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Paul Williams ほど多くの側面を持っているアーティストもそういないだろう。映画ファンには『Phantom of the Paradise』の奇怪なキャラクターを演じた個性的な俳優として、リアルタイムのポップス・ファンにはThe Carpenters などのヒット曲の作詞家や、70年代に多くの作品を生み出したシンガー・ソングライターとして、そして新しい価値観で音楽を捉える若い世代には『Someday Man』という名盤を残したソフト・ロック・アーティストとして・・・。しかし一般的には、情感溢れるラブ・ソングを多く残した偉大なソングライターという評価がやはり一番多いのであろう。

Paul Williams は'40年9月19日、ネブラスカ州オマハに生まれている。ハイ・スクールを卒業すると、旅公演をするプレイ・ハウスの俳優になり、それからテレビ俳優、そして映画俳優となった。映画俳優といっても背景のセットを描いたりスタント・マンをやったりと、パッとしない日々が続く。'64年に『The Loved One』という映画で10歳の天才少年の役を演じた後、'65年に Marlon Brando との共演で『The Chase』という映画に出演する。この映画の撮影中に人から借りたギターで曲を作り始めたのがきっかけで作詞・作曲をするようになる。

Paul の才能に最初に目を止めたのは、LAのホワイト・ホエール・レコードの音楽出版部門だった。Paul はこの会社と週500ドルで7年間の専属契約を結んだが、この契約は1ヶ月と経たないうちに破棄される。落胆して再び俳優の仕事に戻り、コメディアンの Mort Sahl のショーの仕事をするようになる。そこでやはりコメディアンの Biff Rose に出会い、一緒に曲を作り始めた。彼らは7曲のデモ・テープをA&Mの出版部門に持ち込み担当マネージャーの Chuck Kaye に聴かせた。ちょうどRoger Nichols の曲に詩をつけてくれる作詞家を探していた Chuck は Paul を Roger Nichols に紹介する。

意気投合した2人はたちまち多くのヒット曲を共作し、70年代初頭には Burt Bacharach=Hal David に続く人気作曲家チームとなっていた。作家活動と平行し Paul は'67年に Holy Mackerel というバンドを結成しデビューしたり、'70年には初ソロ・アルバム『Someday Man』を発表したりしてシンガーとしてもアピールをし始める。

Paul が単独で書いた「Out In The Country」が'70年に Three Dog Night のヴァージョンで全米15位になり、翌'71年にも「An Old Fashioned Love Song」が全米4位まで上昇した。これに煽りを受けて Paul はA&Mに移籍し『Just an Old Fashioned Love Song』を発表。以降『Life Goes On』('72年)、『Here Comes Inspiration』('74年)、『A Little Bit of Love』('74年)、『Ordinary Fool』('75年)などといったソロ名義のアルバムを次々と発表する。チャート的には'72年に「Waking Up Alone」が全米60位と振るわなかったが、ラス・ヴェガスに進出したり、レギュラーのトーク・ショウを持ったりとこの時期の活動は幅広い。他にも映画音楽の分野で多くの名曲を作り出している。特に Barbra Streisand が歌った『A Star Is Born』のテーマ曲「Evergreen」が有名で、'77年に全米No.1とアカデミー賞、グラミー賞のベスト・ソングに輝いている。

その後70年代後半から80年代全般にかけてドラッグやアルコールに溺れ音楽界から遠ざかるが、'89年にリハビリ施設に入り克服する。アルコール/ドラッグ中毒患者に対するカウンセリングの仕事にも関わるようになった。そして'92年には再び映画音楽を手掛け始め、'97年には16年ぶりのソロ・アルバム『Back to Love Again』を発表。数々の栄光や波瀾を経験した後に到達した、穏やかで味わい深い世界が感じられる内容となった。