【インタビュー】令和に異彩を放つ“きばやし”「死なないでいてくれたら、また私の曲でなんとかしてやる」

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■ お湯が吹きこぼれていようが気づかないレベルまで熱中して曲を書くタイプ

──具体的に影響を受けたアーティストはいらっしゃるんですか?

きばやし:よく車の中で聴いていたのは、美空ひばりさん、天童よしみさん、杉本真人さんですね。

──それはご両親からの影響ですか?

きばやし:この方達はおばあちゃんの影響です。親からの影響は全く別のジャンルで、倖田來未さんとか聴いてたんですよ。だから割と小さい頃からジャンルレスというか。はじめておもちゃのピアノで弾いたのも『渡る世間は鬼ばかり』のテーマ曲でしたからね(笑)。今も、「この曲すごい好み!」というよりは「この曲いいなぁ、あの曲いいなぁ」って浮気性になるタイプなので、一人すごく憧れの人がいるわけではないんですよね。とは言え、やってると自分の好みも出てきて、最近は石崎ひゅーいさんとかすごい好きで。素朴な感じが好きです。銀杏BOYZとかも好きですし。男の子になったらこういうのやりたいなっていう曲を最近は聴いてるかもしれないですね。

──昭和のフォークのような世界観を貫いてるイメージがあったので意外です。

きばやし:もちろん好きですし、最近の曲よりそういう音楽のほうが詳しいんですけど、それは肌に合うからかもしれません。私の声にも合ってるから気持ちもいいので、必然的に詳しくなったんですけど、好みは偏ってはいないですね。





──昭和の曲と最近の曲、歌われていて何か違いはありますか?

きばやし:時間の流れ方が違うと思います。昭和がスローだったというわけではないんですけど、今の人はきっと忙しいんですよ。だからアップテンポになったり、言葉が詰まっていたり、逆に曲が短かったり、前奏や間奏をじっくり聴く曲が少ないんですけど、昔の人にとっては音楽が娯楽として独立していたというか、「音楽を聴くぞ」って聴く時間がまだあったと思うんです。今の人は、別に悪いことではないですけど、絶え間なく何かしてるので何かをやりながら音楽を聴くことが多いと思います。

──サブスクとかで音楽にすぐアクセスしやすい環境にありますし、リリースのペースも早くて作品数も多いですよね。

きばやし:でも今はそういう時代なわけですし、それが嫌だなとも思わないです。そこにうまく順応できたらと思うんですけど、まだちょっと昭和寄りにいますね(笑)。

──だからこそ、きばやしさんの音楽はすごく輝いてると思います。ここからは、2nd EP『うつしよ』についてもお話聞かせてください。1曲目の「エデン」はドラマ『アカイリンゴ』の主題歌で、人間の欲望みたいなものがテーマの割と過激な内容のドラマでしたが、どのように生まれた曲ですか?

▲EP『うつしよ』ジャケット

きばやし:去年の12月の企画ライブの終演後に片付けをしていたら、私のスタッフにこのドラマ主題歌の書き下ろしを提案してもらったんですけど、締め切りが二日後とかだったんです(笑)。「きばやしならできるよね?」って言われたので、「できます!」って即答して。私、すぐ曲が書ける練習をしてたんですよ。いつか役に立つ日が来るだろうと思ってたので、来た!って思って、二日と言わず翌日あげました。ライブの帰り道から『アカイリンゴ』を読み始めて、夜中にあらかたのメロディラインまで作って翌朝録りました。

──早い!

きばやし:衝動に身を任せるのが得意なんです(笑)。

スタッフ:しかも、直しナシでした。

──素晴らしい。ドラマのテーマを理解して汲みながら、きばやしとしての作品を作るってかなり大変な作業だと思うんですけど。

きばやし:もう興奮状態にあったというか。お湯が吹きこぼれていようが気づかないレベルまで行っちゃう時もあるんですけど、熱中して曲を書くタイプですね。


──2曲目の「知らないおっちゃん」もすごく好きな曲なんですけど、このおっちゃんは実在するんですか?

きばやし:広い意味では実在します。私は路上でお酒を飲んだり、呑みながら歩くのが好きで、気分がいい時は私から話しかけちゃう時があるんですけど(笑)、そういう時に普通のおっちゃんに話しかけるのが好きなんです。若い子だとエネルギーが有り余ってるから何かしゃべっても棘で返ってくることがあるので楽しくお酒が飲めないんですけど、おじさんと話すと穏やかで楽しい時間が流れるんですよ。「僕はしょうもない人生を歩いてきたんだよ…」とかってどれだけ言われても、やっぱり人生経験があるからこっちも言葉を素直に聴くことができるし、おじさんはたまに名言級にいいことも言ってくれるしすごく素敵な時間なので曲にできたらなってずっと思ってたんです。でも今のところまだ、私にとってはすごく名言なんだけど、みんなに伝わるかな?っていう内容の話だけなので、今回は私の気持ちや考えをおっちゃんに言わせよう、と思っておっちゃんという存在を借りました(笑)。歌をやってる理由のひとつにもなっているんですけど、鋭い言葉、輪郭のはっきりした言葉ってそのまま言っても聞いてもらえないけど、歌だったら人が聞いてくれますしね。


──なるほど。イントロの優しい響きも魅力です。

きばやし:いいですよね。アレンジャーのヤマサキさん(ヤマサキテツヤ)が考えてくださったんですけど、教会音楽みたいで神聖な感じがしますよね。それも相まって面白い感じの曲になったと思います。

──きばやしさんならではの声の強さも届く曲です。今回カバーした「プカプカ」(オリジナルは西岡恭蔵)は、どのように出会ったんですか?

きばやし: Spotifyでいろんな人が作ったプレイリストをよく聴くんですけど、昭和の曲が割と好きなのでそういう曲を聴いてると、どんどん時代を遡っていくんですよ、50年代くらいまで(笑)。それでURC(アングラ・レコード・クラブ)の感じにハマった時に、「プカプカ」が流れてきて「なにこれー!めっちゃいい!」ってなって。古くて素敵というよりも、今でもイケるくらいオシャレだなって感じました。その時に聴いた音源は、言い回しとかアレンジも逆に斬新で、「これ歌いたい!」って思いました。

──「スタスタ」の歌い方がめっちゃ上手です。

きばやし:ありがたいです(笑)。音として面白いですよね。普通の歌を聴いていたら入ってこないような音、ちょっとスキャットに近い感じありますよね。

──すごく新鮮に聞こえますよね。


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