いい音爆音アワー vol.142「なんちゃってレゲエ♪特集Ⅲ」

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いい音爆音アワー vol.142「なんちゃってレゲエ♪特集Ⅲ」
2023年8月16日(水)@ニュー風知空知
レゲエはご存知のようにジャマイカ生まれの音楽スタイルですが、誕生したのは60年代終わり頃で、比較的新しい。その前身のスカも50年代末からで、たとえば50年代半ばに生まれたボサノヴァより新しい。ボサノヴァの「nova」は「新しい」って意味なんだけど(「bossa」は「傾向」とか「ノリ」って感じ。だからボサノヴァは英語なら「new wave」に近いかな)。
で、70年代に入ると、本場ジャマイカのレゲエは、ラスタファリズムという宗教や反体制運動との結びついたものが多くなって、もちろんボブ・マーリィとかは好きなんだけど、まあだいたい、マジメでちょっと重い。
そこで、70年代中頃にはロンドンで「Lovers' Rock」というジャンルが出てきます。これはラブソングでサウンドだけレゲエという、主に心地よさを追求したものでした。
レゲエサウンドはとてもシンプルで、ギターやキーボードが拍の裏にアクセントを置いてオフビートを刻めばもうレゲエ、って感じなので、とても汎用性に富んでいて、だいたいどんな曲にでも合います。ボサノヴァとかサンバなどもポップミュージックのアレンジに使われることはあるけど、やはりレゲエほど融通は効きません。
なので、世の中には本物のレゲエ以外にレゲエ風のポップミュージックがたくさんありますが、そういうのを私は“なんちゃってレゲエ”と呼んでいます。
そしてレゲエサウンドってやはりカリブのイメージなんで、夏に合うってことで、ここんとこ毎年8月に「なんちゃってレゲエ特集」をやっておりまして、今回で3回目となりました。


ふくおかとも彦 [いい音研究所]
  • ①Scritti Politti「The Word Girl」

    “スクリッティ・ポリッティ”はウェールズ人のグリーン・ガートサイドが1977年に結成したバンドです。バンド名はイタリアのマルクス主義の理論家アントニオ・グラムシの著作『Scritti di Economia Politica』(政治経済論?)と、リトル・リチャードの楽曲「Tutti Frutti」(伊語で“すべて果物”。砂糖漬けにされた果物が細かく刻まれた菓子の名前)から発想しました。ガートサイドはマルクス哲学とパンク精神を信奉していたのです。
    ところが、なかなかうまくいかず、1983年になって、ニューヨーク生まれのデイヴィッド・ギャムソンとフレッド・メイハーとの3人体制になり、音楽的には「シンセを多用したファンク」というスタイルにまとまり、Virginと契約して、Arif Mardinと組んで、ようやく軌道に乗り始めます。1985年6月に発売した2ndアルバム『Cupid and Psyche 85』が全英5位のヒットとなり、日本でも大きな話題になりました。カチッとした16ビートで、シンセのいろんな音色がいろんなタイミングで飛び出してくるサウンドがとても斬新でした。ただ「The Word Girl」はそういう要素はあまりない、“なんちゃってレゲエ”です。

  • ②Twenty One Pilots「Ride」

    米国オハイオ州コロンバス市出身の2人組ロックバンドです。タイラー・ジョセフがすべての曲を書き、ボーカルといろんな楽器担当。ジョシュ・ダンはドラム担当です。この形になったのは2011年。アルバム2枚目までは自主制作でさほど売れませんでしたが、3枚目からはAtlanticレコード傘下のレーベル「Fueled by Ramen」と契約、で2015年、4thアルバム『Blurryface』で大ブレイクしました。全米1位。今やCDが売上のほとんど一部なので、売上枚数というものがよく見えなくなっていますが、史上最もストリーミングされたロックアルバムということで、その数59億回だそうです。このアルバムに「Ride」というレゲエビートの曲があります。シングルとして、全米5位までいきました。

