いつになく饒舌なクリスが語る成功と自信、そして幸運に恵まれること

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いつになく饒舌なクリスが語る成功と自信、そして幸運に恵まれること
― クリス・マーティン インタヴュー ―

ColdplayのChris Martinは気難しく、時に質問に応じることを拒絶するとしてジャーナリストの間でいささか評判になっている。が、素晴らしい2ndアルバム『A Rush Of Blood To The Head』にともなうヨーロッパツアーの最終公演を控えたノルウェーのオスロで、LAUNCHのLyndsey Parkerと会見した際にはとにかく話が止まらなかった。風変わりな映画やテレビ番組を引き合いに出し、9月11日に触れ、お気に入りのチャリティ活動(Make Trade Fair=公正な取引を)を宣伝し、精一杯Ian McCullochを真似て見せ、陽気なおしゃべりMartinは、30分のはずだった取材を90分に及ぶとりとめのない対話へと引き伸ばしてしまった。しかしながら、Martinの話にLAUNCHのスタッフ全員が夢中になって聞き入るうちに(時には腹を抱えて笑っているうちに)、時間は飛ぶように過ぎ去った。Chris Martinが口を開けば、人々は耳を傾ける。以下、彼の言わんとするところである。

「すげえな」ってのと、「当たり前だよ」ってのが、おかしな具合に入り混じってるんだ 

2ndアルバム

静寂の世界 / A RUSH OF BLOOD TO THE HEAD
東芝EMI 2002年8月12日発売
TOCP-66020 2548(tax in)

1 Politik
2 In My Place
3 God Put A Smile Upon Your Face
4 The Scientist
5 Clocks
6 Daylight
7 Green Eyes
8 Warning Sign
9 A Whisper
10 A Rush Of Blood To The Head
11 Amsterdam

1stアルバム

PARACHUTES
東芝EMI 2000年8月9日発売
TOCP-65472 2548(tax in)

1 DON'T PANIC
2 SHIVER
3 SPIES
4 SPARKS
5 YELLOW
6 TROUBLE
7 PARACHUTES
8 HIGH SPEED
9 WE NEVER CHANGE
10 EVERYTHING'S NOT LOST~LIFE IS FOR LIVING (secret track)
11 CAREFUL WHERE YOU STAND (BONUS TRACK)
12 FOR YOU (BONUS TRACK)


『ターミネーター』で、アーノルド・シュワルツネッガーが
時間を旅して素っ裸で戻ってきて、ちょっと混乱してる
シーンあるでしょ? あれが俺たちだったんだ

――たいていの英国のバンドは、アメリカでそれほど成功しません。現在アメリカで最もビッグな英国のバンドといってよさそうなColdplayの、何がアメリカの大衆の琴線に触れたんだと思いますか?

CHRIS:アメリカにおける英国のバンドの話とか、英国のバンドとしてアメリカで成功してどう思うかって話は…………そりゃ、自己満足のレベルじゃ最高だよ。何たって俺たちは、自分のバンドが大好きなんだから! ただ、ナショナリスティックなのはたまらない。英国出身であることは誇りに思うけど、その旗を振りかざすタイプじゃないからね。アメリカはとにかくデカイから、俺たちが「Yellow」って曲で恵まれたような運がいくらかないと、アメリカで充分な時間を過ごすことも極めて難しいね。Beatlesを超えたとか、そんな自己暗示にはかかっちゃいないよ。たぶん俺たちは、半端じゃない量の幸運に恵まれたんだ。それに実際、アメリカで演奏するのは楽しいしね。

――昨年、グラミー賞の最優秀オルタナティヴ・アルバムを獲得したのは驚きでした?

CHRIS:最高だったね、俺はあの場にいなかったんだけど。Fair Tradeの仕事をしている人たちと一緒にハイチにいたんだ。あと、飛行機に乗るのがおっかなくて、グラミーの授賞式には行きたくなかったんだ。電話出演だよ。もちろん、グラミーをもらうのは嬉しい。ただ同時に、賞をもらうのってちょっと間抜けな感じもするんだ。もらったのは嬉しいし、もらってなかったら、マジで憤慨してたかもしれない。もらってなければ、こんなに気楽に話せてなかったかもね。しかしまぁ、賞っていうのは、みんなが楽しむための偉大なる発明だよ。おかしなもんだよ、世界じゃ戦争している人がいたり、京都議決書が締結されなかったり、そこら中にエイズ禍が広がってるというのに、こっちはアルバムで賞をもらったってニュースに出てるんだから。笑っちゃうな。

――あなたがやっているMake Trade Fair運動とは、どういうものですか?

