いい音爆音アワー vol.141「ナイス♪エレピ特集」

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爆音アワー
いい音爆音アワー vol.141「ナイス♪エレピ特集」
2023年7月12日(水)@ニュー風知空知
エレクトリック・ピアノはやはり電気を使うので、楽器の中では後発ですから、60〜70年代はまだ目新しさもあって、特にフュージョンあたりでは大いにもてはやされました。しかし図体がデカくて重く、持ち運びがけっこうたいへんな割に、どうしてもなくてはならないほどの音でもないということで、シンセサイザーが普及してくると、だんだん使われなくなっていきました。
でもその音色には、やはり他にはない独特の味わいがあって、改めて聴くとなかなかよいし、最近の若いミュージシャンたちには、逆にまた新鮮なのか、あえて使う人もチラホラいるようです。
ところで、エレピのメーカーは少なくて、「Rhodes」と「Wurlitzer」の2つでほぼ独占してきました。
元祖エレピは「Rhodes Pre Piano」というもの。第2次世界大戦中に、米国のハロルド・ローズ(Harold Rhodes)が、兵士の心の病を治療するための、ベッドでも弾けるピアノとして開発したのだそうです。その原理を活かして本格的な楽器に発展させ、1959年には「Fender」と業務提携して、「Fender Rhodes」として発売しました。
「Wurlitzer」はドイツ移民ルドルフ・ウーリッツァー(Rudolph Wurlitzer)が1853年、オハイオ州に設立した「Wurlitzer社」の商品です。1930年代はジュークボックスで有名な会社でしたが、1954年にベンジャミン・マイスナー(Benjamin Miessner)が「Wurlitzer Electronic Piano」を開発して、1983年まで生産されました。
他には、ドイツのホーナー社の「Hohner Pianet」やヤマハの「CP-70」、「CP-80」がありますが、やはりRhodesがまず圧倒的シェア、Wurlitzerを合わせると、9割以上を占めるでしょう。今回選んだすべての曲もそのどちらかです。


ふくおかとも彦 [いい音研究所]
  • ①Ray Charles「What’d I Say」

    レイ・チャールズはソウル・ミュージックを開拓したアーティストの一人です。50年代から大活躍して、アトランティック・レコードの初期の大スター。アトランティックは彼のおかげで大きくなったと言っても過言ではないでしょう。
    この曲は1959年、クラブでバンドと演奏しているうちに自然発生的にできた曲だそうで、ブルース、ゴスペル、ジャズ、ラテン(ルンバ)をミックスして再構築、リズム&ブルースの中に、「ソウル」というジャンルを打ち立てた曲とされています。
    性的なニュアンスを含むことでいくつかのラジオ局では放送が禁止されたにもかかわらず、R&Bチャート1位、ポップチャート6位の好成績。R&Bチャートでは常連だったチャールズにとっても、初めてのポップチャートTop10となりました。ポップチャートで上位にランキングされるということは白人に売れるということで、当時の黒人音楽にとってはなかなか高いハードルだったのです。
    チャールズはWurlitzerのエレピを弾いています。「エレピがフィーチャーされた最初のポップミュージック」であるとされています。

  • ②Cannonball Adderley「Mercy, Mercy, Mercy」

    キャノンボール・アダレイはジャズ・アルトサックス奏者。「Mercy, Mercy, Mercy」は、彼のバンドのキーボード奏者、後に” Weather Report”をつくるジョー・ザヴィヌルの作曲で、1966年にシングルとして発売し、全米11位のヒット。翌1967年には、“The Buckinghams”が歌詞をつけて歌入りカバーを出して全米5位。ジャズから生まれたポップスタンダードになりました。
    で、このアルバム、タイトルには「Live at "The Club"」とあるし、ライナーノーツで「シカゴのClub De Lisaで収録された」と書いてあるのですが、実はハリウッドのキャピトル・スタジオにお客さんを呼んで、ライブのように収録したものだそうです。なんでそんなことをしたかと言うと、キャノンボールとClub De Lisaの店主が友達で、ちょっと宣伝してあげたかったんだそうです。
    サヴィヌルはここではWurlitzerのエレピを弾いていますが、ふだんはRhodesの方を好んだようです。彼はジャズに初めてエレピを導入したと言われています。

  • ③Chick Corea「What Game Shall We Play Today」

    “Return to Forever”はチック・コリアがつくったバンドの名前ですが、最初はコリアが1972年9月にリリースしたアルバム・タイトルでした。
    コリアは1968年から1970年にかけて、マイルス・デイヴィスのバンドに参加していました。マイルスは先程のジョー・ザヴィヌルの「Mercy, Mercy, Mercy」での演奏を聴いて、エレピが気に入り、コリアにエレピ(Rhodes)を弾くように言いましたが、彼は最初、この楽器が嫌いだったそうです。だけど弾くうちによさが分かって、この『Return to Forever』ではRhodes1本で勝負しています。

