Alicia Keys特集’04 インタヴュー編

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2ndアルバム『ダイアリー・オブ・アリシア・キーズ』のリリースから1年。その売り上げはすでにアメリカ国内だけで300万枚を突破し、10月末現在で全米トップ20に3曲のシングルがチャートインしており(うち、アッシャーとのデュエット「マイ・ブー」が1位を獲得したばかり)、アリシア・キーズの好調ぶりは相変わらずだ。'01年のデビュー作『ソングス・イン・Aマイナー』を1,000万枚売り、グラミー5冠を達成するという破格の成功は、偶然などではなく比類なき才能が引き起こした当然の“現象”だったのだろう。

「成功に関して一番価値があることと言えば、やっぱり人々がわたしの音楽を感じてくれているという意識ね。自分の言葉や自分の想いに意味があるんだと実感できたし、自分の感情を表現することで他の人々の心も代弁できたわけだから、思っていたより世界は小さかったのよ。けれど、そもそも自分ではいわゆる“セカンドのジンクス”は感じていなかったわ」。アリシアはそんな風にこの1年を回想する。

「むしろ騒いだのはマスコミね。“ナーヴァスなのでは?”とか“怖くない?”とか散々訊かれたわ。でもわたしはナーヴァスでも怖くもなかった。なぜって、自分が作った音楽を誇りに感じていたし、前作を上回る出来の作品が完成したと知っていたから」。

確かに、音楽性にも歌詞にも彼女の成長を映し出した素晴らしいアルバムである。カニエ・ウェストティンバランドなど売れっ子プロデューサーを、あくまで自分がリードする形で起用して表現の幅を拡張。もともとショパンからノートリアスB.I.G.までという音楽的守備範囲の広さで知られる女性ではあるが、特に今作に関しては'60~'70年代のクラシック・ソウルの影響が極めて濃い。スティーヴィー・ワンダーやダニー・ハザウェイといったアーティストたちを敬愛する彼女の、強い思い入れが滲み出ている。

「とにかく、わたしが個人的に思うのは、あの時代の音楽はあまりに誠実で、楽しくて、そして大衆の鼓動そのものだったってことよ。すごく力強い音楽で、社会的・政治的な意味で、ストリートで起こっていることを直接反映していたわけ。なにしろ当時の人々は包み隠さず進んで発言したわ。だから'60年代や'70年代に生まれたかったな、と羨ましく感じたりもするの。肌の色とか様々な面で異なる人たちが団結して、世界を変えようと試みる現場を目撃できたら、素晴らしい経験になったはずだもの。今はあまりそういうことがオープンには起こらないわよね。なにもかも検閲され、みんな一定の型に押し込まれてしまって、目立ったり立ち上がって発言するのは控えるべきだとされているし……。でもわたし自身、こうして今を精一杯生きているし、かつてのようなパワーや行動が生まれ得る可能性があると信じているのよ」。

一方、8月のMTVアウォードでは前述のスティーヴィー及びレニー・クラヴィッツと共演して前者の名曲「ハイヤー・グラウンド」を歌い( 「間違いなくわたしのキャリアにおける頂点の一つね」)、その後中国の万里の長城で史上初のコンサートを行なうなど、ライヴ面でもしばしばニュースになっている彼女。中でも特に大きな話題を集めたのは、春に全米で行なった“Ladies First”なるツアーだ。ミッシー・エリオットビヨンセとアリシアという、ブラック音楽を代表する3人の女性をフィーチャーした、豪華極まりない企画である(「3人共に独立心が強くて自分のキャリアや音楽作りの主導権を握っているという共通点があるけど、一方で音楽性や人間性は全く異なるから、多様性を提供できることに惹かれたわ」)。そして、そんな一年を総括するかのように、次の作品はライヴ・アルバムになるという。

「1月にレコーディングする予定ですごく興奮してるわ。アンプラグドで、これまでの2枚のアルバムの収録曲のほかに、わたしが好きな曲、わたしをインスパイアしてくれた曲を、少し崩したスタイルでプレイするつもりよ。ナチュラルで偶発性に満ちたライヴの特性を活かして、曲それぞれのスピリットを封じ込めるってわけ」。

また音楽以外の世界でも、2ndアルバムと同名の自叙伝や詩集の出版、そして初の映画挑戦にして主役を演じるハリウッド進出も控えており、活動の場は広がるばかり。ちなみにその映画とは、女優のハル・ベリーがプロデューサーに名を連ねる作品で、アリシアやハルと同じように混血の実在の天才女性ピアニストの生涯を描いた物語なのだとか。

「わたしはいつも、“これをやるのが正しい”と自分で確信できたプロジェクトだけを選んで取り組んでいるわ。つまり心の中で“これに挑戦する準備がわたしにはできている”と言える時ね。自分が気持ちよくなければだめ。これまでに随分たくさんのオファーを断ってきたし、なんでもやりたいわけじゃないのよ。スペシャルなことだけを、自分の全てを注ぎ込めるとプロジェクトだけをやっていきたいと思っているわ」

取材・文●新谷洋子
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