  • ③XTC「Wait Till Your Boat Goes Down」

    XTCの、3rdアルバム『Drums and Wires』(1979)と4thアルバム『Black Sea』(1980)の間に、単独シングルとしてリリースされました。1979年、デビュー以来初めてのスマッシュヒットとなった「Life Begins at the Hop」(4月)と「Making Plans for Nigel」(9月)がいずれもコリン・ムールディングの曲だったので、リーダーのアンディ・パートリッジがちょっと焦りつつ、がんばって書いて、「XTCのHey Judeだ」と自信満々で出したのに、チャートインもしなかったという残念な“なんちゃってレゲエ”曲です。

  • ④Elvis Costello「Watching the Detectives」

    コステロの4枚目のシングルで1977年10月14日に発売されました。なので、7月に発売されたデビュー・アルバム『My Aim Is True』には収録されていませんが、11月に発売されたその米国盤には、追加収録されました。
    で、『My Aim Is True』の演奏は米国のカントリー・ロック・バンド"Clover"がやっていますが、この曲は違っていて、ベース・ドラムは"Graham Parker & the Rumour"のメンバー(アンドリュー・ボドナー:bass / スティーヴ・グールディング:drums)、キーボードはスティーヴ・ニーヴで、このあとコステロのバックバンド"The Attractions"のメンバーとなる人です。シングルはコステロにとっての初チャートインとなって全英15位でした。

  • ⑤Graham Parker & the Rumour「Hey Lord, Don't Ask Me Questions」

    次はその、Graham Parker & the Rumourの曲。レゲエというよりはスカですが。
    グレアム・パーカーはコステロよりデビューが1年早いだけ。初期のプロデューサーはともにニック・ロウだし、パブロックというひとつのシーンの中で、よく比較される存在でした。
    2枚組ライブアルバム『The Parkerilla』に収録されていますが、この曲だけライブとスタジオ収録音源の両方が入っています。

  • ⑥泉谷しげる「君の便りは南風」

    1973年9月に発売された泉谷しげるの3rdアルバム『光と影』に収録されている「君の便りは南風」という曲がレゲエで、なんと日本で最初にレゲエサウンドを導入した作品だと言われています。
    冒頭でお話したようにレゲエの誕生が60年代の終わり、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの世界デビュー、つまりアイランドからアルバム『Catch a Fire』が世界発売されたのが1973年4月ですから、たしかに73年9月の時点で、レゲエアレンジというのはめちゃくちゃ早い。泉谷も、「レゲエなんて聴いたこともなかった」と言っています。アレンジしたのは加藤和彦。演奏はサディスティック・ミカ・バンドでした。さすがです。

  • ⑦やまがたすみこ「TODAY」

    1973年に16歳でフォーク歌手としてデビューしたやまがたすみこ。1979年、編曲家の井上鑑氏と結婚して、一線からは退きました。近年のシティポップ・ブームで、彼女も再評価され、2014年10月には「Light Mellow 和モノ」シリーズのひとつとしてベストアルバム『Light Mellow やまがたすみこ』がリリースされました。その中にも収録されましたが、1977年7月に発売された8thアルバム『FLYING』が初出の、“なんちゃってレゲエ”曲です。

  • ⑧大橋トリオ「VOODOO」

    ひとりでも“大橋トリオ”、本名:大橋好規。デビューは2007年、29歳の時で、遅めだったんですが、それからもうオリジナル・アルバムだけでも15枚と、毎年のように出し続けていまして、曲、アレンジはもちろん、ピアノ、ギター、ベースは基本自分で演奏するし、ミックスまで自分でやるので、音楽的にはずーっと一貫しています。これは悪く言えば「変わり映えがしない」、でも、たぶん好きな人ならどれも間違いなく好きだろうという感じ。そのせいか、チャートのポジションも最高オリコン13位で、最低でも30位くらい。ずっと20位前後で一定しています。ちょっと珍しい存在かも。
    そんな彼の3rd アルバムで、メジャーでは1st『I Got Rhythm?』に、「VOODOO」という“なんちゃってレゲエ”曲があります。これはすべての楽器を生で本人が演奏したとのこと。歌詞だけは自分で書かないので、作詞はJoshua Katris、英語です。