CHRIS:OxFamという組織が運営しているプロジェクトの名前なんだ。G8首脳会議の騒動とか、世界貿易機関に対する抗議とか色々とあるのは、世界各地の貿易に関する法律が本当のところ、いかにフェアじゃないかっていうところから来ていて。アメリカや英国やフランスの人は、大筋ですべてうまくいっているから気づかないけど、世界を回ると、農民や労働者がもらうべきものをもらっていない。とんでもない話なんだ。だから“Make Trade Fair”ってTシャツを着て(と自分のシャツを指差す)騒いでりゃ、いくらか関心を呼べるんじゃないかと思ってさ。主張のあるバンドは拳銃を手にしたカウボーイのようなものだって、俺はちゃんとわかってる。危険なんだ! うまくいかないかもしれない。けど、いかなくたっていいじゃん。インターネットとはありがたいものでさ、MakeTradeFair.comってサイトで、こんなアホなシンガーと違って、ちゃんとわかってる人の話が読めるよ。

――1stアルバムの『Parachutes』は、アメリカでは予期せぬ成功を収めましたが、それに伴う注目にどう対処しました? また、今はどう対処していますか?

CHRIS:いきなり成功してどうだったって、みんな聞いてくる。めちゃくちゃストレスになっただろうとか、金を払ってもらって世界を回り、演奏するのは大変だろうとかってね! ところが、そんなことはない。あれは世界で一番ビックリするような出来事だった。もちろん、真剣に受けとめてるし、こんなチャンスをもらったことが信じられないくらいだから…………すごく大事にしたいと思う。ストレスになるってのはあるけどね。微妙にストレスを感じるのは、成功が俺たちにとってはとてつもない変化だったから。『ターミネーター』で、アーノルド・シュワルツネッガーが時間を旅して素っ裸で戻ってきて、ちょっと混乱してるシーンあるでしょ? あれが俺たちだったんだ。彼はその後バーへ行って、そこらの連中をぶん殴って「その服をよこせ」って言うわけだけど、まさにそれだよ。俺たちも服が必要だった。頭を整理する必要があったっていう、それだけのこと。自分たちのバンドのスペルを、いちいち説明しなくてもいい状況に馴染むには、時間がかかるものなんだ。『ターミネーター』の終わりには、みんな誰かが分かってたようにね。俺たちの場合も同じだったんだ。

――今や自分たちがグラストンベリーのような巨大フェスティヴァルのヘッドライナーを務め、『Saturday Night Live』などに出演しているというのは、不思議な感じですか?

CHRIS:あのね、俺の人生…………っていうか、俺たちみんなそうだけど、生まれてこのかたずっと、周りで起きていることに圧倒されたり打ちのめされたりの連続だよ。でも、まぁ人生ってそういうものなのかも。自分がこれからどうなるのか、わかってる人なんか誰もいない。だったら、順調な時は楽しんで身を任そうって気になる。だから「マッチ箱みたいなところでやってたのが、こんなデカいフェスティヴァルに出るようになったのか! 」とも思うけど、それは自分たちなら何かやれるって信じていたからこそで、つまりは驚きと思い上がりが入り混じったものでね。「俺たちだったら、氷河の上に1千万人を集めて当然!」みたいな。わかる? 「すげえな」ってのと、「当たり前だよ」ってのが、おかしな具合に入り混じってるんだ。グラミーをもらった時だって、「信じられない」ってのがあった反面、「なんで6部門受賞じゃないわけ?」ってのもあったから(笑)


15枚目のレコード用に曲をとっておいてもしょうがない。
だいたい、15枚目のレコードなんて
作れない かもしれないんだから

――『A Rush Of Blood To The Head』は『Parachutes』とはどう違いますか?

