Pistolsドキュメンタリー映画に見る“真の反逆”の示すもの

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『NO FUTURE A Sex Pistols Film』
2000年10月下旬 シネセゾン渋谷他にて公開
(C)FilmFour Ltd. MCMXCIX.
配給:クロックワークス
Pistolsドキュメンタリー映画に見る
“真の反逆”の示すもの


劇場予告PVはこちらから




『ORIGINAL SOUNDTRACK NO FUTURE A Sex Pistols Film』
10.18発売 3,670
発売:東芝EMI

西暦2000年の現在、もはやパンクロックというのはロックという広い音楽の中のひとつの「ジャンル」として確立している観がある。しかし、この音楽の成立過程の事について知っていたり知識としてある人は、現在のそうしたパンクの解釈に対してムキになって異を唱えようともするものだ。

「パンクとは単なる音楽じゃない。生き方としての姿勢そのものだ」と。

そうしたことを改めて教えてくれる映像の記録がここに登場!

まさにその「パンク」を世に知らしめた伝説のバンド、セックス・ピストルズの結成前夜から解散までを描いた映画がこの「NO FUTURE」。

監督は、セックス・ピストルズがデビューを飾る前からの知り合いで彼らを撮り続け(ピストルズの短編映画「グレイト・ロックンロール・スウィンドル」も彼の作品)、'80年代に入ってMTVのビデオ・クリップや映画「アブソリュート・ビギナーズ」などでも知られる音楽映像作家、ジュリアン・テンプル。

映画は、ピストルズの誕生を促す'70年代初頭のロンドンの時代背景からはじまる。当時、かつての大英帝国の隆盛が嘘のように不況でさびれた灰色の街。若者たちは職もなく退屈でブラブラした毎日を余儀なくされる。キッズたちのフラストレーションのはけ口になっていたはずのロックも、まるでオーケストラの演奏者でもあるかのようにキッズの気持ちとは無縁な大層ご立派な小難しい高尚な音楽か、TVでニコニコと笑いをふりまく人畜無害なものになり刺激がない。「何か刺激欲しいよなあ~」、そう思っていた街の不良少年たちが、レザー中心のSMファッション・ブティックにたむろすることから全てがはじまった。

少年たちの名前はスティーヴ・ジョーンズ、グレン・マトロック、ポール・クック、そしてジョニー・ロットン、店の店主はマルコム・マクラーレン。この時から、この「セックス・ピストルズ」と呼ばれることとなる若者たちと、「悪徳マネージャー」と呼ばれることとなる2年あまりの奇妙な冒険がはじまることとなる……。

ストーリーは、マルコムとセックス・ピストルズのメンバー4人による回想を多く交えて進んでいく。

当時の街の風景、メンバーの少年時代の写真、今ではもうあまり保存されていないような70年代初頭の人気ロッカーの貴重な演奏シーン、そしてときどき象徴的にファニーに描き出されるシェイクスピア作の「リチャード3世」の中の抜粋シーン。こうした滅多にお目にかかれないような希少価値なカットと、かなり具体的な当時のバンド内の様子を語った証言とで話は進められていく。

そしていつしか若者たちのファッションが替わり、行く先々のライヴで暴動が起こり、TVショーに出演するや放送禁止用語を連発し世間に大きな波紋を投げかけ、2度にわたるレコード会社との契約の破棄、エリザベス女王のことを批判した曲「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」の衝撃的な披露パーティ、そして熱心なピストルズの親衛隊員の不良少年、シド・ヴィシャスのメンバーとしての加入。

当時の政治家たちのピストルズ・バッシング、シド・ヴィシャス生前の映像と肉声など、これまた貴重な映像が多し。

度重なるライヴのキャンセル、その間に起こるシド・ヴィシャスとナンシー・スパンゲンとの出会いとそこから始まるシドのドラッグ中毒、散々だったアメリカ・ツアー、ジョニー・ロットンのマルコム・マクラーレンとの確執、アメリカ・ツアー終了直後の突如の解散、そしてシド・ヴィシャスのドラッグ死。

もはや伝説と化した話のオン・パレードだが、こここそこの映画の最大の見所。当時、ピストルズがどのようにして仲間割れをしていったかがかなり克明に語られ、後に映画「シド&ナンシー」などを通してパンクのヒーローにもなったシド・ヴィシャスのドラッグ中毒に対してのジョニーがあからさまに怒りを露わにしていること。

これらはこれまで特に明らかにされていないことだった。

特に、こと「危険な存在」としてのイメージが先行していたピストルズが本来アンチ・ドラッグ主義者であったことには新鮮に驚かされた。その一方でシドを語る際に泣きそうな表情を浮かべるジョニーの熱い優しさも胸を打つ。

こうして、大きく美化されることなく、本来ありのままにやんちゃだった少年たちがジョーク混じりに世を席巻する様がいかんなく描かれている。

ここから感じ取れるのは「反逆」というのもそうなのかもしれないが、それよりも僕には「たとえ人間が出来てなくても、世の中がつまらないと感じたのなら、何か自分で工夫してやってみろ」というような「やれば出来るの精神」のような気がしている。そして、こうした騒動の最中の愛憎劇、これも人間ドラマとして充分に堪能できる。

ロック史上の事実確認ではなく、生々しい人生の縮図がここには記されている。

文●沢田太陽(00/09/29)

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