【BARKS編集部レビュー】X1とX2の無限ループ、VISION EARS VE6 Xcontrol

ツイート

またひとつ、魅力的なカスタムIEMが登場した。ドイツのビジョンイヤーズから発表されたVE6 Xcontrolだ。フェイスプレート上に小さなスイッチが設置されており、ひとつのモデルで2つのサウンドが楽しめるというここ最近のトレンドも実装している。

◆VISION EARS VE6 Xcontrol画像

▲VISION EARSのフラッグシップモデル、VE6 Xcontrol。

▲フェイスプレートは天然木を使用したWOODHEART OLIVE。ブランド名とモデル名が薄く刻印されている。

▲作りは非常に丁寧で、シェル内もフェイスプレートの際までアクリルで充填されている。ドライバーも配線も完全に固定されているので、接触不良などのトラブルはまず発生しないだろう。

▲フェイスプレート下部に設置されているミニスイッチが、X1とX2を切り替えるXcontrol。今はスイッチが下げられX1がセレクトされている状態。

▲写真右だけスイッチを上げてみた状態。

▲カナル先端部分はカルデラのように大きく口を開いているのが特徴。

▲付属品も豊富。ハードケース、ソフトケース、乾燥剤にクリーナー、クリーニングブラシ、標準変換ジャック、各取説、ステッカー類が同梱される。

ビジョンイヤーズは2013年設立の新しいブランドだが、もともとはコンパクトモニターズという老舗ブランドが二分したうちのひとつで、長年にわたりカスタムIEMにまつわる知見と技術を蓄積してきた連中だ。ドイツ国内でも人気は高く、既に愛用アーティストは国内外に多く存在しており、ビッグネームで言えばダフトパンクやクラフトワークなどもビジョンイヤーズを使用しているアーティストのひとりだ。

現在ビジョンイヤーズには、VE1.2、VE2、VE3、VE4、VE6という2ドライバーから6ドライバーまで5つのラインナップが用意されている。今回は、ビジョンイヤーズからフラッグシップモデルであるVE6 Xcontrolを手にしたが、そのサウンド自体も造作そのものも、強い個性と大きな特徴を有しており、数多のブランドが乱立する中で十把一絡げではくくれない注目すべきオリジナリティを持っていることがわかった。

かなりきっちりとしたシェル造形で、遮音性はトップクラスだ。シェルは隙間なく耳の凹凸に食い込むようにフィットしており、耳孔にもみっちりとした圧力を感じさせるのだけど、造形技術もずいぶんと長けているようで長時間の使用にも痛みや疲れが発生しない。シェルを見るとフェイスプレートの際部分までシェル内部ほとんどはアクリルで充填されており、ドライバーや配線関連も全てアクリル内に埋没/固定されている。この重厚さも遮音性に大きく寄与していることは間違いないだろう。特筆するような透明感のあるシェルではないけれど、全充填されていることによるレンズ効果でドライバーが大きく浮き出て見える。

サウンドも素晴らしい。非常にメリハリのある硬質なトーンで、クリアさと重たさが共存している非常に聴き応えのあるサウンドだ。硬質なトーンになると、エティモティック・リサーチER-4Sのような…カスタムIEMで言えばカナルワークスCW-L05QDに代表されるような冷徹なクールさを持つ物が多いものだけど、VE6 Xcontrolは硬質でキレキレながら重く太く重厚で図太いパンチ力がある。ズシンと骨太な質感なのだけど、鈍重さは皆無で、風を切る瞬発力とスピード感を持ち合わせていることで、多ドライバーならではの濃密さが曲調に合わせてキビキビと表情を変える。この刺激と高揚感は、他のカスタムIEMでは得られなかった目新しさだ。

このあたりのサウンドは、「十二分なローエンドと伸びやかなハイをしっかりと確保した上で、どこまで中域を充実できるか」という最新の音作りから到達し得たトーンバランスに感じる。2013年中頃から登場してきた多ドライバーのハイエンドモデルのポイントは、中域の充実度をどのように捉えるかで評価が左右されるものと考えられる。

ちなみにこういう音は、現代的なサウンドとの相性もさることながら、1970~1980年代のクラシック・ロックの初版CDにありがちな眠い音源に対して大活躍を見せてくれる。1980年代中後期に初CD化された往年の1970~1980年代洋楽クラシックロックものなどは、ゲインも低くマスタリングも今ひとつでどうにもメリハリの足らないもっさりした音源が多いのだけど、それらをこのVE6 Xcontrolで聴くと、適度なキレと共に中低域の高密さが前面に押し出され、高テンションに元気よくパワフルに再生してくれる。音源が多少悪かろうと、勢いでノリよく聴かせてしまうパワー感が凄い。このあたりは、Noble AudioのKaiser10が持つキャパシティの大きさと相通じるところでもある。