  • ④Herbie Hancock「4 AM」

    チック・コリアとは非常に仲のよかったハービー・ハンコック。やはりマイルス・デイヴィスのバンドに、コリアの前任者として、1963〜68年まで在籍しました。実は、先程のキャノンボール・アダレイもジョー・ザヴィヌルもみんな、ある時期マイルス・バンドに参加しています。マイルスの1969年の『In A Silent Way』というアルバムなんて、ジョー・ザヴィヌルとチック・コリアとハービー・ハンコックの3人とも参加しているんです。やっぱりマイルスってすごいんですね。
    さて、ハンコックの24枚目のアルバム、1980年9月に発売された『Mr. Hands』に収録された「4 AM」という曲ですが、このアルバムは6曲中5曲が過去のアウトテイク音源に、新たにシンセを加えたものということで、この曲もシンセ以外は77年に録音されたものだそうですが、ベース:ジャコ・パストリアス、ドラムス:ハーヴィ・メイソンというコンビによるグルーヴは強力です。これをアウトテイクにしたままだったらバチが当たりますね。
    ハンコックはFender Rhodesを弾いています。ソロもバキバキやっているんですが、どうしてもジャコのベースのほうに耳を持っていかれてしまいます。

  • ⑤あおい輝彦「あなただけを」

    「元ジャニーズ」なんですけど、この人は“ジャニーズ”という(会社じゃなくて)グループの4人のメンバーの一人。グループは1962年4月結成で、会社は1964年6月創業ですから、会社よりもグループのほうが古いんです。67年いっぱいでグループは解散。この曲はソロ11枚目のシングルですが、オリコン6週連続1位という自身最大のヒットとなりました。
    作詞は元GAROの大野真澄さん、作曲が元“猫”の常富喜雄[のぶお]さん。演奏は「テイチク・オーケストラ」ということで、エレピを弾いている人の名前は分かりません。

  • ⑥Donny Hathaway「Flying Easy」

    大学でクラシックを学び、カーティス・メイフィールドのもとでキーボード奏者、作曲家、アレンジャーの仕事をこなし、しかも歌が上手かったというエリート・ミュージシャンだったのですが、1971年頃から統合失調症になって、以降はそれと闘いながらの活動でした。
    ロバータ・フラックの大学の後輩で、1972年にリリースした彼女とのデュエットアルバムが全米3位のヒットでした。しかしその翌年1973年6月に、ソロアルバム『Extension of a Man(愛と自由を求めて)』を出して以降は病気が悪化して、活動停滞。77年復帰しますが、ロバータとのデュエットアルバム第2弾を制作中に、ホテルの窓から落ちて死亡しました。33歳。自殺とされています。
    ピアノやオルガンも弾きましたが、エレピのイメージが強い人です。最後のオリジナルアルバムとなった『Extension of a Man』からエレピが活躍する「Flying Easy」という曲を選びました。Fender Rhodesを弾いています。

  • ⑦The Staple Singers「Respect Yourself」

    お父さん+姉妹3人のグループ、“The Staple Singers”。50年代から活動していますが、1968〜75年までのStax Records時代が最盛期。その最初のヒットシングルが「Respect Yourself」です。バックの演奏は“Muscle Shoals Rhythm Section”と呼ばれた白人ソウルマンたち。エレピはキーボード奏者のバリー・ベケットが弾いているはずです。たぶんFender Rhodesです。

  • ⑧The Crusaders「Spiral」

    エレピのソロの名演、その一。"The Crusaders"のキーボード担当、ジョー・サンプル。サンプルは、まだエレピという楽器が珍しかった60年代からFender Rhodesをメイン楽器にしており、この楽器のパイオニアの1人とされています。
    クルセイダーズは1961年に"The Jazz Crusaders"としてデビューして、1971年から「Jazz」をとって、Jazz-Funkと呼ばれる音楽性に変わっていきましたが、これはクルセイダーズとなってから9枚目のアルバム、1976年発売の『Those Southern Knights』の冒頭を飾るサンプル作曲の作品。

  • ⑨Jeff Beck「Scatterbrain」

    エレピのソロの名演、その二。『Blow by Blow』は、“Beck, Bogert & Appice”が1974年に解散した次の年のソロアルバムで、ソロデビューみたいなものなんですが、“Jeff Beck Group”の最初のアルバム『Truth』(1968)が実はソロ名義なんで、正しくは2ndソロ・アルバムということになります。George Martinがプロデュースしました。
    キーボード奏者はマックス・ミドルトン、彼は1970年の“第2期Jeff Beck Group”『Rough and Ready』から参加して、ベックと非常に相性のいい人ですが、彼が作曲にも参加し、Fender Rhodesでソロを弾きまくっているのが「Scatterbrain」という曲。Rhodesの「トレモロ」というエフェクトで左右に音が動き回ります。これもRhodesならではの音です。

