今明かされるジェスロ・タルの秘密

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今明かされるジェスロ・タルの秘密

伝説のクラシックロックバンドJethro Tullは'60年代後半のブリティッシュブルース全盛時に結成され、それ以来50作近いアルバムやコンピレーション、ボックスセットなどをリリースしてきた。

彼らは批評家からの絶賛を常に享受してきたわけではないが、熱烈なファン層に支えられ続け、最新作『J-Tull Dot Com』のリリースをもって4つめのディケイドに突入したのである。

Tullのフロントマンでフルート奏者である生粋のスコットランド人Ian Andersonは、このほどLAUNCHのDave DiMartinoのインタヴューに応え、『Nightcap:The Unreleased Masters 1973-1991』と彼の最新ソロアルバム『The Secret Language Of Birds』について語ってくれた。

LAUNCH:ソロワークとJethro Tullの音楽はどう違うのでしょうか?

Jethro Tullプロモビデオ
「Lap Of Luxury」
Jethro Tullプロモビデオ
Steel Monkey
IAN ANDERSON:
私は曲を作るときにバンドの他のメンバーのことを考えて書くんだ。メロディやコード進行を思い付いたときに、ここでドラマーはどんなふうに演奏するだろう、ギタリストはどうだろうと考えるのさ。他のミュージシャンのスタイルや関心を念頭に音楽を作るよう心掛けている。彼らに挑戦し、彼らを熱中させ、参加しているという意識を与えるようにね。だけど私自身がすべての楽器を演奏するソロ作品だったら、音楽はもっと有機体のように成長し、それ自身が自然に望むような形になっていくのさ。私の音楽のもっと利己的で個人的かつ繊細な側面はIan Andersonのソロプロジェクトに収録されている。それは'70年代に初期のJethro Tullでやっていたようなことだ。メンバーが遅刻したりディナーに出かけたりしたときに、ちょっとしたアコースティックナンバーを忍び込ませたりしたものだよ。私が放り込んだアコースティックな小品は、Jethro Tullの歴史の一部になっている。だが、この要素が最近の20年間には欠けているのは、私が他のミュージシャンにもっと気を配るようになって、いつでもほとんどの作品にバンドの全メンバーを起用するようになったからだ。だから、自分自身のソロアルバムを作る必要が出てきたわけだよ。

LAUNCH:音楽を作るときの法則のようなものはありますか? それとも思い付くままに作って結果を見るのでしょうか?

ANDERSON:
音楽を作るのにはいくつかの違ったやり方がある。「この歌をC#マイナーのキーでピアノ向けに作ろう」なんて入念に考える人もいるだろう。私の場合は楽器を手にしたときに何か思い付くのさ。楽器のサウンドと人間工学的な特性によって、音楽の出だしが規定されるということだ。それに私は何種類もの楽器を演奏するから、それがハンデにもなっている。ギターやマンドリンにフルートもプレイするから、2曲続けて同じ出発点から曲を書く必要もない。つまり手にする楽器によって曲ごとにサウンドが変化するのさ。曲の作り方には5~6種類あると思う。例えば最初に歌詞、そしてタイトル、それからメロディとコード進行と行った具合だ。私にもいくつかの方法があるが、まるで音楽の天地創造の現場に立ち会うような感じの時もある。すべての音楽を美しいピアノの前にすわって作り、ひとつのジャンルに留まる人たちのメリットもわかるが、私はもっと気まぐれな質なんだ。マンドリンやらバズーカやら何でも使って、ひとつの曲が前の曲とは違ったサウンドになるように心掛けている。

LAUNCH:『The Secret Language Of Birds』は初めてのソロアルバムですか? それとも前に他の作品をリリースされていますか?

ANDERSON:
'83年にソロアルバムを出しているけど、これは当時の音楽制作で最新テクノロジーだったシーケンサー、サンプリング、コンピュータ制御のデジタル音楽といったものに挑戦しようと試みたものだった。これらの技術は'82~'83年頃にはピカピカの最先端で、機材類が本当の意味で入手できて使える状態になった時代だった。私はこれをJethro Tullの枠組みの外側で挑戦しようと思った。なぜならJethro Tullはアート/フォーク/ブルース/クラシック的なロックバンドで、電子的あるいは現代的な実験音楽のバンドではなかったからだ。それから私は'95年に2枚目のソロアルバムを作ったが、これはフルートとオーケストラのためのインストルメンタル音楽なんだ。Billboardのクロスオーヴァークラシカルのチャートでナンバーワンになったけど、別にたいした枚数が売れたわけじゃないよ。今回のアルバムは3枚目、32年間でソロアルバムは3枚というわけさ。私はソロパファーマーとしては多作とは言えないようだね。

