【BARKS編集部レビュー】カスタムIEM界のハイブリッド大将、Unique Melody Merlin

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「多少冷徹なくらいでもシビアなリファレンス・モニター系の方が、ニュートラルな音が楽しめて好み」だと、常々自分では思っているのだけど、一方で低音ドカドカのAtomic Floyd SuperDartsやSOUL by Ludacris SL99のような音も単純に気持ちよかったりする。ゼンハイザーIE80やWestone3が大好きなのも、高域や中域の邪魔をすることなく心地よい低域をドスバス出してくれるから…なのかもしれない。

▲Unique Melodyの製品に必ず添付される周波数特性のグラフ。低域のモリモリ具合がワンダフル!

▲非常に綺麗なシェル。中に見える丸いタイヤのような黒い物体が低域用のダイナミック・ドライバー。

◆Unique Melody Merlin 画像

「わしっていわゆる低音厨だったんやね(ER-4やheaven系も好きなんだけど…)」と自覚すると、カスタムIEMに対しても、なんとなくそっち系を求める傾向が強まってくる。現時点では、私にとってカスタムIEMのステキ三大要素は「高解像度」「抜けの良さ」「低域モリモリ」である。音のディテールが楽しめて、見通しが良くクリアでボトムが太ければニンマリ。ベードラはビーターの質まで分かりたいし、ベースはラウンドワウンドのエッジまで聞こえて欲しいでしょ。

そんな要望をストレートに満たしてくれそうなモデルと言えば、そう、Unique Melody(ユニーク・メロディ 以下UM)のMerlin(マーリン)を差し置いて何があろうか…ということで、Merlinの魅力をお伝えしたい。

Merlinは、2011年4月に登場してから安定した人気を誇るモデルのひとつで、今ではUMの代表機種のひとつであるばかりか、世界中のカスタムIEM群の中でも、最も指名買いの高いモデルのひとつとなっている。というのも、個性派ゆえに他のモデルではなかなか替えがきかないからだ。

Merlinは、カスタムIEMの世界でも未だ稀有なダイナミック・ドライバーとバランスドアーマチュア・ドライバーが混在したハイブリッドモデルである。ゼンハイザーIE8やUE super.fi 5 EBのリモールド&ドライバー追加というカスタムオーダーでいわゆる改造ハイブリッド・カスタムは製作可能だが、ハイブリッドとして設計された市販カスタムIEMは、世界広しといえど、古くはThousand Sound TS842、最近ではROOTH LS-X5が登場してきたくらいで、ほとんど存在しない状況にある。

Thousand Sound TS842のレビューは後日お届けするとして、Merlinの魅力は、理屈抜きに聴いていて楽しくワクワクするような音を出すところにある。ハイブリッドだからといってSuperDartsのような硬質なサウンドでもなく、AKG K3003のような礼儀正しく端正なサウンドでもなく、温かみのある屈託のない音を素直に出してくれるモデルだと思う。タイトながら温度感のある低音の質感は、市販モデルでいえばSL99が最も似ているところだろうか。

カスタムIEMのハイエンド機を比較対象にシビアに聴き込むと、中域や高域も澄みわたるようなクリアさがあるわけでもなく、決して最高品質のハイファイ・サウンドではないことが分かる。リファレンス系のような高解像度なのかと問われれば、2秒ほど考え首を傾げるところだけれど、それでもなお、高密で生々しい世界観を作り上げてくれるから、Merlinは何ともクセになる。もちろん使用においては、中高域に不満が出るわけでもない。

音量が非常に小さい状態ではヌケも良くないが、音量を上げていくと、中域と高域の表現力が俄然増していくところがMerlinのつぼどころで、ここにハマると麻薬のように抜け出せなくなる不思議な魅力を湛え始める。簡単に言ってしまえば、カスタムIEMの世界の中にあって珍しく最高にエロいサウンドを出すモデルなのだ。

Merlinは3ウェイ5ドライバーで、低域用のダイナミックを1発と、バランスドアーマチュアを4発搭載している。中高域はknowles製のTWFK-30017×2と思しきドライバーが搭載されているので、言わばAKG K3003にオーディオテクニカのATH-CK10を追加したような構造だ。このドライバー構成が、実はWestone ES5と酷似しており、低域ドライバーがダイナミックかバランスドアーマチュアかだけの違いで、中高域を担う4つのドライバー構成がMerlinとES5はそっくり同じになる。

頭で連想しても共通項が見いだせない両者に対し、まさかのMerlinとES5の聴き比べを行なってみたが、中高域のトーンは確かに似ており、中域~高域の音質バランスや歯擦音がほとんど気にならないギリギリのおいしさなど、いくつかの共通項が垣間見れた。一方で、聞こえ方は全く違い、ES5のほうが鼓膜に近くビビッドでリアルさが増した解像度の高い聞こえ方となる。クリアかつ芯のしっかりしたサウンドだ。音場に関する評価は、使用者の経験値や感性に大きく左右され、広い/狭いという一元的な評価はナンセンスなのだけど、あくまで一個人の同一条件を前提にした局地的な評価をすれば、ES5はボーカルが近くMerlinは空気感がボーカルを包み音場が非常に広くなるといった明確な違いがある。両者は同じ素性を持ちながら二律背反の対照を見せる好例だと思う。

