現役ロッカーとしてのカリスマが生み出した好盤トリビュート

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エアロを慕って、好盤トリビュート、誕生

現役ロッカーとしてのカリスマが生み出した好盤トリビュート

エアロスミス・トリビュート

『エアロスミス・トリビュート EAT THE RICH』

VIDEOARTSMUSIC VACM-1176
2,548(tax in) 発売中

1Eat The Rich
●イート・ザ・リッチ/『ゲット・ア・グリップ』収録曲でライヴの主要レパートリー。グレイト・ホワイトのジャック・ラッセルのダイナミックなヴォーカルとベテラン、カーマイン・アピスのドラムをフィーチャー、オリジナルにスパイスを利かせたアレンジが聴き所。
2Let The Music Do The Talking
●熱く語れ/オリジナル・ラインナップの復帰作第1弾『ダン・ウィズ・ミラーズ』収録曲で豪快なへヴィ・ロック・チューン。元レインボーのジョー・リン・ターナーの文字通りホットなヴォーカルとそれに呼応するMR.BIGのパット・トーピーのタイトなドラムが圧巻。
3Round And Round
●虚空に切り離されて/新作『デモリッション』の発表で話題のジューダス・プリーストのティム"リッパー"オーウェンスのメタリック・ヴォイスが聴きものの1曲。ジェフ・ベックのトリオ・プロジェクト、ベック・ボガード・アピスの一角、ティム・ボガード(b)との夢の共演も興味深いこの曲は『闇夜のへヴィ・ロック』からの選曲。
4Cryin'
●クライン/『ゲット・ア・グリップ』収録で名バラード。オリジナル以上にハードにアレンジ、元イングヴェイ・マルムスティーン・バンドのジェフ・スコット・ソートの灼熱系ヴォーカルと元ジェフリアのグレイグ・ゴールディの見栄っ張りなギター・ソロがムードを盛り上げる。
5Kings And Queens
●キングズ・アンド・クイーンズ/『ドロー・ザ・ライン』収録の70年代エアロの代表曲の1曲。元ディープ・パープル、ベテラン、グレン・ヒューズのソウルフルな歌声に加え、TOTOのスティーヴ・ルカサーによるエモーショナルなギターに注目。ベテラン・パワー全開。
6Rats In The Cellar
●地下室のドブねずみ/名盤『ロックス』収録のアグレッヴなロックン・ロール・チューン。MR.BIGのリッチー・コッツェン他、オリジナルを意識したプレイが微笑ましい。
7One Way Street
●ワン・ウェイ・ストリート/1st『野獣生誕』収録で、典型的なエアロのプルース・ソング。ここではキングスXのダグ・ピニック(vo)と元カーズのエリオット・イーストン(g)がより黒っぽいアレンジで曲に新たな息吹を吹き込んでいる。
8Living On The Edge
●リヴィング・オン・ジ・エッジ/『ゲット・ア・グリップ』収録曲で米シングル・チャートの18位まで上昇。ジョン・コラビ(vo)、スティーヴィー・サラス(g)らが参加。
9What It Takes
●ホワット・イット・テイクス/土の香り漂うレイド・バック・テイストのバラード。TOTOのボビー・キンボールの澄んだヴォーカルで意表を突くが、オリジナルに勝るとも劣らぬバラードに仕上げている。TOTOのマイク・ポーカロ(b)、元ドリーム・シアターのデレク・シェレニアン(key)の参加も興味をそそる。『バンプ』収録曲で米9位を記録したヒット曲。
10Lord Of The Things
●支配者の女/2nd『飛べ!エアロスミス』収録曲。アグリー・キッド・ジョーのホワイト・クレインの目一杯突っ張ったヴォーカルに注目。
11Angel
●エンジェル/『パーマネント・ヴァケイション』収録曲の名バラードで米3位を記録したヒット・チューン。かつてマイケル・シェンカーのパートナーを務めたロビン・マコーリー(vo)がドラマチックに歌い上げている。


リリースから数ヶ月が過ぎた今でもベスト・セラーを更新中のエアロスミスのニューアルバム『ジャスト・プッシュ・プレイ』

エアロスミスと言えばあのサウンドトラック「アルマゲドン」のメイン・テーマ「ミス・ア・シング」のメガ・ヒットの記憶も新しく、意外な気もするがニューアルバムは『ナイン・ライヴス』以来、4年ぶりとなる。

