【BARKS編集部レビュー】Fidue A83、スレンダーでグラマラスなサウンド・プロポーション

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パンチあり、メリハリあり、ダイナミックな躍動感と繊細さを併せ持った心地良いキャッチーなサウンドを持つFidue A81は今もなお人気を博するイヤホンのひとつだが、そんなA81を更に進化させた最新鋭として2014年6月に新登場したのがこのA83だ。A81の中域を更に艶やかにし、低域は心持ち抑えながらも高域の伸びをぐんと伸ばした、素晴らしいトーンを持って登場した。

◆Fidue A83画像

Fidue A83を耳にして2ヶ月ほど経過したけれど、一貫して思うのはFidueの開発姿勢の生真面目さだ。

▲Fidue A83。タッチノイズも気にならないオリジナルの撚り線タイプのケーブルが付属する。
▲フェイスプレートは薄いシャンパンゴールドのような落ち着いたカラー。ハウジングは左:青、右:赤のスケルトンになっており、一瞥して左右の判別がつく。
▲着脱式のケーブルはMMCX仕様。
▲左が先に発売となったA81、右がA83。
▲付属品は、ペリカンケース、各イヤーピース、標準変換ジャック、飛行機用変換アダプタ。
まず一聴した時の印象、そして5分ほど聴き込んだ時のディテールの主張、それから数週間使い続けた時の印象の変化…と、イヤホンに対する評価は様々なシーンで微妙なズレとブレが生じるものだけれど、どのシーンにおいても頑ななまでに実直な音をひたすら出し続けるのがA83のなにより素晴らしいところだと思う。自らを良く見せようとする下世話さが全く見受けられないのだ。ここで2KHzあたりをちょっと目立たせば第一印象でキャッチーに聞こえるのに…とか、低域のなだらかなピークを100Hzほど上にずらして5dbほどピークをもたせれば、迫力が演出できるのに…と、妙な老婆心さえ浮かんでしまう。要するに飛び道具や手抜きのような邪な設計思想は一切無いようで、人気者になっちゃえ的な安直なつかみは微塵もなく、真正面からいい音に向かって突き進み、その結果辿り着く先がA83のサウンドになったことがみてとれる。

A83のサウンドの完成度は、現在のイヤホン事情においても間違いなくトップクラスに位置するものだ。先の老婆心的な演出を取り込んだところで、仮に話題が先行したとしてもすぐにメッキは剥がれ流行り廃りの狭間に消えていく消耗品になってしまったであろうことも想像に難くない。

A83の最大の武器はそのヌケの良さで、タイトで端正な音色に聞こえるのは背景のクリアさが格別だからだ。無駄を排除し硬質ながらきめ細かく非常にコントロールされたバランスのため、軽快で上質な音を存分に堪能させてくれる。押しが強く派手なサウンドで楽しませてくれるイヤホンは世にたくさんあるが、A83のような瞬発力のあるノリの良さとビートの心地ちよさは、なかなか出会えるものではない。グラマラスながら余計な体脂肪が付いていない、非常にコントロールされたプロポーションだ。

一方で、A83に対する漫然とした不満点もある。いまひとつの遮音性と装着感の不安定さだ。イヤーチップによるサウンドの変化も大きく、「すごく音がいいのにベストポジションが見つからず、いつまでも試行錯誤を続けている」ようなもどかしさから脱却できなかった。「寝付けない」と高級ベッドの上で何度も寝返りをうっているような感じに似ている。

実はこの感覚が何なのか、自分では結論が出ている。この不安定さに対するもどかしさは、カスタムIEMに対するその試聴機への評価と全く同じ感覚なのだ。カスタムIEMのサウンドは耳にはまった時に100%の力を発揮するものだけれど、試聴機ではその実力はいらいらするほど発揮されず、細かいニュアンスやそのモデルが持っている繊細なディテールが全く伝わってこないことも多い。A83を耳にして感じるもどかしさは、本当はこんなものじゃないのに…という、カスタムIEMに対する試聴機のようなもどかしさと全く同じなのである。A83のサウンドの素晴らしさは間違いのないところだが、これがカスタムIEMになったらどれだけ素晴らしいのだろうと、無い物ねだりすら妄想してさらに悶々するという、もはや悪酔いしているような状況でもある。

装着感は決して悪いものではないのだけれど、カナルの角度が私の耳に合わず、普通に装着するとフィット感に乏しく遊びが大きくなる。普段より1サイズ小さなSチップで耳奥までおもいっきり挿入すると理想的な遮音とトーンバランスが得られるが、安定感に乏しいために少しずつ浮いてすぐに遮音が薄れてくるというアカン状態になる。これがガチっとホールドされ完璧な遮音が手に入ったら、ハイエンドなカスタムIEMもびっくりの音世界が手に入るのに…というもどかしさだ。

