スタジアムを卒業したU2の“再就職”ライヴ

ツイート
.


スタジアムを卒業したU2の“再就職”ライヴ

 

ここ最近のロック界のイコンの条件といえば、バック・トゥ・ベーシックのアルバムを出すことである(Rolling Stonesの『Stripped』しかり、Bob Dylanの『Good As I Been To You』しかり)。当然U2も、今年はアイロニーのまったく入ってないロックアルバム『All That You Can't Leave Behind』をリリースした。要チェック。

ロック・イコンのさらなる条件は、20年間続いたスタジアム・ギグに代わり、招待客のみという親近感あふれるクラブでのショウへとシフトダウンすることだ(Brixton AcademyでのMadonna、Shepherds Bush EmpireでのStonesにWhoという具合)。U2も今夜、ロンドンのソーホーで1000人ほどの観客を前にプレイした。招待客の中にはサルマン・ラシュディ(小説家。著作『悪魔の詩』の内容がイスラム社会の一部の怒りをかい、イランのホメイニ師によって死刑宣告されている)もいて、バルコニー席に鎮座ましまし、全身にスポットライトを浴びて、優雅に喝采に応えていた(ラインストーンで「アヤトラ・ホメイニ」の名をちりばめたTシャツでも着てくればいいのに、それだけの遊び心がないのはザンネン)。他にもMick Jaggerをはじめ、俳優のJohn Hurt、Adam Claytonの元ガールフレンドNaomi Campbell、それにGallagherもひとりふたりいたような……。要チェック。

このようにU2は、すべての条件を満たす正真正銘のロック・イコンだ。だが、こういうイベントを行なうのは、バンドが自らの寿命を薄々感じているという兆しなのだろうか? なにしろ、大々的なスタジアム・コンサートに続く道筋を示したアーティストは、まだいないのである。だいたい、世界最大のビデオスクリーンや人間大のレモンをやってしまった以上、これから一体何をやればいいというのだ? Bonoもどうやらそう思ったらしく、“11 O'Clock Tick Tock”の紹介の時、「今夜のオレたちは世界最高のバンドに再就職しようとがんばってるんだ」と言ったほど。Edgeのメタリック・ギターがIsland RecordsからのU2の1stシングル(もう21年前)のイントロを告げる様子を見る限り、彼らの職はまだなんとか安泰らしい。

とはいえ、この古株の反逆者たちには、もう騒ぎを巻き起こすことはできないようなのだ。あの代表曲“I Will Follow”でさえ、以前のように地面をとどろかせてはくれない。しかも、BonoはPAシステムをよじ登ることも白旗を振ることもない(他のメンバーはライヴエイドではやったが、それ以降、やめてしまっている)。長年におよぶ成功で、U2の猛々しい怒りも角が取れてしまったのかもしれないが、今でも多くのバンドが夢みるポップソング的なウケ程度は引き出すことができる。ベテランのパフォーマンスは極めて洗練されており、欠点も含めてありのままのライヴというよりは、スーパーサラウンド・サウンドのビデオを見ている気にさせられる。

物静かで穏やかなベースのAdam Claytonと、強靭で無言のLarry Mullen Jr.(Boy GeorgeはBonoに言ったとか:「まだ捜しものが見つからないの? ほらドラムの後ろよ!」)は、まじめな顔で完璧なプレイを続け、バンドをまとめている。ギターヒーローのEdgeは、頑としてあの帽子を被ったまま(もういい加減にしたら……みんな分かってるんだから)、愛器ギブソン・エクスプローラで好調なプレイをいとも簡単に聴かせる。たいしたもんだ。

だが、やはりU2のパフォーマンスはBonoであり、Bonoこそパフォーマンスなのである。インタヴューでは馬鹿げたことを話し、荒唐無稽な理屈を述べるBonoだが、ステージ上ではその存在感を認めざるを得ない。ブラックレザーに、染めたばかりの髪、必需品の大きなサングラスという格好は、少々ぽっちゃり目のRoy Orbison。“Desire”でセミアコースティック・ギターを抱えたしぐさや、“Bad”でギターが泣きを聴かせる間、前2列に手を置いた姿は、'68年カムバック当時のクールなElvisといった風情だ。

今夜の選曲にがっかりした人はほとんどいないだろう。『Achtung Baby』からの“Mysterious Ways”と“One”、それに『Rattle And Hum』からの“All I Want Is You”(“Unchained Melody”に続いて) は、今夜の感動的なクライマックスとなった。1000人のラッキーな観客も、“40”のコーラスを大合唱してU2をステージに呼び戻す。こうしてラストは'83年の名曲のプレイとなり、例のごとく、メンバーはひとり1人ステージを去っていき、最後に残ったLarryはリズムを刻みながらこう言った。「いつまで歌ったら気がすむんだい?」だが、余韻を楽しむまもなくレコードが流れてきて不意にジ・エンド。Red Rocksではこうではないのに。

 

 

この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス