【BARKS編集部レビュー】老舗Westoneが放つ低価格カスタムIEM AC2の実力は?

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確かなサウンドクオリティと業界最高クラスの遮音性と快適性を兼ね備えたWestone(ウエストン)のカスタムIEM ESシリーズは、世界中で高い評価を獲得し、アーティストはもちろん海外オーディオ・ファンからも絶大な信頼を得ているのは、皆さんご存知の通りだ。

◆Westone AC2画像

▲WestoneのカスタムIEMシリーズのうち、フル・アクリルでできた安価設定のACシリーズ。シェルもフェイスプレートもクリアしか用意されておらず、派手さは全くないルックスだが、その分価格はESシリーズよりもずいぶんと抑えられている。

▲Westone AC2。フェイスプレートには白いインクでWESTONEの文字だけ。裏のヘリクス部分には型番とシリアルが左・青、右:赤の文字で記されている。

▲ご覧のとおり、カナル部分は非常に長い。そのフィット性も相まって、遮音性は完璧。外音はほとんど遮断されるので、外での使用は十分に気を付ける必要がある。

▲AC2には、大小のドライバーが計2発搭載されている。両ドライバーはすぐに1本の音導管にまとめられ、まっすぐにカナル先端部まで伸びている。

▲シングルボア。

▲付属品は、ボックスとコンパクトなキャリングケース、クリーニングツール、クロス、潤滑オイル、CD ROM。

そんなWestone社自らのラインアップでベスト・オブ・ベストと断言するのが、フラッグシップのカスタムIEM ES5だが、その制作ノウハウを持って価格をぐっと抑え発売しているのが、ACシリーズである。ACシリーズには1ドライバーのAC1と2ドライバーのAC2の2種類がラインナップされているが、同じドライバー構成を持ったES1やES2とも、もちろんユニバーサルモデルの1ドライバー、2ドライバーの各モデルともそのサウンドは違うとのこと。はたしてぎりぎりまで価格を落としたというACシリーズはどんな音なのか、今回AC2をオーダーしそのサウンドを確かめた。

ACシリーズの一番の特徴は、サウンドの品質を落とさぬまま、価格を限界まで下げたそのコンセプトにある。教会で音楽をする人々に向けて、個人にフィットしたカスタムモニターをいかに低価格に提供するかが開発の直接のきっかけであり、結果その設計はまさに質実剛健なもの。ESシリーズのようなフレックスカナル(カナル部分が柔らかいシリコン製)ではなくフル・アクリル製となり、クリアカラーのみでカラー指定もできない。フェイスプレートもクリア・オンリーでオプションの類は一切用意されておらず、バリエーションもゼロなのだ。シェルにはモデル名とシリアル番号こそ入るものの、オーナー名のプリントもない。フェイスプレートには中央に白いインクで小さくWESTONEと書かれているだけの簡素なもの。「飾りっ気など全くなくていい。その代わり完璧な遮音性と高品質サウンドを安価で」という切実なリクエストに真っ向から応えたナインナップであり、こういった実用本位のモデルが登場してくるのも、ヒアリングケア分野のトップブランドのWesotoneらしさである。

AC2は低域用と高域用のドライバーが各ひとつずつ搭載された2ドライバー構造だ。一般的に多ドライバーになると各帯域に音がみっちりと詰まった濃いめのサウンドになりがちだが、多くの2ドライバー・モデルは、すっきりとしたタイトで若干ドンシャリ系の派手なサウンドにチューニングされていることが多い。おそらくこれは、そもそも2ドライバー設計の目的が、シングル・ドライバーではカバーしきれない広帯域に対応させようとするところにあるから、だと思う。しっかりとした低域と抜けの良い高域をきっちり出そうとすると、残された中域はクリアで透明感のあるハキハキとしたトーンになる。私が所有している6機種の2ドライバーモデルのうち、Ultimate Ears UE 5 Pro、カナルワークスCW-L10、LEAR LCM-2B、Thousand Sound TS842あたりは、上記特性が見事に当てはまる。メリハリがあり適度な刺激と派手さを持つこのサウンドは、ことポピュラー・ミュージックを楽しむには実に魅力的であり、2ドライバーのカスタムIEMサウンドは、原点でもあり帰着点と言うべきひとつの基本形だと思う。

