今、ロックが表現できる最大級のリアル

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今、ロックが表現できる最大級のリアル


ギター・ロック・パフォーマンスの極みを見せた日本公演


RADIOHEAD JAPAN TOUR 2001
2001/10/4 横浜アリーナ

M1.National Anthem
M2.Morning Bell
M3.My Iron Lung
M4.Karma Police
M5.Knives Out
M6.Permanent Daylight
M7.Climbing Up The Walls
M8.Fake Plastic Trees
M9.Dollars And Cents
M10.Airbag
M11.Lurgee
M12.I Might Be Wrong
M13.Pyramid Song
M14.Paranoid Android
M15.Idioteque
M16.Everything In Its Right Place

【Encore1】
E1.Lucky
E2.Optimistic
E3.You And Whose Army
E4.How To Disappear Completely

【Encore2】
E5.Street Spirit
E6.The Bends
E7.Cinnamon Girl


オフィシャル・ミニ・ライヴアルバム

『アイ・マイト・ビー・ロング(ライヴ・レコーディングズ)』


2001年11月7日 日本先行発売
TOCP-65950 2,100yen(tax in)

1 ナショナル・アンセム(ライヴ)
2 アイ・マイト・ビー・ロング(ライヴ)
3 モーニング・ベル(ライヴ)
4 ライク・スピニング・プレイツ(ライヴ)
5 イディオテック(ライヴ)
6 エヴリシング・イン・イッツ・ライト・プレイス(ライヴ)
7 ダラーズ&センツ(ライヴ)
8 トゥルー・ラヴ・ウェイツ(ライヴ)

注:M8 アルバム未収録新曲
収録曲は2001年オックスフォード、ベルリン、オスロ、ヴェゾン・ラ・ロメーヌのショウより収録


10月4日、レディオヘッドの日本公演の最終日を横浜アリーナで観た。

というよりも、今回ばかりは目撃した、と言った表現の方が的確かもしれない。単なるロック・バンドの来日ライヴというフォーマットではない衝撃は、感動や感激という形容詞を遥かに凌駕した凄まじいインパクトをわたしに与えた。しかも、言葉さえ失うほど。本当の感動は言葉にならないものだ。

最近の2枚のアルバム『キッドA』『アムニージアック』の実験的な内容やセールス状況から、どんなライヴになるのだろうと興味を抱き、また来日前の各ロック・メディアの盛り上がりを聞くにつけ、心構えは準備万端にして挑んだつもりではいたが、感動はそれを大きく上回るものになった。

超満員の横浜アリーナ。オープニングアクト、クリニックの演奏が終わると'50年代のジャズ・ナンバーが響きわたり、レディオヘッド登場への雰囲気を作り始める。

メンバーがステージに姿を現わしたのは午後8時を少し過ぎた頃。ステージ両サイドに設置されたスクリーンに5人が大写しになる、その時点からすでに場内に只ならぬ存在感を表出させている。


『KID A』

TOSHIBA EMI TOCP-65777 @2,548(tax in)

1 Everything In It's Right Place
2 KID A
3 The National Anthem
4 How To Dissapear Completely
5 Treefingers
6 Optimistic
7 In Limbo
8 Idioteque
9 Morning Bell
10 Motion Picture Soundtrack
オープニング曲は『キッドA』収録の「ナショナル・アンセム」。イントロのベース音が鳴り出した瞬間から、すでに出音の重みや突き抜け方が、他とは明らかに違っている。トム・ヨークも全開だ。メンバーそれぞれが優秀なテクニックをもつミュージシャン集団であることは、これまでのCD作品からもうかがえたし、この日披露されたナンバーもほぼCDの通りに構成されていた。しかし、彼らのサウンドはそれ以前の何か。バンドのもつ無機質で扇情的という相反するテンションが作用し、そのせめぎ合いがそのままサウンドに昇華しているのだ。

ライヴ構成は、『キッドA』『アムニージアック』からのナンバーを中心に、「マイ・アイアン・ラング」「パラノイド・アンドロイド」といった過去の名曲を混ぜ合わせた現時点でのベスト的選曲。やはりファンの反応も過去のナンバーの方が良い。わたしも観る前はそれに期待し、予想していた部分があった。「ハード・アンド・ドライ」をリクエストとか。しかし、彼らのライヴに関しては、そんなセットリストへのこだわりがとても些細なことに思えてくる。メンバーが自分たちのサウンドに対してもっている絶大なる自信と力量が、見るものを圧倒し、今鳴らされている音への説得力を増幅させているのだ。特に最新2作からのナンバーにそれを強く感じた。

「ピラミッド・ソング」など数曲でトム・ヨークがピアノの弾き語りを見せてくれた他は、全て3本のギターを中心にしたアンサンブルだが、それがまた信じられないくらいに美しい。特に生で聴く「ナイヴズ・アウト」のえもいわれぬ哀愁といったらなかった。

そのステージをリードし、約2万人の視線を一手に集めていたのが、ヴォーカルのトム・ヨークである。彼の放つ危さがまた凄い。小刻みに震えながら一心不乱にマイクに向かう姿、そして彼の痛みを伴った美しい声が、心に突き刺さる。わたしはトムの顔がステージの両サイドにある大スクリーンに映し出されるたびに涙がこぼれそうになり、なるべく見ないようにこころがけたほどだ(たまに言う変な日本語は可笑しかったけど)。誰もが彼のエモーショナルな歌唱法に今ロックが表現できる最大級のリアルを感じたはずだ。実際、ファンの反応も他のライヴとは大きく異なり、一瞬たりとも隙を見せない進行が緊張感と異様な雰囲気を作り出し、演奏後の大きな拍手に変わるのだった。

この日は最終日ということもあり、アンコールでは「ベンズ」とニール・ヤングの「シナモン・ガール」のカヴァーを披露。

先ほども言ったが、最新2作からのナンバーが多く選ばれていたものの、プログレ、エレクトロニック的なアプローチではなく、ライヴでのレディオヘッドはギターバンドとして機能し、その可能を試していたような気がする。という意味ではギター・ロック・パフォーマンスの極みを見たことになる。でも、今回に限ってはそんな分析も無意味に思えてくる。これほど感動の詰まったライヴとの出会いはそうあることではないのだからである。

あれから一週間が経つ今もまだ、あの日の残像はまだ消えない。きっと一生消えないであろう、大きな衝撃であった。

文●竹中吉人

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