LAUNCH:『Nightcap:The Unreleased Masters 1973-1991』のリリースを決定した理由は何でしょうか。

ANDERSON:
Nightcapは長い年月の間に様々なレコーディングセッションでたくさんのアウトテイクが作られたということを知っているJethro Tullファンの要望に応えたものなんだ。まるでタンスの引き出しを漁って金になるものなら何でも出すと思われかねないと考えて、このアルバムのリリースにはちょっとナーヴァスになっていた。それで著作権印税をチャリティに寄付することに決めたのさ。ファンのお金の使い道としては気高い行為と言えるんじゃないかな。決して二流の出来と判断された作品ではなくて、何らかの理由があってアルバムから外されていたんだ。中には鼻つまみもののほんとにひどいのもあるけどね。こうした素材は限定エディションで発売するので、プロモーションはまったく考えていない。でもファンはよくわかっていて、ヨーロッパでは売れていた。アメリカへもInternetや専門ショップを通じて輸入盤が入ってきた。だから、結局アメリカでも去年の夏にリリースされたのさ。これは私の古いタイツやコドピース(ズボンの飾り袋)の1枚や2枚に至るまであらゆるものを持っている熱心なJethro Tullファンのためのもので、些細なところまでどっぷりはまっている人でないかぎり、店に行って買うように薦めるつもりはないよ。

LAUNCH:そもそもミュージシャンになった動機を覚えていらっしゃいますか?

ANDERSON:
私がミュージシャンになったのも他のメンバーが音楽を始めたのも、ロックスターになってサングラスをかけてリムジンのお迎えを待つためではなく、自分たちのヒーローのように職業ミュージシャンになるためだった。愛すべき一生の仕事を得て、生活できるだけの報酬を得られればいいという職業倫理なんだ。ずっと後になってからのことだけど、私たちみんなはツアーを終えて故郷へ戻ると、家に帰れて幸せだったりほっとしたりするのは、ほんの数日間だけのことになってしまっていた。しばらくするとみんな落ち着かなくなってくるんだ。私の理論だとツアーの終わりに完全に肩の荷を降ろせないのは私ひとりではないようだ。私にとっては梯の下を歩いているような気分なのさ。二度とツアーには出たくないという大変な恐怖から解放されることはないんだ。電話が鳴って“アイスランドへツアーに行かないか?”と言われると、結局はレイキャビクに来ているのさ! 私たちはコンサートツアー依存症なんだ。だって家にいてサッカーの試合を見ているよりも圧倒的に楽しいからね。

LAUNCH:初期のJethro Tullのレコーディングは後のものとどのように違っていましたか?

ANDERSON:
一番最初の録音は4トラックだったかもしれない。8トラック以下だったのは確かだ。内容は非常にベーシックなもので、スタジオに入ってロンドン周辺のローカルなブルースクラブで演奏していたものをそのまま録音したんだ。そ1stトアルバムは4~5日で完成した。大半は馴染んでいた素材で、装飾はほとんどなかった。ギター、ベース、ドラムスに私がフルートとハーモニカを吹き、半分くらい歌った。あのアルバムでは音楽とサウンドの層が薄く、隙間がいっぱい残っていた。'70年代後半から'80年代、'90年代と進むにつれて、必然的に音楽の密度は濃くなっていったよ。音楽的な質の面でも層が厚くなり、サウンドに用いるエフェクトによってデリケートで微妙なアンビエンスが加えられていったんだ。興味深いことに我々が最後にやったレコーディングでは、バンドでリハーサルを行ない、ステージ上でプレイするみたいにスタジオで演奏したのさ。ステージでのライヴ演奏のときと同じようなサウンドが得られるように努力したよ。あまり変えないようにしてね。それでもギターや人間の声の響き方は、古いオンボロのアンプやギターを使っていた初期の頃より多少は複雑になっている。楽器そのものの響きは今でも同じだけど、ムードたっぷりのエフェクトがかかっているというわけさ。それがいいことなのかどうかはわからないけどね。Pink Floydの昔のライヴを見たことがあるかい? Jethro TullとPink Floydがどこかの大学で共演したときのポスターが家にあるんだ。チケット代が確かまだ1ドル以下だったころのことさ。その日のことは今でも覚えているけど、Pink FloydはDave Gilmourが参加したばかりで、少し堕落し始めたころだった。彼らは大掛かりな舞台装置もライトショウも使わずに淡々と演奏していたのさ。実際にはひとつだけテレビと同じサイズのディスプレイを使っていたけどね。そのころは本当にとってもシンプルで、情緒のある演奏だったよ。『The Wall』のころとは大違いだね。観客はチケットに50ドルも払う以上、巨大な装置による効果を期待するというものさ。その点で事態はもう手に負えなくなっているのかもしれないな。私としてはできるだけすべてをシンプルにしておきたいんだ。それでもコンサートに行ったときにレコーディングの音質にできるだけ近いサウンドで聴きたいという、観客の期待には何とか応えなきゃいけないと思うんだけどね。

LAUNCH:現在の大物ポップスターと競争したいと望むなら、どのようになさいますか? あなたのキャリアの現時点において、より大きな商業的成功に関心はありますか?

