【BARKS編集部レビュー】アニソン専用と謳われたFitEar萌音-MONET、その真の実力は?

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かれこれ1年9ヶ月ほど前、「アニソン専用イヤホンが登場、しかもなんと15万円」といったおもしろガジェット的なノリでY!トピックスでも紹介され、FitEarのカスタムIEM「萌音」は2012年10月28日に鮮烈に登場した。

◆FitEar萌音 画像

▲坂本萌音。FitEar萌音のオフィシャルサイトに登場するキャラクター。このようなフリーダウンロードできる壁紙がアップされている。
▲そしてこちらが、萌音と名付けられたFitEarのカスタムIEM。3ウェイ3ユニット4ドライバーのハイエンド機だ。先日価格改定によりオープンプライスとなったが、それまでは税込市場価格16万2千円で販売されていた。
▲相変わらずフィット感抜群のシェル。内部はアクリルで充填されており4つのドライバーは完全にアクリルの中に固定されている。ケーブルはFitEar最上位のcable 000がセットアップされている。
▲聴き比べをしてみた2機種。左が萌音、右がMH335DW。
▲萌音の付属品。頑丈で軽量なペリカンケース、ソフトケース、取説、保証書、クリーニングツール、ケーブルクリップ。
メーカーサイドは「いかに気分良くアニソンを聞くかが音楽鑑賞用イヤモニ開発のテーマでもあったため、ある意味それの集大成」としており、アニソン専用というキャッチコピーと萌音(もね)というネーミングによって話題は一気に拡散した。宣伝とともにオフィシャルサイトで展開された坂本萌音というキャラクターの登場も、元来プロ用のモニタリング機器として開発されたカスタムIEMを、コンシューマに向けて「高額ながらも魅力的で身近なアイテム」として訴求することに大きく寄与することになった。マニアックなカスタムIEM市場に2Dキャラの萌え要素が絡むこと自体、前例のない画期的な取り組みだったのだ。

実際、萌音の開発環境の7割はアニソンを使用していたというが、その一方で、FitEar開発責任者兼須山歯研社長の須山氏も「アニソン自体が音楽的にはジャンルに捕われていない」という事実を真正面から捉えており、だからこそ「アニソンがバッチリ聞ければ他の音楽もOK」と、開発コンセプトの裏に隠れた思いを公開している。萌音というネーミングに関しても、いわゆるアニメにおける萌え感情にとどまらず「萌え」=「感性の琴線に触れること」として、「感性の琴線に触れる音」=「萌音」という名にしたことがオフィシャルサイトに記されている。

今、こうして萌音を常用してみれば、「アニソン専用イヤホン」ではなく「感性の琴線に触れる音」と捉えることで、やっと萌音に対して正当な評価ができるようになった気がする。というのも、「アニソン専用」と言われたところで聞こえてくるサウンドが変わるわけではないものの、勝手なイメージが作られてしまうことから、萌音の実際のトーンとのギャップに当惑するというめんどくさい現象に対峙したからだ。

私個人的なアニソンに対する印象をステレオタイプに語れば「心地よい疾走感と健康的な明瞭さを持った音像に、キュートな、あるいは熱血系ボーカルが乗るキャッチーな8ビート作品」といった印象なので、自ずとそれらの魅力を最大化させてくれるサウンド特性なのかな?…と、身勝手な先入観が働いてしまう。つまりは、どえらいバイアスがかかった根拠なき萌音のサウンドを期待してしまうわけで、その期待値と実際のサウンドとのギャップがあれば、「え?この音は何?アニソン向けなのになんでこんな音なの?」と、トンチンカンなファーストインプレッションと遭遇することになる。自らの固定観念の溶解に無駄な時間を要してしまうわけだ。音楽とサウンド、そして個人の嗜好性という三位一体のオーディオの世界において、問題提起と気付きの機会を提示する稀有なイヤホン…とも言えるのだけど。

さて、戯言はこれくらいにして、萌音のサウンドはどのようなものか。端的に言えば「ビッグサウンド」…その一言に尽きる。ボトムがどっしりとしており、定位もブレない。浮ついた様子が全くなく、キャッチーさで耳を引くような味付けもほとんど見られない。低域の量感はMH335DWと同等だと思うが、全体の重心の低さや音の濃密さは萌音が群を抜いている。音の質感としてはハイファイなCDデジタル音源というよりも、芳醇なアナログレコードのような質感を持っており、その周りにまとわりつくように現れる空気感や艶かしい気配のようなものを楽しむという、わりと渋好みの“大人なチューニング”が施されていると思う。若者文化の象徴でもある“アニソン”というキーワードに対して、困惑を覚えたのは、その感覚的ギャップであった。

決してキラキラしたハイを楽しませてくれるわけでもないし、ぶん殴られるようなローで頭蓋骨を揺らしてくれるわけでもない。けれど、ボリュームを上げた時の咆哮は、ヴィンテージのチューブアンプをフルドライブさせたような空気を震わせる人肌の艶かしさで、まさに琴線を直接震わせに来る。

