“21世紀のポップ・ミュージックの申し子”アリシア・キーズ

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“21世紀のポップ・ミュージックの申し子”アリシア・キーズ

“ローリン・ヒルの再来”


デビューアルバム

『SONGS IN A MINOR』


BMG International 2001年9月26日発売
BVCP-21197 2548(Tax in)

1 PIANO & I  
2 GIRLFRIEND  
3 HOW COME YOU DON'T CALL ME  
4 FALLIN'  
5 TROUBLES  
6 ROCK WIT U  
7 A WOMAN'S WORTH  
8 JANE DOE  
9 GOODBYE  
10 THE LIFE  
11 MR. MAN (DUET WITH JIMMY COZIER)  
12 NEVER FELT THIS WAY (INTERLUDE)  
13 BUTTERFLYZ  
14 WHY DO I FEEL SO SAD  
15 CAGED BIRD  
16 LOVIN' YOU (HIDDEN TRACK)  
17 REAR VIEW MIRROR (BONUS TRACK)



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ここ数年、アメリカのR&B界では“オーガニック・ソウル”というのが、ヒップな存在として高い注目を浴びている。

'90年代半ばのディアンジェロの登場以来、70'sのソウル・ミュージックが持っていたアナログな感覚とヒップホップ以降のリズムを融合させたこの路線はマックスウェルやフィラデルフィアのヒップホップ・バンド、ザ・ルーツの台頭をも呼び起こし、'97年のエリカ・バドゥの登場以降、女性R&Bシンガーにも浸透。メイシー・グレイジル・スコット、そしてインディア・アリーなどの女性のスター・シンガーも次々と登場したが、その路線を“R&B”という狭義の枠を超えて、一般的な音楽リスナーをも完全に虜にさせ才媛こそ、アリシア・キーズである。

'80年にニューヨークのマンハッタンに生まれた彼女は、比較的裕福な家庭のもとで幼い頃からクラシック・ピアノの教育を受けて育つ。そうした環境と、白人とのハーフという血筋の問題も手伝って、幼い頃から雑種な音楽感性を育んだ彼女は、クラシックと共に両親のレコード棚にあったロックや70'sのソウル、そして地元マンハッタンで大人気だったメアリー・J・ブライジやノトーリアスBIGなどのR&B/ヒップホップなどをランダムに吸収しながら成長する。そして10代前半から作曲をはじめた彼女は、そのボーダーレスな感性を早くから評価され、かつてジャニス・ジョプリンホイットニー・ヒューストンを育てたレコード業界のカリスマ、クライヴ・デイヴィスが立ち上げた新レーベル、Jレコードの看板として売り出される。

その類い稀な音楽的感性、飛び級でコロンビア大学に進学した秀才ぶり、そしてその圧倒的な歌唱力をもって、“ローリン・ヒルの再来”と騒がれた彼女は、デビュー・アルバム『ソングス・イン・Aマイナー』で、新人にもかかわらず、いきなり初登場1位を獲得することになる。

この記念すべきデビュー・アルバムは、いきなりベートベンのかの有名なピアノ曲「月光」のイントロからはじまるという衝撃的なはじまり方で、そこに今風のヒップホップ感覚と、カーティス・メイフィールドバリー・ホワイトアレサ・フランクリンといったソウル・ミュージックの巨人たちの名曲を彷佛とさせる卓越したメロディ・センスを盛り込み、さらにそれをこれまでのR&Bにはなかったエレガントでソフィスティケイトされた都会的なセンスで料理。これによりアリシアは世代や人種を超えた圧倒的な評価を獲得するのであった。

このアルバムが大ヒット中の9月11日、彼女の故郷ニューヨークと、彼女がちょうどツアー先として滞在していたワシントンDCで同時多発テロが発生。そのときのアリシアの精神的なショックは図り知れなかったが、彼女は勇敢に立ち振る舞い、世界同時放送されたテロ のためのチャリティ番組『トリビュート・トゥ・ヒーローズ』で、ダニー・ハサウェイの人類平和を願う名ソウル・クラシック「サムディ・ウィ・ウイル・オール・ビー・フリー」をピアノの弾き語りで熱唱。彼女はこのステージで絶大なる大絶賛を浴び、アリシアの曲は“癒し”の意味も込められて全米中に流され続けることとなった。

まさに2001年は、アリシアのためにあった。そう言えるセンセーショナルな登場だった。

デビューして1年未満にして既に伝説となりつつあるアリシア・キーズ。しかし、恐ろしいことに、これはまだほんの序章に過ぎない。

“21世紀のポップ・ミュージックの申し子”として、これからアリシアがどういう伝説を築いていくか。楽しみで仕方がない。

文●沢田太陽

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