今年、イキがいいのは“THE”のつく奴ら!

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キテるバンドに“THE”が付いているのは偶然?

'03年のロックシーンのキーワード。それはズバリ“THE”だ!

普段、バンド名における“THE”の有無など、ほとんど気にすることはないと思うが、昨年から英米のロックシーンにおいては、この”THE“が付いているかどうかが極めて重要になってきているのだ。それはどういうことか? 英米において、“THE”の付くバンドということで一般的に思い浮かべられるのは、どうやら'60年代のブリティッシュ・ビートのバンドや'70年代のロンドン・パンクのバンドのようなのである。ザ・ビートルズザ・ローリング・ストーンズザ・フー、もしくはザ・セックス・ピストルズザ・クラッシュザ・ ジャム……。つまりは、どこかスタイリッシュな雰囲気があり、荒削りな感触を音色に残した3分間のシンプルなロックンロール。

”THE“の付くバンドが持つイメージとはザッと言ってこのようなものなのだが、こうした流れが今のロックシーンには巻き起こりつつあるのである。それは、ここ最近隆盛を誇っていたメロコアやミクスチャーといった、スポーティな感覚に流れがちだったロックシーンに対してのカウンターなのだ。だだっ広いモッシュ・ピットを前に展開されるアクティヴなロックが悪いわけではない。しかし、そもそもロックというのは、もっとアートな雰囲気を持ったものだったじゃないか! そんな主張を無言のままに展開するバンドたちが、現在アメリカやイギリスを問わず、世界的な規模で台頭しつつある。現にヘヴィロック系のバンドは、そうした新勢力の台頭に脅かされるのを恐れ、人気バンドのサム41はザ・サムズというバンド名に改名させられる悪夢(皮肉でもあるが)をPVのネタにしているほどだ。そんな“THE付き”バンドの中から、今年、特に活躍が期待されるバンドをここで一気に紹介しよう。

文●沢田太陽

■ジュリアン・カサブランカス(Vo)
■ニック・ヴァレンシ(G)
■アルバート・ハモンド Jr.(G)
■ニコライ・フレイチュア(B)
■ファブリジオ・モレッティ(D)

1stアルバム+DVD

Is This It - Special Package (CD+DVD)
BMGファンハウス
2002年11月06日発売
BVCP-24010 3150(tax in)

現在の“THE付き”バンド・ムーヴメントの火付け役が、このザ・ストロークスだ。ジュリアン・カサブランカス(Vo)を中心とする、ニューヨーク出身の5人組だ。彼らは'01年、アルバム『Is This It』で、かつてザ・スミスを生んだイギリスのインディ・レーベルの老舗、ラフ・トレードからデビュー。ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド以来脈打つニューヨークのアートなパンクの伝統と、ザ・スミスにも通じるメロディやリズム感覚を咀嚼した、“これぞインディロックの典型的見本“のようなシンプルなロックンロールは、ヘヴィ・ロックとキッズ・パンク一辺倒だったロックシーンに一石を投じ、アルバムは英米の音楽誌からこの年の最高傑作に選ばれるほどの大反響を得た。まずイギリスの音楽誌から人気に火のついた彼らではあったが、そのモッドスーツに身を包んだファッション性はアメリカでも新鮮なものとして受け入れられる。いまや新たなトレンド・リーダーにもなり、キャメロン・ディアスやオジー・オズボーンの娘ケリーなど、セレブに追っかけを持つほどの存在に成長。そんな彼らの成功から、“THE”の付くバンドたちの侵攻がスタートした。今年にはニューアルバムのリリースが期待されている彼らだが、ロック界の勢力地図がどう塗り変わるかは、彼らの成功いかんにかかっている。

【インタヴュー】
ニックとニコライ、デビューから快進撃の1年を語る

ザ・ストロークスのブレイク直後にヒップな音楽メディアの注目を浴びたのは、デトロイト出身のジャック(Vo、G)とメグ(Ds)のホワイト姉弟からなるザ・ホワイト・ストライプス。その、たった2人によるパンキッシュに演奏されたブルースロックは玄人音楽ファンをも唸らせるものがあるが、それよりウケたのは、赤と白のシャツとジーンズ(もしくはスカート)を互い色違いに着こなす姉弟のファッション・センス。これにより彼らは、英米の音楽誌のみならずファッション誌でも数々の表紙を飾り、イギリスの音楽誌が先日行なった「もっともクールな人物」の人気投票でも、ジャックが1位、メグが6位に入るという人気ぶりを博した。これに後押しされ、批評的にも大絶賛されたアルバム(通算3枚目)『White Blood Cells』も英米で共にロングヒットを記録。今年前半には出ると噂される新作アルバムでの大ブレイクが期待される。

