【BARKS編集部レビュー】超弩級AKG K3003が描き出す、次期エポックメイクモデルへのシナリオ

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AKG K3003を執拗なまでに聴き込み始めて早や10日が経過した。AKG K3003はオープンプライスながら予想実勢売価14万円前後という、庶民を震え上がらせるセレブリティなカナル型イヤホンである。

◆AKG K3003画像

K3003のサウンドってどんなもんよ、と耳にしたものの、飛び込んできたサウンド…その第一印象があまりに素晴らしく良かったために、セレブに屈したかの敗北感に苛まれるという、なんだかちょっと不思議な心持ち。とはいえ、そこは雑草のようなハングリー精神で「いやいや下手に第一印象がいいと、長く使っているうちにつまんなくなるもんですよ」なんて邪な思いを懐に忍ばせながら使い続けた。かれこれ10日に至り、飽きるどころかますますの鳴りっぷりを見せ、感銘を受けたまま私はもうK3003の恋の奴隷。ラヴ・バイツ!「美人は3日で飽きる」というのはウソなのね。

AKG K3003のサウンドを簡単にまとめれば、「上質」につきる。稚拙な表現だが「上質」とは、どのような状況にあっても破綻しない桁違いの余裕も意味するし、不満を生じてしまうような隙を一切見せない作り込みの品質の高さも意味する。サウンドのバランスがいいなんて当然のことで、もはや工業製品として到達すべき美しき世界を、たっぷりと享受させてくれるところに至宝の喜びと無量の価値がある。そう、マジでセレブなのだ。一流とはこういうことだと、思い知らされる逸品だ。

K3003の登場は、カナル型ヘッドホンの世界にひとつの基準/指針となるサウンドを打ち立てたことでもあると思う。常識を逸脱した価格のため、これを基準と言われても困るのだけれど、カスタムIEMのようなオーダーではなく、一般店に流通する市販モデルでもこのようなサウンドが出せるのだという事実は、今後の新製品開発に対しても明確な道筋を提示したことになる。

K3003は、ニュートラルにして万能のチューニングが施された非常にデリケートなサウンドだ。一聴して「これはいい音」と一瞬で納得させてくれる透明感と圧倒的な周波数特性を持っており、この感銘は初めてSONY MDR-EX1000を体験したときと同様の衝撃だった。

どの帯域の音もスピード感のある音で、超低域から超高域まで無駄なく素早く耳に届く。付帯音がなく、爽やかで非常に清潔感のあるサウンドだ。以前のレビュー記事(2011年9月2日)で、小さな音でもダイアミックに響かせてくれる稀有な名機としてWestone3を紹介したが、今回出会ったこのK3003も、小さな音でバランス良く過不足なく鳴らしてくれる数少ない名機のひとつでもあった。

分解能も高く、高域や低域も絶妙なバランスで鳴らし、タイトにすっきりと中域も押し出してくれる。そして通常のイヤホンとは別次元の高域のヌケの美しさは、バランスド・アーマチュアにありがちな頭打ちの閉塞感を全く感じさせないという奇跡的な音空間を作り出してしまう。音場に関しては、機種が持つ潜在能力以上に使用者の経験値や感性に左右されるため、広い/狭いという一元的な評価自体は全くナンセンスだが、アンビエントの初期反射やリバーブ成分の微細な高帯域をデリケートに描き出す、素晴らしい能力を兼ね備えているので、人によってはヘッドホン並みの音場を感じるという、化け物のようなアイテムになる。ちなみにサウンド自体のトーン・バランスを分かりやすく他社製品と比較すれば、もっとも近いバランスで鳴らすのは、やはりSONY MDR-EX1000だと思う。逆に、EX1000のサウンドには満足だが、装着感と遮音性の不満から日常使用は断念しているという人であれば、K3003は、またとない救世主になる。

K3003には、ノズルの先端に取り付けられたアコースティック・フィルターを取りかえることでサウンドのチューニングができるという、ちょっとしたカスタマイズの余地が残されている。デフォルトの「REFERENCE SOUND」と併せて、高域がブーストされる「HIGH BOOST」、低域重視の「BASS BOOST」が同梱されており、交換することで文字どおりの効果が得られる。デフォルトではハイもローも適正量だけ上手くカットしているようで、「HIGH BOOST」に取り換えるとデフォルトでカットされていたハイの抑えが弱まるために結果としてハイブーストのサウンドになる。ちょうどファイナルオーディオデザインのheavenシリーズのような鈴鳴りの高域が出るようになり、これはこれで面白い。バランスとしては「?」かもしれないが、この辺りは好みで交換してみればいいところだろう。

