【インタビュー】旅するシンガーソングライター大柴広己は、旅が許されないこの時代に何を語り掛ける?

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“旅するシンガーソングライター”は、旅を許されないこの時代に、何を語り掛けてくれるのだろう? 大柴広己、およそ2年半ぶりのニューアルバムが5月26日にリリースされる。タイトルは『光失えどその先へ』。

◆大柴広己 画像 / 動画

メンバーはドラムとベースを加えた3人のみ、プライベートスタジオで録音された11曲は、コロナ禍に生きる心の闇と光を赤裸々にぶつける「エビデンスステイホームレガシー2020~2021」と「光失えどその先へ」から、“後悔するな、進め”と高らかに歌い上げる「LIFE GOES ON」まで、シンプルでダイナミックなバンドサウンドと、「光失った」現在から「その先へ」向かう、示唆に富む歌詞がずらりと並ぶ。ここにひとつだけの答えはない。だが、生きるヒントはたくさんある。

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■タイトルはLOSTの先のLIGHTという意味
■全部宅録で、録音エンジニアは全部俺

──大柴さんの最近のトピックと言えば、作詞を担当した丘みどりさんの「明日へのメロディ」が見事オリコンデイリーチャート1位になりました。

大柴:よかったですね。これは3年前にDa-iCEの「FAKE SHOW」を作詞をさせていただいた時と同じで。コモリタミノルさんが作曲されていて、僕に声がかかって、「エッジの効いた歌詞を書いてほしい」という流れです。Da-iCEの時もそうですけど、僕はいつも“じゃないほう”で呼ばれるんですよ(笑)。というのも、丘さんが演歌から歌謡曲にアプローチするタイミングで、なかなか光が見えない世の中の状況があって、“人はどうやって生きていくのか?”ということを思った時に、ふわっとした曲よりもざっくりした曲のほうが刺さると思ったし、それを俺に求められているんだと思って、そういう歌詞を書きました。

──大柴さんらしい歌詞です。たぶん、自分で歌っても違和感がない。

大柴:そうなんです。常に自分が歌うことを想定して書いているし、仮歌も歌っているので、そこで歌詞の語感がうまくハマらないとか、そういうものは人にも提供したくはないので。丘さん、今までオリコン1位を取ったことがなかったんですけど、初めて1位を取ったので、事務所の人も喜んでくれたし、とにかく“じゃないほう”で売れなかったら責任問題じゃないですか(笑)。それだけは避けたかったので、よかったです。

▲2ndフルアルバム『光失えどその先へ』

──そして、“旅するシンガーソングライター:大柴広己”が、この1年どうしていたんだろう?ということなんですけども。

大柴:アルバムタイトルが『光失えどその先へ』ですけど、“旅を失えどその先へ”という感じでしたね。

──この1年、ライブは何本やりました?

大柴:ゼロです。前年の150本からゼロ。この10年間で言うと、1500本からゼロ(笑)。ただ、やっていてよかったなと思うのは、ひとつのことだけではメシが食えなかった人間なんで、いろんなことをやっていて。たとえばCMソングを作ったり、楽曲提供をしたり、ボカロもやって、演歌もやって。2月にクリプトン・フィーチャーの<SNOW MIKU 2021>というイベントに出たんですけど、たぶん世界中探しても、ボカロの仕事と演歌歌手の仕事を同時にやってる人間はどこにもいないと思う(笑)。振り幅、さらに広がりましたから。ヤバイっすよ。

──確かに(笑)。

大柴:そういう意味では、ひとつがダメになってもほかのものが伸びてきて、なんとか大丈夫と言うか、精神衛生上よかったかなとは思います。この1年間で、今までやらなかった映像の仕事をやるようになったんですよ。やる以上はプロのクオリティを求められるまでに行かないとダメだと思って、かなり大きな初期投資をして、機材を揃えてスタートしました。今後はミュージシャンにとって、映像制作ができることはマストだと思ったので、それで自分の作品を作ったり、ロックバンドのミュージックビデオを作ったりしましたね。大阪にイヌガヨといういいバンドがいて、そのミュージックビデオを録って編集したりしてました。


