【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.74 「記憶と音」

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古い記憶を辿って思い出せるのは、叔父叔母の結婚式の日のこと。式そのものについては一切覚えていないものの、いくつかの場面は鮮明に覚えています。

新婦の控え室と思しき白く明るい部屋の中には、花嫁衣装の微笑む大好きな叔母とその傍らには叔母の実姉である私の母、嫁の周りをせわしなく動く世話役と思しき人、そしてそれを眺める私の4人がいました。窓から降り注ぐ陽の光と笑顔が溢れる部屋は多幸感でいっぱいに満たされていました。

そんな中、部屋の一角に置かれた美しい帽子に目が留まりました。淡いペールピンク色の、シースルー素材で作られたお色直しのドレスと対で作られた上品な帽子には大きな羽飾りがついていて、まるで絵本に出てくるお姫様のもののようでした。その帽子の美しさと、それに触れたいという欲望が己の最古の感情記憶です。

そのやわらかくて暖かな居心地の良い空間にうっとりと酔いしれていた感覚は今も不思議と記憶とともに蘇ってきますし、おしゃまな3歳児はその優美な帽子を被らせてもらえたようで、大きすぎる帽子の下から覗かせるはにかんだ笑みを見せる少女の写真は今も実家の古いアルバムに見ることができます。

母はその写真を見るたびに「花嫁さんが使う前に被っちゃったのよね」と笑いますが、何年経っても、何度聞かされても、我ながらほっこりするエピソードなので、いまだに黙って耳を傾けてしまいますが、今回、このエピソードを思い出したのは、先頃、鎌倉の鶴岡八幡宮にて従姉妹が結婚式を挙げたことに由来します。その日花嫁となった従姉妹の母親、つまり私の叔母が、幼き頃の私に初めて美を意識させたピンクの帽子の持ち主だったため、ふと思い出したのでした。


大安、晴れの良き日に鶴岡八幡宮で行われた神前結婚式では、伶人による雅楽演奏が式に彩りを添え、式をより厳粛なものにしていました。残念ながら私の最古の記憶は無声映画状態なのですが、時より真剣にその成り行きを見つめていた息子にも、美しい花嫁と花婿、真っ白な着物と口にひかれた紅、空の青と神社の朱のコントラスト、そしてたくさんの笑顔や幸福感など、何かしら息子の心に残ることでしょう。記憶を辿るとき、音楽はその助けを担う最強ツールであるという話を聞いたことがありますので、息子の記憶には晴れやかな従姉妹夫婦の姿とともに雅楽の音色が残るかもしれませんね。



余談ですが、鶴岡八幡宮の伶人の中のお一人に、現在お世話になっているギョーカイ関係者の義弟様がいらっしゃいます。伶人とは神職に就かれている方々が担うお役目だそうですが、ロッカーから伶人まで、音楽とは誠に様々、幅が広く、奥の深い世界です。

文・写真=早乙女‘dorami'ゆうこ

◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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