【インタヴュー】
赤と白の衝撃! 英米のロックファンを虜にするプリミティヴなロックンロール

【ビデオ】
「Fell In Love With A Girl」(PV)
FUJI ROCK '02来日時のコメント・ビデオ

■メグ・ホワイト(D)
■ジャック・ホワイト(Vo, G

3rdアルバム

White Blood Cells
V2 Records Japan
2002年6月19日発売  
V2CP-128 2,310(tax in)

■クレイグ・ニコルズ(Vo, G)
■ライアン・グリフィス(G)
■パトリック・マシューズ(B)
■ハミッシュ・ロッサー(D)

最新EP

Outtathaway Japan Tour EP
東芝EMI
2003年01月16日発売
TOCP-61070 1,500(tax in)

ニルヴァーナ・ミーツ・ビートルズ」という触れ込みで鳴り物入りのデビューをはたしたオーストラリアの逸材。このところグランジ風ギターサウンドもヘヴィロックの一要素として吸収されすっかり骨抜きになっていたが、ザ・ヴァインズは'90年代初頭にシアトルからグランジが台頭した頃を思い起こさせる、生々しい粗っぽさを見事に表現する。そればかりか、中心人物のクレイグ・ニコルズはカート・コバーンやジョン・レノンにも通じる、少年のような壊れやすい繊細さとひたむきさを持った母性本能をくすぐる危ういキャラクターをも垣間見せ、そうした意味でも新たなるロックのカリスマ像を表現してくれている。'02年夏に発表されたデビュー・アルバム『ハイリー・イヴォルヴド』は全英3位、全米11位と、いわゆる“THE付きバンド”の中では最高ランクを記録。その波に乗り、今年発表されるという2ndアルバムでの爆発が期待される。

スタイリッシュなイメージのバンドが多い“THE付きバンド”の中で全くの異端児がニュージーランド出身の4人組、ザ・ダットサンズ。メンバー全員がダットサンの姓を名乗るという、ラモーンズの伝統を踏襲する彼らは、無造作に伸ばした長髪と自慢げに着ている'70年代のメタルやグラムロックのTシャツがトレードマークという、時代錯誤感覚が魅力となっている。そしてサウンドのほうも、KISSAC/DCモーターヘッド、初期アイアン・メイデンを彷彿とさせる'70年代風メタルサウンドそのもの。しかし、洗練された味付けと妥協を一切許さない、そのカオティックで闇雲なロックンロールは、'80年代以降のショウビズでメタルが失ってしまったヴァイタリティや、現在のニューメタルやキッズ・パンクの多くが失いつつあるエッジを見事に保っている。そんなダットサンズにはフー・ファイターズメタリカなど、ロック・ミュージシャンにも熱烈なファンが多い。1月の初来日公演も大いに期待される。


■ドルフ・デ・ダットサン(Vo, B)
■フィル・ダットサン(G)
■クリスティアン・ダットサン(G)
■マット・ダットサン(D)


1stアルバム

The Datsuns
V2 Records Japan
2002年12月18日発売
V2CP-143 1980(w/o tax)
まだまだいるぞ……THEの付く注目バンドたち


ザ・D4

ザ・ヴァインズやザ・ダットサンズを生んだ豪州圏からは本格派ガレージ・バンドのThe D4、そして豪州圏と並ぶ“THE付きバンド”の宝庫である北欧からは、ザ・ストロークスやザ・ホワイト・ストライプスと共に'02年のシーンを引っ張ったスウェーデン出身のザ・ ハイヴスやザ・(インターナショナル)・ノイズ・コンスピラシー、ザ・サウンドトラック・オブ・アワ・ライヴス、デンマークからはザ・ラヴェオネッツなどがイギリスのメディアを中心に熱い注目を浴びている。



ザ・ムーニー・スズキ
また、日本ではヘヴィ・メタルの括りでこれまで紹介されていたが、スウェーデンのロックンロール・バンドのザ・ヘラコプターズも、こうした動きの元祖として扱われはじめている。また、イギリスからはザ・リバティーンズザ・コーラルといったバンドが注目され、ザ・ストロークスを生んだニューヨークからはザ・スター・スパングルズやザ・ムーニー・ スズキ、ザ・ホワイト・ストライプスを生んだデトロイトからはザ・サイツといった有望バンドが登場してきている。



インターポール
また、THEこそ付かないが、ザ・ストロークスを生んだニューヨークからはヤーヤーヤーズやインターポール、ライアーズにレディオ4といった昔ながらのニューヨークのアンダーグラウンド・シーンを彷彿とさせるアート感覚溢れるニューウェイヴ・リヴァイヴァル・バンドが次々と登場。彼らも次のシーンの担い手として、今熱い注目を浴びつつある。
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