が不自然になるのを防ぐAuto EQも使えるなど、細かい設定が可能になっている。


▲フットスイッチでオフにするまでその音がずっと鳴り続けるPoly Sustain。

Shuffling Looperという新しいルーパーも搭載された。これは単なるルーパーではなく、弾いたフレーズをスライスして並べ替えて再生することができる。しかもスライスして分割されたフレーズを自動的に変化させられるのが面白い。弾いたフレーズの一部がオクターブを変えて再生されたり、リバースで逆再生されたりするので、思いもよらない不思議なフレーズが飛び出してくる。ソロのときだけでなく、新たなフレーズのヒントを得るためにも使えそうだ。

このほかに、3.0にはアーティストが作成したプリセットも40以上含まれている。たとえばカナダのスラッシュバンド、アナイアレイターのジェフ・ウォーターズの作った「WATERS IN HELL」は、Peaveyの5150を使った歯切れのいいクランチサウンドだが、ルーパーが組み込まれているのがユニークだ。またYESのスティーヴ・ハウのプリセット「HOWE WILDEST」では、フェンダーのツインリバーブのノーマルチャンネルを使用。アンプの後にリバーブを置き、その後ろにピッチシフターで低音を足し、トレモロのようなモジュレーション、さらにディレイはショートと超ショートの2つを使うことで、あのクセのあるアタックや広がりのある音を作っている。そのまま使うのが難しいような、個性的な音のプリセットも多いが、もちろんエディットしてオリジナルのプリセットを作ることができるし、プリセットの中身を見るだけでも音作りの参考になるだろう。


▲アーティストの作成したプリセットもたくさん含まれている。写真はYESのスティーヴ・ハウが作ったプリセット「HOWE WILDEST」。

■レコーディングにも対応する豊富な入出力など、便利な機能満載

最後に、そのほかの便利な機能についても少しふれておこう。「Helix Floor」は、PCとUSB接続してオーディオインターフェイスとして使うことができる。つまりDAWソフトでの自宅録音も簡単に行なえるわけだ。また、USB接続したPCからは、「HX Edit」という専用ソフトを使って、プリセットやエフェクターのエディットも行える。


▲「HX Edit」というソフトで、PCから「Helix」の各種設定を行なえる。本体ディスプレイと同じ表示でわかりやすい。

また、入出力を豊富に備えているので、本格的なレコーディングにも対応する。たとえば出力は、標準フォーンのほかにバランス出力が可能なXLR端子も備えているので、ミキサーなどに接続することができる。外部エフェクター用のセンド/リターンは4系統で、お気に入りのエフェクターを接続できるだけでなく、キーボードやドラムマシンの入力用としても使える。さらにマイク入力もあるし、マイクモデリングも搭載するので、ボーカルのレコーディングだって行える。


自宅録音からスタジオ、ライブまでさまざまなところで便利に使えるのが「Helix Floor」の魅力だ。もちろん高機能で使いやすく、音もいいから、プロを含めた多くのギタリストに支持されるのだろう。マルチプロセッサーを導入したいなら、まず第一候補に挙げたくなる製品だ。

製品情報

Helix Floor
・パワフルなデュアルDSPパワーによるHXモデリング・エンジン
・800x480ピクセル6.2インチの大型LCDディスプレイ
・300以上のアンプ、キャビネット、マイク、エフェクト
・キャパシティブセンシティブ・フットスイッチ ― タッチで選択、ホールドでアサイン、押して確定
・最大3×エクスプレッション・ペダル、CV/Expressionアウト、外部アンプ切替え、高度なMIDIコントロール
・サイズ:56.0×30.0×9.1cm
・重量:約6.7kg

Helix 3.0 ファームウェア情報

●新しいアンプ
US Princess, Fender® Princeton Reverbがベース
Das Benzin Lead, Diezel VH4のLeadチャンネルがベース
Das Benzin Mega, Diezel VH4の Mega チャンネルがベース
●新しいキャビネット
1x10 US Princess, Fender® Princeton Reverbキャビネットがベース
1x12 US Princess, 12” アルニコブルー・ドライバー搭載のFender® Princeton Reverbがベース
●新しいエフェクト
Distortion > Horizon Drive (Mono, Stereo), Horizon Devices Precision Driveがベース
Distortion > Swedish Chainsaw (Mono, Stereo), BOSS® HM-2 Heavy Metal Distortionがベース (Made in Japan ブラックラベル)
Distortion > Pocket Fuzz (Mono, Stereo), Jordan Boss Tone fuzzにインスパイア
Distortion > Bighorn Fuzz (Mono, Stereo), 1973年製 Electro-Harmonix® Ram's Head Big Muff Piがベース
Distortion > Ballistic Fuzz (Mono, Stereo), Euthymia ICBM fuzzがベース
Dynamics > Horizon Gate (Mono, Stereo), Horizon Devices Precision Driveのゲート回路がベース
EQ > Acoustic Sim (Mono, Stereo), BOSS® AC-2 Acoustic Simulatorがベース
Modulation > Poly Detune (Mono), Line 6 オリジナル
Delay > Poly Sustain (Mono), Line 6 Original
Delay > Glitch Delay (Mono, Stereo), Line 6 Original
Pitch/Synth > Poly Pitch (Mono), Line 6 オリジナル
Pitch/Synth > Poly Wham (Mono), Line 6 オリジナル
Pitch/Synth > Poly Capo (Mono), Line 6 オリジナル
Pitch/Synth > 12 String (Mono), Line 6 オリジナル
Volume/Pan > Stereo Imager (Stereo), Line 6 オリジナル
Looper > Shuffling Looper (Mono, Stereo), Line 6 オリジナル
●新しい機能・トゥルー・プリセット・スピルオーバー(True Preset Spillover)
Helix Floor, Helix Rack/Control, Helix LT, Helix Native のみ
・フェイバリット(Favorites)
・ユーザー・モデル・デフォルト(User Model Defaults)
・オート・インピーダンス設定(Global Settings > Preferences > Auto Impedance)
・Min/Max値インジケータ(Min/Max Value Indicators)
・HX Stompの8ブロック対応
・HX Stompのコマンド・センター対応
・Helix Nativeにチューナーを搭載
・Helix Nativeにゲイン・リダクション・メーターを搭載
・アーティスト・プリセット
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