CHRIS:自分の新譜の説明なんて、自分の鼻の形を説明させるようなもんだよ。当の本人は、ありのままの姿をちゃんと見られないって意味でね。鏡で見たって逆さ向きだし。自分たちのアルバムの話をするのって、俺にとってはそんな感じなんだ。だってさ、ほら、密着し過ぎてるから。このレコードも前のも、細かなところまで逐一わかってるんだ。俺からすると『ゴッドファーザー』、その『パートII』『パートIII』ってところかな。大河ドラマってやつ。もっとも、ハタから見れば大河ドラマどころか、『Stop, Or My Mom Will Shoot!(刑事ジョー/ママにお手上げ)』かもね。万里の長城を作り上げたつもりが、そうじゃなかったってこともある。だから、俺にはわからないな。わかってるのは、信じられないような愛に満ち溢れてるってことだけ。レコードを作るチャンスに恵まれるたびに――今まで2度のチャンスをもらったわけだけど――最初は「2週間で終わるぞ」とか「この曲を片付けたらカリブへ飛んでジョージ・クルーニーと遊ぶんだ」とか言ってるくせして、そのうち2ヶ月過ぎ、作業は脳外科手術と化して、微に入り細をうがって正確を期するようになる。だから時間がかかるんだ。急にインスピレーションが湧いた時の勢いと、念の入った退屈な作業の繰り返し。たまにスタジオに遊びに来た友達も10分ぐらいで飽きちまう。違いがわからないからね。こっちとしては「あそこのベースの周波数さぁ、ちょっと違うだろ?  なんでわかんないんだよ!」みたいな。まったく、あきれるくらい退屈なこともあるんだ。

――スタジオの現実は、映画で観るようなエキサイティングなものではないんでしょうね。

CHRIS:そう。俺、一度『X ファイル』の撮影現場に行ったことがあるんだ。シェイクスピアの劇か何かみたいに、『X ファイル』の話が目の前で繰り広げられるものと思ってたら、そうじゃなかった。同じところを18回も繰り返しだよ! ちょいと退屈して、しかもクッキーの1枚も残ってなかったから、グズッて出演者のひとりを怒らせちゃった。何であれ、簡単に進んでるように見えるものは、実はそうじゃない。時間がかかってるんだよ。

――アルバムが遅れたのは、それが理由ですか?

CHRIS:ああ、何ひとつレコーディングを時間通りに終らせたことがないんだ。最初のEPを作った時だって、資金を出してくれてた俺の親友で5人目のメンバーともいえるPhilが「2日分なら出せると思う」って言ってたのを、2日後には電話で「Phil、頼むからズボンをもう一着売ってくれないかな。どうしても、もう1日必要なんだ」って頼んだくらい。で、予算が増えれば増えただけ、「あと200万ポンドだけ出してくれたら、ここのクラリネットのパートが完成するのに」って具合になっていくみたいでね。

――そこまで完璧主義になるのは、1stアルバムの成功のプレッシャーからでしょうか?

CHRIS:俺たちが感じてるプレッシャーってのは、家族を食わせなきゃいけないとか、炭坑で働いてるとか、どこかの軍事組織に攻撃されてるとか、そういうのとは違う類いのものだよね。俺たちのは勝手なプレッシャーなんだ。その気になれば、1日中ウダウダとコカインだって何だってやってられるんだから。このレコードや、あるいは最初のレコードに何らかのプレッシャーを俺たちが感じていたとすれば、それは勝手にプレッシャーを感じていたに他ならない。下手なものは作りたくないからね。

――このレコードの制作中に、バンド内でケンカが多発していたという噂は本当ですか?

CHRIS:どんなレコードも作るのは大変なんだと思う。最高のシェフだって、何食作った経験があっても、気を抜いた途端に美味しいものは作れなくなる。それでも、まあまあのものはできるんだろうけど。言ってること、わかる? もちろん議論はしたよ。でも、拳銃を突き付けるところまではいかなかった!

――では、これが最後のアルバムになるとか、解散するといった話は事実じゃないんですね?


CHRIS:噂ってのは最高だねえ。気にかけてくれてる人がいるっていうだけで、すごいよ。実際は、みんな何とも思ってないんだろうけどね、話題になるのはインタヴューの時だけで。俺、人はいつ死ぬかわからないって考えなんだ。飛行機なんか乗ると、命なんてやたらと脆いものに思える。だったら、15枚目のレコード用に曲をとっておいてもしょうがない。だいたい、15枚目のレコードなんて作れないかもしれないんだから。翌日のコンサートに備えて、その日のコンサートは抑え目にいくっていうのも本末転倒だ。そういう意味じゃ、確かにこれが俺たちの最後のレコードになる可能性はあるかもね。次のレコードは、これを超えるものでなけりゃ作らないし。今のところ、俺たちには何も残ってないんだから!

――このレコードは1stより良いと思いますか?