オフィシャルサイトをご覧いただくと分かることだが、6ドライバーを搭載したVE6というモデルには、チューニング違いでX1とX2という2種類のバリエーションが用意されている。いずれも1499ユーロだが、両方搭載してスイッチで切り替えられるようにしたのがXcontrolというモデルである。1899ユーロと価格はぐんと上がってしまうが、やはりどうせ作るならXcontrolに限る。違う音に切り替えられることが想像以上に楽しく、2モデルを同時に手に入れたお得感がなんとも嬉しいのだ。

スイッチを下に下ろすとX1の状態になる。グッと重心が低くパワー感と押し出しの強さが出るセッティングで、目をみはるほどの中低域の充実を見せる。実在感のあるトーンで、ロック~ポップスには最高の相性で、ノリの良さが前面に伝わるセティングとなる。

その状態からスイッチを上に上げるとX2モードとなる。トーンバランスに大きな変化はないが、体重が軽くなったようなすっきりした音像に早変わりする。音場がぐんと広がり、オーケストレーションやライブ音源などアンビエンスの効いた作品が心地よいサウンドだ。軽快なバランスで適度な硬さもあるので、ヌケもよく各帯域の細かい音も自然に耳に飛び込んでくる自然さがある。X1では暑苦しいと思うときにX2が心地よく、X2では物足りないという時にX1がいい仕事をするという無限ループが、Xcontrolの醍醐味だ。

それなりに高額だが、それに見合った満足度と他では味わえない個性と魅力を持ったモデルだ。いくつものカスタムIEMを持っているジャンクな貴兄であればこそ、是非とも手にしてもらいたいモデルのひとつ。この味、クセになります。

text by BARKS編集長 烏丸哲也

●VISION EARS VE6 X1:1499 EUR*
●VISION EARS VE6 X2:1499 EUR*
●VISION EARS VE6 Xcontrol:1899 EUR*
*including 19% german VAT
・ドライバー:4ウェイ6ドライバー
・感度:122 dB SPL at 1mW
・周波数特性:10 Hz - 18 kHz
・インピーダンス:20Ω(1kHz)
・シャル:ハードアクリル
・ケーブル:着脱式2ピン金メッキプラグ、138cm
・付属品:デラックスアルミケース、乾燥剤、クリーニングスプレー、クリーニングブラシ、変換プラグ

◆VISION EARS VE6 Xcontrolオフィシャルサイト
◆BARKSヘッドホン・チャンネル
◆BARKS カスタムIEM専門チャンネル


BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
■Fidue A81(2014-05-17)
◆カナルワークスCW-L32(2014-05-04)
■アルティメットイヤーズUE900s(2014-04-26)
■Astrotec AX60&AX35(2014-04-20)

◆CUSTOM ART Pro 330v2(2014-04-13)
●MPC Headphones(2014-04-06)
●Klipsch STATUS(2014-03-30)
●SMS Audio STREET by 50 DJ Pro Performance Headphones(2014-03-23)
◆AK240×カスタムIEM(2014-03-16)

■RHA MA750(2014-03-09)
■Meze 11 Deco(2014-03-02)
◇Astell&Kern AK240(2014-02-22)
◆1964 EARS V6-Stage(2014-02-17)
◆カナルワークスCW-L32V(2014-02-09)

◇EarPeace HD(2014-02-02)
◆Noble Audio Kaiser 10(2014-01-19)
◆Clear Tune Monitors CT-300Pro(2014-01-04)
◇KLIPSCH KMC1(2014-01-01)
■DUNU DN-1000(2013-12-30)

◆Ultimate Ears Reference Monitors(2013-12-16)
◆Ultimate Ears 11 Pro(2013-12-08)
◆earmo Tune5(2013-12-03)
●オーディオテクニカATH-OX7AMP(2013-11-23)
■音茶楽Donguri-欅(KEYAKI)(2013-11-17)

■オーディオテクニカ ATH-IM01~04(2013-10-27)
◇Astell&Kern AK10(2013-10-25)
●フィリップス Fidelio M1(2013-10-22)
◆earmo Tune4(2013-10-12)
◆Ultimate Ears Personal Reference Monitors(2013-10-05)

◆Sensaphonics 2XS(2013-09-30)
■Earsonics SM64(2013-09-23)
◆LIVEZONER41 LZ12(2013-09-15)
◆Ultimate Ears カスタムIEM全7機種(2013-09-08)
◆null audio Elpis(2013-09-03)

■FitEar Parterre(2013-08-25)
◆カナルワークスCW-L12(2013-08-17)
◆Livezoner41 LZ 4(2013-08-06)
■SHURE SE846(2013-08-02)
■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)

■Hippo ProOne(2013-07-21)
◆カナルワークス CW-L51a(2013-07-13)
■EXS X10(2013-06-24)
■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)

◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
●Meze Headphones(2013-05-08)
●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
◇ORB JADE casa(2013-04-21)

◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)

●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)

◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)

この記事をツイート

この記事の関連情報