【インタビュー】大柴広己、6部作の最終章に8年間の足跡と新たな始まり「僕は一生音楽をやりたいんですよ」

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■なぜ音楽が好きですか?と聞かれたら
■一生できるからと答えるんです

──うーむ。なるほど。

大柴:それとね、今回、アルバムのジャケットが猫なんですけど、飼ってた猫が去年亡くなったんです。僕はもともと猫が好きな人間じゃなくて、人生において猫を飼うことが必要だとも思ってなかったんですけど。とあるきっかけがあって猫を飼うようになって、それからずっと一緒に暮らしてて…それがいなくなった時に、ずっと愛を注いでいたことと、愛を注いでくれていたことに気が付いて、ものすごいペットロスになったんです。最後のほうはご飯も食べられないから、注射器で口に入れて、1時間おきに起きて介護したりとか、半年ぐらいずっとやってたから。実は『光失えどその先へ』でインタビューしていただいたのがその時期で、本当にしんどかったんですけど、その子が亡くなった時に、どれだけその存在が大きかったかを知るわけですよ。

──わかります。自分も同じような経験があるので。

大柴:そのあとに新しく保護猫を迎え入れて、今はまた増えて5匹いるんですけど。でも失ってみて、それだけの幸せをくれてたんだと思った時に、人生において、自分が必要だと思っていたものではないものとか、意味がないと思っていたものが、終わってみたら実は幸せだったんだなということに気づいてしまったんですよ。それはおそらく、8年前の僕はわかってなかったことで。


──ああ、はい、実感として。

大柴:そうなんです。それが初めて、自分の中にはっきりとした感覚として生まれて、そう考えたら、人生においてやらなきゃいけないことばかりをやってるのはつまんないなと。無駄なこととか、何も意味ないこととか、そういうことをやって笑い合っていたほうが、それが結局、“あの瞬間が幸せだったな”ということになるんだなと思ったんですよね。その感覚が、僕の中では愛と呼べるものだということに気づいて、それをテーマに作ったのが今回のアルバム『LOOP 8』です。しかも、これ、全然気づいてなかったんですけど、あらためて『それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ』を聴き直したんですよ。1曲目が「ビューティフルライフ」という曲なんですけど、その歌い出しが、“やらなきゃいけないこと、それをこなすのはつまらないと思うんだ、ねぇ君はどう思う?”っていう歌詞なんですよ。ヤバくないですか?

──ヤバいです。え!?ですよ。

大柴:“えー!? ヤバッ!!”ってなりましたよ。全然気づかなかった。しかもタイトルが「ビューティフルライフ」ですよ。“ねぇ君はどう思う?”って言ってるんですよ。そして8年後、“うん、そう思う”で終わるんですよ。もうビックリして、“すげぇ!”って思いました。しかも、今回のアルバムの最後の曲(「LOOP 8」)は、6部作のアルバムのタイトルをそのまま歌詞にしてるんですよね。それが最後にあって、また「ビューティフルライフ」に戻る。そこまでがこのアルバムで、10曲入りのアルバムだと思ってるんです。つまり9曲入りだけど、10曲目に「ビューティフルライフ」がある。愛に戻る。そこまで考えてなかったんですよ。でも真面目に何かを考えると、ちゃんと点と点がきれいに結ばれるんですよ。何をしてても、ずーっとそんなことばっかり考えていた自分の音楽人生なんで。と思ったら、すごい答え合わせが向こうからやってきた。

──それは本当にすごいと思います。

大柴:ブレブレにブレまくった8年間だと思うんですよ、いろんなことがあって。でも結果的に、ブレたと思ってたら、最終的にはきれいに繋がった。たぶん、近くで見たらブレブレだけど、遠くから見ると、その方向に流れてたんでしょうね。空から見たアマゾン川みたいな(笑)。そういう感動が今回はありました。



──アルバムのリード曲は「さよならグローリーデイズ」です。これはどんなふうに?

大柴:さっきの話の続きになるんですけど、僕はメジャーを抜けてから15年ぐらい経って、今の体制になってから10年ぐらいなんですけど、今はもうサブスクだとか、アルバム単位で聴かないとか、そういう若い世代の人たちが音楽を始めてる。で、僕もそうだったんですけど、絶対売れたいと思うじゃないですか。それを掴まないとビジネスにならないという。それはもちろんわかるんですけど、でもそれって単発のシングルみたいなものだから。僕ら世代の、アルバムの良さを知ってる人間って、単発じゃなくて、アルバム単位で聴いて“なるほどな”と思ったり、人生が変わっていったり、そういうことがすごく好きな人間からすれば、単発単発で売れていって、確かにそれで人生は変わると思うけど、そのミュージシャンってどこを見てるのかな?と思うんですよ。僕が興味があるのはそこなんです。懐古主義を押し付けるつもりはまったくなくて、今のミュージシャンはすごくカッコいいと思うし、オレみたいな人間が昔話をするつもりはまったくないけど、単純に“この子はどこまで音楽をやるのかな?”って思うんですよ。僕は一生やりたいんですよね。「なぜ音楽が好きですか?」と聞かれたら、「一生できるから」と答えるんですよ。

──はい。なるほど。

大柴:音楽は一生できるし、一生向上できる。だから好きなんですよ。でも誰かにとっては、それは売れるための手段だったりとか、一生続けるとかじゃなくて、その瞬間を掴み取るものでしかない。僕もそうだったからわかるんです。ただそうやって続けていって、ふと周りに誰もいなくなった瞬間に、転がる石のようになって、“キミは今どんな気分だい?”というか。

──「ライク・ア・ローリング・ストーン」の歌詞ですね。ボブ・ディラン。

大柴:自分もメジャーをクビになった経験があるけど、その先もやっていきたいと思ったし、一瞬の打ち上げ花火よりも、手元でずっと光ってくれる線香花火みたいなものというか、その瞬間を一つずつ記録していけばいいんだなみたいな、そういう感覚に変わっていったんですよ。その感覚を持ってると、“あの頃が一番楽しかった”ではなくて、“今が一番楽しいな”という感覚になってくる。“グローリーデイズ”は栄光の日々という意味なんですけど、それって今だから。

──ああ。はい。まさに。

大柴:音楽が単発単発で聴かれて、どんどん入れ替わって、移り替わり続ける中で、取り残される人もいるし、抗う人もいるし、流されてることに気づかない人もいる。たくさんの人が通り過ぎていく中で、“自分は何を思うんだろう?” “自分にとっての栄光の日々とは何だろう?”と思う時に、人生の中でどこに照準を合わせているか?というのは究極のテーマだなと思っていて、「さよならグローリーデイズ」の歌詞は自問自答でもあると思います。この曲が心に響く人って、多くはないとは思うんですね。一回通り過ぎてないと無理だから。でも自分の中で古くならない音楽はそういうものだから、何をやっても響かなくて、もう駄目だとへたり込んだ時に、この曲が流れたら、その人は何かを感じてくれると思います。だから、アルバムの中で一番リード曲っぽくない曲をリード曲にしちゃったんですよ(笑)。

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