CHRIS:俺にはレコードの比較はできない。とんでもない駄作かもよ。こんなの聴いたことないってくらい、最悪のレコードかもしれない。本当のところ、俺には見当もつかないよ。

――Ian McCullochと同時期にスタジオに入っていたそうですね。仲良くなったそうですが、その話をしてもらえますか?

CHRIS:俺にとっても、バンドにとっても一番ありがたかったことのひとつが、この2年間で、ちょうどあちこちから俺たちを批判する声が出てきた頃に…………ほら、アルバムが売れてないうちは悪口を言っても意味がないから誰も言わないけど、それがいきなり批判ばかりされるようになってマジで大変な思いをしたもんだから、そこで救いになったのが、アメリカへ渡って、いわば再スタートを切れたことだったんだ。それと2番目に、俺たちが心底インスピレーションを受けてきた人たちが、俺たちのことを悪くないと思ってくれて、やろうとしてることをわかってくれたらしいこと、そして、俺たちがまだレコードを1枚しか出していなくて、最初からモーツァルトってわけにはいかないってことも理解してくれたらしいことだった。P.J. Harveyに始まって、U2Oasis、俺の友達のAshのTim(Wheeler)、Embraceあたりのバンド、そしてEcho & the BunnymenのIanもそう。彼らが受け入れてくれたおかげで、俺たちはずいぶん自信がついた。仲間になれた気がしたっていうか……いや、まだまだだけど、同じフィールドの人に受け入れてもらえたってのは、本当に気分が良かったよ。俺たちを前にしたら褒めるしかないジャーナリストでもなく、ラジオの人たちでもなく、レコード会社の人たちでもなく、わざわざ挨拶に来るいわれもない人たちなんだから。あれは嬉しかったな。Fred Durstですら――俺は決して大のLimp Bizkitファンてわけじゃないけど、話ができたのは嬉しかったよ。そういうことがなけりゃ、大したことないって言われっ放しで何だか本当にゴミみたいな気分になっちまう。

――自分に関する記事は読みますか?

CHRIS:あんまり読まないな、頭がおかしくなりそうだから。鎖に繋がれてるようで――そこら中を引きずり回されちまう。一瞬、俺ってスゴイと思ったら、次の瞬間には……ね。不思議な話だよ。

――で、Ian McCullochとはコラボレーションしたんですか? それとも、ただ同じ時期にスタジオにいただけ? どういう状況だったんです?

CHRIS:Ian McCullochには、今度のレコードにすごくいい影響を与えてもらったよ。今回、共同プロデューサーのKenに合わせて、The Beatlesの出身地リヴァプールへ行ったんだ。現場は小さな部屋だったけど、俺たちはすごく気に入ってね。ビジネスとは切り離されていて、実に素晴らしかった。どれくらい素晴らしかったか、言葉じゃ説明できないくらい。俺たちに足りなかったのはただひとつ、自信だけ。そんなところにIanが登場して、すべて丸く収まった。あの人は自信家だからね。もちろん、彼だって同じように不安を抱えちゃいるんだよ。でも、彼のお陰で、もうひと押ししてみようと頑張っている自分たちに対して気を楽に持てるようになったし、レコード1枚に夢中になって取り組むのが何も悪いことじゃないって気持ちになれた。実際にコラボレーションをしたといえば、ある日、彼からこう言われたことぐらいかな。(リヴァプール訛りを真似て)「Chris、レコードはいい感じだけど、1-2-3、1-2-3、1-2-3って感じの曲、ある? どんなレコードにも1曲はそういうのがあってしかるべきだぞ」。それで俺も「おっと、そういうのはなかった!」ってことで、週末のうちに1曲書き上げた。つまり、彼に言われて書いた曲が1曲、このレコードには入ってるってこと。

――それってどの曲?

CHRIS:「A Whisper」って曲。あれはいい感じだったな。さっきも言ったけど、リスペクトしてる相手がこっちをリスペクトしてくれるようになるのって、本当に気分がいいもんだよ。そうなってみると、みんな同じ人間で、誰もが同じように偏執的ってことがわかってくる。おかしなもんで、例えば……Jennifer Lopezだって朝起きた時はきみらと同じくらいブサイクだってわかったら。まあ、俺ほどブサイクじゃないにしろ、ね。同時に不安になるのは、政府もまた普通の人間だってことで。してみると、自信になるのと、世界情勢に照らしてやたらと怖くなるのと半々だな。


あいつだけとか、俺だけとか言われると、たまにマジで
ムカつくこともあるけど、車が正面から向かってくれば
見えるのは前の部分だけだろ。バンドもそうなんだよ

――皆さん、大学で知り合ったんですよね。バンドが少し注目を集め始めた頃は、まだ学生だったんじゃないですか?