奇しくも21世紀の到来と共にリリースとなった『ジャスト・プッシュ・ブレイ』は1stシングル「ジェイディッド」に象徴されるコンテンポラリーなヒット・チューンからロックン・ロール、バラードを交えたナンバーが並び、円熟味を醸すと同時にライヴ・フィーリング溢れるサウンドがブレンドされ、新時代に挑むに相応しい内容だ。同期のキッスの精力的なツアーに加え、エアロスミスの活動が'70年代ムーブメントという現在のトレンドに拍車をかけているのは事実だが、それも彼らが現役でありながらレジェンドとしての凄味を発散させている、その熱気があればこそのはず。

まもなくデビュー30周年を迎え、ますます躍進目覚しいエアロスミスはロック・ファンにとって単なるミュージシャンやロック・スターを超越した、文字通りヒーローと呼ぶに相応しい存在だ。ただ、そうした思いはファンに限らず、現在プロとして活躍のミュージシャンも同様である。

『エアロスミス・トリビュート~EAT THE RICH』は、そうしたプロ・ミュージシャンでも惚れ込むエアロスミスに対する思いをストレートにぶっつけたトリビュート・アルバムだ。

エアロスミスの同企画によるトリビュート作は今作で2作目。トリビュート・アルバム花盛りの現在でも、半ばシリーズ化するのはレア・ケースの部類だが、さすが不老不死(!?)のロックン・ロール・ヒーロー、エアロスミスに相応しく、この『エアロスミス・トリビュート』も錚々たるミュージシャンが参加、ホットな思いをエアロ・ナンバーに注ぎ込んでいる。ちなみにこの“トリビュート・シリーズ”の総合プロデューサーは元キッスのギタリスト、ブルース・キューリックの実兄で同じくギタリストのボブ・キューリックが担当、これまでにアリス・クーパーヴァン・へイレンメタリカクイーンら大物のトリビュート・アルバムがリリースされている。

まず、ヴォーカル勢はアグリー・キッド・ジョーのホワイト・クレインを筆頭にジューダス・プリーストの2代目シンガー、ティム・リッパー・オーウェンス、元モトリー・クルー~現ユニオンのジョン・コラビ、グレン・ヒューズ、ジョー・リン・ターナーetcなど。そして、ギタリストはTOTOのスティーヴ・ルカサーを始め、元キッスのブルース・キューリック、現MR.BIGのリッチー・コッツエンら、その他パートを含めると総勢20人以上に及ぶ。しかも、グレン・ヒューズといったベテランからホワイト・クレインら'90年代以降の明らかに後追い世代に至るまで、キャリア、ジャンルを超越したアーティスト達がエアロスミスに敬意をはらっているのが何とも壮観といった感じ。やはり、エアロスミスの前に世代観や小難しい理屈は無用といったところだろう。

今や不偏的ロック・バンドの象徴とも言えるエアロスミスがスティーヴン・タイラー(vo)、ジョー・ペリー(g)、トム・ハミルトン(b)、ジョーイ・クレーマー(ds)、ブラッド・ウィットフォード(g)のラインナップの下、ボストン近郊で結成されたのが'70年のこと。以来、地元クラブで地道なライヴ活動を展開、それが実り'72年夏、米CBSレコードとの契約に成功する。

記念すべきデビューは翌'73年8月、アルバム『野獣生誕/Aerosmith 』のリリースと共にシーンに殴り込みをかける。当時と言えば、レッド・ツェッペリンディープ・パープルらブリティッシュ・ハード・ロック勢が全盛の時代。それも手伝ってかロックと言えばテクニック重視の傾向が強かった。エアロスミスはあのエリック・クラプトンが'60年代に在籍していたグループ、ヤードバーズの影響を受けていた反面、いわゆるテクニック志向とは逆行するようなルーズかつワイルドなロックン・ロールで独自性をアピールした。ただ、それだけに地味なイメージは否めず(今のスティーヴンの派手さからは想像し辛いが)、当初はマニアックなバンド的な評価に甘んじていた。もっとも、ことライヴとなれば話は別、まさに野獣ばりのスティーヴンのパフォーマンスは当時から話題を集め、バンドはそのツアー活動を糧に支持を拡大していく。

