【インタビュー】コブクロ「音楽は最後、口元に残る」

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■“POPである”という結果を出すために
■ 日々ミュージシャンは四苦八苦していると思います(黒田)



──ケンカもあるだろうし意見がぶつかることもあるだろうけど、ここまでの信頼関係を作り得たポイントって何だったと思いますか?

小渕:うーん…あるとしたら、かつて僕らにはふたりだけの時間があったんですね。スタッフもいない、もちろんマネージャーもいない。誰もいない。お客さんは一人二人いてくれるんですけど、それを客観視してくれる人が誰もいなかった期間が僕たちにはあったんです。それがすべてのような気もします。

──コブクロを始めた時の話ですね。

小渕:お客さんしかいなかった。その時って誰の答もないので、二人だけで毎晩話し合ってたんです。今日のストリートライブどうやったかなと。「あの時間、柱のこっち行ったとき、日なただっただろ。あれお客さん暑かったんだ、だから集まらなかった。明日は2メートルこっちの柱の陰でやろう」とか「あのとき40分歌ったけど、30分で切りあげて別の場所行けば良かったな」とか。今だったらマネージャーさんが見ててくれるところですけど、そういう人がいないと二人で考えてね。

黒田:話が長いの。

小渕:話し合いに2時間くらいかかるんですよ(笑)。30分のライブに対して2時間くらい話をする。

黒田:昼の1~2時から夜の8~9時までストリート演るでしょ? ご飯食べて夜10時くらいから夜中の3~4時までこの話をするんですよ。「それなら、こうしてああして、明日こうしよっかー?」「それでな、もう一個なんだけど…」って。

小渕:あははは(笑)



黒田:僕はただの学生だったけど、彼は社会人でバリバリの営業マンだったんで、物事の詰めて行き方をもう知っていたんですよ。こうやったら結果が出るということを知っていたから、本当に細部にわたる細かいことまで詰めていた。

──そこで基礎体力が育まれたんですね。

黒田:だから今でも「結果が出ないのは、詰め方が甘かったからだ」としか思わないんですよね。結果が出ないのには絶対に理由があるって、僕らどっかで思っているんです。「ライブが良くなかった」「思ってたよりもCDが売れなかった」…そこには理由が絶対にあるって二人で常々話しますもんね。もっとこうしたら良かった、ああしたら良かったって。

──結果が出ないときって、他人のせいにしちゃいがちですが。

黒田:僕ら二人しかいてないから。誰のせいにもできない。

──自分の未熟さを認めたくない気持ちとか。

黒田:でもねぇ、そんなん人のせいにしててもしゃあなかったもんな。それで何かが変わるんだったらそうしたかもわかんないですけど、「結果は絶対に出さないといけない」っていう状況が何年もずーっとあったんで、どんな手法をとってもいいから逆に結果を出すという意識はすごくあった。そういう意味では、普通の人より意識は強かったと思います。

──そこまでやらなきゃいけない理由って、一体何なの?

黒田:結果を出したいから。結果を出すためにやってるから。

小渕:「誰かのせいにする」って話ありますけど、僕は黒田のせいにしたことがないんです。なんて説明したらいいかな…例えばライブで「あ、いかん、あの時MC長かったな」とか「あの話しなかったら良かったな」とか自分の反省はめちゃめちゃあるんですけど、ステージ上のことで黒田のせいとか、唯一思わない人なんですよね。そして思いたくない。だからお互いしっかりやってるんだと思うんです。

黒田:今日のライブが良かったら、それは俺のおかげ(笑)。

小渕:それ、俺も思ったことあります(笑)。

黒田:いやね、これほんと大事だと思うんですよ。「俺がやったからこうなった」って両方が思っているってすごい大事。責任感があるから、絶対にこうしようっていう意識があるからそう思えるんであって、「俺のおかげでできている」と思ってなかったらもうコンビとしては成立してないと思う。「俺がやった」って常に思ってるやろ?

