【BARKS編集部レビュー】FitEar Aya~彩、多くの人から愛される素直な音像

ポスト

発売されてから高い評価と人気を得ているカスタムIEMのひとつに、このFitEarの最新モデルAya~彩がある。すでにネット上では様々なシーンでその素晴らしさが語られているが、大方の通り、さわやかな高域としっかりとしたボトムを共存させながら、音楽を楽しく聞かせてくれるとても小気味よいサウンドのイヤモニだ。

◆FitEar Aya画像

FitEarにとって3Dプリンターを本格導入した初のカスタムIEMモデルであること、スペックではなくサウンドで評価してほしいという願いから詳細は非公開であること、あわせてカラーはブラックのみであることなど、語るべきポイントは色々とあるものの、そもそもこの彩は、2014年4月1日にひょっこりと公開されたエイプリルフール・ネタとして登場したモデルのひとつだった。ネタの中にはMH335DWのドライバーをそのまま×2にしたMH D335DWなんてモデルもあり、あのギチギチに詰まった335DWのドライバーを更に2倍にするなんてまるで不可能なことを実現させる技術は「DMG(Dekai Mimi Gentei)テクノロジー」だとか、ま、そんな調子のものだった。


そんな4月1日ネタながらも、実は実現可能なんじゃないの?と密かな期待が寄せられていたのが、萌音のユニバーサル版Monet TO GO!だったり、カスタムIEMの新モデル彩だったりしたのである。その時に紹介されていた彩は、色こそ純白の「スーペリアルナチュラルホワイト」なる新色で、ケーブルも白がアサインされていたものの、基本コンセプトや3Dプリンタで制作される点などは、実際の彩と何ら変わらないものだった。エイプリルフールといいながらも、すでにベータ版としてはしっかり実機が完成している状況にあり、正式リリースも視野に入っていたものにみえた。その後、3Dプリンターを製造ラインに乗せるための調整に多くの時間と労力が注がれることになったようだが、彩のコンセプトと設計には、それ相応の歴史と数多くの創意工夫が積み重ねられているわけだ。

彩のサウンドは、フォーカスもきちっとあっているので腑抜けた曖昧さがなく、適度にキレよくバランスがとれている。非常にシンプルで素直な音像を持っており、ネットワークも極めてナチュラルで無理のない設計をしていると思わせる利発さが漂う。これといったディップを感じさせない非常に滑らかな音像で、解像度は適度でことさら高いわけではないものの、リスニングとしては必要にして十分な性能を持ち、むしろカリカリにチューンされた神経質さがない点こそが、多くの人から愛される最大の特徴と思われる。



一方で、音の陰影やダイナミズムという点では、深さや艶、奥行きや余裕は持ち合わせていない。濃厚さやキリキリと追い込むような鋭い解像度もない。顕微鏡で覗くようなディテールを描くキャラクターではないからこそ、リスニング機としての高い評価を得ていると言えるし、彩の魅力を一言で端的に言い表せば「気軽に楽しめる万能な汎用性」というべきものだ。マニアにとっての普段使いとしても、カスタムIEM初オーダーの一本目としても安心して薦められるモデルでもある。

「純粋に音で評価して欲しい」というメーカー側の意向により詳細は公表されていないので、スペックに対し言及を重ねるのは無粋な行為なのだけど、「彩の中身は何ですか?」というご質問もBARKSによく届く。「知らんがな」と言いたいところだが、評価の定まっていないものをジャッジし、不透明なものを明確化させることもメディアの使命であればこそ、私の見解を記するとすれば、私の耳には彩のサウンドは2ドライバーのそれに聞こえる。キビキビとした全帯域のバランスとそのトーン、低域のスピード感から思わせるのは、中型のSonion製ドライバーを掛けあわせたものと想像している。私の好きなサウンドとそのドライバー構成の特徴に合致する部分があるのでそのように感じるという話であり、もちろん真実のほどは全くわからない。私の好きな2ドライバーの持つタイトさと汚れなき清爽なニュアンスが、彩からも存分に味わうことができるということを伝えたく、いたずらにスペックの印象を操作するものでもないことをご理解いただければ幸いだ。


彩に興味を持っている人であれば、名機FitEar MH334と迷うという人も多いのではないか。彩が高い評価を得ている特徴として「ボーカルが聴きやすく心地よい」という意見を耳にするが、むしろMH334の方がボーカル域をしっかりと全面に出し、高い表現力で歌声を浮き立たせてくれる器用さがある。MH334のほうがサウンドはリッチで、全ての帯域で余裕のある音像を描き出すので、好みの問題はあるにせよ、サウンドのクオリティという点ではMH334の方が彩よりも1枚も2枚も上手である。

FitEarの彩とMH334との関係性は、カナルワークスにおけるCW-L12とCW-L32の位置関係とよく似ている。CW-L12はSonion 1723 Acupass1発を搭載した優れた名機だが、これをベーシックとして、その方向性のまま更なる緻密さを追求し、各帯域の更なるディテールを描き出すことを追求したのが上位機種CW-L32という4ドライバーモデルに当たる。誕生の順番こそ逆になるものの、名機MH334の方向性を重んじながら、あらゆる音楽を軽快にバランスよく再生するベーシックモデルを新たに生み出そうとすれば、自ずと彩が誕生する気がする。オフィシャルからのアナウンスとしては、万人に受け入れられるようなアニソン向けカスタムIEMを目指したとのことだけれど。


