【コラム】ロックで笑おう、ロックを語ろう。~BARKS編集部の「おうち時間」Vol.001

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ロブ・ハルフォードのあだ名が「メタルゴッド」なら、彼が敬愛するトニー・アイオミは何ゴッドなのだろう。そう思って海外のInstagramを見ていたら、単に「ゴッド」と呼ばれていた。ブラック・サバスは一神教。またひとつ賢くなった。

◆おまけ HR/HMすごろく

私は2020年の春に音楽系の大学を卒業する、うら若きブラック・サバス信者だ。「その歳でサバス好きはさぞかし辛かろう」と言われることもあるが、学友には胎教でKISSを聴いていた子や、ロバート・プラントのモノマネがとっても上手い子、スティーヴン・タイラーを敬愛する子、THE ALFEEを信仰する子がいて、楽しい学生生活を送らせていただいた。

そんな私が最初に愛したロックスターは、サバスの髭ダンディたち……ではなく、クイーンの華麗なる4人だった。二世ファンでも、映画から入ったファンでもない。クラシック漬けな音楽科高校を卒業する間際、突然「よし! クイーンを聴くぞ!」と思い立ち、その日からファンになったのだ。その日までは“ロック”という音楽の存在自体ろくに知らなかったのに、不思議なこともあるもんである。

それにしても、クイーンほどに福利厚生が充実しているバンドはなかなか無い。まず、入門編として「アカデミー賞を獲った映画」が存在している。この時点で最強格。次に、公式YouTubeがびっくりするほど充実している。映像作品も多く、書籍も多く、ついでにブライアン・メイのSNS更新頻度も高いので、「映画から入ったファン」の定着率が高いのも当然のことだろう。

ところで、クイーンには音楽と福利厚生以外にも良いところがある。それはスキャンダラスなイメージが薄いことだ。いやその、いろんなワルいことしてきたのは皆わかってるが、戸棚に立てこもったり、火鉢を投げたり、珈琲か紅茶かで20分悩んだりと、具体的なエピソードのひとつひとつには可愛げがある。間違ってもヴォーカルがコウモリ食ったりはしない。

コウモリ食うまでは行かずとも、芸術家に変わり者が多いのは古今東西の常識である。特に、たった数秒のリフで数万人を熱狂させるロックスターは、その魅力が明後日の方向にも発揮されがちだ。だからといってコウモリの踊り食いは“明後日”どころでは済まないのだが、アレは事故なので勘弁してあげてほしい(ハト食ったのは事故ではない)。

前述のとおりクイーンは優等生なので、そこまで極端な珍エピソードは思いあたらない。ただ、冷静に考えればクイーンって“ライブの進行に合わせてヴォーカルがどんどん脱いでいく”バンドだ。フレディ・マーキュリーは「脱ぐことを前提とした衣装」を着てくる。脱ぎ方も洗練されているので、見ていて清々しい。

ベテランのクイーン・ファンは、フレディが身に纏う布の残量でライブの進行度を測るという。最後はパンツ一丁だが、パンツ一丁でも普通にカッコイイんだから凄い。まあ、パンツ一丁になってもコンプライアンス(ぼかした表現)は守られているので、やっぱりクイーンは優等生である。

そんなクイーンのブームのおかげで、ザ・ビートルズやオアシス、ブラー、ニルヴァーナ、レッド・ツェッペリンといったロックバンドの数々にも若年層のファンが増えた。嬉しいことに、ブラック・サバスの認知度も上がった。これからもサバス・ブーム目指して頑張りたい。

だが、クイーンの映画からザ・フーに若者が流入するなんて、誰が予測していただろう。2018年以降、ザ・フーには若い女性のファンがめちゃめちゃ増えている。映画『トミー』のリバイバル上映もあった。応援上映までやってた。観客は一体何を応援していたんだろう。最近はニューアルバムもリリースされたので、数年前には「ザ・フーっぽい」と言ってカーリングの試合を観ていたファンが元気になっている。

それにしても、ザ・フーこそ強烈なエピソードの宝庫だ。喧嘩は殴り合いだし、楽器はぶち壊すし。だが、破壊的なパフォーマンスに内在する芸術性や哲学性の高さは、現代日本に足りないものなのかもしれない。また、愛しさ余って憎さ1000億倍みたいなバンド内の人間関係も、とても愛されているようだ。

その中でも注目されているのは、やはりキース・ムーンの奇人っぷり。彼と言えばドラム爆破事件やスティーブ・マックイーン家への度重なる侵入等が有名だが、個人的には、可憐な野の花を丸ごと食っている映像に最もインパクトを感じた。

キースと比肩されるジョン・ボーナムも、やっぱりすごい。破壊したホテルは数知れず、音がデカ過ぎると追い出されたバンドも数知れず。ちなみに彼は、ロニー・ジェイムス・ディオのパフォーマンスを見て「あの貧相なチビ、いい声してんな!」と言い、キレられたことがある。本人は褒めたつもりだったが、一緒にいたアイオミは冷や汗をかいた。