ANDERSON:
可能なかぎりの商業的成功を私たちが望むならば、できることはたくさんあると思う。レコードのプロデューサーやら有能な業界幹部の中には、私たちをもっと商業的に受け入れられやすい枠組みに置くための戦略を提案してくれる人もいるけど、それを実行したいかどうかはわからないな。昔はJethro Tullを地球で最もビッグなバンドにしたがるマネージャーを恨んだものだったがね。Madison Square Gardenで3~4晩も演奏するという段になると、自分の予想を超えたレベルになったと感じてしまうんだ。私は劇場でプレイして、護衛もつけずに街を歩き回りたいのさ。つまり、私はステージに上がって何千人かの前で演奏するのは好きだが、自分がメガスターだと思いたいわけではないんだ。だけどね、今レコードのセールスという面でもっとポピュラーになりたいとしたら、たぶんCarlos Santanaを呼んで自分たちのアルバムにゲスト参加してもらうね。どっちにせよ彼は自分のアルバムでもずっとゲストのようなもんだったから、慣れているだろうけど(笑)…こいつは面白い、いや、ちょっと意地悪だったかな。神様、ばちが当たりませんように!(サンタナの)『Supernatural』は素晴らしいレコードだし、彼はいいヤツだよ。彼のところに現われるエイリアンもいいヤツらなんだろう。あれは天使なんだったけ?

LAUNCH:Carlos Santanaが浮き沈みの激しい期間を経て成し遂げた成功についてどう思いますか?

ANDERSON:
この間20年ぶりにRolling Stone誌を買って読んだんだ。Carlosが表紙だったからね。彼のところには天使が現われて、音楽的な面で彼を導いてくれるそうだよ。素晴らしいね。私のところに現われるのはBudweiserという名の天使で、あらゆる種類の堕落のインスピレーションをソングライティングに与えてくれるんだ。それはチェコ産のBudweiserで、アメリカで出回っている水っぽくてまずいヤツとは違うのさ。

LAUNCH:ところでコンピュータの知識はどの程度お持ちですか?

ANDERSON:
新しいホームPCを買って人々が話題にし始めた魔法のInternetを見てみようと決めたのは6年ほど前のことだ。そのころヨーロッパはアメリカよりもずっと遅れていて、ずいぶんとがっかりしたよ。遅くて面倒だったからね。私が期待していたほどのものではなかったので、3年ほど関心を払わずにいたんだ。そのころ次のコンピュータを買ったんだが、すべてのものが突然のようにすみずみまで充実していたのさ。モデムは早くなり、電子メールも使えるものになっていて、すべてが一変してしまったことに気付いたんだ。私が最初にやったのはJethro Tullに関するすべての記述を見ることだった。私たちには充分な存在感があっただけでなく、他の形態のあらゆるメディアでの情報量と比べて、不釣合いなくらいに多くの記述があったんだよ。バンドに関する記述はもちろん、私と同世代である30代、40代、50代のファンに関する情報もあった。Internetの世界でも大きく急速に成長している分野だったのさ。仕事でコンピュータを使う人たちは、ネットに参加して取るに足らない楽しみ以外のことに使っている。チャットルームやニュースグループに参加する人々を見ているのは楽しいが、悩みのタネでもあるんだ。