すでにお気に入りとして愛用している人は、きっちりフィットした状態が手に入っているのであろうし、当然のように高く評価していることだろう。そうでない人は、ベストコンディションと出会えていないだけなのかもしれない。いろんなイヤーチップを試してみるといいのではないだろうか。

Fidueのストイックなサウンドデザインは、カスタムIEMのサウンド領域に確実に食い込んできている。A83のドライバーはダイナミックとBAのハイブリッドだが、その次にはユニバーサルとカスタムとのハイブリッドを目指し、コンシューマのリスニングでも制作現場でのモニタリングでも最高の使い心地を発揮する、驚きの次世代モデルを打ち出してくれるのではないか、Fidueにはそんな期待を抱かせてくれるパワーが秘められている。

text by BARKS編集長 烏丸哲也

●Fidue(フィドゥー)A83
・形式:カナル型
・ドライバー:φ10mmダイナミック型ドライバー1基 + BA型ドライバー2基
・再生周波数:9 Hz - 31 kHz
・インピーダンス:11 Ω
・音圧レベル:104dB
・定格出力:30mW
・プラグ:3.5mm 金メッキステレオミニプラグ
・リケーブルコネクタ形状:金メッキMMCX
・付属品:Complyイヤーチップ、シリコンイヤーピースS/M/L、ダブルフランジシリコンイヤーピースS/M、キャリングケース、フライトアダプター

◆Fidue国内オフィシャルサイト
◆BARKSヘッドホン・チャンネル
◆BARKS カスタムIEM専門チャンネル


BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
◇Musician's Ear Plugs(2014-08-10)
◆Noble Audio 5C R Configuration(2014-07-27)
◆FitEar萌音-MONET(2014-07-21)
■SHURE SE112(2014-07-13)

■Blue Ever Blue 878(2014-07-01)
■茶楽音人Donguri-楽(RAKU)(2014-06-24)
■オーディオテクニカATH-CKR10(2014-06-14)
◇estron Music、BaX(2014-06-03)
●OSTRY KC06(2014-05-18)

◆VISION EARS VE6 Xcontrol(2014-05-25)
■Fidue A81(2014-05-17)
◆カナルワークスCW-L32(2014-05-04)
■アルティメットイヤーズUE900s(2014-04-26)
■Astrotec AX60&AX35(2014-04-20)

◆CUSTOM ART Pro 330v2(2014-04-13)
●MPC Headphones(2014-04-06)
●Klipsch STATUS(2014-03-30)
●SMS Audio STREET by 50 DJ Pro Performance Headphones(2014-03-23)
◆AK240×カスタムIEM(2014-03-16)

■RHA MA750(2014-03-09)
■Meze 11 Deco(2014-03-02)
◇Astell&Kern AK240(2014-02-22)
◆1964 EARS V6-Stage(2014-02-17)
◆カナルワークスCW-L32V(2014-02-09)

◇EarPeace HD(2014-02-02)
◆Noble Audio Kaiser 10(2014-01-19)
◆Clear Tune Monitors CT-300Pro(2014-01-04)
◇KLIPSCH KMC1(2014-01-01)
■DUNU DN-1000(2013-12-30)

◆Ultimate Ears Reference Monitors(2013-12-16)
◆Ultimate Ears 11 Pro(2013-12-08)
◆earmo Tune5(2013-12-03)
●オーディオテクニカATH-OX7AMP(2013-11-23)
■音茶楽Donguri-欅(KEYAKI)(2013-11-17)

■オーディオテクニカ ATH-IM01~04(2013-10-27)
◇Astell&Kern AK10(2013-10-25)
●フィリップス Fidelio M1(2013-10-22)
◆earmo Tune4(2013-10-12)
◆Ultimate Ears Personal Reference Monitors(2013-10-05)

◆Sensaphonics 2XS(2013-09-30)
■Earsonics SM64(2013-09-23)
◆LIVEZONER41 LZ12(2013-09-15)
◆Ultimate Ears カスタムIEM全7機種(2013-09-08)
◆null audio Elpis(2013-09-03)

■FitEar Parterre(2013-08-25)
◆カナルワークスCW-L12(2013-08-17)
◆Livezoner41 LZ 4(2013-08-06)
■SHURE SE846(2013-08-02)
■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)

■Hippo ProOne(2013-07-21)
◆カナルワークス CW-L51a(2013-07-13)
■EXS X10(2013-06-24)
■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)

◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
●Meze Headphones(2013-05-08)
●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
◇ORB JADE casa(2013-04-21)

◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)

●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)

◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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