全域高解像度ながらドスバス低域が楽しくて仕方ないHeir Audio 8.A、そして高域の抜けと表現の繊細さが半端ないカナルワークスCW-L51 PSTS、突き詰めればこの2つでカスタムIEMはファイナルアンサーか? …とまとめモードに入ろうとしたのだけど、両極があればオールラウンドにカバーできるというわけもなく、8.AとCW-L51に振り切れた心の隙間にスッと入り込んで、いつしか手放せなくなっている良妻賢母なカスタムがある。そう、やっぱりFitEarなのだ。

◆FitEar MH335DW画像

▲FitEar MH335DW、168,000円(税込・耳型採取費別)。

▲シェルにはブランドとシリアルナンバー以外に、おおよそ8文字までの任意の英数字を入れることができる。デフォルトで左は青、右は赤の文字が入り、シェルに色が付いている場合は白文字が入る。

▲非常に美しい造形をみせる。シェル内部はアクリルが充填され、各ドライバーはクリスタルのオブジェのようにアクリルの中に浮かぶ。

▲低域用の大型ドライバーKnowles CI22955がタンデムでどんと鎮座する様子が見える。コンパクトなシェルの中で限界ギリギリの設計だ。

シビアに高解像度ながらもモニターライクなよそよそしさがなく、音楽を楽しく表現してくれる素直なバランスの良さと、その存在を忘れさせてくれそうなほど素晴らしいフィット感を持つカスタムこそ、実用の面で一番頼りになる。FitEarを手にして最初に気付くのは、作りの面でもサウンドの面でも、桁違いの安定感と安心感に満ち溢れている点だ。

シェルを見ても全く隙の無い見事な造形を見せており、クリスタルのインテリアのようにシェル内部もアクリルで満たされている。1年ほど前に製作したMH334では、まだ内部に相応のスペースが残されていたが、今回出来上がったMH335DWに至ってはドライバーは完全にアクリルの塊の中に埋め込まれている状態となっている。内部がアクリルで充填され内部スペースに空きがないのは、イレギュラーな構造を持つオーリソニックスAS-1bやフルシリコンのカスタムを除けば、FitEarにしか見かけないもの。シェルの内部で音導管音のチューブが外れたり、ケーブル端子がゆるくなって接触不良を起こしたりと、カスタムでもいろんなトラブルを経験してきたけれども、FitEarに関してはそのような不安要素は全くない。実際それなりの酷使をしてきているけれど、安定感も抜群で危なげな様子は皆無。国内で多くのプロアーティストが現場で愛用しているのは、そういった桁違いの品質が高い安心感を与えてくれるからだろう。「間違いない」「裏切らない」…多くのプロフェッショナルから寄せられる圧倒的な信頼性は、使用感のみならずサウンドに対しても同様である。

そんなFitEarの最新モデルが、このMH335DWだ。一番の売れ筋でありハイスペックモデルとしてブランドを牽引するMH334を基に、基本のサウンドをそのままに低域を強化させたもので、DWはDouble Woofersを意味している。ドライバー構成はMH334をそのまま引き継ぎ、低域用ドライバーのKnowles CI22955を1発から2発としたことで、ダブルウーファーの名がついたわけだ。

昨今のカスタムIEMにおける低域強烈モデルをイメージすると、MH335DWの低域は実に控えめ。というか、実用モデルとして羽目を外さない良識が貫かれているので、オバケのような低域を期待してはいけない。ただし、その質は極上のものとなった。バランスとしては低域が強いモデルという印象は持てないが、多くのバランスド・アーマチュア搭載のイヤホンが苦手とする極低音を、非常に丁寧に再生する実力を備えているかたちだ。

80Hzあたりから上の低域に関してはMH334との量感の違いはさほど感じないが、40Hzあたりから80Hzの超重低音に関しては、その表現力がMH335DWの真骨頂だ。そのなかなか描画しにくい輪郭を明確に描き出し、量感が増えるというよりも重低域の解像度がぐっと上がった印象を受ける。実際に聞き比べて、誰でもその違いを明確に感じ取れる例としては、JASMINE「Jealous」あたりがいい。シンベのメロディックなランニング・ラインが印象的なナンバーだが、このシンベの音が恐ろしく激低音まで含まれるサウンドなので、この定位感や沈み込み方に違いを感じることができるだろう。