CHRIS:俺たちにとってロンドンへ出て行くというのは、猫のPuss 'N' Bootsを連れてロンドンへ行ったDick Whittingtonの物語みたいなものだった。その人はその後、何の後ろ盾もなしにロンドン市長になるんだ。着替えの入った鞄ひとつと、猫だけ連れてロンドンへ……って、どうして猫を連れてったのか知らないけど、その猫は口がきけたんだよ。ま、それはいいとして、俺たちはロンドンへ出て行って、何やら驚異的な神の思し召しにより大学で知り合うことになる。あれは俺の身に起きた、最高に素晴らしい出来事だ。ロンドンへ行かなかったら、あの大学へ行かなかったら、何ひとつ実現してなかったんだから。タイミングについて言えば、レコード契約と時を同じくして試験を受けるという、おかしなこともあったよ。『スター・ウォーズ』の彼女、ナタリー・ポートマンみたいだね。彼女もそうだったらしいよ。論文を書かなきゃいけなかったけど「こんなの関係ない。私、『Star War』に出てるんだもん!」て思ったんだって。俺たちの場合は「これも重要なんだけど……でも、いっか」って感じで。

――学校は卒業したんですか?

CHRIS:ああ、そう思ったおかげで肩の力が抜けて、全員うまくいったんだ。気にしなかったのが良かった。でも、今だに学校で試験を受けてる夢を見るよ。そしてレコード契約がとれて、夢の途中でいつも先生に「なんでこんなテストを受けなきゃならないんだ? 俺たちもう、有名なバンドなんだぜ!」って言うと、「とにかく受けるべきなんです」って言われて、そして汗だくで目を覚ます。ひどいもんだよ。

――これだけ長い時間を一緒に過ごしていて、皆さん、お互い愛想が尽きたりしませんか?

CHRIS:正直言って、今の生活は圧倒的だからね。新作に取り掛かった時から、もう10ヶ月もノンストップでやってきてるけど、こんなに恵まれてる自分たちを俺たちの誰1人として信じてないくらいで。安っぽい言い方だけど、あいつらは本当に一番の親友なんだ。仲の良さには我ながら驚くよ。2年前は「どうなるかな」と思ったけどね。たまに顔を合わせる程度だったのが、ずっと一緒にいることになるわけだから。でも、マジですごく楽しい。昔から俺、こういう一味に入りたかったんだ。マフィアみたいな。いや、マフィアはやめとこう、せっかくのクールな仲間の話だから。金は俺たち4人と、5人目のメンバーで俺たちの大親友のPhil――実態はアドバイザーであり導師でもあるんだけど――で平等に分けてるし、だから金のことでモメる必要はない。ほとんどのバンドは、得てしてそれが問題になってるだろ。何でも平等に分けてるって事実が、俺たちをしっかり結び付けてる。

――では、No Doubtの「Don't Speak」のビデオのように、あなたが一番注目されることに他のメンバーが憤慨している、というような嫉妬はないのですか?

CHRIS:本当のところ、ついこの間イギリスで『Q』って雑誌に出たんだけど、表紙は俺だけでさ。そういう扱いとは言われてなかったのに……でも誰も気にしてなかったよ。どうなんだろう、シンガーってのは、みんなスポットライトを浴びたいって欲求があるものなんじゃないかな。で、ベースプレイヤーはそうでもない、と。シンガー以外の人間はみんな、うんと若い頃から名声なんてまったく意味のないものだってわかってて、シンガーがそれを悟るには何年か余計に必要だってことだと思う。あいつだけとか、俺だけとか言われると、たまにマジでムカつくこともあるけど、車が正面から向かってくれば見えるのは前の部分だけだろ。バンドの場合もそうなんだよ。必ず前に立つ人物がいて、代表する顔がある。でも、同時にエンジンも座席もミラーからぶら下がってるものもあるわけで、そういう細かいところは通りすがりじゃ見えやしない。俺たちをちゃんとわかってる人たちは、4人……いや5人の誰が欠けても俺たちが途方に暮れちまうことを知ってるよ。俺なんか、Stingの情けない版になっちまうだろうな。そんなの、誰も喜ばないよね! いや、Stingがダメだなんて、これっぽっちも思ってないし、実際好きなんだよ……うん、あの人はいい。けど、Policeはもっと良かったってこと。わかる? 俺たちも1週間ぐらい、俺がどうしようもない負け犬状態で、事実上バンドを崩壊させちまったことがあるんだ。3年くらい前かな。ひどいことをやらかした翌朝、目を覚ましたら「このバカ、このバカ野郎!」って声が聞こえてさ。で、何とかヨリを戻したんだ。

――どんなひどいことをやらかしたんです?