▲実はドライバー構成がそっくりなUM Merlin(左)とWestone ES5(右)。ES5の方がハイファイで高解像度を誇り、キレ良くぶっとく鳴らす。Merlinは濃厚でアナログっぽい艶めかしさが最大の魅力だ。

ドライバーを供給しているknowles社によると、そもそも全く同じドライバーでも、導音管の長さと直径の違いがドライバーの出力に大きく影響を与え応答曲線を著しく変化させると明言している。そこに音響ダンパーの使用が加われば、もはや全くサウンドは違うものとなってしまうわけで、WestoneでいえばWestone3とUM3Xは全くサウンドが違うけれど、使われているドライバーは全て同じという信じがたい事実で実感できることだろう。イヤホン評価においてスペック偏重がナンセンスであることを物語る話だけれど、素材が同じであればこその自身の好みの傾向を把握することは、外さないカスタムIEM選びのノウハウのひとつになることだろう。

一方で、さすがに低域の質感は両者全く異とするもので、量感はMerlinに軍配が上がる。ライブ会場のPA前に立った時のウーハーの音圧で身体が震えてしまう感覚にも似た濃厚でねじ込むような低音は、やはりダイナミックならではの醍醐味だ。ES5の低域もバランスドアーマチュアとは思えないほどの重さと張りをもった素晴らしい質感を持っているが、艶めかしさはなく、あくまでスピード感を伴った瞬発力のあるシャープな響きである。ひたすら端正でアタック感のあるタイトさを求めるのであれば、ES5の方がお薦めだ。

▲赤○部分がベント孔。異物混入を防ぐ役目も兼ねてか、ダンパーが付けられている。

▲Marlinに負けず劣らずの低音をぶちかますモデル。左がMerlin、中央がビックリするほど安いLEAR LCM-2B、右がビックリするほど音がいいHeir Audio 8.A。

▲立派なケースが付属。この中にクリーニングツール、キャリングケース、保証書、取説、周波数特性グラフが同梱されている。

なお、Merlinにはダイナミック特有のベント孔が開けられており、さらに音響ダンパーが詰められている。フェイスプレートに穴が開いている意匠はMerlinならではの個性だが、広々とした音空間の生成にはこれも寄与しているかもしれない。懸念される音漏れと遮音性に関しては、常識的なボリュームで聴いている限り音漏れは全く問題ないといって良さそうだ。遮音性は、多少の外音が入ってくるような気もするが、音楽を邪魔するようなレベルではなく、こちらも問題ない。むしろフィット感の良くないカスタムIEMの方が、よっぽど遮音性が低いというレベルだ。

質感は全く違うものの、手持ちのカスタムIEMの中でMerlinと同等の低域の量感を叩き出すモデルとしては、LEAR LCM-2BとHeir Audio(エア・オーディオ)のHeir 8.Aあたりがあり、ハイブリッドではなくともMerlinに劣らぬローエンドを堪能できるモデルは存在する。純粋にドンシャリを求めるのであれば、Merlinに固執する必要はないわけで、LCM-2Bという安価なものからHeir 8.Aというハイエンドモデルまで、その選択肢も幅広い。ただ、肉感的でまとわりつくようなベースや空気の揺れを感じるようなベードラをたっぷりと味わいたいと思ったら、もうMerlinに頼るしかない。唯一無二の存在感を発揮することだろう。

text by BARKS編集長 烏丸

●Unique Melody Merlin
$799.00
5 drivers hybrid
Low:ダイナミック・ドライバー×1
Mid:バランスドアーマチュア×2
High:バランスドアーマチュア×2
入力感度:108dB spl(1mW)@1kHz
再生周波数:10Hz~19,000Hz
インピーダンス:12Ω
遮音性:-26dB
付属品:50" ケーブル、化粧ボックス、クリーニングツール、キャリングケース、保証書、周波数特性グラフ、取説
保証:2年、リフィット60日

◆Unique Melody Merlinオフィシャルサイト
◆Unique Melody 購入方法(英語)

BARKS編集長 烏丸レビュー
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
◆ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)
◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
◆SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
◆AKG K550(2011-12-20)
◆SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
◆DUNU(2011-12-14)
◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
◆オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
◆REALM IEM856(2011-12-02)
◆ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)
◆Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
◆Reloop RHP-20(2011-11-22)
◆オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
◆SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
◆Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)
◆SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
◆JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
◆BauXar EarPhone M(2011-10-10)
◆SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)
◆AKG K3003(2011-09-18)
◆Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
◆Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
◆Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
◆ORB JADE to go(2011-08-22)
◆YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
◆NW-STUDIO(2011-08-09)
◆NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
◆Westone ES5(2011-07-21)
◆SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
◆クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
◆GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◆SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
◆フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
◆ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
◆フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
◆アトミック フロイド(2011-05-26)
◆モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
◆SHURE SE215(2011-05-13)
◆ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
◆ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
◆ローランドRH-PM5(2011-04-23)
◆フィリップスSHE9900(2011-04-15)
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◆フォステクスHP-P1(2011-03-29)
◆Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
◆ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
◆Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
◆Westone4(2011-02-24)
◆Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
◆KOTORI 101(2011-02-04)
◆ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
◆ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
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