レッド・ツェッペリンといえば、大学の講義で彼らのライブ映像が流れた際、学生たちが若干ざわついていたのが印象に残っている。何にざわついたかって、音楽ではなく、ロバート・プラントのあまりのパツパツパンツっぷりにだ。1キロでも太ったら入らなくなりそうなハイリスク・ノーリターンファッション。現代の大学生には刺激が強すぎる。

そういえば以前、1980年代にメタル界隈で起こったパツパツな鋲付きパンツブームについて、「ああいうパンツって座るとき痛くないの?」という疑問を表明した方がいた。「尻には鋲がついていないのでは?」と返すと、その方はイングヴェイ・マルムスティーンの写真を見せてくれた。彼のパンツには、尻のところまでまで鋲がついていた。

イングヴェイはスーパーテクニックとスーパーハイセンスなジャケット写真で愛されているギタリストだが、やっぱり押さえておきたいのは「俺は貴族だ、正確には伯爵だ」を筆頭とする尊大な珍発言の数々だろう。実力が伴ったビッグマウスほど聞いていて楽しいものはないし、いちいち発言に妙なセンスがあるので、落ち込んだ時にはちょうど良い。それにしても、全方位に喧嘩を売るスタイルの割に、どうしてだか憎めないのが彼の魅力だ。

そんな孤高の天才イングヴェイでも、ブライアン・メイとは仲が良い。ブライアンは音楽的な才能はもちろん、性格の良さでも有名だ。ブライアンが頼めばコージー・パウエルも「シンス・ユー・ビーン・ゴーン」を叩いてくれる。

だが一方で、ブライアンは自動開閉式のトイレに話しかけたり、新たな自撮りテクニックを編み出したり、風景写真や動画に生脚を映り込ませたりと、独特な世界観でファンを翻弄しがちな方でもある。最近は入浴法にもハマったらしい。彼、今やフレディより脱いでる気がする。

少し前には、その“生脚動画”に「俺と遊ぶために鍛えてるんだね?」的なコメントがついていた。何に驚いたって、そのコメントを書いたのがトニー・アイオミだということだ。コメントは「愛してるぜバディ」でしめくくられていた。すごい世の中になったものである。

アイオミは「ブラック・サバスいちの常識人」と言われているが、そんなのまるで「太陽表面の温度が低い部分」みたいな話だ。我々の常識に「臭い靴には植物をうえる」「犬にはとりあえず挨拶をする」「サメが釣れたらドラマーの部屋に放り込む」というものは無い。なお、彼は練習の結果、幽体離脱を習得したそうだ。

しかし、アイオミと同じバンドにはオジー・オズボーンがいる。ブライアン・メイによると、オジーは超能力があって、メイ家に生まれる赤ん坊の誕生日や体重等を予言したらしい。さすがにそれは冗談だろうと思っていたら、ちょっと前に『オジー・オズボーン、箱の中身を当てるゲームに参加。ひるむことなく全問正解』という記事が出た。マジじゃん。

ちなみに、オジーの自伝『アイ・アム・オジー』は8割下ネタ。自身の暴露ネタのみならず、他人の下半身事情や性癖までボロンボロンと喋りまくっている。ただ、一方では夭折したランディ・ローズへの想いが切々と綴られているので、胸が苦しくなる本でもある。

さて近年、ともすればロックは高尚な音楽にされがちだ。ファンに優劣をつけたり、聴き方に“正解”を求めたり、音楽自体が神格化されたり。「ライブに行ったことがない人間は真のファンとはいえない」なんて意見もあって、1997年生まれとしては肩身が狭いことこの上ない。

しかし、ロックはいつだって、リスナーの気分をブチ上げるための芸術である。聴き方に浅いも深いも無い。高尚も低俗も無い。音楽理論と歴史研究で楽曲の謎を紐解いても良いし、面白エピソードばかりを集めるのも良い。アーティストの容姿に惚れて聴き始めたって、悪いことはひとつもない。

音楽を高い壁で囲えば、やがてそれには人が寄り付かなくなり、アーティストやファンの死によって忘れられていってしまう。忘れられたときに芸術は死ぬ。クイーンだって、あの大衆向けの映画を作らなければ、ファンは減少傾向だったのだ。それは自然淘汰なのかもしれないが、私は泥まみれになりながら歴史を作った数々のアーティストの姿を、100年後の未来へと語り継いでいきたい。

それにしても、イベントの中止に延期、自粛が続く今日この頃。連日続く不安を煽るニュースの数々に、気が滅入るばかりだ。卒業式も卒業旅行も中止。新社会人になったお祝いにチケットを取った4月のライブも、開催されるかわからない。

だから、そんな今こそ、ロックを語ってみませんか。あなたが語ったそのエピソードで、新しいファンが生まれるかもしれない。あなたが紹介したその曲を聴いて、新しいロックスターが生まれるかもしれない。歴史の流れに忘れられた素敵な話が出てくるかもしれない。きつく張り詰めた誰かの心を和ませるかもしれない。

娯楽のない今は、みんなが娯楽を発信し合える今でもある。みんなが娯楽に飢えている今でもある。音楽で笑おう。笑って、音楽を愛そう。そうやって過ごすうちに、きっといいことが待っている。

文◎安藤さやか(BARKS編集部)


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