MH334とMH335DWの違いは作品によってはベードラにも顕著に表れることがあるが、極低域成分の差異によるものなので、結果MH335DWのサウンドの重心は下がることになる。逆にMH334のほうがベードラの持つアタック成分が強調されて聴こえる傾向にあり、むしろビート感は良好でノリよく心地よい音楽として届くことから、結果MH334の方が軽快に聞こえるという人も多いのではないかと思う。一方で低域に意識を置くと極低音の描画力には明らかな違いがあるため、低い成分の本当に細かなニュアンスを必要とするドラマーやベーシストのモニタリングという現場でこそ、MH335DWの真価が発揮されることになりそうだ。

▲左がMH334、右がMH335DW。どちらもトリプルボアだが、ロー/ミッド/ハイの位置関係は、全く違う。見比べると各ドライバーの位置や音導管の引き回しが大きく変わっており、設計の苦労が見て取れるようだ。MH335DWの方が1mm程度厚みが増している。

▲標準付属のケーブルは比較的固めだが、絡みにくく使いやすい。耳に掛ける部分には形状記憶ワイヤーが入っている。

▲付属品にはペリカン製ハードケース、ソフトケース、クリーニングブラシ、取扱説明書 、ケーブルクリップが付属する。

さて、MH334とMH335DW、どちらがベストバイか。どちらもよどみない高解像度とクリアな音質を持ち、基本のトーンはほとんど同じだと考えて差し支えないと思う。ただ、MH335DWは、MH334と比べると超低域のみならず、なぜか中域から高域にかかる1KHz~2KHzあたりの量感が増えたようにも感じる。逆に言えばMH334の方が見通しがよく、シンバル系の金物などの鳴り方はMH334のほうがクリアに感じる。中域がタイトなことから相対的にそのように聞こえるのかもしれない。全域にわたってMH334のほうがきっちりと細かい描写も聞こえやすく、解像度の細かさも感じやすい。モニタリングという意味でもリスニングという意味でもうまくバランスのとれた素晴らしいサウンドだと思う。

一方でMH335DWは、大げさに表現すれば重心が低くなったことで軽快さを手放し、その分迫力と密度を持って落ち着いたトーンながら高い解像度を誇る個性的な立ち位置に付いたと感じる。製作コストや部材費の違いからか、価格には差異が生まれているけれど、MH334とMH335DWは、完全に好みや志向性で選ぶべき機種で、上位・下位に位置するのではないし、キャラが違うだけで性能という意味でも私は全くの同等にあると思う。

どんな人がどちらを手にすべきか…そこはなかなか難しい。華やかさはMH334、野太さはMH335DWという感じか。あるいは、MH334が雌でMH335DWが雄って感じ?博多ラーメン一風堂でいえば、MH334が白丸元味、MH335DW赤丸新味という感じ。んもう、伝わらない。

MH334が高原の滑らかさを持ち、MH335DWが険しい景観でダイナミズムが魅力というのが、私の感覚だ。曲やジャンルで使い分けるというよりも、その時の気分やシチュエーションで使い分けると最高に贅沢なひと時が堪能できる。高速をすっ飛ばすような爽快感ならMH334、峠を攻めるようなトルクフルなGを感じるイメージはMH335DW。普段使いはMH334、暴れん坊&ロックなキャラが欲しいときはMH335DWというのが、至福の使いこなし術になりそうだ。

ちなみに、MH335DWはMH334に低域用のドライバー(Knowles CI22955)がひとつ追加されただけだが、CI22955がBAドライバーの中でも最大級のサイズを持っているために、そのままMH334に追加搭載はスペース的に不可能だったようで、両者を比べると音導孔の配置もドライバーのセッティングも一新されている。ドライバーをひとつ加えたというよりも5ドライバモデルとして新たにセッティングを引き直したのは明らかで、ネットワーク設計にも手が入っていることだろう。