──今や、ヒット曲は映像から生まれますからね。

大柴:ただ、そこで大事になってくるのは、カッコ悪い見え方をしてはいけないということ。今売れているものに寄せていくことで、自分の立ち位置に見えないことをやろうという気持ちはなくなりました。たとえば、サムネイルにでかい文字を付けたほうがわかりやすくて再生回数が伸びるとか。そういうところに合わせにいくと下品になっちゃう。大事なのは“品”だと思います。2021年以降は品が大事、下品なものはダメ。

──同感ですね。

大柴:下品なものはわかりやすいし、インパクトはあるけど、それを15年前の大柴広己がやったとして、15年後の大柴広己が見たら絶対に“いい”とは言わないと思う。人間は、売れてるからいい/売れてないからダメ、とかじゃなくて、“さまになっている”ことが大事だと思うんですよ。さまになる大人になっていきたいなと思います。そこに需要を見出して、世間とコミットすればいいんじゃないかな?と思います。

──大事な話ですね。

大柴:今の世の中の人は、全員考えていると思いますよ。生き方の変更を余儀なくされているわけだから。コロナの影響で、すべての人が賢くなっているという気がします。“考えなくてもいい”から“考えないといけない”になったから、これからどんどん変わっていくと思います。

──今言われたことは、ニューアルバムの歌詞にも表現されていると思います。およそ2年半ぶり、『光失えどその先へ』は、どんなアルバムですか。

大柴:前回インタビューしていただいた時に、次のアルバムが『光失えどその先へ』というタイトルになることは決まっていたんです。

──そんなに前から? じゃあコロナは関係ない?

大柴:関係ないんです。前回のインタビューでお話した、2014年のアルバム『それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ。』のテーマが“LOVE”で、その次のアルバム『Mr.LIFE』のテーマが“LIFE”、その次は“LIVE”だなと思って、LOVE、LIFE、LIVEが繋がって、前作の『人間関係』の1曲目「LLL」(スリーエル)ができた。それが結局、人間関係を良くするストーリーだと思ったんですけど、でも、その人間関係はいつか絶対なくなると思っていたんです。楽しい時間は絶対に終わる。でも終わるから尊い。人間の致死率は100%。そこに対して目をそむけちゃダメだと思ったし、そこに向き合おうと思って、次のテーマを“LOST”にしてアルバムを作ろうと思って、『光失えどその先へ』というタイトルを考えた。それは、“LOST”の先の“LIGHT”という意味なんです。

──おお。また“L”が出ました。

大柴:そう。そこで光を求めるために、今はすごく重苦しい世の中ですけど、その気持ちを軽くしたいなと思ったから、ダブルミーニングで“軽くする”という“LIGHT”の意味もある。だから今回は音もすごく軽やかになっているし、ミックスエンジニアといっぱいやりとりをして、「もっと軽く、もっと軽く」って、めちゃくちゃやりとりしました。しかも今回は全部宅録で、録音エンジニアは全部俺がやってるんですよ。今までは普通のスタジオで録っていて、いろんなスタッフがいたんですけど、今回はプライベートスタジオで、メンバー3人だけで、マネージャーすら参加していない。出来上がったあとで「このアルバム、誰が録ったんですか?」と聞かれて、「俺だよ」「えっ!?」みたいな(笑)。

──あはは。まさかの。

大柴:「エンジニアできるんですか?」って言われたけど、「できる!」って。それはもともと、20年前の俺が普段やっていたことなんですよ。日本中をびっくりさせようと思って、高校生の時から宅録をやっていたから。ただプロになると、周りにやってくれる人がいるから、その人たちに投げていたんです。でも今回は、3人だけで4日間で作ったアルバムです。

──それはすごい。

大柴:1曲目「エビデンスステイホームレガシー2020~2021」と、2曲目「光失えどその先へ」の2曲は、最初はなかったんですよ。でもアルバムというのはパズルみたいなもので、サウンド面で“こんな音がほしい”というものがあったから、1、2曲目に関しては最初に音を録っちゃって、あとから歌詞とメロディを乗せていった。頭の中に曲が鳴ってるのは俺だけだから、ドラマーも叩きながら首をかしげてたけど(笑)。そのオケを持ち帰って、「明日までに作ってくるから」って、そんな感じです。

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