なお、このメカニカル・チューニング・フィルターをはずすと、すぐそこに中域と高域を担う2つのバランスド・アーマチュア・ユニットが鎮座しているのが見える。ハウジング筐体内ではなくノズル(ステム)部分に収められているため、外耳道にすっぽりと入りこむ形で、鼓膜までの距離が最短になる設計となっており、こと高域のクリアさに大きく寄与している設計なのではないかと思われる。

K3003の価格を意識すると、当然カスタムIEMが好敵手になると思うが、装着感やそのサウンドの傾向からすると、両者は全く違う方向性のもので、競合となる性質のものではない。K3003はあくまで高品質オーディオ機器であり、カスタムIEMは最高品質のモニタリングアイテムと理解するといいと思う。つまり、どちらも欲しくなりどちらも手にする価値があるということだ。

最高品質を誇るオーディオ機器として、K3003は幅広い音楽ファンに圧倒的な説得力を持つ究極の逸品だと思う。ただ、当然ながら一番の障壁は14万円というその金額だ。勝手ながらAKGには、このK3003サウンドをどれだけ安価で提供できるかへのあくなきチャレンジに期待したいし、それこそが次へ取り組むべきテーマでありK3003を生み出してしまったメーカーの責務でもあると思うのだが、いかがなものであろうか。

K3003には筐体に高精度ステンレス削り出しが用いられているが、まずは筐体の素材を変えることでのサウンドと価格のバリエーションを図るのはどうだろう。アルミやブラス、ABS素材などをバリエーションに用いれば、格段な低価格設定ができないだろうか。高級オーディオ機器のコストは指数関数的に増加していくので、素材変更で販売価格が2分の1から3分の1程度まで下がったとしても、サウンドの変化は微細で、むしろキャラクター違いと捉えることもできる気がする。なんだか、素養の高さはそのままでコストパフォーマンス絶大のモデルの誕生が予感できるじゃないか。あわせて付属品の簡素化、メカニカル・チューニング・フィルターのオプションも排除し徹底的なコストカットを施せば、そこには、庶民の手に届く市場を席巻するエポックメイクな名機の誕生が目に浮かぶ。

「音の素晴らしさは認めるが手が出ない」…そういう潜在的なオーディエンスの声を引き出し、次期エポックモデルへのサクセスストーリーを描いてほしいというのが、K3003が吸い上げたサイレント・マジョリティーの叫びだと思う。そういう意味でも、K3003は歴史を変える記念碑的衝撃の作品であると信じたいし、次作の誕生が早くも待ち遠しくて仕方がない。

text by BARKS編集長 烏丸

●AKG K3003
オープンプライス(予想実勢売価14万円前後)

●AKG K3003i
オープンプライス(予想実勢売価14万円前後)
※マイク内蔵インラインリモコン搭載モデル/対応モデル(2011年8月現在):iPhone4、iPhone3GS、iPhone3G、iPod touch(第2世代以降)、iPod nano(第4世代以降)、iPod classic(120GB/160GB)、iPod shuffle(第3世代以降)、iPad、iPad2
※Apple Store、nano・univers、RESTIRのみでの限定販売

リファレンスクラス・3ウェイ・カナルイヤホン
・バランスド・アーマチュア型×2(高域、中域)+ダイナミック型(低域)
・タイプ:密閉型
・周波数特性:10Hz~30kHz
・感度:104dB/mW
・インピーダンス:8Ω
・入力プラグ:φ3.5mm
・ハイブリッド・シース採用高純度OFCケーブル(1.2m)
・重量:10g(ケーブル含まず)
メカニカル・チューニング・フィルター付属(3種類)
・キャリング・ケース、高輝度ステンレス航空機内デュアルミニヘッドホンプラグ用アダプタ、シリコンタイプ・イヤチップ3サイズ(S/M/L)、4極→3極変換プラグ(K3003iのみ)

・リアルナンバープレート同梱

◆AKG K3003オフィシャルサイト
◆BARKS ヘッドホンチャンネル

BARKS編集長 烏丸レビュー
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◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
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◆Westone4(2011-02-24)
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◆KOTORI 101(2011-02-04)
◆ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
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◆ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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