【特集】“KING OF NEW YORK”であるヒップホップ界を代表する2人の争い

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“KING OF NEW YORK”である
ヒップホップ界を代表する2人の争い

ヒップホップの歴史では争いが耐えない。

常にアメリカ・ビルボードの上位をにぎわす、ヒップホップ勢。いろんなアーティストが他のアーティストの作品に参加するなども客演も多く、みんな仲良くやっているのか…と思いきや、そんなことは全くないようだ。 それがまたシーンの活性化に繋がり、今のヒップホップ・シーンを支えているという見方もある。

シーンはますます大きくなり、全部は把握しきれないが 今回は9月にアルバム『The Blueprint』をリリースし、勢いがのっているJAY-Zと11月末にアルバムリリース予定のNAS、この2人とその周辺を取り巻くちょっとしたバトルの経緯をご紹介しよう。

あのマイケル・ジャクソンを味方につけよう!!!

注1
ロッカフェラ・ファミリー
アリーヤの恋人でもあったデーモン・ダッシュ(Damon Dash)、ジェイZらが立ち上げたのがロッカフェラ・レコーズ。ジェイZを始め、メンフィス・ブリーク、ビーニー・シ-ゲル(最近ジェイダキスとのビーフが話題となった)、DJクルーらが所属しており、ロッカウェアという洋服のブランドもある

注2
クイーンズ・ブリッジ周辺
モブ・ディープやナス、カポーン・ノリエガ、スクリューボールなどなど、血気盛んなハードボイルドMCを多く輩出。2000年リリースされたナスのレーベル、イル・ウィル・レコーズ第一弾リリースのクイーンズ・ブリッジ・コンピレーション『QB Finest』に魅力を凝縮している。今回の主役はモブ・ディープとナス。

注3
ジェイZ夏アンセム「IZZO(H.O.V.A)」
ジャクソン・ファイヴ「I Want You Back」を使ったこの曲は、同じネタを使って露骨なヒットを狙ったマスターPと御子息リル・ロメオへ向けられた、という説アリ

注4
フ・シュニッケンズ
'90年代前半に活躍したブルックリン出身の3人組。「La Schmoove」、「Ring The Alarm」、シャキール・オニールとのジョイント「What's Up,Doc?」などのヒット曲を持つ。メンバーのチップ・フの早口フロウが有名で、デビュー前のジェイZのラップ・スタイルが早口フロウだったことを揶揄してるのだろう。バカにされてるようなリリックだけど、何気に重要なグループ。筆者も好きです。

注5
ドゥーワップ
ミックステープ、ラジオ、クラブプレイなど、東西の地区を問わず長く第一線で活動するDJ。DOO WOP & DA BOUNCE SQUAD名義での「Bounce Master」 や、ファンクマスター・フレックスらとのユニット、フリップスクワッドとしてアルバム『Flipsquad Allstar DJs、キング・サンと組んだ「New York Love」(2パック「Californiz Love」へのアンサーソング)などのリリースがある。

注6
クイーンズ VSブロンクス時代
'80年代後半、ニューヨークのブロンクスを拠点とするKRSワン率いるB.D.P.一派と、クイーンズ・ブリッジを拠点とするMCシャン&マーリー・マール率いるジュース・クルーによる、ヒップホップ・シーンを代表する伝説のバトル。通称"ブリッジ・バトル"。

注7
ジェイZ、次のアルバム用の新曲
アルバム『The Blue Print』収録曲の「Girls,Girls,Girls」のREMIXという説あり。

注8
「オマエはマイケルを~」
ナスの初期を代表する曲「It Ain't Hard To Tell」は,マイケルの「Human Nature」がネタで使われている。

注9
フォキシー・ブラウンと共演
その後、ジェイZは「A Million And One Question (Unreleased Original Remix)」でフォクシーをディスしている。

注10
コーメガ
クイーンズのハードコアMC。初期ファームのメンバーで後に脱退(解雇?)。以降、ナスとのビーフは有名で「F*ck Nas」、「One Love」などの曲でディスしている。前述『QB Finest』で共演し、関係も修復されたかに思えたが…。

注11
かつての東西バトル
クイーンズ VS ブロンクスのバトルとは対照的な悪しきバトル。2パックやドッグ・パウンドらを中心としたデス・ロウ・クルーと、パフ・ダディらのバッド・ボーイ・クルー、そしてモブ・ディープらクイーンズの連中も巻き込んだL.A.対N.Y.の東西バトル。2パックやノトーリアスB.I.G.が殺害されてた、痛ましい戦い。

【本文中に出てくる重要スラング】

■ビーフ…
抗争 互いの憎しみや怒りの感情が巻き起こす戦い。

■ディス…
相手を挑発したり侮辱するといった他人をけなすこと。ディスリスペクト(=Disrespect)に由来するスラング。

■リプレゼント…

~を代表する 。

ロッカフェラ・ファミリー(※注1)と、プロディジーモブ・ディープ)を中心としたクイーンズ・ブリッジ周辺の連中(※注2)との間でのビーフが、そもそもの発端。(ファンクマスター・フレックスの番組でロッカフェラ・クルーがクイーンズ勢をディスったのが先か…?!?!) 