CHRIS:言えないよ。でも、もう2度とあんなことにはならない。自分が恵まれてるってことがわかったし、あいつらがいなきゃ俺はダメだし、俺がいなきゃあいつらはダメなんだ。『Waltons(我が家は11人)』みたいなもの。全員が揃わなきゃ、あの番組も成り立たないだろ。

――アルバムタイトルに、特にいわくはありますか?

CHRIS:行く先々で、(アメリカ訛りで)「どういう意味? 恥ずかしいってこと? 赤面してるの? 耳の病気?」なんて聞かれるところをみると、“a rush of blood to the head”ってフレーズは英国的な言い回しなんだろうな。答は「ノー」だよ。この言い回しは、衝動的に何かをやること、例えば「今日、パリに行こう」とか、「レイチェル・ワイズに結婚を申し込もう」とか、「J.Loに電話して彼女にアルバムのリミックスを頼もう」とか、何でもいいけど急に思い立つことで、言ってみれば生きてる実感を覚えたり、アドレナリンが駆け巡るのを感じたりする時をいうんだ。うちの爺さんに「俺はいつか橋を造る」って言うと、「今やりなさい、若いの、今やるんじゃ」って言われたもんだよ。人はいつも「いつかライターになる」とか言ってるうちに80歳になっちゃって、「ちくしょう、本当はライターになりたかったのに!」と思うものだから、爺さんは俺に気合を入れてくれたし、うちの親父もまた「どんどんやれ!」ってタイプだったんだ。できない理由なんか何もない。みんないつか死ぬんだ。つまり、そういう意味だよ。「どんどんやれ」ってこと。

――皮肉なタイトルですね。アルバムの制作はとても理路整然としていたのに……

CHRIS:面白いのは、このレコード作りは実はかなり衝動的だったんだ。どうしてかわかんないけど、曲はあっと言う間にやって来たし、Johnnyのリフもあっと言う間にできた。ただ、1曲についてその衝動の瞬間が過ぎた後、それをレコーディングするというのはまた全然別の騒ぎでね。頭の中からCDへ、2分間くらいで曲を移動できたらいいのにな。実際には、音を決めるのに何時間もかかるんだ。曲はとっくに存在してるのに、その解釈に手間取るんだよ。

――2001年9月11日の出来事がこのアルバムに影響を与えたという記事を読みましたが、本当ですか?

CHRIS:9月15日に取材を受けて、9月11日の件が俺に何らかの影響を与えたと思うかと訊かれたんだ。窓の外を見ながら「おしまいだ。俺たちみんな死ぬんだ。西側が世界中で引き起こしてきたあらゆるトラブルのツケを払う時がついに来た」と思ったのと同じ週の話だよ。だから「もちろん影響は出るだろう」と言ったんだ。レコーディングにも必死だったし、何に対しても死に物狂いの状態だったからね。“a rush of blood to the head”ってタイトルで言いたかったのはそれ。いつ終るかわからないんだから、今を一瞬一瞬大切に生きていかなければならない。当然、アルバムにも影響したよ。やれることは今やる、生きてることに感謝するって意味でね。西洋の横っ面に平手を食らわせて、「よぉ、あんたら、いつ死ぬかわからないんだぜ。大惨事ってのは、インドで起こるとは限らないんだ!」って宣言するような出来事が起こったんだから。イギリスには自然の地震もハリケーンもないから、ちょっとしたバブルの中で暮らしているようなものだ。ニューヨークが攻撃されたとなると、ヨーロッパやイギリスにすごく近いだけに、「ああ、世界貿易センタービルなら知ってるぞ」となる。そりゃあ俺にも、俺の生き方にも影響するだろう。そういう、命には限りがあるって考え方がひとつ。あと、もうひとつは政治的な面だ。どうして人間があんなことをしたいと考えたのか。「笑わせてやろうぜ」と思ったはずはない。大きな、大きな理由があるんだ。不当な扱いを受けている人間がいるからさ。それを思うと「自分は生きている中で、他の人間を抑圧するようなことをしているんだろうか」と考えさせられる。要は、色々と疑問が湧いてくるんだよ。ああいう出来事は、当然のように人に影響する。その3日後に取材を受けて、アルバムに影響すると思うかと訊かれれば……アルバムについて取材を受けるというコンセプト自体、まったくバカげていた時期だ。誰かが世界を核兵器で攻撃するのを待ってる時だったんだから。何も、9月11日絡みの曲が11曲入ってるってわけじゃない。もちろん違う。ただ、レコーディングへの必死の思いと、一番心配しなきゃいけないのは俺たちのレコードのドラムの音がちゃんと鳴ってるかってことじゃないんじゃないかという不信を募らせただけなんだ。食料が足りてるか、とか、生まれた土地で暮らせない、とかいうレコードじゃないよ。わかるよね?


