【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.5「栃木とギョーカイと私」

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私は栃木県佐野市に生まれ育ちました。佐野市は栃木県最南部に位置し、関東にお住まいの方には変わらぬ正月CMでお馴染みの佐野厄除け大師と佐野ラーメン、そして15年前にできたアウトレットのある街です。最近では一昨年のゆるキャラグランプリだった'さのまる'や先日の肉フェスで一夜限りの復活を遂げたRED WARRIORSのダイアモンド☆ユカイさんが移住された縁で佐野ブランド大使をされていることでご存知の方も多いと思います。

川口ICから東北道を下ること40分、群馬を流れる渡良瀬川を越えると三毳山が見えてきて佐野藤岡ICで降りるのですが、その辺りの関東平野裾野から山が連なり始める風景は故郷を感じてほっとする、帰って来たなと感じる好きな景色です。

ご周知のとおり、栃木は47都道府県の中でも目立たない県です。世界遺産でもある日光はありますが、交通の便の悪さから京都ほどの観光客はありません。位置的にも中途半端と言いますか、都内へも2時間もあれば到着してしまうほどの距離のため、ミュージシャンがライブを開催してくれることが少なく、佐野市に来てくれたロックバンドは知りうる限り、たった2つ。ハウンドドッグとブルーハーツと記憶しています。当時はチケットの取り方もわからない小学生だったため、会場の搬入口付近でたくさんの大人が荷物を運んで行ったり来たりしているのを見ながら「どうやったら中に入れるんだろう?」「中では何が起きているんだろう?」と妄想に胸を膨らませるだけでドキドキし、翌日、親に連れて行ってもらったと得意げに話すクラスメイトを羨ましく思ったのでした。


高校生になってからはアルバイトをして小遣いを増やし、佐野から宇都宮へ出るのは、都内へ出るのとほぼ変わらないので、渋谷公会堂、新宿パワーステーション、NHKホール、日本武道館へ行くようになり、卒業する頃には好きなバンドを求めて地方へも追っかけまわっていました。それでも「地元開催」はその土地のファンにとっては特別な1本、スペシャルな空間となるため、好きなバンドはもちろん、ちょっと好き程度のバンドでも栃木で開催してくれるライブには学祭含めてほぼ見に行っていました。バンドブームは既に去った90年代半ば、ツアーを精力的にこなしていたバンドは現在と比べると多くあり、Thee Michelle Gun Elephant、The Yellow Monkey、BUCK-TICK、LUNA SEA、筋肉少女帯などが来てくれたのを覚えています。自分でいうのもなんですが、盛り上がらなかったときには本気で申し訳なく思ったりしてしまうような、田舎の純粋な女子高生でした。地方出身の方にはきっと頷いてもらえると思います。

「なぜ栃木にはバンドが来てくれないのか(演歌は来るのに)」という疑問は後に音楽プロダクションへ入社して解明されました。ツアーの予算、精算を担当するようになったことでツアーを、ライブを実施するのにどれほどの資金、労力、集客力が必要なのかといったギョーカイの仕組みを理解しました。その上で栃木(宇都宮)を観察したところ、都内へ呼びこめると見なされる距離、土地本来の動員の少なさ、周辺地域からの集客の見込めなさ、交通の便の悪さ…なるほど、栃木はツアーに入れてもらえないわけだ!と幼少期のモヤモヤが腑に落ちたのでした。しゅん。

栃木には地味ながら温泉も数多くあります。先月末、鬼怒川温泉の先にある奥鬼怒・川俣温泉へ出かけましたがこれまた秘湯といった風情でお湯も100%源泉掛け流しで文句なし。渓流釣りの人に愛されているとのことで多くの釣り人とすれ違いました。緑深い山々の間を鬼怒川は穏やかに流れていました。

県の特産品には「とちおとめ」や「スカイツリー」が代表格であるイチゴ、そして、かんぴょうがあります。上京して18年経ちますが、いまだにイチゴは畑で取るもの食べるものであり、スーパーで買うものとは思えません。それから宇都宮は餃子で有名ですが、佐野市には佐野ラーメンやいもフライがあります。

これまでの人生、出身者でありながら、栃木は災害とは縁遠いエリアだという認識でいました。近年の竜巻被害は気になるところですが、地震が起きても大きなもので震度5程度、さほど大きな被害もなく、特に水害に関しては、海なし県という立地のため「ないもの」と思い込んできました。

思い込みとは、自分の大切な何かを傷つけられたり失ったりして初めて自分の内に抱いていたその感情が自分勝手な思い込みであったということに気が付くもの。思い込みがよい作用を持たないことと分かっていても、なかなか改善できないのが人間の思考ですよね。しかしながら、こと災害に関しては危機管理をしているかいないかによって、被害に遭ってしまったときの被災度合いが変わることがあるような気がします。

災害列島と称されてしまう日本で生きるためには、政治には国民の安全のために必要なものは作り、人災を招く恐れのあるものは排除する人に優しい国づくりを望みつつ、個人としても、できる備えや心構えは常にしておかねばなりません。とは言え、びくびく暮らしていても仕方ないというのも事実。鬼も怒るという名の通り、恐ろしい一面を見せた鬼怒川ではありますが、悪いのは鬼怒川でも堤防のせいでもなく、異常気象です。栃木に育てられた者のひとりとして、今回の水害による鬼怒川のイメージが悪くなることを懸念しています。

鬼怒川周辺の温泉はお湯もよく、湯船からは日光連山や渓谷の四季折々の景色が望めます。静かな山中で見あげる星空には現実を忘れさせてくれる美しさがあります。栃木の湯処はどこもお薦めですが、私が特に好きなお湯は奥日光湯元の白濁の湯と馬頭温泉の透明な滑らか湯です。無論、状況が改善されてからにはなりますが、温泉好き、渓谷萌えの方にはぜひ訪れていただきたい場所ですし、私も足を運ぶつもりです。訪れた人は休暇を楽しみ、それが今踏ん張っている現地の方々を後押しすることに繋がる、そんな連鎖が起こせれば復興に寄与できるのではないでしょうか。



被害に遭われたすべての方が1日もはやく心穏やかに暮らせるよう切に願っています。

◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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