▲左からFitEar MH334、彩、カナルワークス CW-L32、CW-L12

いずれにしろ、100の理屈よりも1の視聴である。まずはどうにか機会を設け、専門店やオーディオショップで彩のサウンドを確かめてみて頂きたい。彩のサウンドを嫌いという人がいるとは考えにくいけれど、強い個性や激しさ、刺激を求めている人には物足りなく感じてしまうかもしれない。めぐる思いを整理して、何を求めているのかがはっきりしてくれば、彩の魅力にいち早く気付くこともできるだろう。

なお、FitEarにとって初となった3DプリンターによるカスタムIEMだが、これまでのUVレジンと比べても全く遜色はない…というか、言われるまで分からなかったし、言われても分からない美しい出来上がりとなっている。フィット感はいつもの様にFitEarクオリティが貫かれており、完璧な使用感が得られている。

text by BARKS編集長 烏丸哲也

●FitEar AYA~彩


価格:オープン価格(市場実売価格¥124,900)
スピーカー構成:バランスドアーマチュアドライバー
入力コネクター:3.5mmステレオミニプラグ
ケーブル:FitEar Cable 006

◆FitEar AYA特設サイト
◆FitEar AYAオフィシャルサイト
◆BARKSヘッドホン・チャンネル
◆BARKS カスタムIEM専門チャンネル

BARKS編集長 烏丸レビュー

■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他
◇UE MEGABOOM(2015-02-8)

◇COWON PLENUE 1(2015-01-25)
■Unique Melody Maverick(2015-01-12)
◆rhines stage 5(2015-01-03)
◇Calyx M(2015-01-01)
■LIVEZONE R4 LZ 4ユニバーサル(2014-12-15)

■ROCK JAW KOMMAND(2014-12-14)
■Donguri-楽 濃茶&鐘(2014-12-08)
■DUNU ALPHA 1(2014-11-30)
■Fidue A71(2014-11-23)
◆AAW M20(2014-11-16)

◆Ultimate Ears UE 7 Pro(2014-11-3)
■絶対失敗しない攻めのサウンド、お薦めイヤホン6品(2014-10-21)
■NOBLE AUDIO Kaiser 10 universal(2014-10-18)
◆カナルワークスCW-L71PSTS(2014-10-12)
■UCOTECH IL300 affetto(2014-10-05)

◆rhines stage 4U(2014-09-28)
●ROCK JAW ACERO(2014-09-21)
◆Westone ES60(2014-09-14)
■Astrotec Lyra(2014-09-08)
■NOBLE FR(WIZARD)(2014-08-26)

■Fidue A83(2014-08-19)
◇Musician's Ear Plugs(2014-08-10)
◆Noble Audio 5C R Configuration(2014-07-27)
◆FitEar萌音-MONET(2014-07-21)
■SHURE SE112(2014-07-13)

■Blue Ever Blue 878(2014-07-01)
■茶楽音人Donguri-楽(RAKU)(2014-06-24)
■オーディオテクニカATH-CKR10(2014-06-14)
◇estron Music、BaX(2014-06-03)
■OSTRY KC06(2014-05-18)

◆VISION EARS VE6 Xcontrol(2014-05-25)
■Fidue A81(2014-05-17)
◆カナルワークスCW-L32(2014-05-04)
■アルティメットイヤーズUE900s(2014-04-26)
■Astrotec AX60&AX35(2014-04-20)

◆CUSTOM ART Pro 330v2(2014-04-13)
●MPC Headphones(2014-04-06)
●Klipsch STATUS(2014-03-30)
●SMS Audio STREET by 50 DJ Pro Performance Headphones(2014-03-23)
◆AK240×カスタムIEM(2014-03-16)

■RHA MA750(2014-03-09)
■Meze 11 Deco(2014-03-02)
◇Astell&Kern AK240(2014-02-22)
◆1964 EARS V6-Stage(2014-02-17)
◆カナルワークスCW-L32V(2014-02-09)

◇EarPeace HD(2014-02-02)
◆Noble Audio Kaiser 10(2014-01-19)
◆Clear Tune Monitors CT-300Pro(2014-01-04)
◇KLIPSCH KMC1(2014-01-01)
■DUNU DN-1000(2013-12-30)

◆Ultimate Ears Reference Monitors(2013-12-16)
◆Ultimate Ears 11 Pro(2013-12-08)
◆earmo Tune5(2013-12-03)
●オーディオテクニカATH-OX7AMP(2013-11-23)
■音茶楽Donguri-欅(KEYAKI)(2013-11-17)

■オーディオテクニカ ATH-IM01~04(2013-10-27)
◇Astell&Kern AK10(2013-10-25)
●フィリップス Fidelio M1(2013-10-22)
◆earmo Tune4(2013-10-12)
◆Ultimate Ears Personal Reference Monitors(2013-10-05)

◆Sensaphonics 2XS(2013-09-30)
■Earsonics SM64(2013-09-23)
◆LIVEZONER41 LZ12(2013-09-15)
◆Ultimate Ears カスタムIEM全7機種(2013-09-08)
◆null audio Elpis(2013-09-03)

■FitEar Parterre(2013-08-25)
◆カナルワークスCW-L12(2013-08-17)
◆Livezoner41 LZ 4(2013-08-06)
■SHURE SE846(2013-08-02)
■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)

■Hippo ProOne(2013-07-21)
◆カナルワークス CW-L51a(2013-07-13)
■EXS X10(2013-06-24)
■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)

◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
●Meze Headphones(2013-05-08)
●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
◇ORB JADE casa(2013-04-21)

◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)

●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)

◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
この記事をポスト

この記事の関連情報