世界を愛し、世界に愛された男が繰り広げる3時間、36曲の感動的なショウ

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<Driving USA Tour>5月5日アナハイム公演
世界を愛し、世界に愛された男が繰り広げる3時間、36曲の感動的なショウ

何千人もの観客をここまで狂喜させるミュージシャンはSir Paul McCartney以外にいない

最新アルバム

Driving Rain
東芝EMI 2001年11月12日発売
TOCP-65870 2548(tax in)

1 ロンリー・ロード
2 フロム・ア・ラヴァー・トゥ・ア・フレンド
3 シーズ・ギヴン・アップ・トーキング
4 ドライヴィング・レイン
5 アイ・ドゥ
6 タイニー・バブル
7 マジック
8 ユア・ウェイ
9 スピニング・オン・アン・アクシス
10 アバウト・ユー
11 愛するヘザー
12 バック・イン・ザ・サンシャイン・アゲイン
13 ユア・ラヴィング・フレーム
14 ジャイプールへの旅
15 雨粒を洗い流して


最新DVD

WINGSPAN
東芝EMI 2001年12月6日発売
TOBW-3035 5,250(tax in)


アナハイムのアローヘッド・ポンド・スタジアムにおける、Paul McCartneyのほぼ3時間に及ぶ36曲のコンサートも終わりに近づいた。サイケデリックなレインボーカラーのエレクトリック・ピアノに座ったMcCartneyは、熱烈な満員の観客に気さくに話しかける。

次の曲でもし一緒に口ずさみたくなったら、遠慮なくどんどん歌ってほしいな!

そういって始まったのは“Hey Jude”――かつてBeatles(名前くらい聞いたことあるんじゃない?)が不滅にした21曲の1つである。例の「na, na, na, na」のところになると、スタジアムはほとんど1人残らず歌っている。McCartneyの後ろの巨大なビデオ・スクリーンが、何千人ものにこやかなファンを会場の端から端まで映し出す。孫のいそうな年配からティーンエイジャー、幼い子供たちに至るまで、幅広い年齢層のファンが体を揺らし、ユニゾンで“Kumbaya”のように歌っている。まるで当地にあるディズニーランドの乗り物「イッツ・ア・スモール・ワールド」のロックンロール版だ。一種の神々しさを感じるばかりか、感極まって嗚咽しそうな光景。今も昔も、Beatlesがいかに偉大なインパクトを与え続けているか、改めて思い知らされる。これほど世界中にあまねく普及していると、ついついそのインパクトの大きさを忘れてしまいがちなのだ。

だが今夜は、誰もが忘れることなく、その意義をじっくりかみしめている。すでに2人が他界してその音楽を聴くことができなくなり、大勢のファンが未だ記憶に新しいGeorge Harrisonの死を悼んでいる今、元メンバーによる久しぶりの(そしておそらくは最後の)コンサートは、125ドルというチケット代さえ当然と思える超スペシャル・イベントなのだ。5月5日のアローヘッド・ポンドでの観客の熱狂的な反応を見る限り、毎晩すべてのアリーナ会場をソールドアウトにし、何千人もの観客をここまで狂喜させるミュージシャンは、世界広しといえどもSir Paul McCartney以外にいないのではないか。また彼のようなミュージシャンも、Beatlesのようなバンドも、再び世に出ることはないだろう。

今回のショウは時に、あまりに感傷的とも思える場面もあったが、自作の単純なラヴソングでさえ、いささかも恥じないMcCartneyを考えれば、それも頷ける。'82年に彼が書いた故John Lennonへ宛てた曲“Here Today”の後は、George Harrisonの最高傑作バラード“Something”を、たった1人でウクレレを弾きながら歌う。ウクレレはGeorgeが大好きだった楽器だ。2人の仲が良かった時代のモノクロ写真がビデオスクリーンに映し出される。Paulが歌い終わると、観客は1人残らず立ち上がり目を潤ませていた。

