世界制覇を目指す音楽のしもべたち

ポスト
.


世界制覇を目指す音楽のしもべたち

 

Travisの2ndアルバム『The Man Who』からDavid Bowieの『The Man Who Sold The World』を連想したとしても、不思議ではない。つまるところ、このバンドの楽曲は大きなうねりを持つドラマティックなもので、震えるようにエモーショナルなヴォーカルと、想像力を喚起する歌詞に溢れているからだ。だが、Travis自身はまったく別の人物のことを心に描いていた。

これは『The Man Who Mistook His Wife For A Hat』というタイトルの本に言及したものさ。その内容はすべて、精神分裂症患者と神経学的な障害を持つ人々に関するケーススタディなんだ」とベーシストのDougie Payneは説明する。「精神分裂症は興味深い分野だし、我々にも多少は知っていることがある世界だ

とはいっても、Travisのメンバーが幻惑された精神状態に陥っているわけではない(もちろん、彼らは自分たちのことをRadioheadだと勘違いしていると非難されはしたが)。だが、彼らの音楽はさまざまな方向からリスナーへとアプローチしているので、ある一瞬にはアップビートで活発だと思えたものが、次の瞬間にはメランコリックな霧の中を漂っているということもある。Payneは「僕たちが精神分裂症に関心を持った理由のひとつは、自分たち自身が1stアルバムに「Happy」という文字通りの内容の歌と、「Falling Down」というタイトルの歌の両方を収録している事実にあるんだ」と説明した。

そしたらイギリスのプレスは“君たちは自分のことをわかっていない、それは精神分裂だ。2つの感情の間を揺れ動いている。両方を同時に経験することはできない”って言うのさ。それで僕たちは“そんなことはないよ”って反論したけどね。僕は常々、自分の状態をちゃんと分かっているっていう人に対してとても懐疑的だった。だからアルバムのタイトルを付けるときには、自分たちを傷つけようとするものを遠ざけようとするんじゃなくて、むしろ抱きしめるのが最良の方法だと決心したんだ。押しのけようとすると、もっと傷つくことになるのさ。たとえばボクサーが相手の攻撃をかわそうとするときには、敵から逃げ出すんじゃなくて、撃ってくる相手にしがみつくわけだろ

'99年にイギリスで『The Man Who』を発売して以来(アメリカでは'00年にリリースされたばかり)、Travisは数知れぬ抱擁とその他の栄誉に浴してきた。軽快なシングル「Why Does It Rain On Me?」は世界中でヒットし、現在アメリカでも称賛を集めている。加えてTravisは、Brits 2000 Awardsでベストバンドとベストアルバムを受賞した。彼らが現在Oasisのオープニングを務めている米国ツアーを終えるころには、Travisの音楽はヨーロッパの領域をはるかに越えて広がっている可能性も大きいだろう。

バンドのメンバーは自分たちの成功を喜んではいるものの、音楽を人気コンテストとは考えていない。「僕たちが有名になるとか人間として偉くなるとかいうことではないよ」とPayne。

歌を人々に届けるということが重要であって、それだけが僕らの関心事なんだ。音楽がどこであれ発信された場所から届けられたとき、受け手は音楽が主人で自分は奴隷であるという見えない契約にサインするのさ。それで、できるだけ多くの人々にその音楽を広めなければならない。本来そこが音楽の所属するべき場所だからね。これはそれを実現するためのチャンスなんだよ。バンド、ラジオ、テレビ、インタヴュー、すべては音楽を広めるための燃料にすぎないのさ

TravisがときどきコンサートでBritney Spearsの「Baby One More Time」をカヴァーするのは、これで説明がつくかもしれない。「これはゴージャスな歌だよ」とPayneは主張する。

これはBritney Spearsであれ誰であれ、歌い手というものが音楽伝達のプロセスに加担するケースのひとつにすぎないんだ。おさげ髪や学校の制服なんかにはうんざりだけど、良い曲には違いない。覚えておくべきなのは、この曲を書いた男Max Martinの名前さ。彼だってThom Yorke(Radiohead)が“Fake Plastic Trees”を、Noel Gallagher(Oasis)が“Wonderwall”を作ったときと同じように、座り込んでアコースティックギターを掻き鳴らしながら、自分のひざを見つめ、心を注いでこの曲を書いたんだ。つまり多くのポップアーティストは自分の作品の普及プロセスに関与しているというだけで、それはたいして重要な意味は持っていない。

例えば画家が展覧会に現れて、ギャラリーの中を走り回ったあげく、自分の作品の前に立ちはだかって、“見てくれ! 俺を見てくれ! 俺が描いたんだぜ! 俺って最高だろ!”なんて叫んだら、“アホか。出て行け。おまえの仕事が見えないじゃないか、おまえの描いた絵が見えないんだよ”ってことになるだろう

By Jon Wiederhorn/LAUNCH.com

 

この記事をポスト

この記事の関連情報