2000年 ライヴ・シーンを振り返る 【後編】

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2000年 ライヴ・シーンを振り返る 【後編】

 


Pearl Jam


The Who


Nine Inch Nails


Cracker


Black Crowes


Phish


Smashing Pumpkins


Fiona Apple


Madonna

 

 

あとを絶たないライヴでの事故

今年、ライヴの興奮のなかで何件かの悲劇も起こった。7月10日のPhishのウィスコンシン公演の会場の外で、男性ファンが誤って車にひかれ死亡した。Metallicaの“Summer Sanitarium”のボルチモア公演で会場となった球場、PSINet Stadiumのスタンド席から、ファンのMartin Muscheetが落ちて死亡。カリフォルニア州オークランドで行なわれたKissの公演でも、やはりファンが落下事故で死亡した。デンマークの“Roskilde”フェスティヴァルでは、Pearl Jamのライヴ中に9名が事故死。メンバーはひどくショックを受け、(特にデンマークの警察が、バンドは9名の死に“道義的に責任がある”と語ったことも影響し)精神的にボロボロになり、解散まで考えたほどだった。

Pearl Jamはショックから立ち直ると、自分たちがいちばん得意としていることを行なった。ライヴである。バンドのツアーに加え、Eddie Vedderは10月13日にニューヨークのマディソンスクエア・ガーデンで行なわれた、緑の党のラルフ・ネーダー大統領候補の資金集めイベントに出演した。このイベントはBill Murrayがホストを務め、他にAni DiFranco、Ben Harper、Michael Moore、Susan Sarandon、Tim Robbinsが参加していた。

民主党のアル・ゴア候補のサポートにまわったのは、Jimmy BuffettBette MidlerDon HenleyGlenn FreyCrosby, Stills & NashSheryl CrowJon Bon JoviLenny KravitzRage Against The Machineは、ロサンゼルスの民主党全国大会でライヴを行ないエールを送った。

ブッシュのほう? えーっと……、Billy Ray Cyrusが彼のキャンペーン・ソングを歌いました。他に質問は?

再結成は花盛り

大統領選の派手な資金集めイベントは4年ごとに行なわれるが、Whoの再結成は毎年行なわれているようだ。今年とてもちろん例外ではなかった。Roger Daltrey、Pete Townshend、John Entwistle(ドラムはRingo Starrの息子、Zak Starkeyが担当)は、最新の米国ツアーを6月25日のシカゴから開始し、“Won't Get Fooled Again”“Baba O'Riley”“My Generation”などのヒット曲満載の2時間半のショウを繰り広げた。

他にも興味深い再会劇が何件かあった。ニューヨークで行なわれたNine Inch NailsのライヴにMarilyn Manson出演し、ステージ上でTrent Reznorと肩を並べた。また、25年振りにCrosby(今年の彼は大忙しだ), Stills, Nash & Youngが34都市を回るツアーを行なった。次は“再結成”とは言えないが、David Bowieが彼自身のインターネット・プロバイダ、Bowie Netの会員向けにRoseland Ballroomで今までのヒット曲オンパレードの全25曲、2時間半のライヴを行なった。

David Loweryにしかできないであろう芸当の話。彼の現在のバンド、Crackerとかつての悪名高きCamper Van Beethovenの両方を全米48州連れ回しておきながら、再結成とは呼ばないという離れ業。事情はこうらしい。LoweryはCrackerの米西海岸ツアーのためのベーシストが必要で、元Camper Van Beethovenのベース、Victor Krummenacherに手伝ってほしいと連絡した。すると、いつの間にやら、ギターのGreg Lisher、ヴァイオリンのJonathan Segelという元メンバーもツアーに参加していたということで、“再結成”ではないというわけ。“Traveling Apothecary Show(移動薬屋ショウ) ”と名付けられたライヴは、Crackerの曲とCamper Van Beethovenの曲にその他のバラエティにとんだ曲が織り交ぜられていた。とってもLoweryらしい。

チケット代の価値があるものとして、これよりカッコイイといえる組み合わせのツアーはそれほど多くない。まずはJimmy PageBlack Crowesの共演。そしてBrian Willsonが交響楽団をバックに『Pet Sounds』を披露したツアー。カッコイイと認めたくはないが、Go-Go'sのオリジナルメンバー(Belinda Carlisle、Jane Wiedlin、Charlotte Caffey、Gina Schock、Kathy Valentine)による再結成ツアー。

別れるバンドに壊れるアーティスト
それでもショウは続く…

くっつくものがあれば、離れるものもある。“公式”には解散ではないが、めまいを起こすような楽曲を繰り広げる5人組、Phishが活動を休止するという。あくまで“休止”だよ、みんな。ホントそれだけ。“解散”するわけじゃない。ちょっと充電。Phishへの伝言:新しい電池の公告を見ました。すごく強力みたいです。まあとにかく、Phishのとりあえずのラスト・ライヴは10月8日にカリフォルニア州マウンテンヴューのShoreline Amphitheatreで行なわれた。

何年も前から噂として囁かれていて、6カ月前に公式となったSmashing Pumpkinsの解散が12月2日にシカゴのMetroでその日を迎えた。Billy Corgan、James Iha、Jimmy Chamberlinは、13年前にこの同じ会場でバンド初のライヴを行なっていた。今年初めにオリジナルメンバーのD'Arcyに代わって加入した、ベースのMelissa Auf Der Maurももちろん参加。驚異の4時間に渡るラスト・ライヴでは、あまり知られていないアルバム収録曲から"Today”“1979"などのヒット曲までを演奏。会場を後にするファンには、'88年10月5日にMetroで行われた初ライヴを収録したCDが配られた。

別れたというよりは、壊れたという一件が2月にあった。オルタナティヴの歌姫、Fiona AppleがニューヨークのRoseland Ballroomでライヴを行なったときのこと。4曲ほど終えたところで彼女は、バンドメンバー、音響担当、おまけに観に来ていたロック評論家(意地悪な評論家を想像してごらん!)にまで大声で、なんていうか、その、“味わいのある”言葉を投げつけると、泣きながらステージから走り去ってしまった。2カ月後にステージに戻ってきた彼女は、素晴らしいショウを披露し、彼女自身、そしてバンド、音響の名誉挽回を果たした。ロック評論家については、未だ特にコメントはなし。

大騒ぎといえば、他にもこの言葉がピッタリのライヴがあった。Madonnaのニューヨークの小さなクラブでのライヴと、Princeのサンフランシスコでのゲリラ・ライヴだ。両アーティストとも予定を大幅に遅れて登場したが、気にする者はいなかった。ここに、今年の様々なコンサートの大きな教訓がある:

若者たち(そして若干の大人たち)に彼らが望んでいるものを与えれば、必ず再び戻ってくる。チケットの値段や時間に関係なく。そして、ライヴはずっとロックし続ける……。

by David John Farinella

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