そこへロッカフェラのトップであるジェイZが顔を突っ込んでから、バトルが本格的になってきた。ロッカフェラ勢を"オカマ野郎"とコケにしたプロディジーの昔の写真を、ジェイZがライヴ中にステージの巨大スクリーンに映し出し、笑いものにするっつー意地の悪い攻撃をかましたのだ。

【 1 ROUND 】

▲コロムビアからリリースされたNASの新作『STILLMATIC』アナログ盤。CDでは11月の後半、ソニーより発売予定。
ジェイZが放った今年の夏アンセム「IZZO(H.O.V.A.)」(※注3)。それに対してクイーンズ・ブリッジから、地区を代表するMC、ナスが遂に参戦。エリックBアンド・ラキムのクラシック「Paid In Full(Cold Cut Remix)」のトラック上でラップする、その名も「Stillmatic」(a.k.a. 「H.O.M.O.」)でジェイZのことを"シスコ(SISQO)のラップ版"と一笑し、さらに「フ・シュニッケンズ(※注4)のようにラップしてた野郎、オレがお前のブループリントをデザインしてやる」とコケに。そしてフックでは「Izzo(H.O.V.A.)」のフレーズをパロって「H-to-the-izz-O、M-to-the-izz-O?」(ホモじゃねーの?)とやり込めて、ロッカフェラ勢までもディスしまくり。

【 2 ROUND 】

▲こちらはJAY-Z最新作『The Blueprint』。ビルボード3週連続1位獲得!!!
それに怒ったジェイZは先頃リリースされたアルバム『The Blueprint』の収録曲「Takeover」の中で、"エスカバー(ナスのファミリー・ネーム)家のクズ"とこれまた徹底抗戦の構えで、ナスのキャリアをバカにしまくったリリックを披露。『The BluePrint』がビルボードで3週連続一位を獲得したこともあって、風向きは少しずつジェイZの方へ傾きつつあった。

【 3 ROUND 】

そこへ再びプロディジーが登場。ドゥーワップ(※注5)のミックス・テープに収録されているフリースタイルでジェイZへ向けてまたもやディス。2001年、年末リリース予定のモブ・ディープのアルバムでも何曲かロッカフェラへの攻撃を準備しているとか。ナスも新曲「Salute Me」で再び反撃を開始する。

【 4 ROUND 】

クイーンズ・ブリッジ勢へ向け、KRSワンと組んで、クイーンズ VSブロンクス時代(※注6)のクラシック、ブギ・ダウン・プロダクション(B.D.P.)の曲「The Bridge Is Over」のリメイクをやる、という噂もあったジェイZ。どうやらこれは噂で終わりそうだが、KRSワン以上に強い味方がジェイZサイドに付く。

それはあのマイケル・ジャクソン

▲マイケル10年ぶりのアルバム」『INVINCIBLE』。こちらの先行シングルにJAY-Zリミックスが収録。
イベント<HOT 97 Summer Jam>でジェイZのステージへマイケルが登場。また、マイケルが10年ぶりにリリースしたオリジナル・アルバム『INVINCIBLE』の先行カット・シングル「You Rock My World」のリミックスにジェイZが参加、と急接近のふたり。なんとジェイZは次のアルバム用の新曲(※注7)で、マイケルがフューチャリングした曲(!)を準備していることを示唆。

「オマエはマイケルをサンプリングしてたけど、オレの曲にはマイケル本人が参加するぜ!」(※注8)

と、トドメの一撃を喰らわしたとか…。

【 FINAL ROUND ??】

N.Y.同時多発テロにより、"KING OF NEW YORK"であるヒップホップ界を代表する2人、ナスとジェイZも歩み寄るかと思いきや、全くその様子はなし。バトルの終焉もいつになるか解らないけれど、この手のバトルには眉唾モンが多いってのも事実。

アルバムを出したばかりのジェイZと、年末にアルバム・リリースを控えてるナス(&モブ・ディープ)の、壮大なプロモーション・バトルと見る向きもある。

以前、ジェイZは1stアルバム『Reasonable Doubt』の収録曲「Dead President」の中で、ナスの曲「Represent」の声を使用し、また「Ain't No Nigga」では後にナスのクルー、ファームのメンバーとなるブルックリンをリプレゼントしたフォクシー・ブラウンと共演したこともある(※注9)

また「Stillmatic」でロッカフェラ・クルーとともに攻撃されたコーメガ(※注10)は、「Realmatic」なるアンサーを準備しているようだが、先日リリースされた彼のアルバム『THE REALNESS』にはモブ・ディープが参加していたりもする。

ある意味、ヒップホップもエンターテインメントのひとつ。プロレスみたくショウアップすることでシーンを盛り上げ、そこからまた名曲が生まれてくれれば、今回のバトルも前述のクイーンズVSブロンクスのように伝説の名勝負となるだろう。しかし、かつての東西関係のようなバトル(※注11)になるのだけは避けて欲しいと願う。

文●升本 徹

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