小渕:常に1発ファインプレーを出したい。ライブの中で1発のファインプレーを出すために、何十個もプレーするんですよね。良かったねで終わりにしたくないし、黒田のファインプレーを見たら感動する。その関係性ってあると思う。

──この2人の出会いこそ、運命というか定めなんでしょうね。

小渕:かもしれないですね。でもステージ上での緊張感は半端じゃないですよ。ライブに緊張してるんじゃなくて、お互いの今日の100点に向けての気持ちで。

黒田:ただ、ベストの結果を出したいというだけなんで。それの積み重ね。

──本来、当たり前のことなんですけど、難しいことですね。

黒田:ほんとにそう思う。僕は「いつも今日が最後のライブだ」と思い続けているんですよね。これ、きれい事じゃないですよ。ほんとにそう思ってて、活動休止の前のときもやっぱりそう思ったし、それの積み重ねで今がある。それで結果出えへんかったらしゃーない。でもこれって、絶対に結果に出るんですよ。

──誰しも頑張ってはいるんだけど、いつしか空回りしたり、歯車が狂って頑張り方がわからなくなることもあるでしょう?

黒田:みんな頑張ってはいるんです。ただ、すげえ厳しいことを言うとね、「結果が出ないのは、頑張ってるうちに入らない」って僕は思います。小渕といつも話をするのは「やっぱりPOPでなきゃいけないな」ってこと。「POPってなに?」っていつも思うんですけど、きっとそれは「万人に好かれる」っていうことじゃないですか。例えば僕が「世界で一番歌がうまくなる」ことはひょっとしたら努力次第かもしれないですけど、「世界で一番好かれるボーカリストになる」っていうのは本当に難しいんですよね。どこのジャッジでそうなるかがわからないから。だから本当にその「POP」であろうという「POPだったね」って言われるような結果を出すために、日々ミュージシャンは四苦八苦してるんだと思います。



小渕:僕、売り上げに追われる日々を365日4年間続けていたサラリーマン時代があるんですけど、調子が悪いときに人間性が出ているって言われたんです。売り上げが下がると「小渕君のまた人間性が出てきたのお」って言われ、「俺、今どうしてる?」って思うんです。「やばい、売り上げが下がってきた」ってなると、いやな自分とか、いつもと違うことをしている自分が見抜かれているんですね。調子が良くて売り上げが上がると「うん、ま、ラッキーや。ラッキーやから、こんなこと何の参考にもすんな」って言われるんです。

──……。

小渕:褒めたり分析とかしてくれないんですよ。「おお、良かったのお。ラッキー受注やのお。じゃあ今日も頑張って!」って。調子悪くなると「また小渕くんの人間性が出てきたのお」って。くっそーと思って、小さな細かい売り上げをいっぱい作っていったんです。隣の営業マンはでかいものを少数売っていて僕と売り上げは同じだったんだけど、1年中大クレームに四苦八苦していた。僕は4年間クレームは1件もなくて、その支店長はでかい売り上げを少し売るより小さなものをちょっとずつ届けろみたいなことを教えてくれていた。そうするとね、波がないんですよ。自分自身の精神状態も安定する。さっきの「頑張ってる論」で言うと、当てはまるんじゃないかなあ。調子が悪いときこそ、自分を客観的に見ないとダメっていうか。

──それが二十歳そこそこの時の経験なんですよね。

黒田:今あのときに戻っても、あのやり方をしてもう一回今のここに来れると思う。人は集まりますよ。だって、人が集まるまで帰らないんですもん。

──なるほど。

黒田:人が集まるまで喉から血出るまで歌うんです。で、翌日喉から血でてるのにまた行こうって言うんですよ(笑)。ほんま尋常じゃなかったんですって。常にストリートに出てたし、ダメだったらライブやった倍の時間くらい話し合いするし、結果が出るまで試行錯誤していろんな形を考えてやり続けるんですから、いつかは絶対に当たりますよね。

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