けっこう速いとか、けっこう悲しいとかいう曲をやるくらいなら思いきり速いとか、思いきり悲しいとかいう曲をやるべきだ。中くらいってのが、俺は堪えられないんだ

――取材といえば、最近はマスコミの態度はどうですか?

CHRIS:無理もないけど、俺たちは世界中のマスコミから半端でなく酷い目に遭わされて、でも、みんな意外なくらい新譜には好意的なんだ。先に進みたいし、同じことを2度繰り返すのは嫌だったから、音を一部、意識的に変えた。で、『NME』や『Q』がどう反応するか、むしろ同じところに留まったほうが喜ばれるんじゃないかって、かなり神経質になっていたんだけど。散々、批判されたにしては、ここ1ヶ月かそこらは今までになく俺たちに対して好意的だよ。もちろん、また引っくり返るさ。それは間違いないけど、今のところはビックリだ。俺たちの新譜なんか誰も買ってくれないかもしれないのに、こんなこと言うのはバカみたいだけど、バンドとして俺たちは行けるところまで自分たちを追いこんだと思ってるんだ。耳に入ってくるあらゆる音楽、出会うあらゆる人たち、訪ねたあらゆる場所が、頭をアイデアでいっぱいにしてくれる。曲がどこから出てくるのか、どこか魔法の場所からやって来るのか、自分でもわからない。とにかく俺は、最初のレコードを作ってみて、今度は俺たちの好きな同じエモーションを扱いつつ、全然違う音のものをやってみたいと思ったんだ。そして今のところは、マスコミの反応も励まされるものばかり。チャンスも与えてくれないと思ってたのに。

――サウンドを変えたところがあるという話ですが、具体的には?

CHRIS:意思的に「これはもうやめよう、あれはもうやめよう」って決めたわけじゃないんだけど、人の好みって自然と成長するものなんだろうね。それに、人からどう思われようと、あんまり気にしなくなったし。心から気に入ってくれる人がいるのは本当に嬉しいけど、どうでもいいんだ。あれだけ批判されちゃうと、好きにやってやろうと思うんだよ。俺、今までにないくらい音楽に心が踊るようになったんだ。OasisとかNirvanaとかEcho & The Bunnymenとか、Johnny Cashみたいなやつまでね。1stアルバムの後で気づいたんだ、自分にとって何かしら意味のある音楽を聴こうと思っても、同年代の白人男性の音楽を聴かなきゃならないわけじゃないって。何でも好きなのを聴けばいいんだ。聴いていいとか悪いとか、誰も言えない。それって、最高の自由だよ。だから、今回スタジオに入った時も「誰がどう思おうとかまうもんか!」ってノリだった。本当を言えば、もちろん気になるよ。だけど、何でもトライはしてみた。アコースティック・ギターにもこだわらないし、スローな曲調にもこだわらない。すごくいい感じだった。『Parachute II』を作ったんじゃ、退屈だっただろう。

――『A Rush Of Blood』について、Coldplayらしい音だがスタジアム級、つまり、よりビッグなサウンドになったと解説したレヴューをどこかで読みました。

CHRIS:あのさ、俺がひとつ取材で話すのが嫌でたまらないのが、Coldplayの音楽のことなんだ。残念だよね、そのためのインタヴューなんだから。さてね、世界最大の牛の糞の山かもしれないし、あるいはいいものかもしれないし。