マージーサウンドの名曲“All My Lovin'”では、'60年代のヒステリックに叫ぶティーンたちと、この夜の白髪混じりになった50を越えたファンとを対比させた映像が流れ、BeatlesがJFK空港に初めて降り立ち、ブリティッシュ・インヴェイションを開始した'64年が遥か昔のことなのだと誰もが感慨深げだった。Paulがあの同時多発テロに触発されて書いた、意図は良いものの音楽的には駄作といえる新作“Freedom”でさえ、この雰囲気で聴けば感動的だ。なにしろ、自由の女神の巨大な絵が会場の天井から垂れ下がり、観客が「Paul、あなたは私たちの英雄」と書いたお手製のプラカードを掲げ、バックバンドのメンバーがアメリカとイギリスの国旗にカリフォルニア州旗を振り上げるのである。ちなみにメンバーはギターにRusty Anderson(元Ednaswap)、ベース&ギターにBrian Ray、ドラムにAbe Laboriel Jr.、キーボードにWix Wickens。

とはいえ、今夜のショウが甘ったるくセンチメンタルなだけだったわけではない。エネルギッシュで軽快な場面もたくさんあった。ただサーカス・ド・ソレイユばりのオープニングには首を傾げざるをえない。曲芸師や道化師、キモノ姿のゲイシャガール、マルディグラの仮装行列、TV番組『プリズナー』を模した巨大な風船などが延々と続くかに思えたパレードは不要だったばかりか、ロックコンサートのオープニングにはまったく似つかわしくない。金色のボディペイントをほどこしたギリシャ神話の森の妖精3人がスタジアム全体を走り回ってステージへ駆け上がる時間に、Paulは『Abbey Road』のB面を全部演奏することさえできたはずだ。

この場違いなオープニングが終わると、やっとPaulが登場し、BeatlesやWingsのファンタスティックな曲を立て続けに聴かせてくれた。“Hello Goodbye”“Jet”“Getting Better”('60年代以来ライヴでは初めて演奏される佳曲)“Coming Up”“We Can Work It Out”“Band On The Run”“Back In The U.S.S.R”“Can't Buy Me Love”“Lady Madonna”“Live & Let Die”(劇場効果を狙った演出で、往年のジェームズ・ボンドの画像や花火、ヘヴィメタル風のストロボが使われた)“I Saw Her Standing There”など。これだけの曲があればこそ、何日も続くコンサートが可能なわけだが、Paulが観客受けをねらったのは明らかで、あまり知られていない曲(つまりより新しい曲)を最小限にとどめたのは賢い選択といえる。それほど有名でない曲の中では“Vanilla Sky”がハイライトだった。

オレンジ郡ということで観客の年齢層は高め、そして比較的保守的なため、Paulもスローな曲を多く取り入れ、観客が座ってゆっくり聴くことができるよう配慮している。“Black Bird”“Maybe I'm Amazed”“Fool On The Hill”“You Never Give Me Your Money/Carry That Weight”“The Long & Winding Road”、ゴージャスなアレンジが光る“Eleanor Rigby”、さらにゴージャスな“Here, There & Everywhere”、一緒に歌えるヴァージョンの“Let It Be”、前述のとおり大いにノった“Hey Jude”、そしてアコースティック・ヴァージョンの“Yesterday”には、会場全体がしーんと静まり聴き入った。

誰もがショウが終わってほしくない思いで一杯だ。ベビーシッターに子供を預けてきた人も、翌月曜の朝は早起きして仕事に行く人も。そこへMcCartneyがこう話しかけた。「僕たちはいつか家路につかなきゃならなし、君たちだってそうなんだ」。そして最後に“Sgt. Pepper - Reprise”(「みんな楽しんでくれたかい」と歌うが、これは取り越し苦労というもの)と“The End”のメドレーで盛り上げる。“The End”には「人は愛を与える分だけ愛されるもの」という歌詞があり、それが真実なら、Paul McCartneyは深く愛されたラッキーな男だ。なぜなら今夜、この会場で、彼はこんなにも愛を与えてくれたのだから。

By Lyndsey Parker/LAUNCH.com

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