トーン自体にキャッチーさは見受けられないので、試聴機などで一聴した時の印象は「ふーん」と、パッとしない感想を持つのではないかと思うのだけど、逆に非常に個性を持ったかめばかむほど味の出る希少なモデルなので、癖になるとやみつきになる。MH334からMH335DWに向けた濃密さと重たさの充実を、MH335DWに対しさらに1.5倍の勢いで降り注げば萌音ができあがるイメージだろうか。他ブランドで言えば、Noble AudioのKaiser 10やJH AudioのRoxanneを少ドライバー化して濃厚さを薄めたら、この萌音サウンドに近付くのではないか、と妄想する感じでもある。

アニソン専用とうたい萌音と名付けるキャッチーな商品戦略とは裏腹に、実のところそのサウンドや設計思想はかなりマニアックなものと思えて仕方がない。このニュアンスとアグレッシブなトーンを萌音と名付けた須山社長はとんでもないチャレンジャーだ。「感性の琴線に触れる音」=「萌音」との触れ込みだけれど、私にとって「萌音」は「遊び振り切れた素晴らしいプロダクト」と感じている。

改めて、萌音の音をキャラクターでイメージすれば、強靭で世相に迎合しないパワー感あふれるものなので、いっそ「ゴジラ」とか「ハンコック」の方がしっくりくる。じゃあ逆に「坂本萌音」というJK(?)をイメージするサウンドを出すモデルはどれなの?と言われれば、そりゃもうFitEar Parterre(パルテール)なのではないかと、私は思っております。…ということで、むしろアニソン好きを“自認しない”うるさ型の殿方にこそ、萌音は高く評価されるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

text by BARKS編集長 烏丸哲也

●FitEar 萌音-MONET
オープン価格
・バランスドアーマチュア型ドライバー:3way / 3unit / 4driver(Low.Mid×2 / High-A×1 / High-B×1)
・入力コネクター:3.5mmステレオミニプラグ
・ケーブル:FitEar cable 000
・付属品:PELICAN製ハードケース、ソフトケース、クリーニングブラシ

◆FitEar 萌音-MONETオフィシャルサイト
◆FitEarオフィシャルサイト
◆BARKSヘッドホン・チャンネル
◆BARKS カスタムIEM専門チャンネル


BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
■SHURE SE112(2014-07-13)

■Blue Ever Blue 878(2014-07-01)
■茶楽音人Donguri-楽(RAKU)(2014-06-24)
■オーディオテクニカATH-CKR10(2014-06-14)
◇estron Music、BaX(2014-06-03)
●OSTRY KC06(2014-05-18)

◆VISION EARS VE6 Xcontrol(2014-05-25)
■Fidue A81(2014-05-17)
◆カナルワークスCW-L32(2014-05-04)
■アルティメットイヤーズUE900s(2014-04-26)
■Astrotec AX60&AX35(2014-04-20)

◆CUSTOM ART Pro 330v2(2014-04-13)
●MPC Headphones(2014-04-06)
●Klipsch STATUS(2014-03-30)
●SMS Audio STREET by 50 DJ Pro Performance Headphones(2014-03-23)
◆AK240×カスタムIEM(2014-03-16)

■RHA MA750(2014-03-09)
■Meze 11 Deco(2014-03-02)
◇Astell&Kern AK240(2014-02-22)
◆1964 EARS V6-Stage(2014-02-17)
◆カナルワークスCW-L32V(2014-02-09)

◇EarPeace HD(2014-02-02)
◆Noble Audio Kaiser 10(2014-01-19)
◆Clear Tune Monitors CT-300Pro(2014-01-04)
◇KLIPSCH KMC1(2014-01-01)
■DUNU DN-1000(2013-12-30)

◆Ultimate Ears Reference Monitors(2013-12-16)
◆Ultimate Ears 11 Pro(2013-12-08)
◆earmo Tune5(2013-12-03)
●オーディオテクニカATH-OX7AMP(2013-11-23)
■音茶楽Donguri-欅(KEYAKI)(2013-11-17)

■オーディオテクニカ ATH-IM01~04(2013-10-27)
◇Astell&Kern AK10(2013-10-25)
●フィリップス Fidelio M1(2013-10-22)
◆earmo Tune4(2013-10-12)
◆Ultimate Ears Personal Reference Monitors(2013-10-05)

◆Sensaphonics 2XS(2013-09-30)
■Earsonics SM64(2013-09-23)
◆LIVEZONER41 LZ12(2013-09-15)
◆Ultimate Ears カスタムIEM全7機種(2013-09-08)
◆null audio Elpis(2013-09-03)

■FitEar Parterre(2013-08-25)
◆カナルワークスCW-L12(2013-08-17)
◆Livezoner41 LZ 4(2013-08-06)
■SHURE SE846(2013-08-02)
■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)

■Hippo ProOne(2013-07-21)
◆カナルワークス CW-L51a(2013-07-13)
■EXS X10(2013-06-24)
■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)

◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
●Meze Headphones(2013-05-08)
●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
◇ORB JADE casa(2013-04-21)

◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)

●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)

◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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