【BARKS編集部レビュー】万人向けの高音質は存在するのか?中庸なカスタムIEM、カナルワークスCW-L32

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2014年2月に「会心の一撃」というタイトルでカナルワークスCW-L32Vを紹介したが、今回はそのCW-L32Vの兄弟モデルCW-L32のご紹介だ。

◆カナルワークスCW-L32画像

CW-L32とCW-L32Vは全く同じドライバー構成を持っているが、ネットワークの違いによって別のチューニングが施されており、サウンドは異なっている。ボーカル領域に焦点を当てたCW-L32Vに対し、CW-L32は過不足ない中庸なトーンを持っており、スタジオ・リファレンスにうってつけのバランスが最大の魅力だ。

「CW-L12を正統進化させた心躍らせるクリアなサウンド」とオフィシャルからのアナウンスにある通り、CW-L32の魅力は、素晴らしく調和のとれたそのトーンにある。高域の伸びも必要にして十分だが歯擦音が耳に障るようなことは決してない。低域も太く重くボトムをしっかりと支えるに十分な量感を持っているが、低域過多になることもないので、低域重視の傾向にうんざりしている人にも、安心して手にできることだろう。

▲カナルワークスCW-L32。3ウェイ4バランスドアーマチュア(高域×1 中域×2 低域×1)を搭載した、2013年秋に発表された最新機種。

▲シェルカラーはガンメタリック、フェイスプレートはカスタムカラーのダークパープル。

▲シェルの加工技術も世界トップクラスにあり、フィット感は極上。

▲カナル部の音導管は2ボア仕様。

▲今回比較に用いたモデル。左からカナルワークスCW-L32、FitEar MH334、1964 EARS V6-Stage。

▲付属品は、ペリカンハードケース、ソフトケース、ワックスクリーニングツール、クリーニングクロス。

この音を聴くと、CW-L32は、ある個性をもって熱狂的な一部のファンに支持されるようなモデルではなく、不特定多数のあらゆる人に向けて最大公約数的にいい音とは何かを探求したものと思える。そして同時に、「万人向けの高品質の探求」こそ実は最も困難なテーマであり、もしかしたらCW-L32は、正解の見えない果敢すぎるチャレンジへのひとつの回答なのではないかとも思ったりもする。様々な嗜好が渦巻くカスタムIEMの世界だけに「その中心にあるサウンドはどんな音?」という素朴な疑問があるのだけれど、そんなシンプルな問いに対する回答がCW-L32なのではないかと感じている。

以前、設計者のカナルワークス社の林氏はこのように語っていた。「展示会でいろいろなお客様の試聴感想を頂いていると、目指す音は1種類じゃないなってつくづく思います。人それぞれ音楽体験も嗜好も異なりますし、そもそも同じ音を聞いていても同じレベルで聴覚から脳へ刺激を与えているかどうかわかりませんよね。まだまだいろいろな音質的アプローチをしなければならない気がします」

この発言には様々な示唆が含まれている。開発者が良しとするサウンド設計と、ユーザーが求めるサウンドとの溝は埋まるのか?ユーザーニーズに沿うのが是なのか。開発者の個人的嗜好を提示するのが是なのか。そもそもユーザーは明確な何かを求めているのだろうか?

趣味性の強いアイテムが故に、カスタムIEMは個性がはっきりしている方が評価が立ちやすい傾向にある。1964 EARS V6-Stageのような極めてニュートラルなサウンドのモデルでさえ、「鮮明さとタイトさを全面に出し、濃厚さや野太さは一切見せない」という、はっきりとしたキャラクターを持っている。“誰もがイイ音と感じてくれる非常にわかりやすいトーン”という演出に則ったサウンドの成功例であり、実際のところニュートラルなのかどうかは、どうでもいいことだったりする。リスニングに心地好ければそれでいいのだから。

そういう点で、私の耳には、CW-L32は本質的な意味でニュートラルなサウンドを追求したサウンドに聞こえる。リスニングとしての気持ちよさは結果論として付いてくるが、それ以前にスタジオ・リファレンスとして音信号を“正しく”再生することを正義とするストイックさがなんとも気持ちいいのだ。エンジニア向けに設計されたUERMですら高域寄りのバランスに聞こえるので、私の感覚もいい加減なものだけど。

ただ、オーディエンス側の感覚も振れ幅をもって揺れ動いているからこそ、サウンド追求の旅が刺激的になり、新たな発見との出会いに遭遇したりする。だからこそ楽しく面白いわけで、たくさんのイヤホンを聞いていくと、良し悪しと思っていたことが単に自分自身の好き嫌いであることに気付いたり、自分の好みを追い求めているうちに、求めていなかったサウンドへの偶然の出会いから、まさかの一目惚れのようなトーンと出会い、価値観がひっくり返ることもある。自分自身の趣味嗜好も変わることもあるだろう。