最後に蛇足ながらアンプ側との相性に関して。MH334もMH335DWも能率が非常に高く、小さな音でのセッティングが難しい。アンプ使用時はギャングエラー(ボリュームつまみの物理特性によって、音量を絞った時に左右の音量にばらつきが出る現象のこと)も気になるところなので、デジタルボリュームの搭載されたFiio E17でテストを繰り返した。ハイとローを10段階で増減できるトーンコントロールでサウンドの変化を確かめてみたところ、MH334にはEQによる作為的なニュアンスが前面に出てしまい、粗暴なニュアンスが載ってしまう。出来るだけピュアなセッティングでそのままを楽しむ方が高クオリティを心地よく満喫する秘訣かもしれない。一方でMH335DWは、ちょっと乱暴なセッティングでも、そのチューニングにしっかりと追従してくれるようで、やんちゃな音づくりも受け入れてくれる度量の大きさを感じさせてくれる。低域をブーストするとリニアに反応するのは確実にMH335DWの方で、ハイに関してもMH335DWの方が伸び代を感じさせてくれる。個性的なアンプで音を積極的に作り上げ楽しむのであれば、MH335DW一択だ。

しかしながら、MH335DWを手に入れるまでの一番の障壁はその金額だろう。純国産でこの品質である事実を鑑みれば、むしろ決して高額ではないことは保証できるのだけど、円高基調にあって海外の人気モデルが2つ買えてしまえる価格であることも事実だ。

でも、FitEarのフィット感の素晴らしさは、FitEarでしか手に入らない。そしてこの高レベルにバランスのとれたノリのいいトーンも他のブランドには見当たらない。モニタリングとリスニングという定義があるとすれば、そのちょうど中心に位置するとイメージしてほしい。ステージモニターとしてプロの現場でも、一般音楽ファンにとっての最高峰の音楽リスニングモニターとしても最高の満足を提供してくれるのが、MH335DWだ。冷静ながらひと肌の温かさを感じさせてくれる世界トップクラスのカスタムIEMを、どうかあなたも。

これまでも多くのカスタムIEMをオーダーしてきたけれど、トータルの完成度はMH335DWがNo.1かもしれない。細かい部分を突けば魅力あふれるモデルは他にもたくさん存在するし、得意種目を競えば、様々なモデルがそれぞれの魅力を放つことになるが、サウンドのみならず装着感から使い勝手まで総合力を総計するならば、団体総合金メダルを手にするのは、おそらくMH335DWだと私は思う。海外のマニアからすれば、憧れを抱き続ける高嶺の花・筆頭モデルが、FitEar MH335DWなことだろう。この完璧なフィット感と安定感、練り込まれた素晴らしいバランスのトーン…、いつかは欲しいと指をくわえる垂涎の最高級モデル、それがカスタムIEM界におけるFitEar MH335DWの立ち位置だと思う。

text by BARKS編集長 烏丸

●FitEar MH335DW Custom Ear Monitors
・標準小売価格:168,000円(税込・耳型採取費別)
・スピーカー構成:バランスド アマチュアドライバー
・3Way / 3Unit / 5Driver
・Low-2 / Low・Mid-2 / High-1
・入力コネクター:3.5mmステレオミニプラグ
・付属品:PELICAN製ハードケース、ソフトケース、クリーニングブラシ
●FitEar MH334 Custom Ear Monitors
・標準小売価格:147,000円(税込・耳型採取費別)
・スピーカー構成 バランスド アマチュアドライバー
・3Way / 3Unit / 4Driver
・Low-1 / Low・Mid-2 / High-1
・入力コネクター:3.5mmステレオミニプラグ
・付属品:PELICAN製ハードケース、ソフトケース、クリーニングブラシ

◆FitEar MH335DWオフィシャルサイト
◆FitEar MH334オフィシャルサイト


BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)