オフィシャル・ブートレッグ特集【ロック不毛の世紀末にパールジャムあり!】

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ロック不毛の世紀末にパールジャムあり!


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もう20世紀もあと2ヶ月足らずで終わってしまうが、この世紀の最後の10年を最も象徴する存在のひとつに間違いなくパール・ジャムも挙げられることだろう。

軽薄で浮つき気味だった'80年代のロックシーンを完全に吹き飛ばした、混沌と混迷する時代に真っ正面に向かい合ったあまりにも真摯すぎる姿勢と「これぞロックンロール」とも言えるギミック一切なしの不器用ながらも強烈なエナジーを放射した衝動的な音塊。

構造不況に喘ぎ、失業・ドラッグなどの社会問題が山積みになり、歯の浮くような白々しい虚飾よりも、苦悩する内面に病める社会に対し、その鬱積をこれ以上にないまでに強烈にぶつけることが望まれた時代。

歴史上に何10年に一回くらいしか起こらないそんな貴重な時代に、パール・ジャムはニルヴァーナサウンドガーデンといった郷里のシアトル勢、REMナイン・インチ・ネールズスマッシング・パンプキンズレッドホット・チリ・ペッパーズのようなバンド、はたまた西海岸のギャングスタ・ヒップホップなどと共に、「変化」を求めるキッズたちの一つの指標とされたのだった。

それはまるで60年代後半にサンフランシスコのヒッピーバンドや、ドアーズジミヘンスライが世を席巻し、「ロックで時代が変えられる」という幻想を抱かせたように。

実際、パール・ジャムのエディ・ヴェダーはドアーズのジム・モリソンと比較され、「タイム」誌の表紙まで飾った。そんな時代の趨勢を背負い込むような姿勢をニルヴァーナのカート・コバーンに中傷され、ある種の敵役存在にされながらも、一方で彼らのノー・シングル、ノー・ビデオによる極少のプロモーションや、チケットマスターを相手取ってのライブ価格引き下げ運動など、その発言・活動は常に衆目の注目を集めたものだった。

そんな'92~'93年の「グランジ・オルタナ革命」から約7年経った現在、状況はガラリと変わってしまった。

カート・コバーンはとうの昔に他界し、サウンドガーデンは解散、アリス・イン・チェインズは活動停止とロック界転覆の震源地シアトル勢はほぼ消滅し、2000年に入ればスマパンが解散し、レイジからザックが脱退と、明らかに「混沌の90年代」に終止符を打つような出来事が次々と連発。

景気が完全に回復した明るい今のアメリカのド真ん中で鳴らされているロックと言えば、もはや斬新でも何でもない。

ポップスとして普通の存在になってしまったヘヴィ・ギターにヒップホップを基調とした、リンプ・ビズキットを筆頭とした「ラップ・メタル」という名の、見事なまでにエンターテイメント化された保守的な新種のアリーナ・ロック。

激動の時代を駆け抜けた多くのバンドたちが挫折・墜落死、新たな時代の逆風の吹く時代においてでさえ、パール・ジャムは毅然と己の立つべき足下を見つめ、凛と仁王立ちし続けている。現在のロックの主流ではなく、クアジやステレオラブなどの刺激的なCMJのサウンドに感化されながら制作した最新スタジオ盤『バイノーラル』でも、その貫禄を示したが、やはり衝撃だったのはヨーロッパ・ツアー全25公演のライブ盤としてのリリース、という大事件に他ならない(ロンチ特集記事参照)。

この企画、元々ブートレッグ奨励派だったパール・ジャムが、悪質ブートの不当な高額取引に激怒したパール・ジャム側が、「ならば正当なルートで悪質ブートの替わりになるものを適切な価格で」と提唱したものだ。

この辺りのいきさつを聴くと、件のチケット問題やコソボ・チャリティのときのような、「生真面目な正義派パール・ジャム」を思わせるエピソードだが、このライブ、それだけの価値で終わるようなものではない。なんと、全公演とも約30曲近いヴォリュームで、しかもMCやミスによるカット一切なし、修正・加工一切なしの、まさに嘘も偽りのない完璧なまでの姿によるものなのだ。

これは、これまでのライブ盤の「一番良い部分を集めて見せる」というやり方を根底的に覆し、ライブが所詮人間と同じように生身の生き物なのだ、ということを高らかに示している。そして、それを助長するように、普段真面目にしかめっ面しているイメージの強いエディたちが、ジョークをまじえたりして想像以上に朗らかでさえあるのだ。

この彼らの楽な姿には、「時代の寵児」から解放され本来あるべきギグからギグのロード中心のロックンロール・バンドに戻ってきた彼らの安堵の表情ともとれなくはない。

そして、いざロードを駆けめぐるロックバンドに戻ったのなら、彼ら以上に確実で圧倒的なライブが出来るバンドもこの世界中にはないことも、この25枚は雄弁に物語っている。

公演によって若干の差こそあれ、そのテンションの高さや安定感は、どの公演を比較してみてもほぼ同じだったりもする。僕は25枚を通して聴いてみた数少ない日本人だったりするのだが、ほぼ毎回のように替わる選曲を一切の弛緩もなく最初の公演から最後の公演をやり遂げられることそれ自体に大きな衝撃を受けてしまった。

世界のどこに、これと比肩しうるクオリティのライブをコンスタントに成し遂げるバンドがいるだろうか。それを知るためにだけでも、今回のライブ・シリーズ、全作とは言わないまでも何作かは絶対に買う必要がある。

それにパール・ジャムの本当の姿を知るにはスタジオ盤だけでは足りないことも、このライブ盤は改めて教えてくれる。

ここに一体何曲のアルバム未収録曲が存在することか。コンピレーションやサントラ収録曲、シングルのみのリリース曲…。「Yellow Ledbetter」「State Of Love And Trust」「Long Road」、ファンの間ではこうした楽曲が、「Jeremy」や「Rearview Mirror」「Corduroy」「Given To Fly」といったアルバムでの名曲並みに大事なことを改めて教えられる。そして、トム・ウエイツやスプリット・エンズ、ラーズザ・フーといった、彼らのフェイバリット楽曲なんかも改めて垣間見れる点でも重要だ。

ロック激動期において頂点として駆け抜け、ロックが不毛な時期もマイ・ペースに孤軍奮闘して草の根的に駆け回り続けるパール・ジャム。

その姿に僕は、'70年代の頃のもっとも熱かった頃のブルース・スプリングスティーンの姿をダブらせてしまう。

太澤 陽


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