サウンドというのは、あくまで瞬間瞬間の周波数特性を積分したような物理事象だと思っていたのだけれど、実際は全ては人間の脳による知覚現象であることを思えば、スタジオ・リファレンスという定義自体も、「最も標準的な味噌ラーメンの味」を定義することと同じくらい茫洋としたものであることに気付く。どこかの歌詞じゃないけれど、正解はひとつじゃないし最高もひとつじゃない。そういう意味では、CW-L32のようなモデルをひとつのスタジオ・リファレンスとすれば、相対評価の共通言語も整理されるだろう。実際、CW-L32はカスタムIEMサウンド分布図のなかで、ど真ん中に位置する美しいバランスを誇っていると思う。

ドライバー構成は、大型の低域用ドライバ1基、中域用ドライバ2基、高域用ドライバ1基の3ウェイ4ドライバーだが、スペック的にもサウンドクオリティ的にも比較対象すべきモデルの筆頭は、日本で最も多くの愛用者を持ち高い評価を受けているFitEar MH334だろう。バランスの良さでは両者は好敵手で非常に近しいトーンバランスを持っている。ディテールにスポットを当てれば、高域の透明感はMH334の方が多少上、中低域の重厚さとボトムの重さはCW-L32のほうが一枚上手であろうか。なお、1964 EARS V6-Stageとも帯域バランスの量感は似ているが、CW-L32のトーンはもっと重心が低く、軽快さの代わりに押し出しの強さを得た感じだ。サウンドに内包されているエネルギー量がぎっしりと詰まっているイメージだ。

CW-L32は、アーティストがいわゆるイヤモニとして使用するのに理想的な使い心地になることだろう。ステージでのモニタリング、音楽制作、スタジオ現場、そして音楽鑑賞と、幅広いシチュエーションにおいて着実に適合できるモデルというのは、実は意外と多くない。音楽との接点が多い人であれば、CW-L32のストイックな設計が、色んな場面であなたを助け存分に楽しませてくれることだろう。裾野の広がったオーディオリスナーにとってのニュートラル・モデルでもあるけれど、何よりも元来のイヤモニ市場におけるスタンダードモデルの決定版と考えたほうが、CW-L32の性格を的確に言い表しているような気がする。

text by BARKS編集長 烏丸哲也

●カナルワークスCW-L32
90,286円(標準仕様、税別)
・ドライバー:3ウェイ4バランスドアーマチュア(高域×1 中域×2 低域×1)
・インピーダンス:22Ω
・感度:106dB
・ケーブル長:127cm ※1
・プラグ:ステレオミニプラグ ※2
・付属品: ハードケース、ソフトケース、ワックスクリーニングツール、クリーニングクロス
※本商品は完全受注生産品です。
※ご注文に際しまして耳型(インプレッション)の採取が必要になります。
※商品画像は製作例です。実際の製作モデル型番とは異なる場合があります。
※ハードケースはクリア(ブラックパッド)です。
※1 オプションでケーブルの種類、長さを選べます。
※2 コネクタソケット仕様を選べます。

◆カナルワークスCW-L32オフィシャルサイト
◆BARKS カスタムIEM専門チャンネル
◆BARKSヘッドホン・チャンネル


BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
■アルティメットイヤーズUE900s(2014-04-26)
■Astrotec AX60&AX35(2014-04-20)

◆CUSTOM ART Pro 330v2(2014-04-13)
●MPC Headphones(2014-04-06)
●Klipsch STATUS(2014-03-30)
●SMS Audio STREET by 50 DJ Pro Performance Headphones(2014-03-23)
◆AK240×カスタムIEM(2014-03-16)

■RHA MA750(2014-03-09)
■Meze 11 Deco(2014-03-02)
◇Astell&Kern AK240(2014-02-22)
◆1964 EARS V6-Stage(2014-02-17)
◆カナルワークスCW-L32V(2014-02-09)

◇EarPeace HD(2014-02-02)
◆Noble Audio Kaiser 10(2014-01-19)
◆Clear Tune Monitors CT-300Pro(2014-01-04)
◇KLIPSCH KMC1(2014-01-01)
■DUNU DN-1000(2013-12-30)

◆Ultimate Ears Reference Monitors(2013-12-16)
◆Ultimate Ears 11 Pro(2013-12-08)
◆earmo Tune5(2013-12-03)
●オーディオテクニカATH-OX7AMP(2013-11-23)
■音茶楽Donguri-欅(KEYAKI)(2013-11-17)

■オーディオテクニカ ATH-IM01~04(2013-10-27)
◇Astell&Kern AK10(2013-10-25)
●フィリップス Fidelio M1(2013-10-22)
◆earmo Tune4(2013-10-12)
◆Ultimate Ears Personal Reference Monitors(2013-10-05)

◆Sensaphonics 2XS(2013-09-30)
■Earsonics SM64(2013-09-23)
◆LIVEZONER41 LZ12(2013-09-15)
◆Ultimate Ears カスタムIEM全7機種(2013-09-08)
◆null audio Elpis(2013-09-03)

■FitEar Parterre(2013-08-25)
◆カナルワークスCW-L12(2013-08-17)
◆Livezoner41 LZ 4(2013-08-06)
■SHURE SE846(2013-08-02)
■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)

■Hippo ProOne(2013-07-21)
◆カナルワークス CW-L51a(2013-07-13)
■EXS X10(2013-06-24)
■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)

◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
●Meze Headphones(2013-05-08)
●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
◇ORB JADE casa(2013-04-21)

◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)

●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)

◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)

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