――ライヴもずいぶんと発展したようですね。最近のあなたは、ステージ上で前よりずっと楽しそうだし自信がありそうです。

CHRIS:正直言っちゃうと、こんなこと言うべきじゃないのはわかってるんだけど、でも自分が音楽やバンドをどれだけ大事に考えているかを、全部わかってもらう必要はないと思ってるんだ。俺にとってこのバンドは、俺たちに与えられた恵みであり、半端な気持ちでやることは自分が許さない。だからここまでやってこられたんだし、それはとことん表現したい。けっこう速いとか、けっこう悲しいとかいう曲をやるくらいなら、思いきり速いとか、思いきり悲しいとかいう曲をやるべきだ。中くらいってのが、俺は堪えられないんだ。いつだったか、アメリカのアトランタで俺、キレちゃって。他のみんなもキレちゃった。曲を大事にすれば、それをプレイすることも大事にするだろうし、レコードを作るのが大事だと思えば、レコード作りに没頭するだろう。誰かが俺たちにこれを仕事としてやらせてくれるのなら、きちんとやってやろうじゃないか。そしてステージに立つ時は、できるだけ大勢の姿を見るのが嬉しい。前だったら、「どうしよう!」ってなるところだろうけど、今の俺は、仲間に入ってくれてありがとう、きっとうまくいくよ」って感じなんだ。

――グラストンベリーのような大フェスティヴァルのヘッドライナーを務めるのは怖い? 楽しい? それとも両方ですか?

CHRIS:グラストンベリーを仕切ってるMichael Eavisと一緒に車で移動してた時、彼が振り返って言ったんだ。「Chris、グラストンベリーの金曜の晩、やる気ある?」って。俺は「ええ、お願いしますよ、Eavisさん」て感じだった。あの時は、俺たちのバンドをそこまで信用してくれてる人がいるなんて信じられなかったんだ。新しいレコードもまだ録音してなかったし、先は長いってわかってたからね。なのに彼は俺たちに絶大な信頼を寄せてくれて、それで決まりだった。あれは、あの年の俺たちにとって最大の影響のひとつだったな。あの時、揃って「彼があそこまで信じてくれて、他にもこんなに信じてくれてる人がいるんだから、俺たちも自信のあるところを遠慮なく見せてやろうじゃん」て思ったんだ。曲であれ、パフォーマンスであれ、半端な気持ちでやることを拒否するっていうのは、それがあるから。半端は気に食わない。アメリカについても、ヨーロッパや英国の音楽についても、俺の気に障るのはやたら無難だってことでね。ラヴソングなんだけどラヴソングになりきってなかったり、パーティに出かける歌なのに今いちパーティに行く感じの音じゃなかったり。“けっこういい”程度でさ。けっこういいなんてのは、俺は嫌いだ。中には「しょうもないこと言ってんな、てめえのバンドだって、けっこういい程度じゃん」て言う人もいるには違いないけど、とにかく俺は、けっこういいものに愛想が尽きている。俺は、めちゃくちゃいいか、めちゃくちゃひどいかの、どっちかでいきたい。どっちでもいいんだ。

――歌詞を書く時も、そんなに危ない橋を渡るんですか?

CHRIS:歌詞に関しては、何でも感じるままさ。大嫌いって人もいるだろうが、「人を怒らせるために、こういうことを書いてみよう」とか、「こういう狙いで、こういうことを書いてみよう」とかいうのよりはマシだよ。それじゃ、味気なくなっちゃう。ハリウッド映画が当初ほど面白くないのは何故かといえば、最大公約数をターゲットにしなければならないからだ。アメリカの優れた音楽や映画が、好む人が限定されるというだけでしばしば埋もれてしまうのは残念なことだよ。わかるだろ、例えばデヴィッド・リンチしかり、ロベルト・ベニーニしかり。ほら、『ライフ・イズ・ビューティフル』っていうあの映画、恐れを知らないところが俺は大好きなんだ。万人受けはもちろんしないけど、万人受けするようにやったって上手くいくものじゃない。白紙に戻して、何もないところから始めなきゃ。

――つまり、大衆を喜ばせることは今回のレコードにおけるあなたの関心事ではないと?

CHRIS:いや! 俺たちのやってることを誰も気に入ってくれなかったら、俺もやっぱりどうかしちゃうよ。だって、誰も疎外するつもりはないんだから。ただ俺たちは、何かを心から、本当に本当に大事にすることを恐れないように心しているだけなんだ。

By Lyndsey Parker (C)LAUNCH.com

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