  • ⑩Suchmos「PINKVIBES」

    冒頭で、最近の若いミュージシャンにも、エレピのテイストを好んで取り入れている人たちがいると述べましたが、この“Suchmos”もそのひとつ。2013年に横浜で結成して、2015年にデビュー。アシッド・ジャズ風のクールなダンスグルーヴを得意としているバンドなんで、エレピがよく似合います。キーボード担当のTAIHEIこと櫻打泰平がRhodesを弾いています。
    2021年10月にベースの“HSUスー”こと小杉隼太が32歳の若さで急死してから活動が止まっていますが、なんとか復活してもらいたいものです…と思ってたら、この7月に、YONCEが新バンド“Hedigan’s”を結成しましたね。

  • ⑪Official髭男dism「Rowan」

    “Official髭男dism”は2012年結成で2015年デビューと、Suchmosとほぼ同時進行で育っていったバンドですが、ブレイクしたのはヒゲダンのほうがちょっと後ですかね。2019年のシングル「Pretender」でダーッと広がって、大衆的人気は今やすごいことになっていますね。その「Pretender」が収められた、通算2作目、メジャー1作目のアルバム『Traveler』に、この「Rowan」も収録されています。ボーカル&キーボードの藤原聡がだいたいのソングライティングを担当しているのですが、この曲はギターの小笹大輔の作詞作曲。でも藤原がエレピを弾いています。で、彼は2017年にFender RhodesとWurlitzerの両方を購入したらしいのですが、この曲で弾いているのは、たぶん音色から言ってWurlitzerな気がします。

  • ⑫Adele「Right As Rain」

    これも私にとってはまだ新しいんですが、もう15年前。Adeleのデビューアルバム『19』から。
    Adeleもけっこうエレピは好きみたいで、2021年発売の最新アルバム『30』でも何曲かで使っていますが、やはり、曲のよさではこの『19』に敵わないような気がします。アルバムタイトルの数字は、制作時の年齢とされていますが、『30』の発売時は33歳なのに対し、『19』は発売の2008年1月28日時点でも19歳でした。当時誰もが驚きましたが、改めて、この歌唱と曲のクオリティを19歳の若さで身につけていたということに感心してしまいます。
    「Right As Rain」では、Neil Cowleyという人が Wurlitzerのエレピを弾いています。

  • ⑬Billy Joel「Just the Way You Are(素顔のままで)」

    この曲を収録した5th アルバム『The Stranger』の前作、『Turnstiles(ニューヨーク物語)』(1976年5月発売)が最高全米122位という結果だったので、レーベルのColumbiaは、次で売れなかったら契約解消という心づもりだったそうです。で、ビリーは最初の3作はサウンドがきれい過ぎて好きじゃなく、『Turnstiles』は自身のライブバンドに演奏してもらって、そのホットでワイルドな感じはよかったんだけど、プロデュースがいまいちだったと考え、プロデューサーを探しました。最初ジョージ・マーティンに打診すると、やるのはOKだけど、バンドじゃなくスタジオミュージシャンを使いたいということで、考えが合わず、ポール・サイモンの『Still Crazy After All These Years(時の流れに)』を手掛けたフィル・ラモーンと会い、組むことにした。これが大正解で、レコードは大ヒットしたし、その後何枚ものアルバムをラモーンが担当していくことになります。
    この曲では、ビリー本人がフェイザーのかかったFender Rhodesを弾いています。

  • ⑭The Beatles with Billy Preston「Don't Let Me Down」

    8時間ものドキュメンタリー映画「The Beatles: Get Back」でいちばん印象的だったのは、ビリー・プレストンが参加してエレピを弾き始めると、俄にビートルズの面々の目が輝き、それまでずっとトゲトゲしかったスタジオの雰囲気が一変して、なごやかになったことでした。当たり前ですが、やっぱり音楽好きなんだなーと、こちらまでうれしくなりました。
    そんなプレストンのRhodesがサウンドの要になったのが、「Get Back」とこの「Don't Let Me Down」です。その2曲のカップリングでシングル・リリースされましたが、そのアーティスト名は“The Beatles with Billy Preston”。プレストンの存在が大きかったということでしょうね。

  • ⑮Steely Dan「Babylon Sisters」

    “Steely Dan”と言えばやはりエレピのイメージは強いですよね。多くの曲でエレピを使っています。ドナルド・フェイゲン自身もエレピがメイン楽器で、Fender RhodesとWurlitzerの両方を使うそうです。
    で、その中でもエレピがとても印象的な「Babylon Sisters」を聴こうと思います。収録アルバムは7枚目、一応ラストの『Gaucho』。で、フェイゲンが弾いていると思ってたら、ドン・グロルニックというセッション・ミュージシャンでした。たぶんRhodesだと思います。

次回の爆音アワーは・・・

                        
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