その点においてAC2は、これらとは明らかにサウンドのバランスが違う。引き締まったクリアで硬質なサウンド鳴らす2ドライバーではなく、人の声を中心とした、ヴォーカル帯域をいかに心地よくクリアに届けるかに焦点が当てられているのが明らかだ。100Hzから1kHzあたりのボーカル域をきっちりと色濃く正しく伝えようとする設計は、そもそものプロダクトコンセプトに合致したものかもしれないが、やはりそこにはWestone社が常に声を大にして主張する「温かみ」というWestoneのサウンドシグネチャーが明確に表れている。そしてこの音がまた、彼らの主張通り全く疲れないのだ。AC2のサウンドは、音楽の中核を成すであろう中域の表現が一番の肝となっており、その上で「必要量だけ鳴らしておきますのでよろしくどうぞ」的な絶妙なバランスで、低域の野太さと高域の鮮やかさが加わっている。

温かく滑らか、それでいてだぶつき感のないすっきりとしたサウンドは、実は、他のどのカスタムIEMにも似ていない魅力的なものだ。イケイケにテンションを上げたい時には手は伸びないが、まったりと日常で鳴らすには耳にも優しく、心地よく使い続けられる。強い主張に意識が引っ張られることもなく、とにかく優しさに包まれる感覚だ。表現としては適切ではないかもしれないが、Ultimate Ears 18 Proの濃厚で芳醇な生温かいサウンドを、そのまま温度を下げることなくすっきりとさせたイメージであろうか。第一印象で言えば、そのサウンドはまるで非常にベーシックなダイナミック・ドライバーのような感じですらある。

オーディオ・クラスタは当然のこととして、余裕のないギリギリの中で必死に頑張っているインディーズ・バンドや週末だけのアイドルといったアーティストたちが、イヤモニとして現場で愛用するにはこれほど適したものもないのではないか。ボリュームを上げた時のサウンドの分離とディテールの細やかさは、本当に優れたモニターとしての素養が輝く瞬間だ。

ちなみに、私のAC2のカナル部分は非常に長くできている。特にそのようなリクエストをしたわけではないので、これが標準的な仕様なのだろう。外耳の奥までぐっさりと挿入されているので遮音性は完璧である。外耳道の第2カーブまで達しているので、先端と鼓膜の間のスペースはもう1cmも残されていない。実はここも大事なポイントで、閉管共振によって発生する高域ピークが既に可聴域外に追いやられていることを意味する。つまりカナル型イヤホンが発生させる耳障りな歯擦音の発生も、このAC2は全く発生させないということだ。ドライバーのセッティングが高域をスポイルしてしまいそうなシェル奥側にセットされているにもかかわらず、必要十分な高域が再生できているのも、そういったトータルバランスが計算されてのことなのだろう。

見た目も質素で、立派なケースに入っているわけでもないけれど、AC2を耳にするたびに、使用者のニーズを捉え確実に高い満足を提供するWestoneの理念に触れ、「さすがWestone!」と畏敬の念を抱くのである。

text by BARKS編集長 烏丸

Westone AC2
・Driver:Dual balanced armature drivers with a passive crossover
・Frequency response:20Hz - 18kHz
・Sensitivity:119 dB @ 1mW
・Impedance:27 ohms @ 1kHz
・Cable:EPIC removable cable
・Includes:User manual, travel case and 1-year warranty.

◆Westone AC2オフィシャルサイト(海外)
◆フジヤエービック・サイト
◆eイヤホン・サイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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