LAUNCH:なるほど。

ANDERSON:
…だが、トラフィックの90%は同じ40、50人の連中によるものだった。参加者は比較的少ない人間の心や頭に占める自分の存在感に対して、あまりにも注意深くなってしまうのさ。私は基本的に連中が私たちに関して何を言っているのかを時どきチェックしているけど、ツアーから戻ってきたらファンがコンサート評を投稿してくれている。フィードバックを得られるのは助かるけれど、私や他のメンバーが音楽を作る基本的な方針を変えることはありえない。私たちのバンドでサイトの運営を担当してくれているAndrew Goodlingsは例外としても、他のメンバーはウェブと余り関わりを持っていないんだ。'98年にアルバム『J-Tull Dot Com』に取り掛かって以来、私とSandyが中心に展開を図ってきたのさ。こうして私たちはウェブサイトの構築をスタートさせたんだ。ニューアルバムのタイトルは決定したわけではないが、ウェブサイトと連動して成長し、共に次の段階へと進んできたことは確かだ。ウェブサイトの名称にちなんでアルバムのタイトルを付けるというのは、私がジョークのつもりで提案したのだが、みんなは良いアイデアだと感じたようだ。古典的なJethro Tullのアルバムタイトルではないが、ウェブサイトとアルバムが相互に強化しあうのには役立つだろう。このウェブサイトはニュース、写真などのファンとメディア向けの情報サービスなんだ。向こう数年間で様々なバンドの公式ウェブサイトは本物の電子商取引サイト、ちょっとした産業にまで成長するというのが私の感触だ。ひとつのバンドあるいは特定のバンド群のための、小さなロックブティックになるだろう。例えばクラシックロックの商業サイトでは、Jethro Tull、YesEmerson, Lake & PalmerKing Crimsonの商品を購入できるというわけさ。私たちがそれを始めるという意味ではないが、そんな計画も想定できるということだよ。それに何かを買おうとしてクレジットカードの情報を入力しなければいけなくなったときに、Joe's-dodgy-business.comみたいな得体の知れないところと、私本人のサイトだったらどっちがいいと思う? Jethro Tullがファンのクレジット情報を悪用することなんてありえないと思えば少しは安心できるだろう。

LAUNCH:Internetで出回っているブートレグ録音についてどう思いますか? 頭痛のタネ…それとも良いことだと考えますか?

ANDERSON:
ブートレグにはずっと悩まされ続けてきた。制作の方法に起因する品質の悪さがファンを失望させていたからだ。特にみすぼらしい小型テープレコーダーで録音された初期Jethro Tullのヤツはひどいサウンドをしているんだ。内容をわかったうえで買うのならそれでもいいけどね。ウェブで出回ること自体は気にしていないよ。ファンがファンのためにやっているんだから。それで何か儲かるというわけじゃないんだ。サイバースペースでの音の落書きみたいなもんだね。品質の悪いもので金を儲けようというのでないかぎり、問題はないと思うよ。

LAUNCH:さて、話は変わりますが、あなたにとって最も尊敬するアーティストはどのような人たちですか?

ANDERSON:
私は常に音楽でも文学、絵画なんかのアートでも何でも、カメレオン的なアーティストに共感を覚えるんだ。だから、音楽的な意味では悪いけどThe RamonesよりもDavid Bowieを評価するね。連中のアルバムも持っているし、キャリアを通してひとつのことを貫くのも悪いアイデアじゃないけど、あまりにもひとつのスタイルを繰り返していると一次元的になってしまうんだ。それよりもクリエイティヴな人生の中でいくつかの変化を経験していくという考え方が好きなのさ。このコンセプトはピカソの美術作品やベートーベンの音楽に集約されている。ベートーベンには非常に多くの異なる作品があるから、古典的なサウンドやスタイルのひとつを取り上げてあれこれ言うことができないのさ。あえてあえて挙げろと言われれば、私はベートーベンの弦楽四重奏よりも交響曲第九番を選ぶだろうね。第九には彼の要素がすべて含まれているからね。そのころ彼は耳が聞こえず、音楽がどのように響くかを想像するしかなかったんだ。昔のJethro Tullに関して人々が感じるのもそんなところだと思うな。「Stand Up」をやったときには、“これは何だよ、ファーストアルバムの後の初期のクリエイティヴな時期なのか?”って感じだったよ。それから妖精や小鬼の出てくるもっとイングランド的な『Songs From The Wood』、それにラジオやMTVで好調だった『Crest Of A Knave』なんかもある。あまりに多くの異なる時代があって、自分でも選ぶのは難しいけれど、1曲を挙げるとするなら「Buddapest」だろうね。ブルージーな感触があって、ストーリー性にも富んでいるし、ユーモラスでちょっと性差別主義者的でもあるんだ。音楽の面でもクラシックの要素もあれば、ちょっとしたインプロヴィゼーションもやっている。完成へと導いてくれた音楽的影響が見通せるような全方位的で成熟したJethro Tullの名曲だよ。でもこれは「Jethro Tullとは音楽的には誰であり、何なのか?」という点に関して、あらゆる人々の詮索好きな好奇心に対する解答にはなっていない。要するに答えは聞き手しだいなのさ。20枚以上のアルバムを聴いてから、いらないものを切り捨てて、ひとつを選べばいいんだよ。

by Dave Dimartino

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