  • ⑨10cc「Yvonne's the One」

    10ccのエリック・ステュアートがポール・マッカートニーと共作した「Yvonne's the One」という曲が“なんちゃってレゲエ”です。実はエリック、ポールの『Press to Play』という1986年のアルバムに参加して半分以上の曲で共作しているんですが、この曲はその時つくって使わなかったものなんです。
    で、リリースされたのは1995年6月、10ccの11枚目にしてラストのアルバム『Mirror Mirror』としてなんですが、これは、彼らが83年に解散して、92年に再結成した後の、もう日本以外では売れなくなっていた時期で、95年にavexが声をかけてつくったというもの。エリック・ステュアートとグレアム・グールドマンがそれぞれバラバラにつくったものを寄せ集めたというお茶濁しな感じの作品。ジャケットだけはヒプノシスのストーム・トーガソンの力作なんですが。しかも!なぜか米国盤には「Yvonne's the One」が入っていない。ポール・マッカートニーとの共作曲を省くなんて、何考えてるんですかね? 購入される場合はご注意を!

  • ⑩Bryan Ferry「Valentine」3:48

    Roxy Musicのラストアルバム『Avalon』のジャケット写真の中世の騎士に扮しているのが当時22歳のLucy Helmore。リードボーカル、Bryan Ferry (36)はこのアルバム発売1ヶ月後の1982年6月にHelmoreと結婚しました。翌83年にRoxyは解散し、1985年6月に発売されたのがフェリーのソロ・アルバム『Boys and Girls』。と言ってももう6枚目のソロだったんですけどね。
    そこに収録されている「Valentine」という曲が“なんちゃってレゲエ”です。リードギターをMark Knopflerが弾いています。

  • ⑪Eric Clapton「Swing Low, Sweet Chariot(揺れるチャリオット)」3:33

    1974年にリリースした「I Shot the Sheriff」が全米1位の大ヒットとなったからか、エリック・クラプトンはレゲエが好きになりまして、翌1975年の3rdアルバム『There's One in Every Crowd(安息の地を求めて)』のために、今度はジャマイカの「Dynamic Sounds Studios」で何曲か録音します。そのうちの1曲が「Swing Low, Sweet Chariot(揺れるチャリオット)」。曲は19世紀につくられた黒人霊歌で、シングルカットされました。「I Shot the Sheriff」のようなヒットとはなりませんでしたが、心地よいサウンドとそこはかとない哀愁感のブレンド具合が絶妙な傑作です。

  • ⑫KUWATA BAND「MERRY X'MAS IN SUMMER」

    1986年に原由子が産休に入り、それをきっかけに桑田佳祐は、1年限定で“KUWATA BAND”を結成しました。唯一のスタジオ・アルバム『NIPPON NO ROCK BAND』は全編英語で、確かにサザンオールスターズとは違うポップ・ロックの世界ですが、シングル4枚はいずれもアルバムには入っておらず、音楽性はサザンとさほど違わない。レーベルからの圧力かな?
    そのシングルの2枚目、「MERRY X'MAS IN SUMMER」は夏でレゲエでクリスマスです。
    なんで夏にクリスマスなのか?ですが、オーストラリアなど南半球のクリスマスのことを歌ってるのかなと思うと、歌詞に「エボシ岩」が出てくるから「?」。ただよく見ると、「エボシ岩の彼方に」となっている。オーストラリアもエボシ岩の彼方には違いない…と、再度歌詞を吟味すると、夏のクリスマスに別れたオーストラリア人の彼女のことを思う歌なのかな、と分かったような気がしたのですが、どうでしょうか?

  • ⑬松任谷由実「甘い予感」

    これは1977年にアン・ルイスに提供してシングル発売されたもののセルフカバー。アン・ルイス盤も松任谷正隆がアレンジをしていて、そちらはレゲエではなく8ビートなんだけど、やや拍の裏にアクセントがある感じ。メロディがオフビートに合うんでしょうね。ユーミン版では松任谷さんプロデュースの下、細野晴臣さんがリズムアレンジをして、完全にレゲエにしてしまいました。
    ユーミンが松任谷になってから3枚目、累計7枚目のアルバム『OLIVE』に収録されました。

