【徹底分析】ノラ・ジョーンズ主要部門独占にみるグラミーの今

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ノラ・ジョーンズ主要部門独占にみるグラミーの今

文●沢田太陽

ポジティヴにもネガティヴにも解釈できる今回の結果 

第45回グラミー賞関連ニュース

受賞者リスト
(主要部門/ポップ/ロック)


受賞者リスト
(R&B/ラップ/カントリー/ジャズ)


ノラ・ジョーンズ
主要4部門を含む8部門を制覇


ディクシー・チックス
3つの受賞を家族で分かち合う

サイモン&ガーファンクル
功労賞を受賞。10年ぶりに共演

エミネム
影響を受けたアーティストに
敬意を表する


インディア・アリー
ついにグラミーを獲得


アシャンティ
子供たちと「Dreams」を熱唱


ノー・ダウト
「Hey Baby」で最優秀ポップ・
グループを受賞

ビージーズ
レジェンド賞が贈られる

リンプ・ビズキット
フレッドとS.クロウ、NARAS会長が
“戦争発言禁止”騒動についてコメント


ノラ・ジョーンズ
自分の音楽が“ポピュラー”と思われた
ことに驚き


ジョン・メイヤー
最優秀男性ポップ歌手を受賞


フー・ファイターズ
受賞に現れた謎の男の正体は?

シェリル・クロウ
グラミーでL.クラヴィッツ
デュエットするはずだった

ザ・ルーツ
クエストラヴ、“エミネムはシンプルに
やりたがっていた”



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『Live In New rleans』
東芝EMI 
2003年03月29日発売
TOBW-3106 
3,800(tax in)
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ノラ・ジョーンズ
先日発表された第45回グラミー賞は既報のとおり、ノラ・ジョーンズの主要4部門(最優秀レコード、最優秀アルバム、最優秀ソング、最優秀新人)を含む8部門受賞というグラミー史上に残る快挙で幕を閉じた。主要4部門独占というのは、クリストファー・クロス以来22年振り2度目の偉業。さらに8部門獲得は、あの『スリラー』の時のマイケル・ジャクソンと並ぶ2位タイである(1位は'99年度のサンタナの9部門)。予想の時点でも下馬評の高かったノラであるが、ここまでの圧勝を予想したものは少なかったのではないだろうか。


ジョン・メイヤー
今回のグラミーは開催前からひとつの大きな傾向があった。昨'02年は、その前の年の9月11日に起きたアメリカ同時多発テロの影響をモロに受けた年。そんなこともあって、浮ついた気分のバッドボーイを気取ったラップ・メタルは敬遠され、しっとりとした“聴かせる歌“が以前に増して聴かれるようになった1年であった。ノラ・ ジョーンズをはじめ、最優秀ポップ男性歌手を受賞したジョン・メイヤー、最優秀ロック・グループを受賞したコールドプレイなどは、いずれもビルボード・チャートにおいて1位こそ獲得しなかったものの、長きにわたってトップ40以内にアルバムがランクインしている(ノラはノミネート発表後に1位獲得)。うたかたのヒットで速効ランクダウンしていくアイドルやヒップホップ勢とは対照的に、彼らの楽曲はじっくりと長く聴かれたのだ。


アヴリル・ラヴィーン
また、テロ後の混乱の最中に静溢な曲が好まれている状況を、ベトナム戦争が泥沼化した'70年代初頭の、キャロル・キングジェイムス・テイラーらによる“シンガー・ソングライター・ ブーム”との類似点と重ね合わせて比較する声が実際にある。そして、こうした現象に関して言えば「音楽がタレントのキャラクター性やアイドル性に頼ることなく、楽曲の力そのもので評価されるようになった」と積極的に評価する向きもまたある。たしかに、グラミーのような権威ある賞が、チャートで人気のある曲をそのまま選んだのでは、大衆リスナーに媚びを売っていると捉えられても仕方ない。グラミーはあくまでも“批評性”をウリにするべきだし、そのためにアヴリル・ラヴィーンのようなアイドルや、ネリーのハッピーなダンス・ソングが外様的な扱いにならざるを得ないのも仕方がないことだと思う。その一方で、グラミー賞がスポットを当てたことによって、人々の関心を集めるようになったアーティストが多く存在するのもまた事実。そういう意味では、今回のグラミーに「してやったり!」と諸手をあげて評価する声があってもおかしくない。


エミネム
しかし、今回のグラミーの場合、かつてのキャロル・キングやジェイムス・テイラーの時と全く事情が異なる点が1点ある。それは、その“穏やかなる曲”というものを支持したのがどういう層であったか、ということだ。'70年代初頭にシンガー・ソングライターを支持したのは主に若者たちだった。ベトナム戦争から来る疲弊や、“ラヴ&ピース”の理想が実現しないことへの挫折感から、当時の若者達は自ずと激動と混乱の時代の次に内省的な空気感を自ずと選んでいた観があった。しかし今回のブームに関して言えば、若者たちのカルチャーから自然発生的に起こったものという風には到底思えない。それらの曲を支持しているのも、今の現象を'70年代と重ね合わせているのも、それはすべて大人主導のもの。しかもそれは、若者カルチャーに対してあまり理解を示さないような、保守的な感覚の大人だ。特にグラミーの審査員は、過去にエルヴィスビートルズマドンナ、さらには現在のエミネムなど、若者カルチャーに絶大な影響力を持つ存在に大した活躍の場を与えていないことからも判断できるように、保守的な大人寄りの感性であることはつとに有名でもある。


ブルース・スプリングスティーン
今述べたようなことが仮に行き過ぎた仮定であったにしても、次に述べることはきわめて重要だ。それは、今回のグラミーの審査員が“癒し”を求めたのか、“内省”を求めたのか、ということだ。この答は残念ながら、今すぐに出すことはできない。しかし、もし“癒し”の観点によるものであるならば、ここで選ばれた作品たちは嫌な気分を忘れるための一服の清涼剤として消費されて、それで終わってしまうだろう。しかし、“内省”の観点によるものであるならば、人々は音楽から社会を見つめ、そこから新たなカルチャーや音楽シーンが建設的に生まれてくるはずだろう。そうした意味では、イラク攻撃に対して反論を積極的に展開しているコールドプレイや、テロ事件と真っ向から対峙し「何故こうなったのかを根本的に考えてみよう」と訴えたニューヨークの隣町ニュージャージーのロックンロール・キング、ブルース・スプリングスティーンあたりはもっと高く評価されても良かったような気はする。特にスプリングスティーンの場合、キャリアと貫禄を考慮して、功労賞的な意味も込めて主要部門のいずれかを与えるべきだったとする声も実際に多くある。

と、見ようによってはポジティヴにもネガティヴにも解釈できる今回のグラミー賞の結果だが、その成果が表れるのは、むしろこれからだと言ってよいだろう。ノラ・ジョーンズという、将来有望な23歳のアーティストに早すぎる人生のピークを与えることが結果的に良いことだったのか。そのことも含めて今後に注目していきたいと思う。
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