【BARKS編集部レビュー】Fidue A71がこんな形状をしているワケ…を妄想する

Fidue（フィドゥー）から、新モデルA71が登場した。Fidueは中国発の新興イヤフォンブランドだが、A81からA83…とインパクトのある高品質サウンドを引っさげてイヤホン業界に登場し、マニアからの好評価を勝ち得てきたブランドだ。

◆Fidue A71画像

Fidueの最も評価すべきポイントは、既存メーカーにないオリジナリティを求めるべくフロンティア精神と柔軟な対応力をもってオリジナルモデルを開発し、それが実際のサウンドに帰着している点にある。イヤホン市場が活況となるにしたがって、“オマージュ／リスペクトという衣”をまとって“人気商品や有名モデルをパクりまくる”志もへったくれもないブランドも世界中で増殖するわけだが、そんな状況にあってこのA71の造形は、Fidueが掲げる高い志が具象化した象徴にも見える。

話題を牽引したA81、A83の影に隠れているが、実売6,000～7,000円で販売されているA63も、素直なサウンドをもった高く評価されるべき優れたイヤホンだ。そんなA63のサウンドにエネルギッシュで肉厚な中低域を付加し、ワイドレンジ化を果たしたのがA71という印象であろうか。


A71のサウンドを聴いて最初に気付くのは低域のインパクトなのだけど、その割に鬱陶しさはなく、その圧倒的な重振動が非常に心地よい。ハイエンドオーディオを特等席で堪能している時、あるいはライブ会場に身を投じている時、冷静に捉えるとかなりの重低音が身体を包み込んでいることに気付くわけだけど、まさにそのトーンバランスのような心地よさを感じさせてくれる質感を持っている。低域の存在感はかなりあるが、質の良さがそれを許してくれるのかもしれない。生々しく肉厚だがスピード感があり鈍重さを感じさせない。トルクフルで切れ味の良い低域が、A71の最大の魅力だ。

このサウンドを生み出しているのは、この独特の形状による外耳道への挿入角度と密着性に起因しているのは間違いないだろう。これまで非常に多くのイヤホンを手にしてきた中で、同じような中低域のニュアンスをもったイヤホンをひとつだけ知っている。ちょっとばかりマニアックなモデルだけれど、Fischer Audio（フィッシャー・オーディオ）のCeramique（セラミック）というモデルだ。ただし、正しい装着ではなくCeramiqueの筐体を180度回転させて外耳道に無理矢理ジャストフィットさせた状態の時にのみ感じられるトーンニュアンスである。

このトーンには、ちょっとした秘密がある。頭蓋骨を直接震わすような重厚なサウンドなのだけど、それは比喩ではなく、軟骨経由の骨伝導によって得られた低域の充実と高域の伸びやかさだ。軟膏伝導を利用すると、「軟骨気導」の発生と鼓膜を経由せずに直接蝸牛に振動を与える「骨伝導」の2つの音伝達経路が追加される。これによる低域の充実度は圧倒的で、後者の骨伝導に至っては、人間の可聴域の限界を生み出している鼓膜というボトルネックを経由しないため、20KHz以上の高帯域を認識可能にするという既成概念を覆す驚くべき作用も派生させる。…もちろんこれはそういう帯域が再生されていた場合の話だけれども。

直接気導による通常のサウンドに加え、軟骨気導と軟骨骨導によるサウンドがミックスされて知覚されるA71のサウンドは、これまでにない斬新なサウンド体験だが、その効果を引き出すには理想的な装着が必要だ。耳殻と外耳道の位置関係に大きく依存することなので、残念ながら誰もが同じサウンドを得られる保証はなさそうだし、体感レベルも大きな個人差があるだろう。私が試した範囲で思うのは、ハウジング側部が耳珠にしっかりと接触している状態こそが、設計時のサウンドを享受できる状態であるのではないかということだ。そのために考えられたケーブルの引き回しであり、このハウジングのデザインなのだ。

サイズ違いのダイナミックドライバーを2発搭載するという、2ウェイ設計も個性的で話題を牽引するポイントのひとつだけれど、それ以上にA71の潜在能力をいかに引き出せるかは、耳への装着如何にかかっている。相性を考えると視聴（試着）をしないで購入するのはリスキーかも知れないが、きちんと引き出されたA71のサウンドは、他のイヤホンでは代替できない新たなサウンドを存分に堪能させてくれる驚きと喜びに満ちている。

text by BARKS編集長 烏丸哲也






◆Fidue国内オフィシャルサイト
◆BARKSヘッドホン・チャンネル
◆BARKS カスタムIEM専門チャンネル