  • ⑭坂本龍一&カクトウギセッション「TIME TRIP」

    坂本龍一が“カクトウギセッション”というバンドでつくった唯一のアルバム『サマー・ナーヴス』ですが、これはCBSソニーにいた橋本伸一さんというプロデューサーが坂本氏に持ちかけた企画アルバムです。橋本さんは同時期にこれ以外にも、「CBS/SONY SOUND IMAGE SERIES」と題して、細野さんとか達郎さんとか、いわゆるティン・パン・アレイ系のミュージシャンに依頼して、いろんなテーマでイメージアルバムをつくっています。その1枚『PACIFIC』は、私も昔から愛聴していました。
    で、この『サマー・ナーヴス』は橋本さんはボサノヴァでつくってと言ったのですが、坂本氏は、フュージョン・レゲエにしました。この頃の坂本氏は、YMOや、渡辺香津美のバンドKYLYN、さらに大貫妙子とか他の人のプロデュースや編曲でめちゃくちゃ忙しかったはずですが、それでもこのアルバムも充実しています。この中から特に好きな「TIME TRIP」を聴きます。安井かずみさんの作詞で、本人がヴォコーダーで歌っています。

  • ⑮細野晴臣&イエロー・マジック・バンド「ウォリー・ビーズ」

    坂本龍一は『サマー・ナーヴス』の半年ほど前に最初のソロ・アルバム『千のナイフ』(1978年10月)を出しているんですが、そのさらに半年前に細野晴臣が『はらいそ』というアルバムを出しました。ここに坂本に参加してもらったことからYMO結成に至るわけですが、このアルバムは様々なワールドミュージックをごった煮にした本人言うところの「チャンキー・ミュージック」がテーマで、「ウォリー・ビーズ」という“なんちゃってレゲエ”曲も入っています。この頃の日本でレゲエは目新しい旬の音楽だったんですね。
    で、この「ウォリー・ビーズ」のAメロが、『千のナイフ』に入っている「THE END OF ASIA」という曲のテーマメロとほぼ同じなんです。簡単に考えれば坂本氏が「ウォリー・ビーズ」を聴いて、それをいただいたのかもしれないんですが、『千のナイフ』のライナーノーツに細野さんがコメントを寄せていて、そこには「不思議な因縁」と書いてあります。「あのメロディはたしかに私も創ったし、坂本龍一も創ったのだが、それは同時に使ったとも言い直せるのだ」と。

  • ⑯Janet Kay「Silly Games(愛の玉手箱)」

    70年代になると、ジャマイカのレゲエはラスタファリという宗教運動との結びつきが強くなっていきました。そういう宗教とか政治とかと関係ないラブソングのレゲエも初期からあったんですが、ジャマイカではやりにくくなり、中心人物のアルトン・エリス(Alton Ellis)というミュージシャンはロンドンに拠点を移して、そちらでラブソング・レゲエを広めます。75年には「Lovers’ Rock」というレーベルが設立されて、それがジャンル名になっていきました。そこにいたのがデニス・ボーヴェル(Dennis Bovell)というプロデューサーです。
    さて、アルトン・エリスがミニー・リパートンの「Loving You」をラヴァーズ・ロック・バージョンにしようとシンガーを探していて、出会ったのがジャネット・ケイでした。彼女は1978年に「Loving You」のカバーでデビューして、日本ではこちらのほうが有名ですが、英国では翌年、デニス・ボーヴェルの作詞・作曲・プロデュースでリリースした「Silly Games」が全英2位他、ヨーロッパ各国でもヒットして、ラヴァーズ・ロック・ジャンル最大のヒットと言われています。

  • ⑰Diana King「I Say a Little Prayer(小さな願い)」

    ダイアナ・キングはジャマイカ出身なので、“なんちゃって”じゃないんですが、あの、ディオンヌ・ワーウィックやアレサ・フランクリンが歌ってヒットしたバート・バカラックの「I Say a Little Prayer(小さな願い)」をレゲエカバーしているので、選びました。
    さっきのジャネット・ケイもそうなんですが、この人も日本で人気が高くて、この曲が入った2ndアルバム『Think Like a Girl』も米レゲエチャート1位で、オリコン7位だけど、それ以外はチャートインしていません。やはり日本人は“なんちゃってレゲエ”好きなんですかね。ジュリア・ロバーツ主演の映画「ベスト・フレンズ・ウェディング」のエンドロールのBGM(2曲目)として使われました。
    この曲、原曲はサビに3/4が入って変拍子なんですが、さすがにレゲエではそれを避けたかったのか、2/4にして切り抜けています。

次回の爆音アワーは・・・

                        
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