【BARKS編集部レビュー】ピュアオーディオ・ブランドの真骨頂、Adagio IIIに見るファイナルオーディオデザインの新機軸

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2011年10月29日に開催された<秋のヘッドホン祭2011>で、多くの来場者から注目を集めていたファイナルオーディオデザインのニューモデル、Adagio(アダージョ)シリーズが正式に発表された。2年もの開発期間を経て完成したという8mmドライバーユニットを搭載したダイナミック型モデルで、これまでのどのモデルとも似ていない完全なる新製品だ。

◆Adagio画像

▲Adagio V

▲Adagio III(RED & WHITE、BLACK)

▲Adagio II(CREAM、INDIGO、BLACK)

Adagioシリーズには、Adagio V、III、IIの3つのラインナップがあり、全て12月上旬に同時発売となる。各々材質、構造、形状に違いがあり、価格にも大きな差があるのだが、興味深いのは全てに同じドライバーが使用されているという点。つまりハウジングの違いだけでこれだけ音質やサウンドクオリティーに違いが出るのだという事実を、真正面から突きつけることとなる。<秋のヘッドホン祭2011>の会場での試聴においても、これらは同じドライバーとはとても思えないサウンドの違いを放っていた。その事実に愕然としながらも、このサウンドコントロールの技こそがピュアオーディオ・ブランドの真骨頂なのかと、いたく感服したところでもあった。

実はAdagio IIIをこっそり入手し、しばらく聞きこんできたのだけれど、こいつがまた、どこのどれとも全く似ていない、完全な新世界を描き出すとんでもないブツだった。今まで食べたことのない美味しい料理に出会ったような喜びに似てプチ興奮状態なのだけど、何の味と表現すればいいのか整理が付かずどうにも落ち着かない。サウンドの秘密を嗅ぎつけようと聞き込んでいるものの、どうにも私の理解などでは到底及ばぬ、やんごとなき領域で生まれいずるサウンドのようだ。

Piano Forteシリーズもぶっ飛びの個性派だし、heavenシリーズもワンアンドオンリーのクリアさを誇る稀有な存在だが、このAdagioの個性っぷりは、さらにそれらの上をいく。ファイナルオーディオデザインってホントなんなんだろ。相変わらずクレイジーだ。

ダイナミック型のPiano Forte X、IX、VIIIは、室内で鳴らすスピーカーのような芳醇なサウンドを提供する超個性派で、バランスドアーマチュアによるFI-BA-SS/heavenシリーズは透き通るようなクリアなクリスタルサウンドを放つ製品だ。両者の詳細は下記の過去のレビューをご参照いただきたいが、この2シリーズのトーンは言わば両極に位置するもので、音質だけを見るならば同じブランドとはとても思えぬほどのキャラクターに開きがある。そんな中でAdagioは、まさにPiano Forte系とheaven系を線と線で結ぶ、どちらの要素も兼ね備えた独特のサウンドを持って誕生してきたようだ。

まず、混乱した要因その1だが、私の大好きな澄みわたるような鮮烈な高域のFI-BA-SSやheavenのサウンドは、バランスドアーマチュア・ドライバーの特性/チューニングによるものとすっかり思いこんでいた。…のだけど、あの超高域まで伸びていく至高の心地よさと全く同質のトーンが、Adagio IIIにもがっつり再現されていた。「え?あの高域はBAだから、だったんじゃない…の?」と困惑。あの高域表現は、どうやらファイナルオーディオデザインの“BAM機構”によるものだったらしい。マジか。いや、それとも新ドライバーが取り込んだ特徴なのか?

頭の中に茫洋と出来上がっていた私のサウンドと構造との相関関係/ロジックは早くも崩壊。無念。

そして混乱の要因その2は、そんな高域と見事に共存している、桁違いに芳醇な低域の存在である。ハイブリッド構造をもって思いっきり振りきれたチューニングで叩き出されたAtomic FloydのSuperDartsの低域を、軽く凌駕しているというこれまた信じがたい低域のお出ましだ。

「強烈な…」と安易に表現するのは適切ではなく、圧倒的な量感という言い方もピンとこない。“ものすごい量”なのだけれど、迫力で圧倒しようという意思は感じず、低域の性格自体は非常に控えめ。トーンは柔らかいのだが抜けは良く締っており、たっぷりのアイダーダックダウンの羽毛布団に包まれているような芳醇な暖かさを持っている。要するに、このサウンドバランスって、イヤホンはおろかヘッドホンでもなく、もはや完全にスピーカーから出ている音に聴こえる。目の前に高級オーディオを鎮座させて、目をつぶって聞いている時と同じようなバランスで、身体全体で音楽を受けとっているような錯覚を思わせる低域だ。何というか…手品を見せつけられているような、ちょっとにわかには理解しがたい疑似体験とでも言うべきか。

ピュアオーディオには全く見識のない私だけれど、芳醇なサウンドが自分を包み込んでしまう不思議なこの感覚からは、Piano Forte X、IX、VIIIだけが放つリスニング環境と全く同じ匂いがする。