彼らのキャリアに於いてデビューから1、2年は成功への足掛かりを築く準備期間だった。実際、ライヴを糧に『飛べ!エアロスミス/Get Your Wings』('74年)、『闇夜のへヴィ・ロック/Toys In The Attic』('75年)とリリースを重ねるアルバムは着実にセールスを伸ばし、'76年発表作『ロックス』は全米チャートで初のトップ3入り(米3位)を果す。時期的に先のレッド・ツェッペリンディープ・パープルらは解散、もしくは大物ゆえにフットワークが鈍り、ティーン中心のファン層の期待に応じ辛くなっていた。エアロスミスやキッスは、そんな先輩格に取って側って現役バリバリの、等身大のロック・ヒーローとなり、ファン層を拡大、'77年には初来日公演も行ない、日本での人気も決定付けている。今振り返ると、この時期が第1期エアロスミスの黄金時代と言え、5th作『ドロー・ザ・ライン』もビッグ・ヒットを記録、アメリカン・ハード・ロックの頂点を極める。

しかし、何故エアロスミスが現在、現役でありながらレジェンドたり得るのか? それはヒット作の数も重要な要素だが、むしろそれ以上に評価されるべきは解散直前まで追い込まれたどん底状態に陥りながらも'80年代後半、人気、クオリティ双方の面で盛り返したドラマチックなカムバック劇に尽きるだろう。

'79年リリースのアルバム『ナイト・イン・ラッツ』を最後にジョー・ペリーが音楽的意見の相違を理由に脱退、この時点で黄金のラインナップは崩壊、以後バンドは低迷期に突入、メンバーのドラッグ問題もあり、'80年代前半、彼らは解散寸前の状態にあった。しかし、エアロスミス・チルドレンの世代に当るボン・ジョヴィモトリー・クルーら後続のバンドがこぞって“エアロスミスこそ我らがルーツ”と叫び始めると同時にエアロスミス再評価の気運が高まって行く。折りしもジョー・ペリーもバンドに復帰、オリジナル・ラインナップで再出発を図った彼らは『ダン・ウィズ・ミラーズ』をリリース、戦線復帰を果す。そして、そんな彼らにさらなる勢いを付けさせたのがニューヨークのラップ・コンビ、RUM-DMCとのコラボレイト。RUM-DMCがカヴァーした「ウォーク・ディス・ウェイ」にスティーヴンとジョーがレコーディングとクリップに参加、これが全米チャートのトップに輝く。

カヴァー・ヴァージョン「ウォーク・ディス・ウェイ」の成功の余勢をかってリリースのカムバック第2弾『パーマネント・ヴァケイション』('87年)はルーズでワイルドなエアロスミスならではのグルーヴ感を保ちつつ、ボン・ジョヴィを一躍ヒットメーカーへと押し上げたプロデューサー、ブルース・フェアバーン、ソングライター、デズモンド・チャイルドらの起用でリフレッシュ、ヒット・ポテンシャル志向を強め、ビッグ・ヒットを記録する。特に名バラード「エンジェル」やグルーヴィな「ラグ・ドール」は'70年代のエアロスミスには無かったモダンなナンバーで、当時を知らない後追い世代のファン層獲得の原動力となった。

『パーマネント・ヴァケイション』のビック・ヒットは'70年代の全盛期を上回る評価と人気をバンドにもたらし、以後の彼らは『パンプ』('89年)、初の全米NO1アルバム『ゲット・ア・グリップ』('93年)、『ナイン・ライヴズ』とヒット作をコンスタントにリリース、気がつけばキャリア30年に到達しながらも現役ロッカーとしてのカリスマ性を放ち、アメリカン・ロックのトップ・アーティストの座をキープし続けている。

途中ブランクがあったとは言え、30年という歴史は気の遠くなるような長さだ。それだけに今回のトリビュート第2弾も2作目とは言え、中身の濃い内容に仕上がっている。

北井康仁/YASUHITO KITAI

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