▲ファイナルオーディオデザインの個性派イヤホンたち。左上からPiano Forte IX、FI-BA-SS、 heaven S、heaven A、そしてその下がAdagio III RED & WHITE。

Adagio IIIはおおよそ5,980円前後、Piano Forte Xは想定価格22万円。価格には2ケタもの差があり、質感にも相応の差はあるが、間違いなくファイナルオーディオデザインというブランドの持つ個性を色濃く放ち、他の追従を許さない孤高のサウンドを持ち合わせている。ヘッドホン/イヤホン百花繚乱の時代にあって、これほどの個性を放つ商品を生み出す力は、やはりピュアオーディオに根差したストイックなトップブランドというところか。追求への凄みを見せつけられた感じだ。

もちろんAdagio IIIにもウイークポイントはある。ABS素材の軽さはそのままサウンドにも表れていて、決して濃密なサウンドではないし、むしろ軽く深みはない。分解能も高いわけではなく、モニターのようにディテールを楽しむ聴き方には全く適さない。中域は多少引っこんでおり、万能なバランスとは言いにくい。だからこそ個性とサウンドの面白さは抜群で、実に魅力的なモデルだとも言えるのだけど。

▲Adagio III。メーカースタッフはジェットという愛称で呼んでおり、確かにジェットエンジンのような形状をしているが、立ててみると流氷の天使クリオネに似ていてちょっと可愛ゆし。非常に軽量で、遮音性も高い。

もうひとつ、十分に注意すべきなのは、ケーブルのタッチノイズが猛烈に乗る点だ。ノイズが筐体を振るわせているかのようで、筐体の軽さやABSの薄さが影響してしまっている気がする。エティモティック・リサーチの名機ER-4のノイズと同等とイメージした方がいい。

一貫した哲学から産み落とされたファイナルオーディオデザインの神髄によって、超絶な低域と高域をいとも簡単に再生してしまうAdagio III。はて、Adagio VとAdagio IIは、さらにどのようなチューニングが施されているのか、実に楽しみだ。ことVに関しては、販売ギリギリまで仕様変更が図られ、<秋のヘッドホン祭2011>時の試聴モデルからは筐体の大きさそのものも大きく変わっている。

最終販売モデルが出揃った時点で、改めてAdagio3兄弟をじっくりと聞き込み、新たに加わったファイナルオーディオデザインの豊かな色彩を存分に楽しみたいところだ。

text by BARKS編集長 烏丸

【註】2011年11月28日追記:発売ギリギリまで品質向上の開発は続いており、ケーブル素材の変更によりタッチノイズは大幅に軽減された模様。もはやAdagioに死角なしか?発売をお楽しみに。

※着目ポイント
●Adagio V
・オープン価格(市場想定価格12,800円前後)※
・2011年12月初旬予定
・筺体素材:ステンレス削り※
・感度:100dB
・インピーダンス:16Ω
・コード長:1.2m
・重量:16g
・同梱品:キャリーケース※、イヤーパッド(S/M/L)、保証書
・保証期間:購入日より1年間

●Adagio III(RED & WHITE、BLACK)
・オープン価格(市場想定価格5,980円前後)※
・2011年12月初旬予定
・筺体素材:ABS※
・BAM(Balancing Air Movement)設計※
・感度:100dB
・インピーダンス:16Ω
・コード長:1.2m
・重量:10g
・同梱品:イヤーパッド(S/M/L)、保証書
・保証期間:購入日より1年間

●Adagio II(CREAM、INDIGO、BLACK)
・オープン価格(市場想定価格3,980円前後)※
・2011年12月初旬予定
・筺体素材:ABS※
・感度:100dB
・インピーダンス:16Ω
・コード長:1.2m
・重量:10g
・同梱品:イヤーパッド(S/M/L)、保証書
・保証期間:購入日より1年間

◆ファイナルオーディオデザイン・オフィシャルサイト
◆Piano Forte IXレビュー記事(2011-05-06)
◆heavenレビュー記事(2011-03-11)

BARKS編集長 烏丸レビュー
◆Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
◆Reloop RHP-20(2011-11-22)
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◆Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)
◆SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
◆JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
◆BauXar EarPhone M(2011-10-10)
◆SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)
◆AKG K3003(2011-09-18)
◆Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
◆Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
◆Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
◆ORB JADE to go(2011-08-22)
◆YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
◆NW-STUDIO(2011-08-09)
◆NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
◆Westone ES5(2011-07-21)
◆SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
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◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
◆GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◆SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
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◆SHURE SE215(2011-05-13)
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◆ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
◆ローランドRH-PM5(2011-04-23)
◆フィリップスSHE9900(2011-04-15)
◆JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◆フォステクスHP-P1(2011-03-29)
◆Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
◆ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
◆Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
◆Westone4(2011-02-24)
◆Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
◆KOTORI 101(2011-02-04)
◆ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
◆ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
◆SHURE SE535(2011-01-13)
◆ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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